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サルクト山地

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「こ、こんな場所に遺跡が!」

 リタが驚いたように叫んだ。

 サルクト山地ふもとの村に着いた後は馬車を降り、リタと護衛兼御者の男性――「必要なものがあれば可能な範囲で叶える、とおっしゃいましたよね?」とフォードに誠意を込めて頼んで同行を許可してもらったレオニス家の使用人――を連れて山登り。

 そして山のてっぺんにある縦穴から下に降り、目当てのものがある地下遺跡へとやってきた。
 私はうんうんと頷いた。

「さすがは設定のガチさで知られたウェインライト国物語。地図の画像通りね」

「せってい?」

 原作のウェインライト国物語は、作者がかなり設定を作り込むタイプだったらしく、本編とは別に“ウェインライト国物語・設定資料編”公開されていた。
 そこにはキャラクターの設定やら地図やらが色々載っていたのだ。
 その記憶を頼りにこの遺跡までやってきたというわけ。

「どうしてミリーリア様はこの場所を知っていたのですか?」

 リタが私に困惑したような問いをぶつけてくる。
 転生がどうこうなんて、どうせ言っても信じてもらえないだろうし……

「……本で読んだのよ」

「どのような本ですか?」

「わ、忘れてしまったわね」

「この先には何があるんですか?」

「この地を守護する神ウェイン様の力を受け継いだ存在がいるのは知っている? 神霊と呼ばれる彼らは強い力を持っていて、その力を古代の人々は借りていたの。昔このあたりに文明を築いた人々は神霊の一体――“浄化の神霊”の力を封じた特別な結晶、“浄化結晶”と呼ばれるすさまじい力を誇る道具をこの地に封じたのよ。その浄化結晶こそが私の目的ね」

「急に詳しくないですか!?」

 はっ、しまった。生前のオタク知識が暴発してしまった。

 私がこの遺跡のことを知っているのは、当然原作に書かれていたからだ。

 物語の終盤、主人公は悪役聖女アイリスの罠にかかる。極悪な呪いに侵されそうになったところ、それをヒーローに庇われるのだ。
 主人公はヒーローを取り戻すため、呪いを除去する手段を探し求め、王城の秘密の書庫にあった資料からこの遺跡のことを知る。
 そして遺跡の奥にある最強クラスの呪い除去アイテム、浄化結晶を手に入れ、それによってヒーローは一命をとりとめる。

 ヒーローを失いかけて初めて、主人公はヒーローへの恋心を自覚する。読んでいて胸がキュンとするいいシーンだったわ……

 浄化結晶を手に入れても、アイリスの体に巣くう悪魔を退治するまではいかないだろう。
 けど、少なくとも悪影響を抑え込むことはできるはず。

「とにかく、この奥にある浄化結晶があればアイリスの呪いは治まるはずなのよ。というわけで、先に進みましょう」

「は、はあ……」

「ミリーリア様、自分が先行します」

 男性使用人がそう言ってくれるので、ありがたく前を任せることにする。
 まあ、この遺跡には魔物なんかいないんだけどね。

「こ、これは!?」

 男性使用人が叫び声を上げる。
 彼の前にあるのは、壁画が描かれた石扉だった。頑丈なそれは男性使用人が開けようとしてもびくともしない。
 リタは壁を指さして言う。

「見てください、ミリーリア様! 壁に何か書いてありますよ!」

「そうね」

「あの石扉……まさか、何かの物語の一部でしょうか。私にはまったくわかりませんが……」

 いい線いってるわ、リタ。
 私は壁画の右側に描かれた男の槍の穂先に触れ、次に左側にいる獅子の胸に触れた。
 すると。

 ゴゴゴゴゴゴ……

「「扉が開いた!?」」

 この扉、遺跡を作った民が作り出した仕掛け扉なのよね。決まった手順で壁画に触れると開くようになっている。壁に書かれているのはそのヒントになる内容だ。

 本来なら何時間も頭をひねるようなことだけど……残念ながら私は答えを知っているのよ!
 謎解き要素について、原作の本編ではそこまで触れられていなかったけど、設定資料編にはすべて詳細つきで載っていたのよね。

 というわけで、先に進む。
 暗号、触れると動く石像を決まった位置に揃えるパズル、隠し扉。
 それらを思考時間ゼロでがちゃこがちゃこと片付けていく。
 なんだかタイムアタックをしているような気分だわ。

「み、ミリーリア様!? すごいです! どうしてこんな難しいパズルを一瞬で解けてしまうんですか!?」

「本に書いてあったのよ」

「またそれですか!?」

 リタが混乱したように頭を押さえる。
 でもそれが事実なのよ。……本というか、ネット小説だけど。

 そして私たちは最短距離で遺跡を踏破し、奥にある直径七~八センチほどの輝く石――浄化結晶を手に入れた。
 浄化の神霊、つまり神様の力を分けた神霊の中でも、悪しきものを浄化する力に特化したものが宿る石だ。

 これを身に着ければ、アイリスは呪いの影響をほぼゼロに抑えられる。

「さあ、帰りましょう。アイリスが待ってるわ!」

 必要なものを手に入れた私たちは、来た道を引き返すのだった。
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