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連載

ルークの過去

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 ルークが静かに語り出す。

 私は口を挟まずただ耳を傾けることにする。





 ――俺は王都の下町の生まれでね。

 物心ついたときには父親はいなかった。
 母親は俺が子どもの頃に病気で死んだ。
 身寄りがなくなった俺は生きる意味を失って、無気力に残飯を漁って生きていた。

 そんな毎日の中、俺を拾った変わり者がいた。
 妙に剣が強い下町暮らしの男だ。男は俺に剣の才能があると思ったらしくて、こんな提案をしてきた。


「俺の弟子になる気はねえか? 住み込みで家事をするならまともなメシを食わせてやる」


 内容はそんな感じだったかな。
 確か口調もこの通りだったはず。

 俺はそれを受けた。
 まともな食事なんて当時の俺にとっては夢物語だったからね。

 ……まあ結構大変だったけど。
 最初に家に来たとき中は見事にゴミ屋敷だったし、料理をしようにも鍋すらないし、そもそも当時の俺は家事なんてできなかったし。

 そういうもろもろも乗り越えて、まともに暮らせるようになったのは一か月後くらい。

 俺は破天荒な師匠とともに暮らすうち、だんだん生きることへの意欲を取り戻していった。
 剣術も上達して、そのへんのゴロツキには負けないようになった。
 一時期は下町を根城にする裏稼業の連中を標的に賞金稼ぎを……まあこの話はいいや。

 そんな日々を送るうち俺は疑問に思った。

 師匠はすさまじい剣術の使い手だった。
 なのにどうして騎士やら兵士ならにならず、下町でのんびり暮らしているんだろうか?
 師匠に聞いても教えてくれなかったから、知りようがなかったけどね。

 そんな日々が数年続いたころ、俺と師匠が暮らす家に身なりのいい男がやってきた。

 なんでも宰相の使いだという。
 その人物いわく、俺は王家の血を引いているそうだ。

 宰相は俺を城に連れて行こうとした。
 理由は単純、第一王子のリヒターが危険すぎたから。
 リヒターを王にすれば国はめちゃくちゃになる。
 そう考えた宰相は何とか王家の血を引く人間を探し、俺に行きついた。

 俺の母親、なんでも王都で有名な娼婦だったらしい。その娼婦がいる娼館には国王がよくお忍びで通っていた。それでうっかり俺を身ごもらせ、風評が気になる国王は無関係なふりをした。……まあ、よくある話だね。

 俺は最初断ったけど、今度は宰相本人が乗り込んできた。

 仕方なく聞き入れたよ。どうせ下町育ちの俺が王族なんかまともにできるわけないし、すぐ向こうから取り消してくるだろうと思ったからね。

 自分だけ窮屈な暮らしをするのが癪だったから、師匠が騎士団に戻るならと条件をつけた。
 師匠は死ぬほど嫌そうだったけど、宰相に頼み込まれてしぶしぶ引き受けてたよ。
 あれはなかなか痛快だった。

 いや、師匠とは仲が悪いとかじゃないよ。全然日頃の無茶なしごきや女癖酒癖の悪さでトラブルに巻き込まれた腹いせとかじゃなくてね。うん。いや本当に。

 ……あと、このタイミングで師匠が元騎士団長だったことを知った。

 しかもびっくり、EXレベルの剣術スキル持ちだったらしい。
 あれは驚いた。EXレベルのスキルなんて聞いたこともなかったし、普段あんな自堕落なおっさんがそんな傑物なんて予想つかないって。
 確かに剣術はデタラメに強かったけどさ。

 ここまでが前半。
 なにかわからないところはなかったかな。
 ……特にない?

 わかった、それじゃあ続けるね。




 俺は王子として王城で暮らすことになった。

 最初こそ周りから馬鹿にされたけど、わりとすぐ王族としての振る舞いができるようになった。
 自分で言うのもなんだけど、物覚えは悪くないみたいで。
 俺を支持する人も徐々に増えていった。

 けれどそれをよく思わない人間もいる。

 そう、第一王子リヒターだ。自分が次の王になると疑わなかった彼は、いきなり現れて周囲の注目を集める俺が疎ましかった。
 だから、リヒターは俺を蹴落とす手段を探すようになった。

 ところが障害がある。
 俺と一緒に、騎士団の指南役として城に戻ってきた師匠だ。
 師匠は途轍もなく強く、彼がいる限り俺には手を出せない。かといって【威光】スキルもEXレベルの剣術スキル持ちである師匠には通じない。

 そこでリヒターは一計を案じた。
 大昔に封印された凶悪な魔物をよみがえらせたんだ。
 師匠は騎士団の引退時、「国の危機が迫ったら助力する」と国王と約束していた。

 だから魔物の復活を聞き、師匠は討伐に向かった。
 討伐には成功したけど、師匠は大怪我を負って二度とまともに剣を振れなくなった。

 師匠を再起不能にしたリヒターは、満を持して俺を排除しにかかる。
 騎士団の精鋭を連れて俺の友達の元にやってきて、「王城を出るか死ぬか選べ」と迫ってきたよ。

 俺は王城を出ていってもよかった。
 もともと国王になりたかったわけでもないし。

 けれど……リヒターは話の流れで、師匠を排除するために魔物を復活させたと明かした。
 俺の心を折るためだったんだろうけど、逆効果だった。

 俺は人生で初めて激怒した。
 自覚していた以上に師匠のことを大切に思っていたらしい。
 俺はリヒターに同行していた騎士十数人を叩きのめした。
 精鋭なんて言っても、師匠に比べたら烏合の衆も同然だったよ。

 けれどこの騒ぎによって俺は乱心したとされ、地下牢に幽閉された。

 地下牢の食事には毒が盛られ、俺はそれに気付いていたけれど、大人しく食べた。

 理由は……なんだろうね。
 師匠に大怪我を負わせる原因を作った罪悪感、やりたい放題のリヒターを諫めない国王への呆れ。いろいろあって、自暴自棄になっていたんだと思う。

 食事に盛られていたのは痺れ薬だった。

 あとはアリシアも知っての通り。
 俺はリヒターの部下によってガロスに引き渡され、海外に奴隷として売り払われることになった。
 安易に殺すんじゃなく奴隷にしようとしたのは、より屈辱的な仕打ちをしたかったからじゃないかな。

 ……俺がリヒターについて知っていたのは、こういう経緯があるからだ。

 今まで黙っていてごめんね。
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