どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ヒツキノドカ

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冒険者登録

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「すごいです、ケント様! あのガレオス様から一本取るなんて!」

 素直にキラキラした視線を送ってくるのはロナだ。

「たまたまうまくいっただけだ。不意打ちみたいなものだしな」

「でも、本当にすごいです!」

 何度も言われるとくすぐったい気持ちになってくる。

「うむ。まさか付与魔術で上回られるとは思わんかった。爽快だ!」

「俺も驚いたよ。ガレオスも付与魔術、使えたんだな」

「ああ。だが、俺様の魔術は他にもあるぞ。実は俺様、ちっとばかし手加減をしていたのだ。なあ、もう一度やらんか? 今度は本気で!」

「やらない」

 試験は終わったんだから、ガレオスともう一度戦う理由なんてない。

「試験は終わったんだし、これで俺は冒険者ってことでいいのかな」

 俺が視線を巡らせると、野次馬の中にいたギルドの支部長が怯えたような顔で頷いてきた。この反応は普通に傷つく。

「まあ待て待て、ケントよ。俺様は試験官を務めると同時、酒場での借りを返すと言ったぞ」

 ガレオスがそんなことを言う。

「金、返してくれるのか?」

「いや、俺様は金は持たん。どうしても必要があれば、魔物を狩ってその死骸で取引すれば事足りるしな」

「文明人とは思えない発言だな!」

 貨幣経済に順応できない人間を見たのは初めてだ。

「そこで俺様なりに考え、お前に贈り物をやることにした! 喜べケントよ、お前は今から俺様と同じSランク冒険者だ! ギルドからは最高待遇を与えられ、望む国で貴族となることもできるぞ!」

「……は? 何だって?」

「俺様はSランク冒険者。そしてお前はそんな俺様と対等に戦い、そして勝った。つまりお前はSランク級の実力があると証明したわけだ。どうだ、嬉しいだろう。これで酒場の借りはチャラだな!」

「いや、待て、待ってくれ。話の吹っ飛び方がすごすぎてついていけない」

「領地がもらえるのか。では、我は美味い果物や肉の取れる森がある場所がよい」

「すごいです、ケント様! 冒険者デビューと同時にSランクなんて!」

 どうしてこの二人は一瞬で受け入れてるんだ。

「だ、駄目ですよ! Sランクというのは実力に加えて実績が重要なのですから!」

 支部長がガレオスの横暴を裏返った声ではあるものの止めた。
 必死に説得する支部長の姿に、ガレオスは「そうか……いい案だと思ったんだがなあ……」と拗ねたような顔をしていた。子どもかこいつは。

「では、Aランクだな」

「デビューと同時にAランクというのも、史上例がないのですが……」

「史上初だそうだぞ、ケント! よかったな!」

 ガレオスがまたわがままを言い出したが、今度は支部長も頷いた。

「……そうですね。ガレオス様と渡り合えるお方など、普通の扱いにするべきではありません。反対意見もありましょうが、お二人の勝負を見た自分が必ず納得させてみせましょう。冒険者は実力主義、ケント様ほどの方がFランクから始めるなど言語道断です」

「……いや、俺は普通にFランクからでいいんですけど」

「冒険者ギルドは人手不足。特に高ランクの仕事はなかなか消化されません。Sランクは規則によって不可能ですが、Aランクなら何とか通せます。どうかAランクでお願いします」

「でも……」

「Aランクで」

 というわけで、俺は流されるままAランク冒険者として登録されたのだった。

 ランクが高いほどあらゆる面で優遇される(立ち入り禁止の場所にも入れる)ので、悪いことではないんだが。

 ……まあいいか。

 とにかく、冒険者登録が済んだことを喜ぼう。





 冒険者となり、もろもろの手続きを終えたので宿に戻る。

「これが俺の冒険者証か」

 改めて、ギルドで受け取ったカードを確認する。
 書かれているのは俺の名前、戦闘スタイル(魔術師、戦士、など)、年齢くらいだ。全部自己申告なんだが、そこまで厳密なものではないらしい。

 特殊な魔道具によってこれらの情報は専用のカードに刻まれる。
 ちなみにカードの色は金。Aランクはこの色らしい。
 目立って仕方ないな、この身分証。

「ロナもカードを持ってるのか?」

「持ってます」

 見ると、ロナのカードは銀色――Bランクを示すものだった。

「一つ下のランクの冒険者とは、パーティを組めます」

「パーティを組むとメリットがあるのか?」

「パーティ内で一番ランクが高い人に合わせた依頼を受けられます。つまり、ケント様がパーティリーダーを務める場合、他のメンバーはケント様と一緒なら、自分がBランクでもAランクの依頼を受けられます」

 なるほど。
 パーティメンバーのランクが一つ下まで、というのは、寄生なんかの不正を認めないためだろうな。
 危険な仕事らしいし、冒険者が分不相応な依頼を受けないようにしているようだ。

「えー、ごほん」

 フェニ公がわざとらしい咳ばらいをした。

「何だよフェニ公。言いたいことでもあるのか?」

「うむ。心して聞くがよい、ケント」

「?」

「さっき付与の書が光ったじゃろう。あれは汝の魂に付与の書の魔術がすべて刻まれた合図じゃ。よって汝は、魔導書の補助のもと、デオドロの付与魔術をすべて扱えるようになった」

「えっ?」

 俺は慌てて付与の書を出して中身を確認する。
 それまでいくつか読めない魔術もあったのに、何と最後まで全部読めるようになっていた。

「こんなに早く、付与の書を読み込み終わったのか……?」

 下手すれば一冊あたり十年かかる、みたいな話じゃなかったのか。
 俺、こっちの世界に来てからまだ数日しか経ってないんだけど。

「おそらくガレオスとの戦いによって経験が蓄積され、付与の書の読み込みが早まったのじゃろう。魔導書の内容を魂に刻むには、戦闘がもっとも効率がよいようじゃな」

「そんな仕様だったのか」

「我も知らんかった。まあ、汝が【ソウルリペア】を使った時点で予想はしておったがな。あれは付与魔術の中でもかなり難しいものじゃ」

 そういえば、【ソウルリペア】は魔導書のかなり後ろの方に載ってたなあ。

「賢者様の魔術を一部とはいえ、マスターしてしまうなんて……! すごいです、ケント様」

「あんまり実感はないけどな」

 苦笑しながらロナの誉め言葉に応じる。
 フェニ公は俺に向かって問いかけてきた。

「というわけで、汝は新たな魔導書を読めるようになった。さて、次は何を選ぶ?」
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