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エルゴ村
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森を出て村までやってきた。
案内してくれたロナいわく、ここは“エルゴ村”というらしい。
俺たちがいた森が“エルゴの森”という名前なので、それが由来になっているそうだ。
外から眺めたところ、素朴な感じの建物が並んでいるが、規模はそれなりに大きいような気がする。魔物対策か、周囲には木製の柵が張り巡らされ、入口には武装した男が二人立っていた。
「これ、どうするかな。さすがに村の中にルビーワイバーンの死骸なんて持ち込んだら迷惑だよなあ」
「いえ、大丈夫ですよ」
俺がぼやくと、ロナがあっさりとそう言った。
「村の人に驚かれないか?」
「この村は冒険者が拠点として使う場所ですから、魔物の死骸が持ち込まれることは日常茶飯事です」
「冒険者?」
「魔物を狩ったり、危険地帯での採集依頼をこなしたりする人たちのことです。……ケント様は冒険者ではないのですか?」
「いや、そういうわけじゃないな」
冒険者、というのはネット小説で見たことのある単語だな。荒くれ者が多く、身分問わず仕事ができる何でも屋、というイメージだ。
「魔物の買い取りは冒険者ギルド……冒険者の支援を行う場所で、してくれます」
「そこに行けばいいのか。案内してくれるか?」
「……はい」
頷きつつも、また暗い顔をするロナ。
「……何か気になることがあるのか?」
「いえ……そういうわけでは、ありません」
明らかに無理をしている様子ながら、そう言ってロナは口を閉ざす。
ふーむ。
こうして村まで一緒にやってきたわけだが、ロナのことについて、いくつか気になることが残ったままだ。
頑丈な体を持つ虎人族とはいえ、どうして幼い女の子であるロナが、魔物の現れる森の中にいたのか。
ロナのことを獣臭いとなじっていた“ある人”とは誰なのか。
首の裏にある、妙な紋章のような入れ墨は何なのか。
村に来てからロナの様子がおかしいのは、これらのことが関係している気がしてならない。
「なあ、ロナ。何か困っていることがあったら話くらいは聞くぞ。こうして案内してもらったし、何か力になれることがあるかもしれないし」
「……いいえ、平気です。そのお言葉だけで十分です」
駄目か。
まあ、出会ったばかりの人間に悩みを打ち明けろと言われても困るよなあ。
少し妙な雰囲気のまま、村の中に入って冒険者ギルドへと向かっていく。ロナの言葉通り、ルビーワイバーンの死骸を引きずっても怖がられる様子はない。「あんな大物を倒したのか!?」というような、好奇心旺盛な視線は飛んでくるけども。
冒険者ギルドはひときわ大きい木造の建物だった。ルビーワイバーンの死骸はさすがに扉をくぐれないので、一度死骸を外に置き、中に職員を呼びに行く。
「る、ルビーワイバーン!? あ、あなたが倒したのですか!? し、しかもこんなに綺麗な状態で……! おおっ、両目も揃っている! なんてすばらしいんでしょうか! 少々お待ちくださいませ、すぐに詳しく査定いたしますので!」
外に置いていたルビーワイバーンの死骸を見た冒険者ギルドの職員が歓声を上げる。裏手にある解体所まで運んでほしいと言われたのでその通りにすると、すぐに彼は念入りにルビーワイバーンの死骸をチェックし始めた。
「なあ、あんたがルビーワイバーンを倒したのか!?」
「すげえなぁ……あの魔物は危険度Aランクなんだぜ? ベテラン冒険者が複数パーティ合同で狙うような獲物だ。それをまさか一人でなんて、信じられねえよ」
「あんた、見ない顔だね。さてはこの村に来たばかりなんでしょ? あたしたちとパーティ組みなよ。いい狩場、危険なポイント、色々教えてあげるからさ!」
「は、はは……」
それを待っていると、野次馬に来たらしい他の冒険者に取り囲まれた。ほぼ全員屈強な大男だが、中には屈強な女性もいる。圧が、圧が凄い!
