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リビットに到着
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町についた。
町の名前は“リビット”。
エルゴ村の何倍もある町で、それなりに賑わっている。露店なんかも豊富だ。
町に入り、宿を取る。宿は質のよさそうなところをロナが選んでくれた。
「いい宿と悪い宿の見分け方にはコツがあるんです。厩舎の状態や、看板の汚れ具合、宿の前の掃除の出来具合なんかで、亭主の心遣いの程度がわかります」
「凄いな、ロナ。そんなことがわかるのか」
「ケント様に拾っていただく前は、宿決めは私の仕事でしたので……ふにゃあ」
何となく頭を撫でると、ロナは表情をでれっとさせた。頭を撫でられるのが好きなようだ。虎人族はそういうものなんだろうか?
宿は一部屋だ。
さっきの水晶玉の男のこともあるし、ロナを一人にさせたくない。
というかロナが「不経済なのはよくありません、では私が厩舎で寝ます」とか平気で言うので油断ならない。
「フェニ公、ちょっと留守を頼めるか。ロナもこの部屋から出ないようにしてくれ」
「どこか行くのか、ケントよ?」
「一度エルゴの村まで戻って、アルスの死が本当か確認してくる」
これはこれで重要な気がする。アルスがすでに死んだとするなら、場所はエルゴ村かその近くだろう。おそらく村に戻れば水晶玉の男の言葉がハッタリかどうかが――そして、やつがどのくらい危険かがわかる。
「二人に傍受魔術と、防御力強化の魔術をかけて構わないか?」
「よかろう」
「はい」
ロナとフェニ公に傍受魔術【インターセプト】と防御力強化魔術の【プロテクト】をかけ、ある程度の安全を確保してから、俺は単独で宿を出た。
▽
「ただいま」
「帰ってくるの早いのう、お主……」
「付与魔術を使いまくって全力で走った」
エルゴ村→リビットに来た時の何倍もの速さで往復してきた俺である。
「アルス様は、その……」
「本当に死んでた。あいつの仲間だったブレンダって女もだ」
エルゴ村に行くと、村中が騒がしくなっていた。冒険者に尋ねると、それらの事実を伝えられた。
「そう、ですか……」
暗い顔で黙り込むロナ。
虐げられていたとはいえ、おそらく長期間一緒に行動した二人が死んだと聞いて、複雑な感情を抱いているようだ。
俺は膝をつき、ロナに目を合わせた。
「大丈夫だ」
「……ケント様?」
「俺が必ずロナを守る。心配しなくていい。絶対に大丈夫だ」
安心させようと、俺はロナをギュッと抱きしめる。ロナは体をこわばらせてから、素直に抱きしめ返してきた。その手は震えていたが、徐々に収まっていった。
「ありがとうございます、ケント様」
小さく笑うロナ。少しは元気が出たようだ。
「本当に、大丈夫だからな。――アルスとブレンダも生き返らせてきたし」
「え?」
ロナが確認するように尋ねてくる。
「ケント様、あの、今なんと……?」
「アルスとブレンダは生き返らせてきた」
「ええええええええええええええええええ!?」
唖然としたように叫ぶロナ。
いやー、本当にすごいわ付与の書。
アルスもブレンダも、俺たちが襲われる寸前に死んだばかり。
そんな死に立ての相手に限り、蘇生させる付与魔術が存在する。
その名も【ソウルリペア】。
何でも死後数時間は、魂が肉体のもとに留まるらしい。
この状態で【ソウルリペア】を使うと、死と同時に拡散してしまうはずの魂をその場に留まらせることができる。
なんでも魂に直接作用する魔術を弾くための、“魂の固定力”を高める魔術なんだとか。
正直理屈はよくわからんが、魂に対する付与魔術、という扱いらしい。
あとはアルスの懐から金をふんだくり、冒険者ギルドで魔法の薬――ポーションと言うらしい――の最高級品を買ってかけまくったら息を吹き返した。
目を覚ました時のアルスの表情、なかなか面白かったな。
俺が生き返らせたと言ったら、平伏してお礼の乱舞が始まったのは困ったが。
ちなみにポーションに頼ったのは、付与の書に相手の体力を戻すような魔術がなかったからだ。自己治癒力の強化、というものはあったが、あれには即効性がないようだったからな。
いくら魂を復元させても、体が壊れていてはまた魂は拡散していってしまう。
ポーションはかけたり飲ませたりすればすぐに効き始めるので、あの状態ではそれがベストだった。
「というわけで、ロナが万が一死んでも大丈夫だ。傷一つない状態で生き返らせてやるからな」
「さ、さすがは世界のあらゆる叡智を修めたと言われる賢者様の魔導書……! まさかそのようなことまで可能だなんて……!」
感動半分、畏怖半分の様子でコメントするロナ。
安心してくれたなら何よりだ。
まあ、結局効き目の強いポーションがないと意味がないんだけどな。
「ケントよ。汝、もう【ソウルリペア】を使えるようになったのか?」
「ああ、そうだな。気づいたのは死んだアルスを見た後だったけど」
まさか蘇生の魔術なんてないよな……と思いつつもダメ元で探してみたのだ。そうしたらページの後ろのほうに載っていた。
「そうか」
「……? なんか嬉しそうだな」
「ふん、デオドロの目が節穴でないとわかって安心しただけじゃ」
何だそりゃ。
ぐうう。
「す、すみません」
ロナの腹から悲しそうな音が鳴った。
そういえばもう夕方だな。
「近くに美味しそうな酒場があったよな。行ってみよう」
「はい……」
「楽しみじゃなあ。この町一番の馳走を所望するぞ!」
というわけで、俺たちは夕食をとりにいくことにした。
町の名前は“リビット”。
エルゴ村の何倍もある町で、それなりに賑わっている。露店なんかも豊富だ。
町に入り、宿を取る。宿は質のよさそうなところをロナが選んでくれた。
「いい宿と悪い宿の見分け方にはコツがあるんです。厩舎の状態や、看板の汚れ具合、宿の前の掃除の出来具合なんかで、亭主の心遣いの程度がわかります」
「凄いな、ロナ。そんなことがわかるのか」
「ケント様に拾っていただく前は、宿決めは私の仕事でしたので……ふにゃあ」
何となく頭を撫でると、ロナは表情をでれっとさせた。頭を撫でられるのが好きなようだ。虎人族はそういうものなんだろうか?
