40 / 64
連載
ルークとディーノ2
しおりを挟む
ディーノは種明かしをするように言う。
「お前の言う通り、俺は部下に頼んでアリシアちゃんの周辺についてもらってた。呪詛ヒュドラの一件は王都でも噂になってたからな。慎重な国王陛下なら必ず動くと思ってたんだ」
「密偵の動向をあなたが気にする理由にならないのでは?」
呪詛ヒュドラ討伐の立役者となったアリシアについて、国の主導者が情報を求めるのはある意味当然だ。単に呼び出すのではなく密偵を放ったのは、取り繕った状態ではないアリシアを観察したいからだろう、とルークは推測している。
国王からはアリシアに害をなす意図は感じない。
仮に何か強硬な手段を取るとしたら、動かしている人員はもっと多いはずだ。
「お前と同じだよルーク。密偵が本当に国王陛下からなら問題ない。だが万が一、第一王子の手のものだったらまずいことになるかもしれない。だから警戒したのさ。杞憂だったみたいだけどな」
「……」
「で、お前はどうして第一王子について知ってるんだ? 例のスキルについても知ってるのか? ってか俺、お前のことを前にどっかで見たことがあるような気がしてるんだよなあ」
ルークはにっこりと笑みを浮かべた。
「俺は以前王都にいたので、その時に偶然すれ違ったことがあるのかもしれませんね」
「……お前めちゃくちゃ胡散臭いな。笑顔の質が詐欺師に近いぞ」
「なんなんですかさっきから」
初対面にもかかわらず失礼なことを言ってくるディーノに抗議するルークだったが、内心では感嘆する。
ディーノは単に緊張感がないのではなく、複数の角度からルークの反応を引き出してどんな人間か見定めているのだ。
このあたりはさすが大商人といったところだろうか。
「まあいいや。お前が近くにいるなら、アリシアちゃんもそうそう危ない目に遭うことはないだろ」
「随分簡単に信用しますね」
「国王直属の密偵をあっさり制圧する実力があって、密偵を脅して情報を聞き出すくらいアリシアちゃんの安全に気を遣ってる。信用するには十分だろ。本当ならアリシアちゃんにうちの腕の立つ部下を貸し出すつもりだったんだが……必要なさそうだな」
「もしかしてこの街にはそのために?」
「それもある」
ディーノは頷く。海運事業に必要な冷却ポーションの開発依頼は、あくまでトリッドの街に来た用件の半分でしかない。名前が広まりつつあるアリシアの様子を見つつ、必要なら護衛をつけることも目的の一つだった。
ルークはディーノに尋ねる。
「アリシアの安全を最大限守るなら、スカーレル商会で囲うのが一番確実だと思いますが」
「アリシアちゃんが遠慮するんだよ、それ」
「あなたなら言いくるめるも可能でしょうに」
「エリカがそばにいる。最悪の場合はあいつが動くだろう。……俺は俺でアリシアちゃんを守るためにやることがあるからな」
「……?」
「俺はここ数年、スカーレル商会の国外への影響力を強めるよう動いていた。海運事業もその一つだ。商会の活動範囲が他国に広がれば、ポーションの輸出先が増える。アリシアちゃんからレシピを教わったポーションは珍しいし効果が高いから、国外でもバンバン売れるだろう」
ルークは目を見開いた。
「他国でアリシアの名前が広まれば、この国の王族ですらアリシアに手を出しにくくなると?」
「そういうことだ。アリシアちゃんはあくまでこの国の人間だから、可能性は低いとはいえ、国王陛下によって王宮に召し上げられてポーション作りを命じられることもあり得る。だが、他国の有力者たちがアリシアちゃんを重要視すればそういう事態も牽制できる」
他国がアリシアに関心を持つ中国王が王宮にアリシアを召し上げれば、不要な緊張を招く可能性がある。戦争の道具としてポーションを生産しているのでは、と疑われるからだ。そうなればアリシアの扱いは国王も慎重にならざるを得ない。
あるいはもっとストレートに、スカーレル商会を重用する国にアリシアを亡命させることもできる。仮にそうほのめかすだけでも、王家の動きを制限できる。
いずれにしても、アリシアの価値を他国に知らしめることは、アリシアの身を守ることにつながるのだ。
「……スケールの大きな話ですね」
「正直アリシアちゃんの力は隠し切れるならそのほうがよかったんだがな」
ディーノは溜め息を吐き、それから真剣な表情を浮かべる。
「勝手な話だが、俺はアリシアちゃんのことを娘同然に思ってる。アリシアちゃんを守るためなら、スカーレル商会を世界一の大商会にすることもいとわないぜ」
ニッと笑うディーノに、ルークは感心半分呆れ半分の気持ちになる。
どうやら前代未聞の海運事業に乗り出したのも、スカーレル商会の影響範囲を広げ、アリシアのポーションを売り込むためだったようだ。
「というわけで、俺は忙しい。アリシアちゃんの護衛はお前がしっかりやれよルーク」
「元々そのつもりです」
「困ったことがあればエリカに頼れ。あ、あとアリシアちゃんには一応第一王子に注意するよう言っとくように」
「それは自分で言ってください。俺はアリシアの護衛はしますが、あなたの命令には従いませんよ」
「そうだ、お前アリシアちゃんと一緒に暮らしてんだよな。……お前アリシアちゃんに手ぇ出したらどうなるかわかってんだろうな」
「少しは俺の話を聞いてくれませんか……」
ハーッと拳に息を吹きかけるディーノにルークは溜め息を吐くのだった。
「お前の言う通り、俺は部下に頼んでアリシアちゃんの周辺についてもらってた。呪詛ヒュドラの一件は王都でも噂になってたからな。慎重な国王陛下なら必ず動くと思ってたんだ」
「密偵の動向をあなたが気にする理由にならないのでは?」
