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ルークとディーノ2
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ディーノは種明かしをするように言う。
「お前の言う通り、俺は部下に頼んでアリシアちゃんの周辺についてもらってた。呪詛ヒュドラの一件は王都でも噂になってたからな。慎重な国王陛下なら必ず動くと思ってたんだ」
「密偵の動向をあなたが気にする理由にならないのでは?」
呪詛ヒュドラ討伐の立役者となったアリシアについて、国の主導者が情報を求めるのはある意味当然だ。単に呼び出すのではなく密偵を放ったのは、取り繕った状態ではないアリシアを観察したいからだろう、とルークは推測している。
国王からはアリシアに害をなす意図は感じない。
仮に何か強硬な手段を取るとしたら、動かしている人員はもっと多いはずだ。
「お前と同じだよルーク。密偵が本当に国王陛下からなら問題ない。だが万が一、第一王子の手のものだったらまずいことになるかもしれない。だから警戒したのさ。杞憂だったみたいだけどな」
「……」
「で、お前はどうして第一王子について知ってるんだ? 例のスキルについても知ってるのか? ってか俺、お前のことを前にどっかで見たことがあるような気がしてるんだよなあ」
ルークはにっこりと笑みを浮かべた。
「俺は以前王都にいたので、その時に偶然すれ違ったことがあるのかもしれませんね」
「……お前めちゃくちゃ胡散臭いな。笑顔の質が詐欺師に近いぞ」
「なんなんですかさっきから」
初対面にもかかわらず失礼なことを言ってくるディーノに抗議するルークだったが、内心では感嘆する。
ディーノは単に緊張感がないのではなく、複数の角度からルークの反応を引き出してどんな人間か見定めているのだ。
このあたりはさすが大商人といったところだろうか。
「まあいいや。お前が近くにいるなら、アリシアちゃんもそうそう危ない目に遭うことはないだろ」
「随分簡単に信用しますね」
「国王直属の密偵をあっさり制圧する実力があって、密偵を脅して情報を聞き出すくらいアリシアちゃんの安全に気を遣ってる。信用するには十分だろ。本当ならアリシアちゃんにうちの腕の立つ部下を貸し出すつもりだったんだが……必要なさそうだな」
「もしかしてこの街にはそのために?」
「それもある」
ディーノは頷く。海運事業に必要な冷却ポーションの開発依頼は、あくまでトリッドの街に来た用件の半分でしかない。名前が広まりつつあるアリシアの様子を見つつ、必要なら護衛をつけることも目的の一つだった。
ルークはディーノに尋ねる。
「アリシアの安全を最大限守るなら、スカーレル商会で囲うのが一番確実だと思いますが」
「アリシアちゃんが遠慮するんだよ、それ」
「あなたなら言いくるめるも可能でしょうに」
「エリカがそばにいる。最悪の場合はあいつが動くだろう。……俺は俺でアリシアちゃんを守るためにやることがあるからな」
「……?」
「俺はここ数年、スカーレル商会の国外への影響力を強めるよう動いていた。海運事業もその一つだ。商会の活動範囲が他国に広がれば、ポーションの輸出先が増える。アリシアちゃんからレシピを教わったポーションは珍しいし効果が高いから、国外でもバンバン売れるだろう」
ルークは目を見開いた。
「他国でアリシアの名前が広まれば、この国の王族ですらアリシアに手を出しにくくなると?」
「そういうことだ。アリシアちゃんはあくまでこの国の人間だから、可能性は低いとはいえ、国王陛下によって王宮に召し上げられてポーション作りを命じられることもあり得る。だが、他国の有力者たちがアリシアちゃんを重要視すればそういう事態も牽制できる」
他国がアリシアに関心を持つ中国王が王宮にアリシアを召し上げれば、不要な緊張を招く可能性がある。戦争の道具としてポーションを生産しているのでは、と疑われるからだ。そうなればアリシアの扱いは国王も慎重にならざるを得ない。
あるいはもっとストレートに、スカーレル商会を重用する国にアリシアを亡命させることもできる。仮にそうほのめかすだけでも、王家の動きを制限できる。
いずれにしても、アリシアの価値を他国に知らしめることは、アリシアの身を守ることにつながるのだ。
「……スケールの大きな話ですね」
「正直アリシアちゃんの力は隠し切れるならそのほうがよかったんだがな」
ディーノは溜め息を吐き、それから真剣な表情を浮かべる。
「勝手な話だが、俺はアリシアちゃんのことを娘同然に思ってる。アリシアちゃんを守るためなら、スカーレル商会を世界一の大商会にすることもいとわないぜ」
ニッと笑うディーノに、ルークは感心半分呆れ半分の気持ちになる。
どうやら前代未聞の海運事業に乗り出したのも、スカーレル商会の影響範囲を広げ、アリシアのポーションを売り込むためだったようだ。
「というわけで、俺は忙しい。アリシアちゃんの護衛はお前がしっかりやれよルーク」
「元々そのつもりです」
「困ったことがあればエリカに頼れ。あ、あとアリシアちゃんには一応第一王子に注意するよう言っとくように」
「それは自分で言ってください。俺はアリシアの護衛はしますが、あなたの命令には従いませんよ」
