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奴隷少女を解放した後のこと

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「ロナ、平気か? 喉はもう苦しくないか?」

「はい……嘘みたいに、楽になりました」

「そうか。よかった」

 さすがに幼い女の子が窒息しかけている姿は心臓に悪い。

「ケント様は……どうして私なんかを助けてくださったんですか?」

 どうしてと言われてもなあ。

「何となく、放っておけなかっただけだよ」

「私には助けていただくような価値はないのに……」

「いや、そんなことないだろう」

「え?」

 俺は特に何も考えず、思いつくままに口を動かす。

「ルビーワイバーンと戦った時には俺のために『自分を捨ててくれ』とか言うし、その死骸を運ぶ時には何度も代わってくれようとするし……それに、アルスたちが待ってる村なんか、本当はギリギリまで帰りたくなかったはずだろ。なのに回り道もせず、俺たちを案内してくれた」

「そんなのは、当然のことで」

「それが当然って言うなら、やっぱりロナは優しいと思う。そんな子がひどい目に遭ってるなら助けたいと思った。それだけだよ」

 俺はロナと目を合わせ、その頭を撫でながら言う。何となく、こうしたほうが、俺が本心から喋っていることが伝わりやすいと思ったからだ。

「そんなふうに言っていただけるなんて……うう」

 ロナはうずくまったまま泣き始めてしまった。
 しばらく無言でそばにいて、ロナが泣き止むのを待つ。
 ロナが落ち着いてから、俺は切り出した。

「ロナ、これからどうするか、アテはあるか?」

「いえ……故郷も、焼かれてしまいましたし、もう、私は奴隷ではないのですよね?」

 おそるおそる自分の首に触れるロナに、俺は頷いた。【ディスペル】で奴隷紋を消し去った以上、アルスたちが再びロナを支配することはできない。

「もし特に決めてないなら、俺たちとしばらく一緒に行動しないか?」

「え? で、でも、これ以上ケント様に迷惑をかけるわけには」

 申し訳なさそうにぶんぶん首を振るロナ。
 でもなあ……アルスたちが今回の件を逆恨みして、ロナに報復しようとするかもしれないし、できれば目を離したくない。
 ロナの意思も聞かずにこの状況を作ったのは俺だ。なら、責任を取るべきだろう。

「無礼なケントと違い、ロナは我に対する礼儀を知っておる。我は構わんぞ」

 フェニ公も特に異論はなさそうだ。

「ですが……」

「ロナは俺たちと一緒にいるのは嫌か?」

「そんなことはありません! ケント様は、私を二度も救ってくださいました! ……そうですね、このまま去るのはあまりにも恩知らずです。私に恩返しの機会をお与えくださるのなら、こんなに嬉しいことはありません!」

 ロナは決意の炎を瞳に燃やしながら言った。

「いや、別に恩返しとかは気にしなくていいけど。俺が勝手にやったことだし」

「……そう、ですよね。ケント様は強く、賢く、勇気ある完璧なお方。私のような泥にまみれ、惨めなだけの者の力など……っ」

「よし一緒に行くぞロナ! いやあ頼もしい仲間が増えて嬉しい限りだ!」

 だんだん卑屈になってきたロナの手を取り、無理やり話を締めくくる俺だった。





 エルゴ村に戻り、とりあえずロナの服装なんかを何とかすることにした。

 ここは小さい村だが、冒険者が多く、人の出入りが結構あるせいか、商店の数はそれなりにある。
 冒険者用の服を扱う店があったので入ってみると、子供用のサイズまで揃えられていた。品揃えがいいな。

「い、いけませんケント様。私のために新品の服を買うなんて」

 ぶんぶんと首を横に振るロナ。

「却下だ。そんなぼろぼろの格好をさせておくわけにはいかないよ」

「で、でも、これもまだ着られますし」

「いいからいいから」

 恐縮しまくるロナを試着室に押し込み、店主と雑談してみる。

「子供の冒険者って結構いるのか?」

「いやあ、あれは小人族の女性用だね。手先が器用で調合ができたり、魔術も使えたりするから、案外サポート要員として人気があるんだよ、小人族って」

「へえ……」

 小人族なんてのもいるのか。
 まあ、虎人族がいるんだから他の種族がいても不思議じゃないよな。

「……着替えました」

 試着室から出てきたロナは、さっきまでのぼろぼろのワンピース姿ではなく、丈夫かつ身軽な旅装。さらに魔物の皮膚を用いたという頑丈なブーツを履いている。

「ど、どうでしょうか」

「よく似合ってるよ」

「うむ。狩人の娘という風情じゃな。実に俊敏に動きそうじゃ」

「あ、ありがとうございます」

 褒められ慣れていないのか、ロナは顔を赤くして俯くのだった。
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