呪詛ヒュドラ討伐の立役者となったアリシアについて、国の主導者が情報を求めるのはある意味当然だ。単に呼び出すのではなく密偵を放ったのは、取り繕った状態ではないアリシアを観察したいからだろう、とルークは推測している。
国王からはアリシアに害をなす意図は感じない。
仮に何か強硬な手段を取るとしたら、動かしている人員はもっと多いはずだ。
「お前と同じだよルーク。密偵が本当に国王陛下からなら問題ない。だが万が一、第一王子の手のものだったらまずいことになるかもしれない。だから警戒したのさ。杞憂だったみたいだけどな」
「……」
「で、お前はどうして第一王子について知ってるんだ? 例のスキルについても知ってるのか? ってか俺、お前のことを前にどっかで見たことがあるような気がしてるんだよなあ」
ルークはにっこりと笑みを浮かべた。
「俺は以前王都にいたので、その時に偶然すれ違ったことがあるのかもしれませんね」
「……お前めちゃくちゃ胡散臭いな。笑顔の質が詐欺師に近いぞ」
「なんなんですかさっきから」
初対面にもかかわらず失礼なことを言ってくるディーノに抗議するルークだったが、内心では感嘆する。
ディーノは単に緊張感がないのではなく、複数の角度からルークの反応を引き出してどんな人間か見定めているのだ。
このあたりはさすが大商人といったところだろうか。
「まあいいや。お前が近くにいるなら、アリシアちゃんもそうそう危ない目に遭うことはないだろ」
「随分簡単に信用しますね」
「国王直属の密偵をあっさり制圧する実力があって、密偵を脅して情報を聞き出すくらいアリシアちゃんの安全に気を遣ってる。信用するには十分だろ。本当ならアリシアちゃんにうちの腕の立つ部下を貸し出すつもりだったんだが……必要なさそうだな」
「もしかしてこの街にはそのために?」
「それもある」
ディーノは頷く。海運事業に必要な冷却ポーションの開発依頼は、あくまでトリッドの街に来た用件の半分でしかない。名前が広まりつつあるアリシアの様子を見つつ、必要なら護衛をつけることも目的の一つだった。
ルークはディーノに尋ねる。
「アリシアの安全を最大限守るなら、スカーレル商会で囲うのが一番確実だと思いますが」
「アリシアちゃんが遠慮するんだよ、それ」
「あなたなら言いくるめるも可能でしょうに」
「エリカがそばにいる。最悪の場合はあいつが動くだろう。……俺は俺でアリシアちゃんを守るためにやることがあるからな」
「……?」
「俺はここ数年、スカーレル商会の国外への影響力を強めるよう動いていた。海運事業もその一つだ。商会の活動範囲が他国に広がれば、ポーションの輸出先が増える。アリシアちゃんからレシピを教わったポーションは珍しいし効果が高いから、国外でもバンバン売れるだろう」
ルークは目を見開いた。
「他国でアリシアの名前が広まれば、この国の王族ですらアリシアに手を出しにくくなると?」
「そういうことだ。アリシアちゃんはあくまでこの国の人間だから、可能性は低いとはいえ、国王陛下によって王宮に召し上げられてポーション作りを命じられることもあり得る。だが、他国の有力者たちがアリシアちゃんを重要視すればそういう事態も牽制できる」
他国がアリシアに関心を持つ中国王が王宮にアリシアを召し上げれば、不要な緊張を招く可能性がある。戦争の道具としてポーションを生産しているのでは、と疑われるからだ。そうなればアリシアの扱いは国王も慎重にならざるを得ない。
あるいはもっとストレートに、スカーレル商会を重用する国にアリシアを亡命させることもできる。仮にそうほのめかすだけでも、王家の動きを制限できる。
いずれにしても、アリシアの価値を他国に知らしめることは、アリシアの身を守ることにつながるのだ。
「……スケールの大きな話ですね」
「正直アリシアちゃんの力は隠し切れるならそのほうがよかったんだがな」
ディーノは溜め息を吐き、それから真剣な表情を浮かべる。
「勝手な話だが、俺はアリシアちゃんのことを娘同然に思ってる。アリシアちゃんを守るためなら、スカーレル商会を世界一の大商会にすることもいとわないぜ」
ニッと笑うディーノに、ルークは感心半分呆れ半分の気持ちになる。
どうやら前代未聞の海運事業に乗り出したのも、スカーレル商会の影響範囲を広げ、アリシアのポーションを売り込むためだったようだ。
「というわけで、俺は忙しい。アリシアちゃんの護衛はお前がしっかりやれよルーク」
「元々そのつもりです」
「困ったことがあればエリカに頼れ。あ、あとアリシアちゃんには一応第一王子に注意するよう言っとくように」
「それは自分で言ってください。俺はアリシアの護衛はしますが、あなたの命令には従いませんよ」
「そうだ、お前アリシアちゃんと一緒に暮らしてんだよな。……お前アリシアちゃんに手ぇ出したらどうなるかわかってんだろうな」
「少しは俺の話を聞いてくれませんか……」
ハーッと拳に息を吹きかけるディーノにルークは溜め息を吐くのだった。
477
お気に入りに追加
7,890
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「おまえを愛することはない。名目上の妻、使用人として仕えろ」と言われましたが、あなたは誰ですか!?
kieiku
恋愛
いったい何が起こっているのでしょうか。式の当日、現れた男にめちゃくちゃなことを言われました。わたくし、この男と結婚するのですか……?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。