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獣化ポーション2
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ブリジットが持ってきてくれた手鏡を確認すると、確かに私の頭のてっぺんから生えているのは猫の耳だった。
黒猫っぽい三角形の耳だ。
「あと、途中でルーク様に声をかけられましたわ。なんでもオルグ様がお店にいらっしゃっていて、お姉さまにポーションのことで話があるそうです」
「オルグが……? わかりました、行ってきます」
話というのが何かわからないけれど、とりあえず聞くだけ聞いてこよう。
「……なあブリジット、問題ないと思うか?」
「なにがですか?」
「いや、オルグが今のアリシアを見たら……」
工房から出る直前レンとブリジットが何やら話していたけれど、一体何の話だったんだろう。首を傾げつつ店に向かう。
裏手から入って店の中へ。
目立つ赤髪の青年の姿を探すと、カウンターに立つルークやランドと談笑している。
……オルグとルークが話していると異様に目立ちますね。店内の女性客が食い入るように見ているのがわかる。さすがトリッドの街が誇る美男二人。
「オルグ、私にポーションのことで話があるとのことですが」
「ああ、アリシぁあああ!?」
私に気付いてこっちを見たオルグが目を見開いた。その視線は私の頭頂部に生えた猫の耳に注がれている。当然気になりますよね。
「猫耳……あ、もしかしてそれ、例の稀少素材で作ったポーションの影響?」
「随分愉快なことになっとるのう」
ルークとランドはすぐに状況を理解してそんなことを言う。
「はい。オルグに説明しますと、この猫の耳はポーションの試作品を飲んだ影響です。変かもしれませんが、効果時間中は消えてくれそうにないので……」
「お、おう、そうか。ポーションの影響な、なるほどな~」
視線を逸らしたりこっちを見たりと、オルグはなにやら動揺しているようだ。なぜ……?
「なるほど。オルグはこういうアリシアもありなんだね」
「というかこやつはもはやアリシアなら何でもいいのではないか?」
ルークとランドが小声で何か話し合っている。みんなしてなぜ私を除けものにするのか。
「それでオルグ、質問とは?」
「あー、その、ええと……ポーション開発の依頼なんだが、冒険者仲間から欲しいポーションの要望があったから伝えに来たんだ」
「そうなんですか? それは助かります!」
商品のリクエストを客側から提示してもらえるのは実にありがたい。私では思いつかないような視点があるからだ。オルグからあらかた話を聞いたところで、ルークが何かを思いついたような顔をした。
「オルグ、そういえば猫好きだったよね」
「は? なんのことだ?」
「いやいや隠さなくていいよ。おなかをすかせた野良猫に餌をあげたりしていたじゃないか」
「いや、本当になんのことだか――」
「アリシア、よかったら猫耳を撫でさせてあげたら? オルグは尋常じゃない猫好きみたいだから」
「――その通りだ。俺は猫を撫でるためだけに今日まで生きてきたと言っていいくらいだ」
それまでの困惑した様子は消え失せ、大真面目な顔で断言するオルグ。知らなかった……オルグがそこまで極まった猫好きだったなんて。
「そ、そうでしたか。私の猫耳でよければ触りますか? 本物には及ばないと思いますが」
「いいのか!?」
「は、はい。そのくらいなら」
「それじゃあ……」
おそるおそる、といった様子で手を伸ばしてくるオルグ。私の頭頂部に生える猫の耳に触れ、慎重に撫でる。
もふもふもふもふ。
「これは……いいな……」
「そうですか。それはなによりです」
「~~~~っ、も、もう十分だ! ありがとう!」
顔を真っ赤にしたオルグが手を離した。
「礼になにかほしい素材があれば採ってくるが!」
「そ、そうですか? ではキリハキダケの在庫が少なくなっているので採ってきてもらえると」
「任せろ、樽一杯採ってくる。ありがとうアリシア! ……あとルーク!」
赤面したままオルグは店を出て行った。
「オルグ、そんなに猫が好きだったんですね……」
今度獣化ポーションをおすそ分けしようか。種ももらったので、地下畑で栽培できるはずだ。それを飲んでオルグ自身に猫耳を生やせば好きなだけモフモフを楽しめることだろう。
「オルグは可愛いなあ。初々しくてこっちまでドキドキしてくるよ」
「ルーク、お主絶対おもしろがっとるじゃろ」
▽
旧プロミアス領領主、ブラド・オールレイスは手元の書状を見て眉をひそめた。
「『旧プロミアス領の現状を謁見の間にて説明せよ』……」
書状を閉じていた封蝋には王家の印象が押されていた。書状の内容は王家からの命令も同然である。そして続きにはこう記されていた。
「……『また、その場には薬師アリシアも同席させるように』か」
ブラドは溜め息を吐く。彼はアリシアの薬師としての有用性は認めているが、同時に前プロミアス領領主トマスと関係があっただけに、アリシアの不幸な生い立ちも知っている。
国の求めに最低限応じるつもりなら、辺境で薬師をしていて構わないというのがブラドの考えだ。
(だが、王族がアリシアほどの逸材を辺境で遊ばせているのをよしとするだろうか……)
現国王は穏健な人物だが、王家とて一枚岩ではない。
