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第一王子
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第一王子リヒター・デル・ナディリア。
目の前に現れた金髪の少年はそう名乗った。
……どうしましょう。私、ルークからもディーノさんからも関わるなと言われているんですが。
「何か食べられないものはおありですか? お茶の準備をさせているんですが、好みがわからなかったからスタンダードなものを揃えさせています。好みに合わないものがすぐに取りかえさせますよ」
すでにお茶の準備を……!?
それは申し訳ないと思うけれど、ルークたちに心配をかけたくない。それに私のなけなしの危機感がこの少年はよくないと告げている。
「申し訳ございません、リヒター様。私はこのような格好ですし、とても殿下と同じテーブルを囲むことなどできません」
とりあえず服装を理由にその場を後にする作戦に出る。
「ではドレスを用意させましょう」
王族らしすぎる対応で私の作戦は破壊された。
「ええと、その、今の私は研究棟の薬草保管庫に入った後ですから独特なにおいがするかも」
「湯浴みをなさいますか? せっかく着替えるのですからそのほうがいいかもしれませんね」
「わ、私のような者にドレスは似合わないと」
「僕はそうは思いませんよ。しかし気になるならメイドたちに徹底的に飾り立ててもらいましょうか。そうなるとお茶会より晩餐への招待のほうがいいかもしれませんね。父上に話を通しておきましょうか」
全然逃げ道がないんですが!?
この少年は私をどうしたいんですか? なぜ後は帰るだけだったはずなのに、王国最高峰の職人たちによって着飾らされそうになっているんだろう。
「リヒター殿下、口をはさむ無礼をお許しください」
「うん? ブラド、どうかしたのかい?」
「アリシアは慣れぬ謁見によって疲れ果てております。日を改めた方がよろしいかと」
「ふーん……わかったよ」
考え込むように呟くリヒター様。
おや、あっさり引いてくれるようだ。
ブラド様に感謝しないと――
「父上もブラドも、僕とアリシアが接触することを恐れているということがよくわかった」
リヒター様がそう告げたのと同時、私は冷たい風のようなものを感じた。
感覚的な話ではなく、本当に寒気を感じたのだ。
今のは……?
「『僕は今からアリシアと茶会をする。ブラド、君は邪魔だから消えろ』」
「かしこまりました、リヒター殿下」
「!?」
ブラド様の言ってることがさっきと違う。
心なしかリヒター様の雰囲気も、さっきのような穏やかさが薄れているような気がする。
「ぶ、ブラド様!? どうしたんですか」
「……」
「ブラド様……?」
ブラド様の表情はどこかうつろで、私の言葉が届いているのかどうかわからない。
リヒター様が私に問いかける。
「アリシア、君はこっちだ。『さあ、僕と話そう』」
「いえ、それよりブラド様の様子がおかしいのが気になります。一体何が……」
「ん?」
「え?」
リヒター様がきょとんとする。一体どうしたんだろう。
「ん? あれ? ちょっと待って。アリシア、君今僕に逆らった?」
「そんなつもりはないんですが……」
「おかしいなあ……もう一度だ」
リヒター様は私をまっすぐ見つめる。そしてさっきと同じ、冷たい風が通り抜ける。
「『アリシア、ついてきてくれるね?』」
「いえ、それより先にブラド様を医務室に運びましょう」
「ん?」
「え?」
何なんですか一体……
目の前に現れた金髪の少年はそう名乗った。
……どうしましょう。私、ルークからもディーノさんからも関わるなと言われているんですが。
「何か食べられないものはおありですか? お茶の準備をさせているんですが、好みがわからなかったからスタンダードなものを揃えさせています。好みに合わないものがすぐに取りかえさせますよ」
すでにお茶の準備を……!?
それは申し訳ないと思うけれど、ルークたちに心配をかけたくない。それに私のなけなしの危機感がこの少年はよくないと告げている。
「申し訳ございません、リヒター様。私はこのような格好ですし、とても殿下と同じテーブルを囲むことなどできません」
とりあえず服装を理由にその場を後にする作戦に出る。
「ではドレスを用意させましょう」
王族らしすぎる対応で私の作戦は破壊された。
「ええと、その、今の私は研究棟の薬草保管庫に入った後ですから独特なにおいがするかも」
「湯浴みをなさいますか? せっかく着替えるのですからそのほうがいいかもしれませんね」
「わ、私のような者にドレスは似合わないと」
「僕はそうは思いませんよ。しかし気になるならメイドたちに徹底的に飾り立ててもらいましょうか。そうなるとお茶会より晩餐への招待のほうがいいかもしれませんね。父上に話を通しておきましょうか」
全然逃げ道がないんですが!?
この少年は私をどうしたいんですか? なぜ後は帰るだけだったはずなのに、王国最高峰の職人たちによって着飾らされそうになっているんだろう。
「リヒター殿下、口をはさむ無礼をお許しください」
「うん? ブラド、どうかしたのかい?」
「アリシアは慣れぬ謁見によって疲れ果てております。日を改めた方がよろしいかと」
「ふーん……わかったよ」
考え込むように呟くリヒター様。
おや、あっさり引いてくれるようだ。
ブラド様に感謝しないと――
「父上もブラドも、僕とアリシアが接触することを恐れているということがよくわかった」
リヒター様がそう告げたのと同時、私は冷たい風のようなものを感じた。
感覚的な話ではなく、本当に寒気を感じたのだ。
今のは……?
「『僕は今からアリシアと茶会をする。ブラド、君は邪魔だから消えろ』」
「かしこまりました、リヒター殿下」
「!?」
ブラド様の言ってることがさっきと違う。
心なしかリヒター様の雰囲気も、さっきのような穏やかさが薄れているような気がする。
「ぶ、ブラド様!? どうしたんですか」
「……」
「ブラド様……?」
ブラド様の表情はどこかうつろで、私の言葉が届いているのかどうかわからない。
リヒター様が私に問いかける。
「アリシア、君はこっちだ。『さあ、僕と話そう』」
「いえ、それよりブラド様の様子がおかしいのが気になります。一体何が……」
「ん?」
「え?」
リヒター様がきょとんとする。一体どうしたんだろう。
「ん? あれ? ちょっと待って。アリシア、君今僕に逆らった?」
「そんなつもりはないんですが……」
「おかしいなあ……もう一度だ」
リヒター様は私をまっすぐ見つめる。そしてさっきと同じ、冷たい風が通り抜ける。
「『アリシア、ついてきてくれるね?』」
「いえ、それより先にブラド様を医務室に運びましょう」
「ん?」
「え?」
何なんですか一体……
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