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第一王子2
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「調子悪いのかな……まあいいや。『ブラド、アリシアを捕まえて』」
「かしこまりました」
「ちょっ……」
リヒター様の言葉に従い、ブラド様が私の後ろに回って手首を掴んだ。武官らしくはないブラド様だけど、さすがに私よりはずっと力が強い。
「俄然君のことが気になって来たよアリシア。じっくり話を聞かせてほしいな」
「い、一体ブラド様になにをしたんですか」
「僕の特技みたいなものだよ」
特技。まさかスキルだろうか? それでブラド様を操っているとか? けれどそんな強力なスキルは聞いたことがない。メリダ様の暗示スキルだって専用の魔道具がないと大した効果はなかったはずなのに。
……と。
「何事ですか!」
兵士が駆け寄ってくる。
あれ? 後ろにはルークもいますね。どうしてここにいるんでしょうか。
いや、今はそれより助けてもらわないと……!
「『騒ぐな』」
また冷たい風が吹き抜ける。なんなんですか、さっきからこれは!
「……失礼いたしました」
風が止むと、途端に兵士が大人しくなる。ブラド様と同じように目がうつろだ。
「まったく、邪魔が多くて困るよ」
「――アリシア様! 大丈夫ですか!?」
リヒター様がぼやくのと同時、兵士と一緒にいたルークが飛び出してきた。
ブラド様の拘束を外し、私を抱き起こす。
「ああ、アリシア様! こんなに手首を腫らして……」
「る、ルーク。何ですかその芝居がかった口調は」
「(……悪いけど合わせて)」
小声で言われる。理由はわからないけれど、何か意味があることなんだろう。
「『邪魔しないでくれる』?」
冷たい風がリヒター様の方から吹き、次いで命令のような言葉が聞こえる。
ブラド様やさっきの兵士はこれでリヒター様に従うようになってしまった。
まさかルークも……?
「それはできません。私はアリシア様に雇われた護衛。アリシア様を医務室に運ばなくては……乱暴に押さえつけられ、アリシア様は苦しんでいらっしゃいます」
どうやらルークは大丈夫なようだ。ほっとする。
「そんなに強く抑えてはいなかったと思うけど?」
「いえ、そんなことはありません。アリシア様は地獄のような苦しみに耐えているのです。ね?」
「い、いたたた……こ、これは折れてるかもしれません~……」
話を合わせろと言われたから痛がってるふりをしておく。
「……」
心なしかルークから呆れられている気がする。こんな急に言われて演技なんてできるわけがないでしょう……!
「どうも君の顔には見覚えがあるような気がする……けど、なぜか思い当たらないね。印象に残らない顔だ」
「祖国では平凡な顔立ちとよく言われましたね」
「あー……なるほど、この国の人間じゃないのか。どうりでね」
リヒター様とルークがよくわからないやり取りをしている。私は完全に置いてけぼりだ。
「何の騒ぎですか!?」
他の兵士が中庭の異常に気付いたようだ。
リヒター様は溜め息を吐いた。
「あーあ、面倒なことになっちゃった。父上にもすぐバレるだろうし……もういいや。またねアリシア。僕のスキルが効かなかった理由、今度聞かせてね」
そう言ってリヒター様は去っていった。
「はっ……私は一体何を」
ブラド様が意識を取り戻したようにはっとする。ルークと一緒にいた兵士も同じような反応を見せた。
「何とかなったか……」
「あの、ルーク。どうしてここに? というか、さっきのやり取りは一体……ルークはリヒター様と何か関係があったんですか?」
「……後で話すよ。とりあえず、まずは城を出よう」
「わ、わかりました」
今はとりあえずこの場を離れた方がいいだろう。
ブラド様に肩を貸すルークとともに、私たちは城の出口を目指すのだった。
「かしこまりました」
「ちょっ……」
リヒター様の言葉に従い、ブラド様が私の後ろに回って手首を掴んだ。武官らしくはないブラド様だけど、さすがに私よりはずっと力が強い。
「俄然君のことが気になって来たよアリシア。じっくり話を聞かせてほしいな」
「い、一体ブラド様になにをしたんですか」
「僕の特技みたいなものだよ」
特技。まさかスキルだろうか? それでブラド様を操っているとか? けれどそんな強力なスキルは聞いたことがない。メリダ様の暗示スキルだって専用の魔道具がないと大した効果はなかったはずなのに。
……と。
「何事ですか!」
兵士が駆け寄ってくる。
あれ? 後ろにはルークもいますね。どうしてここにいるんでしょうか。
いや、今はそれより助けてもらわないと……!
「『騒ぐな』」
また冷たい風が吹き抜ける。なんなんですか、さっきからこれは!
「……失礼いたしました」
風が止むと、途端に兵士が大人しくなる。ブラド様と同じように目がうつろだ。
「まったく、邪魔が多くて困るよ」
「――アリシア様! 大丈夫ですか!?」
リヒター様がぼやくのと同時、兵士と一緒にいたルークが飛び出してきた。
ブラド様の拘束を外し、私を抱き起こす。
「ああ、アリシア様! こんなに手首を腫らして……」
「る、ルーク。何ですかその芝居がかった口調は」
「(……悪いけど合わせて)」
小声で言われる。理由はわからないけれど、何か意味があることなんだろう。
「『邪魔しないでくれる』?」
冷たい風がリヒター様の方から吹き、次いで命令のような言葉が聞こえる。
ブラド様やさっきの兵士はこれでリヒター様に従うようになってしまった。
まさかルークも……?
「それはできません。私はアリシア様に雇われた護衛。アリシア様を医務室に運ばなくては……乱暴に押さえつけられ、アリシア様は苦しんでいらっしゃいます」
どうやらルークは大丈夫なようだ。ほっとする。
「そんなに強く抑えてはいなかったと思うけど?」
「いえ、そんなことはありません。アリシア様は地獄のような苦しみに耐えているのです。ね?」
「い、いたたた……こ、これは折れてるかもしれません~……」
話を合わせろと言われたから痛がってるふりをしておく。
「……」
心なしかルークから呆れられている気がする。こんな急に言われて演技なんてできるわけがないでしょう……!
「どうも君の顔には見覚えがあるような気がする……けど、なぜか思い当たらないね。印象に残らない顔だ」
「祖国では平凡な顔立ちとよく言われましたね」
「あー……なるほど、この国の人間じゃないのか。どうりでね」
リヒター様とルークがよくわからないやり取りをしている。私は完全に置いてけぼりだ。
「何の騒ぎですか!?」
他の兵士が中庭の異常に気付いたようだ。
リヒター様は溜め息を吐いた。
「あーあ、面倒なことになっちゃった。父上にもすぐバレるだろうし……もういいや。またねアリシア。僕のスキルが効かなかった理由、今度聞かせてね」
そう言ってリヒター様は去っていった。
「はっ……私は一体何を」
ブラド様が意識を取り戻したようにはっとする。ルークと一緒にいた兵士も同じような反応を見せた。
「何とかなったか……」
「あの、ルーク。どうしてここに? というか、さっきのやり取りは一体……ルークはリヒター様と何か関係があったんですか?」
「……後で話すよ。とりあえず、まずは城を出よう」
「わ、わかりました」
今はとりあえずこの場を離れた方がいいだろう。
ブラド様に肩を貸すルークとともに、私たちは城の出口を目指すのだった。
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