宿は一部屋だ。
さっきの水晶玉の男のこともあるし、ロナを一人にさせたくない。
というかロナが「不経済なのはよくありません、では私が厩舎で寝ます」とか平気で言うので油断ならない。
「フェニ公、ちょっと留守を頼めるか。ロナもこの部屋から出ないようにしてくれ」
「どこか行くのか、ケントよ?」
「一度エルゴの村まで戻って、アルスの死が本当か確認してくる」
これはこれで重要な気がする。アルスがすでに死んだとするなら、場所はエルゴ村かその近くだろう。おそらく村に戻れば水晶玉の男の言葉がハッタリかどうかが――そして、やつがどのくらい危険かがわかる。
「二人に傍受魔術と、防御力強化の魔術をかけて構わないか?」
「よかろう」
「はい」
ロナとフェニ公に傍受魔術【インターセプト】と防御力強化魔術の【プロテクト】をかけ、ある程度の安全を確保してから、俺は単独で宿を出た。
▽
「ただいま」
「帰ってくるの早いのう、お主……」
「付与魔術を使いまくって全力で走った」
エルゴ村→リビットに来た時の何倍もの速さで往復してきた俺である。
「アルス様は、その……」
「本当に死んでた。あいつの仲間だったブレンダって女もだ」
エルゴ村に行くと、村中が騒がしくなっていた。冒険者に尋ねると、それらの事実を伝えられた。
「そう、ですか……」
暗い顔で黙り込むロナ。
虐げられていたとはいえ、おそらく長期間一緒に行動した二人が死んだと聞いて、複雑な感情を抱いているようだ。
俺は膝をつき、ロナに目を合わせた。
「大丈夫だ」
「……ケント様?」
「俺が必ずロナを守る。心配しなくていい。絶対に大丈夫だ」
安心させようと、俺はロナをギュッと抱きしめる。ロナは体をこわばらせてから、素直に抱きしめ返してきた。その手は震えていたが、徐々に収まっていった。
「ありがとうございます、ケント様」
小さく笑うロナ。少しは元気が出たようだ。
「本当に、大丈夫だからな。――アルスとブレンダも生き返らせてきたし」
「え?」
ロナが確認するように尋ねてくる。
「ケント様、あの、今なんと……?」
「アルスとブレンダは生き返らせてきた」
「ええええええええええええええええええ!?」
唖然としたように叫ぶロナ。
いやー、本当にすごいわ付与の書。
アルスもブレンダも、俺たちが襲われる寸前に死んだばかり。
そんな死に立ての相手に限り、蘇生させる付与魔術が存在する。
その名も【ソウルリペア】。
何でも死後数時間は、魂が肉体のもとに留まるらしい。
この状態で【ソウルリペア】を使うと、死と同時に拡散してしまうはずの魂をその場に留まらせることができる。
なんでも魂に直接作用する魔術を弾くための、“魂の固定力”を高める魔術なんだとか。
正直理屈はよくわからんが、魂に対する付与魔術、という扱いらしい。
あとはアルスの懐から金をふんだくり、冒険者ギルドで魔法の薬――ポーションと言うらしい――の最高級品を買ってかけまくったら息を吹き返した。
目を覚ました時のアルスの表情、なかなか面白かったな。
俺が生き返らせたと言ったら、平伏してお礼の乱舞が始まったのは困ったが。
ちなみにポーションに頼ったのは、付与の書に相手の体力を戻すような魔術がなかったからだ。自己治癒力の強化、というものはあったが、あれには即効性がないようだったからな。
いくら魂を復元させても、体が壊れていてはまた魂は拡散していってしまう。
ポーションはかけたり飲ませたりすればすぐに効き始めるので、あの状態ではそれがベストだった。
「というわけで、ロナが万が一死んでも大丈夫だ。傷一つない状態で生き返らせてやるからな」
「さ、さすがは世界のあらゆる叡智を修めたと言われる賢者様の魔導書……! まさかそのようなことまで可能だなんて……!」
感動半分、畏怖半分の様子でコメントするロナ。
安心してくれたなら何よりだ。
まあ、結局効き目の強いポーションがないと意味がないんだけどな。
「ケントよ。汝、もう【ソウルリペア】を使えるようになったのか?」
「ああ、そうだな。気づいたのは死んだアルスを見た後だったけど」
まさか蘇生の魔術なんてないよな……と思いつつもダメ元で探してみたのだ。そうしたらページの後ろのほうに載っていた。
「そうか」
「……? なんか嬉しそうだな」
「ふん、デオドロの目が節穴でないとわかって安心しただけじゃ」
何だそりゃ。
ぐうう。
「す、すみません」
ロナの腹から悲しそうな音が鳴った。
そういえばもう夕方だな。
「近くに美味しそうな酒場があったよな。行ってみよう」
「はい……」
「楽しみじゃなあ。この町一番の馳走を所望するぞ!」
というわけで、俺たちは夕食をとりにいくことにした。
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