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メイズニア
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俺の魔力制御を補助するための魔道具を作ってもらうべく、リビットにある魔道具職人の工房へとやってきた……のだが。
バキン!
「ああ、また壊しやがったな!」
「すみませんすみません!」
親方が悲鳴を上げ、俺は何度目ともわからない謝罪をする。
魔力を抑える魔道具は普通に売っていた。
魔術覚えたての子供なんかが魔術を暴発させないようにするためとかで、けっこう需要があるそうだ。
しかしそれらは魔術を制御できない未熟者向けの商品なので、当然賢者に匹敵する馬鹿魔力なんて想定していない。
「兄ちゃんとんでもない魔力だな……うちの商品じゃどうにもならねえぞ」
「そうみたいですね……」
「もっといい素材があれば話は別なんだがな」
親方がそんなことを言う。
「素材、ですか?」
「ああ。この近くにダンジョンがあるんだ。そのガーディアンを倒すと手に入る“アンチマナストーン”があれば、作れるかもしれねえが……」
ダンジョン。
そういえば、ロナがそんなものがあるって言ってたな。確か危険な場所だから冒険者じゃないと入れないとか何とか。
属性の書がいつまでも使えないのは不便だし、せっかくだから行ってみるか!
「二人とも、ダンジョンに行ってもいいか?」
「属性の書を使えるようにするためじゃ、仕方なかろう」
「もちろんお供いたします!」
フェニ公とロナも同意してくれたところで、俺たちは工房を後にした。
▽
馬車に乗ってダンジョン最寄りの町に向かう。
道中、ロナにダンジョンのことを詳しく聞いてみた。
ダンジョンが“魔物化した土地”って話は前に聞いたけど、それだけだとちょっとイメージしにくいからな。
「そうですね、ダンジョン攻略に必要な知識ですと――」
・ダンジョンには魔物が出現する。
・奥に進むほど魔物は強くなる。
・ダンジョンの最深部にはガーディアンと呼ばれる、ダンジョン内最強の存在がいる。これは通常の魔物をダンジョン本体が“加工”したもので、普通の種類よりも強化されている。
「……こんな感じでしょうか」
「なるほど……ありがとう、ロナ。よくわかったよ」
「えへへぇ」
頭を撫でると嬉しそうに頭を手に擦り付けてきた。
……だんだん甘えたがりな性格が露呈してきたような気がするな。
目当てのアンチマナストーンはガーディアンを倒さないと手に入らないそうなので、最深部までいかないといけないようだ。
「ケントよ。ダンジョンについて学ぶのも重要じゃろうが、魔力制御の特訓も忘れるでないぞ」
「わかってるよ」
フェニ公に言われ、俺は魔道具職人の親方に売ってもらったあるアイテムを取り出す。
それは魔石と呼ばれる、魔力を溜め込む石だ。
魔石を握って魔力を込める。すると、魔石が魔力に耐えきれずに亀裂が走り――バキン! と砕け散った。
「また失敗だ……」
「落ち込むな落ち込むな。ほれ、次じゃ。魔道具のアテがあるからといって、汝自身の訓練をおろそかにしてはならんぞ」
今やっているのは、魔石を用いた魔力制御のトレーニングだ。
魔石は一定以上の魔力を流すと壊れてしまうので、その手前で魔力を流すのを止める。
これがなかなか難しい。
けど、少しずつ魔力の扱い方が鍛えられているのがわかる。
この世界での魔力操作のメジャーなトレーニングだそうだ。
野球の素振りみたいなものなので、すぐに魔力の扱いがうまくなるわけじゃない。
「でも、こういう地道な特訓もけっこう嫌いじゃないんだよなあ」
俺が言うと、ロナが反応した。
「さすがです、ケント様。それほどの強さでありながら、さらに努力をなさるなんて……とっても真面目な方なんですね!」
「ッッ! 真面目……俺が……マジメ……オレガ……」
「ケント様は どうかなさったんですか?」
「言っておらんかったな、ロナよ。ケントは“真面目”と言われると壊れるんじゃ。なに、数分もすれば治る」
「そんな奇病が!?」
はっ! そうだ、ここは異世界だ。何の目的もなく働き続け、コンビニ飯だけが楽しみだった生活はもう終わったんだ。危ない、精神を壊すところだった。
とにかく、ダンジョンだ。
▽
ダンジョン最寄りの町、メイズニア。
リビットよりも大きな町だ。
道行く人は冒険者が多そうなので、おそらくダンジョン目当ての人間が多いんだろう。
「とりあえず、ダンジョン探索に必要な道具を買いに行くか」
「それがよいじゃろ」
「あっちにギルドの屋根が見えます」
準備を整えるためにメイズニアの冒険者ギルドへ。
今回はドアを開けても、二メートル近い大男がスタンバイしたりはしていなかった。
買い物を済ませる。
買ったのは、ダンジョン用のランタンやら食料、地図、ダンジョン内の素材を持ち運ぶための巨大なバックパックなどだ。
バックパックには重量軽減の魔術が縫い込まれているらしく、素材を一度にたくさん運べるらしい。
買い物を済ませた俺たちは、そのままメイズニアで一泊。
翌朝、ダンジョンへとやってきた。
「ここがダンジョンか」
目の前にあるのは洞穴だが、冒険者ギルドで買った地図によると、ダンジョンは地下に広がっているらしい。最深部は地下十層。
気合を入れていくとしよう。
――と。
「だ、誰か!」
「強い冒険者を呼んでくれえ!」
洞穴から怯え切った様子の冒険者たちが出てきた。
何があったんだ?
