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王都にて

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 私たちの暮らすナディア王国の王都は国中央やや東寄りの平地に位置している。

 南西部のトリッドの街から王都に行くには、私が最初に街にやってきたルートを逆走するように東からフォレス大森林を迂回し、旧プロミアス領を経由して王都に向かうことになる。
 本来なら三~四日かかる道のりだけれど……

「まさか翌日に着くとは思いませんでした」

「信じられん速度が出ておったからのう。同じ方向に進む馬車を何台追い越したことか」

「さすがスカーレル商会の馬車だね」

 私たちはわずか一日で王都のそばまでたどりついていた。
 スカーレル商会にはとんでもない速度で移動する馬車を作成する技術がある。
 私たちが借りた馬車はそういった特別性のものだったようだ。

 車窓から身を乗り出すと、高くそびえる外壁が見える。
 幅広の街道の先では、外壁の根本で馬車や旅人が列をなしていた。

 久しぶりの王都……!
 なんだか懐かしいですね。

 馬車は進み、南門の列に並ぶ。車内で雑談をしながら時間を潰し、順番がきたので門の中へ。本来通行税が必要なところをスカーレル商会の馬車だけあって何もなく通される。

「アリシア、外の景色を見せてくれんか?」

「いいですよ」

 ランドを抱え上げて窓の外を見せる。

「おお……! 何という人の多さじゃ。トリッドの街よりも活気があるのう」

「トリッドの街の何倍も人口の多い街ですからね。地理的にも国の中心なので、たくさんの人が訪れます」

「あの巨大な建物は何じゃ?」

「王立図書館です。あっちが時計塔。王都の真ん中にある大きな建物がナディリア王城です」

 私たちはあの城に行くことになるのだ。
 ……とはいえブラド様との合流予定は明後日。スカーレル商会の馬車、本当に速すぎです。

「ようこそアリシア様、ランド様、ルーク様。本日より王都滞在中は、ここをご自宅のようにお考え下さいませ」

 合流場所だったブラド様の別邸に向かうと、老執事が馬車を迎え入れてくれた。数日早い到着になっても問題ないよう準備してくれていたようだ。
 案内されるままに屋敷に入り、あてがわれた部屋にやってくる。
 ちなみに私とランドが同室、ルークが隣の部屋だ。

 コンコン。

「アリシア、ルークだけど。少しいいかい?」

「はい、どうぞ」

 ルークが部屋に入ってくる。

「謁見の日まで時間もあるし、どう過ごすか相談しておこうと思って」

「そうですね……何か所か行っておきたいところもあるにはありますが」

「どんなところ?」

「いいんですか? ルークはあまり王都を出歩きたくないものかと」

 変装用のポーションまで用意するくらいだから、顔を見られたらよほど困る事情があるんだろう。
 私は滞在中、ずっとこの屋敷にこもるつもりだったのだ。
 ルークは苦笑した。

「……まあね。でも隠密ポーションを使えば問題ないよ。それにアリシアだって店のことがあるし、王都には滅多に来られないでしょ? この機会に行きたいところは行っておきなよ」

「本当にいいんですか?」

「うん」

「ありがとうございます!」

「うむ、それがよい。せっかく来たのじゃからな。で、どこに向かう?」

 ランドがうずうずしながら尋ねてくる。

「「……」」

 何となく生温かい感じで微笑んでしまう私とルーク。

 一番王都の滞在を楽しみにしていたのは、もしかしたらこのランドなのかもしれない。





 翌日、私たちは王都商業区のある店で遅めの昼食を取っていた。

「あー……んぐっ」

「おお……豪快に行くねアリシア」

『レイラさんにこれが正式な食べ方だと教わりましたからね』

「咀嚼中だからって念話で答えなくても」

「むぐむぐ。美味いのう、これは!」

 私たちの前にあるのは牛肉のひき肉をこねて焼いた香ばしい肉料理を、丸形のパンでタレや野菜と一緒に挟んだ“ハンバーガー”というものだ。

 スカーレル商会が出資しているこの店は、王都市民の間で大流行りしているようで、店内は大賑わい。レイラさん――エリカのお母さんの紹介でなければ、私たちもしばらく待たされたことだろう。

 王都を巡ることにした私たちは、私の知人を訪ねて回ることにした。
 エリカのお母さんであるレイラさんに、ブリジットのお母さんであるミリエラ様。
 昔何度も相談に乗ってくれた王立図書館の司書さんや、ポーション関連のお店の人たち。

 昨日のうちに前もって連絡したうえで、私たちはそういったゆかりのある人のもとを巡ってきた。

 特にブリジットのお母さんであるミリエラ様の歓迎具合が一番すごかった。
 王都での社交が忙しくなかなか領地に戻れないそうで、ずっとブリジットの魔物憑きを治した私にお礼が言いたかったそうだ。

 ブリジットから言われていたことだけど、実際会ってみると圧倒されそうになってしまった。

 ほどほどにお話をして屋敷を辞し、今はこうして昼食をとっている。

「アリシア、口元にソースがついておるぞ」

「わ、わかってます。でもハンバーガーを持った手もべたべたなので、食べ終えるまでどうしようもないんです……」

 大きく口を開けてかぶりつく、というレイラさん直伝の食べ方をしているせいでどうしても口元が汚れる。おそらく今の私を見て元伯爵家の令嬢だと思う人はいないだろう。

「まったくもう……アリシア、動かないで」

「はい?」

 ルークがナプキンを取って私の口元を拭ってくれる。

「これで綺麗になったよ」

 呆れたようなルークの言葉に、私はふと思った。

「ルークは良いお母さんになりそうですね」

「その誉め言葉は俺には複雑すぎるよアリシア」

「料理上手で、面倒見がよく、まとまりのない話も辛抱強く聞いてくれる……完璧だと思います」

「俺、男なんだけど……」

 ルークは兄のような立ち位置かと思っていたけれど、何だかお母さんという言葉が妙にしっくりきてしまった。私の実際の母というより一般的なイメージの話だけれど。

 ちなみにそのたとえでいくと、ランドは近所のおじいさん、レンとブリジットはそれぞれ弟と妹。エリカとオルグは……学校の同級生とかだろうか。

 そんなことを考えている間にハンバーガーを食べ終わった。
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