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手紙

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 ある日の営業終了後。

 店の商品補充をしていると、手紙を持った人物が訪ねてきた。旧プロミアス領領主ブラド様からの遣いだそうだ。

「ブラド様から手紙って……どんな内容?」

 店内の清掃をしていたルークがモップ片手に尋ねてくる。
 ちなみにランドは工房で魔力水の補充をしているので店の中にいるのは私とルークの二人だけだ。

「さあ……とりあえず読んでみます」

 手紙を開く。

 前半は魔物除けの素材を生産する事業が形になりつつある、という報告。
 プロミアス領を守るのに魔物除けは必須なので、これは嬉しいことだ。
 現状まだ魔物除けの生産は安定しておらず、一部は私が作っている。ランクⅤの魔物除けを作ってスカーレル商会に届けてもらい、現地でそれを薄めるという形だ。

 しかし素材が安定して作れるようになれば、それもいずれ必要なくなるだろう。

 後半はというと……

「私は王都に呼ばれているようです。用件は明示されていなかったようですが、呪詛ヒュドラ討伐のことや魔物除けについて、国王陛下から尋ねられる可能性があると」

「王都に……」

 考え込むルーク。その表情は普段ポーカーフェイスのルークには珍しく険しい。

「王都は数年ぶりですね」

「アリシアは昔王都に住んでたんだっけ?」

「はい。お母様が亡くなるまでですが」

 王家からじきじきに来るよう言われているのであれば断ることはできない。
 ただ、以前ルークは第一王子に気をつけろと言っていた。
 ディーノさんも同様のことを言っていたとか何とか。
 それを思うとあまり気は進まない。

「……俺も行くよ」

「いいんですか?」

「護衛だからね。ランドも連れて行った方がいいと思う。レンとブリジットは置いていくことになるけど……」

「エリカに言えば面倒を見てくれると思います」

「それなら問題ないね」

「なんというか、珍しい気がしますね。ルークがこういった提案をするのは」

 普段は周りの意見を聞いてからまとめたり、穴を指摘したりすることが多い印象だ。

「今回ばかりはね。それで一つアリシアに聞きたいことがあるんだけど、変装に向いたポーションはあるかな」

「変装ですか」

「事情があって、俺は王都で姿を見られたくない。けど服装やカツラで誤魔化すだけだと確実とは言えない。特に王城に行く時は身体検査があるだろうしね」

 そんなことを言うルーク。
 今更だけど、ルークの過去について私は詮索していない。どうして盗賊なんかにさらわれていたのか……身内が原因だと言っていたような気がするけれど、細かいところは知らないままだ。きっとルークは話したくないんだろう。

 私としても、無理に聞き出すつもりはない。

「……難しいかな?」

 黙り込んだ私をどう思ったのか、そう尋ねてくるルーク。私は不満を顔に出す。

「少し考えごとをしていただけです。難しくなんてありません。ポーションに不可能はありませんからね!」

「アリシアが言うと本当に聞こえるから困るなあ」

「では作りますからついてきてください……って、その前に店の片付けですね。先に済ませてしまいましょう」

「わかった」

 先に店内の清掃、明日のための商品補充を終わらせる。しっかり戸締りをして店を出て、屋敷の中の階段を上って私の部屋の前にやってくる。

「……ポーションを作るって、工房じゃないの?」

「材料をこっちに保管しているんです。調合器具は私の部屋にもありますから、ここで作ってしまう方が手間が少ないかと。多少散らかっているので、そこは申し訳ないんですが……」

「……むしろアリシアは抵抗はないの? 男の俺が部屋に入ることに対して」

「? なにがですか?」

「ごめん、なんでもないよ。俺の目の前にいるのはアリシアだったね」

 なんだか不本意なことを思われている気がする。

「お邪魔します。……うわ、素材と資料の山だね」

「工房で思いついたものを自室でまとめたりしているので」

 私の部屋にあるのはまずベッド、そして壁際の作業机には大量のメモや調合道具が並べられ、棚には調合のレシピ本や図鑑やらが詰まっている。この街は調合師の街とあって素材も資料も手に入りやすく、つい買いこんでしまうんですよね。

「物語に出てくる魔女の部屋みたいだ……」

「失礼ですよ、ルーク」

「あ、ごめん。気に障ったなら謝るよ」

「魔女などという意味不明な素材で薬を作る存在と一緒にしないでください。調合師はきちんとした理論に従ってポーションを作っているんですから」

「気にするのはそこなんだね」

 ともかくポーション作りだ。
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