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獣化ポーション
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「できました!」
私はできたばかりのポーションを掲げて声を上げる。
近くで調合作業をしていたレンが視線を向けてくる。
「商会長にもらった素材で作ったポーションか? 確か『ビーストフラワー』だったか」
「そうです。あくまで試作品ですけどね」
冷却ポーションを提出した翌日、私は報酬としてスカーレル商会長ディーノさんから稀少素材のビーストフラワーを受け取った。この大陸と南の大陸の中間あたりに位置する島国で入手したそうで、一般にはほぼ流通しておらず私も見たのは初めてだ。
もらった時には大人しくなっていたけれど、ビーストフラワーは本来鋭い棘が内側に生える花で近づいたものに噛みつくらしい。
……ちょっと見てみたかった。
「お姉さま、そのポーションはどんな効果なんですの?」
同じく工房内にいるブリジットもやってくる。
「飲むと五感が鋭くなるようですね」
「……それ、お前が欲しい素材と方向性が違うんじゃないか? 確か母親がかかってた病気を癒すポーションを作りたくて稀少素材を集めてるんだよな?」
レンからの冷静な言葉。
「そうですね。この素材にも色々使い道はあると思いますが、おそらくどう扱ってもお母様をの病気を癒すポーションにはならないでしょう。そこは残念ですが、未知の素材で作ったポーションというだけで私はワクワクが止まりません」
「出たなポーションマニア。……まあ、五感が鋭くなるのは、それはそれで使い道があるか」
「魔物が近づくのを感じ取ったり、ひったくり犯を追跡できたりしそうですわね!」
ビーストフラワーで作ったポーションの使い道を挙げていく二人。よく思うけれど、この二人は年のわりに相当賢いような気がする。
「では、飲んでみましょう」
私はポーション瓶に口をつける。実際に飲むのは初めてなのでランクはⅢまで薄めてある。
「それでアリシア、そのポーションの名前は?」
「『獣化ポーション』です」
……ん?
なんだか頭の上のほうがむずむずしてきたような。
そんなことを考えていると……にょきっ。
「うおっ」
「お、お姉さまから猫の耳が生えましたわ!」
頭の上のほうに手をやると、なんだかふわふわした感触がある。なるほど、獣化ポーションというのはこういう意味ですか。薄める前に見たポーションの鑑定結果は「獣のごとき五感を得るポーション」だったけど、まさか本当に体の一部が獣になるとは。
「今の私には猫の耳が生えているんですか?」
「はい! とっても可愛いですわ! ね、レン様!」
「ああ。なんか空想上の変な生き物みたいになってる」
「レン様もお姉さまの魅力にうっとりしていますわね!」
「アリシアじゃなくてお前の耳がどうかしてるぞ……」
ブリジットは「鏡を取ってきますわね!」と工房を早歩きで出て行った。ちなみに工房内で走るとレンが即座に怒るのである。埃が立ってポーションに混ざる可能性があるからだ。
「ちなみにアリシア、人間の耳は残ってるのか?」
「えっと……ありますよ。音も聞こえます。頭頂部の猫の耳は飾りみたいなもののようです」
「五感の強化ってのはどんなもんだ?」
「かすかにですが、ブリジットが自室の扉を閉めてこっちに向かってくる音が聞こえます」
「工房から上の階の音が聞き取れるのか……なかなか強力だな。ランクが上がれば五感がさらに強くなるのか、持続時間が伸びるのか検証する必要があるな……」
調合師の顔で唸るレン。
「ちなみに聴覚だけでなく嗅覚も上がっています。レンが前にあげたアロマポーションを使ってくれているのがわかりますよ。気に入ってもらえたようでなによりです」
おそらく部屋で香りを楽しんでいたら、服にそれが移ったんだろう。
「……そりゃ、もらったんだから使うだろ。深い意味なんてない」
「? はい」
「お待たせしましたわ!」