フェニ公は囲まれて鬱陶しそうに「ええい、暑苦しい!」と喚いているし、ロナは目を回している。とりあえずこの人込みを出たいところだ。
……と。
「やあ、ロナ。遅かったね」
「そうよ。珍しく時間がかかったわねえ。待ちくたびれちゃったわ」
そう言って人込みを割って現れたのは異彩を放つ男女の二人組だ。男のほうは線の細い金髪のイケメンで、女の方はスタイル抜群の赤髪の美女。それぞれ剣と杖……つまり武器を持っているので、彼らも冒険者なんだろう。
「アルス様、ブレンダ様……」
呼びかけられたロナはというと、びくりと身を固くした。
「ロナ、知り合いか?」
「はい。あのお二人は、私の……パーティメンバー、です」
パーティメンバーねえ……仲間にしては、ロナの表情が優れないように見える。
それに、仲間だって言うならどうしてロナが森にいる間、この二人はこの村にいたんだ? どうも気になるな。
案内してくれたロナいわく、ここは“エルゴ村”というらしい。
俺たちがいた森が“エルゴの森”という名前なので、それが由来になっているそうだ。
外から眺めたところ、素朴な感じの建物が並んでいるが、規模はそれなりに大きいような気がする。魔物対策か、周囲には木製の柵が張り巡らされ、入口には武装した男が二人立っていた。
「これ、どうするかな。さすがに村の中にルビーワイバーンの死骸なんて持ち込んだら迷惑だよなあ」
「いえ、大丈夫ですよ」
俺がぼやくと、ロナがあっさりとそう言った。
「村の人に驚かれないか?」
「この村は冒険者が拠点として使う場所ですから、魔物の死骸が持ち込まれることは日常茶飯事です」
「冒険者?」
「魔物を狩ったり、危険地帯での採集依頼をこなしたりする人たちのことです。……ケント様は冒険者ではないのですか?」
「いや、そういうわけじゃないな」
冒険者、というのはネット小説で見たことのある単語だな。荒くれ者が多く、身分問わず仕事ができる何でも屋、というイメージだ。
「魔物の買い取りは冒険者ギルド……冒険者の支援を行う場所で、してくれます」
「そこに行けばいいのか。案内してくれるか?」
「……はい」
頷きつつも、また暗い顔をするロナ。
「……何か気になることがあるのか?」
「いえ……そういうわけでは、ありません」
明らかに無理をしている様子ながら、そう言ってロナは口を閉ざす。
ふーむ。
こうして村まで一緒にやってきたわけだが、ロナのことについて、いくつか気になることが残ったままだ。
頑丈な体を持つ虎人族とはいえ、どうして幼い女の子であるロナが、魔物の現れる森の中にいたのか。
ロナのことを獣臭いとなじっていた“ある人”とは誰なのか。
首の裏にある、妙な紋章のような入れ墨は何なのか。
村に来てからロナの様子がおかしいのは、これらのことが関係している気がしてならない。
「なあ、ロナ。何か困っていることがあったら話くらいは聞くぞ。こうして案内してもらったし、何か力になれることがあるかもしれないし」
「……いいえ、平気です。そのお言葉だけで十分です」
駄目か。
まあ、出会ったばかりの人間に悩みを打ち明けろと言われても困るよなあ。
少し妙な雰囲気のまま、村の中に入って冒険者ギルドへと向かっていく。ロナの言葉通り、ルビーワイバーンの死骸を引きずっても怖がられる様子はない。「あんな大物を倒したのか!?」というような、好奇心旺盛な視線は飛んでくるけども。
冒険者ギルドはひときわ大きい木造の建物だった。ルビーワイバーンの死骸はさすがに扉をくぐれないので、一度死骸を外に置き、中に職員を呼びに行く。
「る、ルビーワイバーン!? あ、あなたが倒したのですか!? し、しかもこんなに綺麗な状態で……! おおっ、両目も揃っている! なんてすばらしいんでしょうか! 少々お待ちくださいませ、すぐに詳しく査定いたしますので!」
外に置いていたルビーワイバーンの死骸を見た冒険者ギルドの職員が歓声を上げる。裏手にある解体所まで運んでほしいと言われたのでその通りにすると、すぐに彼は念入りにルビーワイバーンの死骸をチェックし始めた。
「なあ、あんたがルビーワイバーンを倒したのか!?」
「すげえなぁ……あの魔物は危険度Aランクなんだぜ? ベテラン冒険者が複数パーティ合同で狙うような獲物だ。それをまさか一人でなんて、信じられねえよ」
「あんた、見ない顔だね。さてはこの村に来たばかりなんでしょ? あたしたちとパーティ組みなよ。いい狩場、危険なポイント、色々教えてあげるからさ!」
「は、はは……」
それを待っていると、野次馬に来たらしい他の冒険者に取り囲まれた。ほぼ全員屈強な大男だが、中には屈強な女性もいる。圧が、圧が凄い!
フェニ公は囲まれて鬱陶しそうに「ええい、暑苦しい!」と喚いているし、ロナは目を回している。とりあえずこの人込みを出たいところだ。
……と。
「やあ、ロナ。遅かったね」
「そうよ。珍しく時間がかかったわねえ。待ちくたびれちゃったわ」
そう言って人込みを割って現れたのは異彩を放つ男女の二人組だ。男のほうは線の細い金髪のイケメンで、女の方はスタイル抜群の赤髪の美女。それぞれ剣と杖……つまり武器を持っているので、彼らも冒険者なんだろう。
「アルス様、ブレンダ様……」
呼びかけられたロナはというと、びくりと身を固くした。
「ロナ、知り合いか?」
「はい。あのお二人は、私の……パーティメンバー、です」
パーティメンバーねえ……仲間にしては、ロナの表情が優れないように見える。
それに、仲間だって言うならどうしてロナが森にいる間、この二人はこの村にいたんだ? どうも気になるな。
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