「どうかしたのか?」
俺が聞くと、冒険者の一人が叫ぶように言った。
「“メタルリザード”の変異種が出た! あんな化け物、このダンジョンの浅い階層に湧いていい化け物じゃねえよ!」
「メタルリザード……それも変異種!?」
反応したのはロナだ。
「ロナ、知ってるのか?」
「メタルリザードは鉱石を主食とする、Aランクの魔物です。ただでさえルビーワイバーンと同じ危険度なのに、変異種ということは、さらに特殊な能力を身に着けている可能性があります……」
ルビーワイバーンと同じ、か。
あんまり実感はないが、あれはかなり強い魔物だったということはエルゴの町の人の反応で何となくわかっている。それより強い変異種となると、かなり厄介な魔物のようだ。
「それだけじゃねえ……」
冒険者の一人が、罪悪感を押し隠すように言った。
「俺たちが襲われているのを見て、他のソロ冒険者が足止めをしてくれてるんだ! 早く助けを呼ばねぇと、あいつが殺されちまう!」
うげ、それを先に言えよ。
バキン!
「ああ、また壊しやがったな!」
「すみませんすみません!」
親方が悲鳴を上げ、俺は何度目ともわからない謝罪をする。
魔力を抑える魔道具は普通に売っていた。
魔術覚えたての子供なんかが魔術を暴発させないようにするためとかで、けっこう需要があるそうだ。
しかしそれらは魔術を制御できない未熟者向けの商品なので、当然賢者に匹敵する馬鹿魔力なんて想定していない。
「兄ちゃんとんでもない魔力だな……うちの商品じゃどうにもならねえぞ」
「そうみたいですね……」
「もっといい素材があれば話は別なんだがな」
親方がそんなことを言う。
「素材、ですか?」
「ああ。この近くにダンジョンがあるんだ。そのガーディアンを倒すと手に入る“アンチマナストーン”があれば、作れるかもしれねえが……」
ダンジョン。
そういえば、ロナがそんなものがあるって言ってたな。確か危険な場所だから冒険者じゃないと入れないとか何とか。
属性の書がいつまでも使えないのは不便だし、せっかくだから行ってみるか!
