上 下
52 / 64
連載

第一王子

しおりを挟む
 第一王子リヒター・デル・ナディリア。

 目の前に現れた金髪の少年はそう名乗った。
 ……どうしましょう。私、ルークからもディーノさんからも関わるなと言われているんですが。

「何か食べられないものはおありですか? お茶の準備をさせているんですが、好みがわからなかったからスタンダードなものを揃えさせています。好みに合わないものがすぐに取りかえさせますよ」

 すでにお茶の準備を……!?
 それは申し訳ないと思うけれど、ルークたちに心配をかけたくない。それに私のなけなしの危機感がこの少年はよくないと告げている。

「申し訳ございません、リヒター様。私はこのような格好ですし、とても殿下と同じテーブルを囲むことなどできません」

 とりあえず服装を理由にその場を後にする作戦に出る。

「ではドレスを用意させましょう」

 王族らしすぎる対応で私の作戦は破壊された。

「ええと、その、今の私は研究棟の薬草保管庫に入った後ですから独特なにおいがするかも」

「湯浴みをなさいますか? せっかく着替えるのですからそのほうがいいかもしれませんね」

「わ、私のような者にドレスは似合わないと」

「僕はそうは思いませんよ。しかし気になるならメイドたちに徹底的に飾り立ててもらいましょうか。そうなるとお茶会より晩餐への招待のほうがいいかもしれませんね。父上に話を通しておきましょうか」

 全然逃げ道がないんですが!?
 この少年は私をどうしたいんですか? なぜ後は帰るだけだったはずなのに、王国最高峰の職人たちによって着飾らされそうになっているんだろう。

「リヒター殿下、口をはさむ無礼をお許しください」

「うん? ブラド、どうかしたのかい?」

「アリシアは慣れぬ謁見によって疲れ果てております。日を改めた方がよろしいかと」

「ふーん……わかったよ」

 考え込むように呟くリヒター様。
 おや、あっさり引いてくれるようだ。
 ブラド様に感謝しないと――

「父上もブラドも、僕とアリシアが接触することを恐れているということがよくわかった」

 リヒター様がそう告げたのと同時、私は冷たい風のようなものを感じた。
 感覚的な話ではなく、本当に寒気を感じたのだ。
 今のは……?

「『僕は今からアリシアと茶会をする。ブラド、君は邪魔だから消えろ』」

「かしこまりました、リヒター殿下」

「!?」

 ブラド様の言ってることがさっきと違う。
 心なしかリヒター様の雰囲気も、さっきのような穏やかさが薄れているような気がする。

「ぶ、ブラド様!? どうしたんですか」

「……」

「ブラド様……?」

 ブラド様の表情はどこかうつろで、私の言葉が届いているのかどうかわからない。
 リヒター様が私に問いかける。

「アリシア、君はこっちだ。『さあ、僕と話そう』」

「いえ、それよりブラド様の様子がおかしいのが気になります。一体何が……」

「ん?」

「え?」

 リヒター様がきょとんとする。一体どうしたんだろう。

「ん? あれ? ちょっと待って。アリシア、君今僕に逆らった?」

「そんなつもりはないんですが……」

「おかしいなあ……もう一度だ」

 リヒター様は私をまっすぐ見つめる。そしてさっきと同じ、冷たい風が通り抜ける。

「『アリシア、ついてきてくれるね?』」

「いえ、それより先にブラド様を医務室に運びましょう」

「ん?」

「え?」

 何なんですか一体……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

「おまえを愛することはない。名目上の妻、使用人として仕えろ」と言われましたが、あなたは誰ですか!?

kieiku
恋愛
いったい何が起こっているのでしょうか。式の当日、現れた男にめちゃくちゃなことを言われました。わたくし、この男と結婚するのですか……?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。