そんなやり取りをしていると手鏡を持ってブリジットが戻ってきた。
私はできたばかりのポーションを掲げて声を上げる。
近くで調合作業をしていたレンが視線を向けてくる。
「商会長にもらった素材で作ったポーションか? 確か『ビーストフラワー』だったか」
「そうです。あくまで試作品ですけどね」
冷却ポーションを提出した翌日、私は報酬としてスカーレル商会長ディーノさんから稀少素材のビーストフラワーを受け取った。この大陸と南の大陸の中間あたりに位置する島国で入手したそうで、一般にはほぼ流通しておらず私も見たのは初めてだ。
もらった時には大人しくなっていたけれど、ビーストフラワーは本来鋭い棘が内側に生える花で近づいたものに噛みつくらしい。
……ちょっと見てみたかった。
「お姉さま、そのポーションはどんな効果なんですの?」
同じく工房内にいるブリジットもやってくる。
「飲むと五感が鋭くなるようですね」
「……それ、お前が欲しい素材と方向性が違うんじゃないか? 確か母親がかかってた病気を癒すポーションを作りたくて稀少素材を集めてるんだよな?」
レンからの冷静な言葉。
「そうですね。この素材にも色々使い道はあると思いますが、おそらくどう扱ってもお母様をの病気を癒すポーションにはならないでしょう。そこは残念ですが、未知の素材で作ったポーションというだけで私はワクワクが止まりません」
「出たなポーションマニア。……まあ、五感が鋭くなるのは、それはそれで使い道があるか」
「魔物が近づくのを感じ取ったり、ひったくり犯を追跡できたりしそうですわね!」
ビーストフラワーで作ったポーションの使い道を挙げていく二人。よく思うけれど、この二人は年のわりに相当賢いような気がする。
「では、飲んでみましょう」
私はポーション瓶に口をつける。実際に飲むのは初めてなのでランクはⅢまで薄めてある。
「それでアリシア、そのポーションの名前は?」
「『獣化ポーション』です」
……ん?
なんだか頭の上のほうがむずむずしてきたような。
そんなことを考えていると……にょきっ。
「うおっ」
「お、お姉さまから猫の耳が生えましたわ!」
頭の上のほうに手をやると、なんだかふわふわした感触がある。なるほど、獣化ポーションというのはこういう意味ですか。薄める前に見たポーションの鑑定結果は「獣のごとき五感を得るポーション」だったけど、まさか本当に体の一部が獣になるとは。
「今の私には猫の耳が生えているんですか?」
「はい! とっても可愛いですわ! ね、レン様!」
「ああ。なんか空想上の変な生き物みたいになってる」
「レン様もお姉さまの魅力にうっとりしていますわね!」
「アリシアじゃなくてお前の耳がどうかしてるぞ……」
ブリジットは「鏡を取ってきますわね!」と工房を早歩きで出て行った。ちなみに工房内で走るとレンが即座に怒るのである。埃が立ってポーションに混ざる可能性があるからだ。
「ちなみにアリシア、人間の耳は残ってるのか?」
「えっと……ありますよ。音も聞こえます。頭頂部の猫の耳は飾りみたいなもののようです」
「五感の強化ってのはどんなもんだ?」
「かすかにですが、ブリジットが自室の扉を閉めてこっちに向かってくる音が聞こえます」
「工房から上の階の音が聞き取れるのか……なかなか強力だな。ランクが上がれば五感がさらに強くなるのか、持続時間が伸びるのか検証する必要があるな……」
調合師の顔で唸るレン。
「ちなみに聴覚だけでなく嗅覚も上がっています。レンが前にあげたアロマポーションを使ってくれているのがわかりますよ。気に入ってもらえたようでなによりです」
おそらく部屋で香りを楽しんでいたら、服にそれが移ったんだろう。
「……そりゃ、もらったんだから使うだろ。深い意味なんてない」
「? はい」
「お待たせしましたわ!」
そんなやり取りをしていると手鏡を持ってブリジットが戻ってきた。
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