54 / 64
連載
【威光】
しおりを挟む
ぼすん。
王城からブラド様の屋敷に戻った後、私は部屋のベッドに寝転んだ。
「……【威光】スキル、ですか」
帰りの馬車の中でブラド様はリヒター様の持つスキルについて教えてくれた。
【威光】は王族など支配者の家系にのみ発現するスキルだそうだ。スキルレベルは存在せず効果は一律。
これを使うと支配する民を操ることができる。
その命令は絶対であり、ナディア王国の民である限り逆らうことはできない。
凶悪なスキルだけれど、王族とEXレベルのスキル持ちは例外的に無効化できるそうだ。中庭で私が操られなかったのはそのせいだろう。
ブラド様いわく、このスキルのせいでリヒター様はやりたい放題なんだとか。いろんな人材を自由に操れるリヒター様は、その気になれば簡単に内乱を起こすことができる。
国王様もリヒター様の扱いには手を焼いているようだ。
一応国王様の命令でスキル封じの魔道具を身に着けてはいるようだけれど、スキルが強力過ぎて完全には封じきれないらしい。
……どうりでみんなが「第一王子に気を付けろ」と口を揃えるわけですね。
中庭の一件でも実際身の危険を感じた。助けてくれたルークに感謝しないと。
そんなことを考えていると――
「アリシア、ちょっといい?」
あ、ルークの声。
扉を開ける。
「王城の件で話があるんだけど……ランドは?」
「庭で水浴びです。ここの噴水が気に入っているようで……呼んできましょうか?」
ルークは少し考えてからこう言った。
「いや、まずはアリシアだけに話すよ。場所を変えたいんだけど構わないかな」
「? わかりました」
ルークの意図が掴めないけれど、なにか考えがあるんだろう。私はルークの後について移動を始めた。
「あの、ルーク。どこに行くんですか?」
「もうすぐ着くよ」
ルークに連れられて私がやってきたのは王都北西部、やや北よりの部分だった。
このあたりはいわゆる下町のような場所で王都の中でもあまり治安がよくない。
ルークの陰に隠れるように進んでいくと、やがてルークがある建物の前で立ち止まった。
「ここは?」
「俺が昔住んでた……っていうか住ませてもらってた場所かな。剣術の師匠の家なんだよ」
「……人が住んでいるようには見えないんですが」
私たちの目の前にある木造の家はボロボロで今にも倒壊しそうだ。横手には狭い庭があるけれど、明らかに手入れされていない。
「まあ、家主が長いこと帰ってないだろうからね」
ずかずかと庭に入っていくルークの後を追う。そこにはどこかから運んできたであろう大きな石が二つ転がっていた。それを椅子代わりに私たちは話し合いの態勢を作る。
「こんなところまで歩かせてごめん。ここなら人に聞かれず話ができるだろうから」
「それは構いませんが……それで話というのは」
「俺とリヒターの話だよ。初めて会ったときのことを覚えてる? 前に俺がガロスに捕まっていたとき、身内に毒を盛られたって話をしたんだけど」
「そうですね。覚えています」
「それをやったのがリヒターだ。……あいつ、俺の義理の弟なんだ」
「えっ?」
今なんだか衝撃的な事実が明らかになったような。
「あの……それだとルークがリヒター様の義理の兄であるかのように聞こえますが」
「そうだね」
「ということは……ルークは……王族ということなのでは……」
「庶子だし、もう廃嫡されたけどね」
「ええええええええええ」
椅子代わりの石からずり落ちそうになるくらい驚いた。
王族。
王都に住んでいた人間として縁がまったくなかったと言えば嘘になるけど、それでもかすむほど遠い存在だ。
廃嫡されたとルークは言うけれど、まさか身近にそんな人がいたとは……!
「これだけだとわかりにくいから、順を追って説明するよ」
私の反応に苦笑しながら、ルークは話し始めた。
王城からブラド様の屋敷に戻った後、私は部屋のベッドに寝転んだ。
「……【威光】スキル、ですか」
帰りの馬車の中でブラド様はリヒター様の持つスキルについて教えてくれた。
【威光】は王族など支配者の家系にのみ発現するスキルだそうだ。スキルレベルは存在せず効果は一律。
これを使うと支配する民を操ることができる。
その命令は絶対であり、ナディア王国の民である限り逆らうことはできない。
凶悪なスキルだけれど、王族とEXレベルのスキル持ちは例外的に無効化できるそうだ。中庭で私が操られなかったのはそのせいだろう。
ブラド様いわく、このスキルのせいでリヒター様はやりたい放題なんだとか。いろんな人材を自由に操れるリヒター様は、その気になれば簡単に内乱を起こすことができる。
国王様もリヒター様の扱いには手を焼いているようだ。
一応国王様の命令でスキル封じの魔道具を身に着けてはいるようだけれど、スキルが強力過ぎて完全には封じきれないらしい。
……どうりでみんなが「第一王子に気を付けろ」と口を揃えるわけですね。
中庭の一件でも実際身の危険を感じた。助けてくれたルークに感謝しないと。
そんなことを考えていると――
「アリシア、ちょっといい?」
あ、ルークの声。
扉を開ける。
「王城の件で話があるんだけど……ランドは?」
「庭で水浴びです。ここの噴水が気に入っているようで……呼んできましょうか?」
ルークは少し考えてからこう言った。
「いや、まずはアリシアだけに話すよ。場所を変えたいんだけど構わないかな」
「? わかりました」
ルークの意図が掴めないけれど、なにか考えがあるんだろう。私はルークの後について移動を始めた。
「あの、ルーク。どこに行くんですか?」
「もうすぐ着くよ」
ルークに連れられて私がやってきたのは王都北西部、やや北よりの部分だった。
このあたりはいわゆる下町のような場所で王都の中でもあまり治安がよくない。
ルークの陰に隠れるように進んでいくと、やがてルークがある建物の前で立ち止まった。
「ここは?」
「俺が昔住んでた……っていうか住ませてもらってた場所かな。剣術の師匠の家なんだよ」
「……人が住んでいるようには見えないんですが」
私たちの目の前にある木造の家はボロボロで今にも倒壊しそうだ。横手には狭い庭があるけれど、明らかに手入れされていない。
「まあ、家主が長いこと帰ってないだろうからね」
ずかずかと庭に入っていくルークの後を追う。そこにはどこかから運んできたであろう大きな石が二つ転がっていた。それを椅子代わりに私たちは話し合いの態勢を作る。
「こんなところまで歩かせてごめん。ここなら人に聞かれず話ができるだろうから」
「それは構いませんが……それで話というのは」
「俺とリヒターの話だよ。初めて会ったときのことを覚えてる? 前に俺がガロスに捕まっていたとき、身内に毒を盛られたって話をしたんだけど」
「そうですね。覚えています」
「それをやったのがリヒターだ。……あいつ、俺の義理の弟なんだ」
「えっ?」
今なんだか衝撃的な事実が明らかになったような。
「あの……それだとルークがリヒター様の義理の兄であるかのように聞こえますが」
「そうだね」
「ということは……ルークは……王族ということなのでは……」
「庶子だし、もう廃嫡されたけどね」
「ええええええええええ」
椅子代わりの石からずり落ちそうになるくらい驚いた。
王族。
王都に住んでいた人間として縁がまったくなかったと言えば嘘になるけど、それでもかすむほど遠い存在だ。
廃嫡されたとルークは言うけれど、まさか身近にそんな人がいたとは……!
「これだけだとわかりにくいから、順を追って説明するよ」
私の反応に苦笑しながら、ルークは話し始めた。
656
お気に入りに追加
8,078
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。