「二人とも、ダンジョンに行ってもいいか?」
「属性の書を使えるようにするためじゃ、仕方なかろう」
「もちろんお供いたします!」
フェニ公とロナも同意してくれたところで、俺たちは工房を後にした。
▽
馬車に乗ってダンジョン最寄りの町に向かう。
道中、ロナにダンジョンのことを詳しく聞いてみた。
ダンジョンが“魔物化した土地”って話は前に聞いたけど、それだけだとちょっとイメージしにくいからな。
「そうですね、ダンジョン攻略に必要な知識ですと――」
・ダンジョンには魔物が出現する。
・奥に進むほど魔物は強くなる。
・ダンジョンの最深部にはガーディアンと呼ばれる、ダンジョン内最強の存在がいる。これは通常の魔物をダンジョン本体が“加工”したもので、普通の種類よりも強化されている。
「……こんな感じでしょうか」
「なるほど……ありがとう、ロナ。よくわかったよ」
「えへへぇ」
頭を撫でると嬉しそうに頭を手に擦り付けてきた。
……だんだん甘えたがりな性格が露呈してきたような気がするな。
目当てのアンチマナストーンはガーディアンを倒さないと手に入らないそうなので、最深部までいかないといけないようだ。
「ケントよ。ダンジョンについて学ぶのも重要じゃろうが、魔力制御の特訓も忘れるでないぞ」
「わかってるよ」
フェニ公に言われ、俺は魔道具職人の親方に売ってもらったあるアイテムを取り出す。
それは魔石と呼ばれる、魔力を溜め込む石だ。
魔石を握って魔力を込める。すると、魔石が魔力に耐えきれずに亀裂が走り――バキン! と砕け散った。
「また失敗だ……」
「落ち込むな落ち込むな。ほれ、次じゃ。魔道具のアテがあるからといって、汝自身の訓練をおろそかにしてはならんぞ」
今やっているのは、魔石を用いた魔力制御のトレーニングだ。
魔石は一定以上の魔力を流すと壊れてしまうので、その手前で魔力を流すのを止める。
これがなかなか難しい。
けど、少しずつ魔力の扱い方が鍛えられているのがわかる。
この世界での魔力操作のメジャーなトレーニングだそうだ。
野球の素振りみたいなものなので、すぐに魔力の扱いがうまくなるわけじゃない。
「でも、こういう地道な特訓もけっこう嫌いじゃないんだよなあ」
俺が言うと、ロナが反応した。
「さすがです、ケント様。それほどの強さでありながら、さらに努力をなさるなんて……とっても真面目な方なんですね!」
「ッッ! 真面目……俺が……マジメ……オレガ……」
「ケント様は どうかなさったんですか?」
「言っておらんかったな、ロナよ。ケントは“真面目”と言われると壊れるんじゃ。なに、数分もすれば治る」
「そんな奇病が!?」
はっ! そうだ、ここは異世界だ。何の目的もなく働き続け、コンビニ飯だけが楽しみだった生活はもう終わったんだ。危ない、精神を壊すところだった。
とにかく、ダンジョンだ。
▽
ダンジョン最寄りの町、メイズニア。
リビットよりも大きな町だ。
道行く人は冒険者が多そうなので、おそらくダンジョン目当ての人間が多いんだろう。
「とりあえず、ダンジョン探索に必要な道具を買いに行くか」
「それがよいじゃろ」
「あっちにギルドの屋根が見えます」
準備を整えるためにメイズニアの冒険者ギルドへ。
今回はドアを開けても、二メートル近い大男がスタンバイしたりはしていなかった。
買い物を済ませる。
買ったのは、ダンジョン用のランタンやら食料、地図、ダンジョン内の素材を持ち運ぶための巨大なバックパックなどだ。
バックパックには重量軽減の魔術が縫い込まれているらしく、素材を一度にたくさん運べるらしい。
買い物を済ませた俺たちは、そのままメイズニアで一泊。
翌朝、ダンジョンへとやってきた。
「ここがダンジョンか」
目の前にあるのは洞穴だが、冒険者ギルドで買った地図によると、ダンジョンは地下に広がっているらしい。最深部は地下十層。
気合を入れていくとしよう。
――と。
「だ、誰か!」
「強い冒険者を呼んでくれえ!」
洞穴から怯え切った様子の冒険者たちが出てきた。
何があったんだ?
「どうかしたのか?」
俺が聞くと、冒険者の一人が叫ぶように言った。
「“メタルリザード”の変異種が出た! あんな化け物、このダンジョンの浅い階層に湧いていい化け物じゃねえよ!」
「メタルリザード……それも変異種!?」
反応したのはロナだ。
「ロナ、知ってるのか?」
「メタルリザードは鉱石を主食とする、Aランクの魔物です。ただでさえルビーワイバーンと同じ危険度なのに、変異種ということは、さらに特殊な能力を身に着けている可能性があります……」
ルビーワイバーンと同じ、か。
あんまり実感はないが、あれはかなり強い魔物だったということはエルゴの町の人の反応で何となくわかっている。それより強い変異種となると、かなり厄介な魔物のようだ。
「それだけじゃねえ……」
冒険者の一人が、罪悪感を押し隠すように言った。
「俺たちが襲われているのを見て、他のソロ冒険者が足止めをしてくれてるんだ! 早く助けを呼ばねぇと、あいつが殺されちまう!」
うげ、それを先に言えよ。
応援ありがとうございます!
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