どうなるかわからないが、それでも書状は無視できない。
険しい表情のまま、ブラドは「緑の薬師」に運ばせる書状をしたため始めた。
黒猫っぽい三角形の耳だ。
「あと、途中でルーク様に声をかけられましたわ。なんでもオルグ様がお店にいらっしゃっていて、お姉さまにポーションのことで話があるそうです」
「オルグが……? わかりました、行ってきます」
話というのが何かわからないけれど、とりあえず聞くだけ聞いてこよう。
「……なあブリジット、問題ないと思うか?」
「なにがですか?」
「いや、オルグが今のアリシアを見たら……」
工房から出る直前レンとブリジットが何やら話していたけれど、一体何の話だったんだろう。首を傾げつつ店に向かう。
裏手から入って店の中へ。
目立つ赤髪の青年の姿を探すと、カウンターに立つルークやランドと談笑している。
……オルグとルークが話していると異様に目立ちますね。店内の女性客が食い入るように見ているのがわかる。さすがトリッドの街が誇る美男二人。
「オルグ、私にポーションのことで話があるとのことですが」
「ああ、アリシぁあああ!?」
私に気付いてこっちを見たオルグが目を見開いた。その視線は私の頭頂部に生えた猫の耳に注がれている。当然気になりますよね。
「猫耳……あ、もしかしてそれ、例の稀少素材で作ったポーションの影響?」
「随分愉快なことになっとるのう」
ルークとランドはすぐに状況を理解してそんなことを言う。
「はい。オルグに説明しますと、この猫の耳はポーションの試作品を飲んだ影響です。変かもしれませんが、効果時間中は消えてくれそうにないので……」
「お、おう、そうか。ポーションの影響な、なるほどな~」
視線を逸らしたりこっちを見たりと、オルグはなにやら動揺しているようだ。なぜ……?
「なるほど。オルグはこういうアリシアもありなんだね」
「というかこやつはもはやアリシアなら何でもいいのではないか?」
ルークとランドが小声で何か話し合っている。みんなしてなぜ私を除けものにするのか。
「それでオルグ、質問とは?」
「あー、その、ええと……ポーション開発の依頼なんだが、冒険者仲間から欲しいポーションの要望があったから伝えに来たんだ」
「そうなんですか? それは助かります!」
商品のリクエストを客側から提示してもらえるのは実にありがたい。私では思いつかないような視点があるからだ。オルグからあらかた話を聞いたところで、ルークが何かを思いついたような顔をした。
「オルグ、そういえば猫好きだったよね」
「は? なんのことだ?」
「いやいや隠さなくていいよ。おなかをすかせた野良猫に餌をあげたりしていたじゃないか」
「いや、本当になんのことだか――」
「アリシア、よかったら猫耳を撫でさせてあげたら? オルグは尋常じゃない猫好きみたいだから」
「――その通りだ。俺は猫を撫でるためだけに今日まで生きてきたと言っていいくらいだ」
それまでの困惑した様子は消え失せ、大真面目な顔で断言するオルグ。知らなかった……オルグがそこまで極まった猫好きだったなんて。
「そ、そうでしたか。私の猫耳でよければ触りますか? 本物には及ばないと思いますが」
「いいのか!?」
「は、はい。そのくらいなら」
「それじゃあ……」
おそるおそる、といった様子で手を伸ばしてくるオルグ。私の頭頂部に生える猫の耳に触れ、慎重に撫でる。
もふもふもふもふ。
「これは……いいな……」
「そうですか。それはなによりです」
「~~~~っ、も、もう十分だ! ありがとう!」
顔を真っ赤にしたオルグが手を離した。
「礼になにかほしい素材があれば採ってくるが!」
「そ、そうですか? ではキリハキダケの在庫が少なくなっているので採ってきてもらえると」
「任せろ、樽一杯採ってくる。ありがとうアリシア! ……あとルーク!」
赤面したままオルグは店を出て行った。
「オルグ、そんなに猫が好きだったんですね……」
今度獣化ポーションをおすそ分けしようか。種ももらったので、地下畑で栽培できるはずだ。それを飲んでオルグ自身に猫耳を生やせば好きなだけモフモフを楽しめることだろう。
「オルグは可愛いなあ。初々しくてこっちまでドキドキしてくるよ」
「ルーク、お主絶対おもしろがっとるじゃろ」
▽
旧プロミアス領領主、ブラド・オールレイスは手元の書状を見て眉をひそめた。
「『旧プロミアス領の現状を謁見の間にて説明せよ』……」
書状を閉じていた封蝋には王家の印象が押されていた。書状の内容は王家からの命令も同然である。そして続きにはこう記されていた。
「……『また、その場には薬師アリシアも同席させるように』か」
ブラドは溜め息を吐く。彼はアリシアの薬師としての有用性は認めているが、同時に前プロミアス領領主トマスと関係があっただけに、アリシアの不幸な生い立ちも知っている。
国の求めに最低限応じるつもりなら、辺境で薬師をしていて構わないというのがブラドの考えだ。
(だが、王族がアリシアほどの逸材を辺境で遊ばせているのをよしとするだろうか……)
現国王は穏健な人物だが、王家とて一枚岩ではない。
どうなるかわからないが、それでも書状は無視できない。
険しい表情のまま、ブラドは「緑の薬師」に運ばせる書状をしたため始めた。
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