「そうだ、お前アリシアちゃんと一緒に暮らしてんだよな。……お前アリシアちゃんに手ぇ出したらどうなるかわかってんだろうな」
「少しは俺の話を聞いてくれませんか……」
ハーッと拳に息を吹きかけるディーノにルークは溜め息を吐くのだった。
「お前の言う通り、俺は部下に頼んでアリシアちゃんの周辺についてもらってた。呪詛ヒュドラの一件は王都でも噂になってたからな。慎重な国王陛下なら必ず動くと思ってたんだ」
「密偵の動向をあなたが気にする理由にならないのでは?」
呪詛ヒュドラ討伐の立役者となったアリシアについて、国の主導者が情報を求めるのはある意味当然だ。単に呼び出すのではなく密偵を放ったのは、取り繕った状態ではないアリシアを観察したいからだろう、とルークは推測している。
国王からはアリシアに害をなす意図は感じない。
仮に何か強硬な手段を取るとしたら、動かしている人員はもっと多いはずだ。
「お前と同じだよルーク。密偵が本当に国王陛下からなら問題ない。だが万が一、第一王子の手のものだったらまずいことになるかもしれない。だから警戒したのさ。杞憂だったみたいだけどな」
「……」
「で、お前はどうして第一王子について知ってるんだ? 例のスキルについても知ってるのか? ってか俺、お前のことを前にどっかで見たことがあるような気がしてるんだよなあ」
ルークはにっこりと笑みを浮かべた。
「俺は以前王都にいたので、その時に偶然すれ違ったことがあるのかもしれませんね」
「……お前めちゃくちゃ胡散臭いな。笑顔の質が詐欺師に近いぞ」
「なんなんですかさっきから」
初対面にもかかわらず失礼なことを言ってくるディーノに抗議するルークだったが、内心では感嘆する。
ディーノは単に緊張感がないのではなく、複数の角度からルークの反応を引き出してどんな人間か見定めているのだ。
このあたりはさすが大商人といったところだろうか。
「まあいいや。お前が近くにいるなら、アリシアちゃんもそうそう危ない目に遭うことはないだろ」
「随分簡単に信用しますね」
「国王直属の密偵をあっさり制圧する実力があって、密偵を脅して情報を聞き出すくらいアリシアちゃんの安全に気を遣ってる。信用するには十分だろ。本当ならアリシアちゃんにうちの腕の立つ部下を貸し出すつもりだったんだが……必要なさそうだな」
「もしかしてこの街にはそのために?」
「それもある」
ディーノは頷く。海運事業に必要な冷却ポーションの開発依頼は、あくまでトリッドの街に来た用件の半分でしかない。名前が広まりつつあるアリシアの様子を見つつ、必要なら護衛をつけることも目的の一つだった。
ルークはディーノに尋ねる。
「アリシアの安全を最大限守るなら、スカーレル商会で囲うのが一番確実だと思いますが」
「アリシアちゃんが遠慮するんだよ、それ」
「あなたなら言いくるめるも可能でしょうに」
「エリカがそばにいる。最悪の場合はあいつが動くだろう。……俺は俺でアリシアちゃんを守るためにやることがあるからな」
「……?」
「俺はここ数年、スカーレル商会の国外への影響力を強めるよう動いていた。海運事業もその一つだ。商会の活動範囲が他国に広がれば、ポーションの輸出先が増える。アリシアちゃんからレシピを教わったポーションは珍しいし効果が高いから、国外でもバンバン売れるだろう」
ルークは目を見開いた。
「他国でアリシアの名前が広まれば、この国の王族ですらアリシアに手を出しにくくなると?」
「そういうことだ。アリシアちゃんはあくまでこの国の人間だから、可能性は低いとはいえ、国王陛下によって王宮に召し上げられてポーション作りを命じられることもあり得る。だが、他国の有力者たちがアリシアちゃんを重要視すればそういう事態も牽制できる」
他国がアリシアに関心を持つ中国王が王宮にアリシアを召し上げれば、不要な緊張を招く可能性がある。戦争の道具としてポーションを生産しているのでは、と疑われるからだ。そうなればアリシアの扱いは国王も慎重にならざるを得ない。
あるいはもっとストレートに、スカーレル商会を重用する国にアリシアを亡命させることもできる。仮にそうほのめかすだけでも、王家の動きを制限できる。
いずれにしても、アリシアの価値を他国に知らしめることは、アリシアの身を守ることにつながるのだ。
「……スケールの大きな話ですね」
「正直アリシアちゃんの力は隠し切れるならそのほうがよかったんだがな」
ディーノは溜め息を吐き、それから真剣な表情を浮かべる。
「勝手な話だが、俺はアリシアちゃんのことを娘同然に思ってる。アリシアちゃんを守るためなら、スカーレル商会を世界一の大商会にすることもいとわないぜ」
ニッと笑うディーノに、ルークは感心半分呆れ半分の気持ちになる。
どうやら前代未聞の海運事業に乗り出したのも、スカーレル商会の影響範囲を広げ、アリシアのポーションを売り込むためだったようだ。
「というわけで、俺は忙しい。アリシアちゃんの護衛はお前がしっかりやれよルーク」
「元々そのつもりです」
「困ったことがあればエリカに頼れ。あ、あとアリシアちゃんには一応第一王子に注意するよう言っとくように」
「それは自分で言ってください。俺はアリシアの護衛はしますが、あなたの命令には従いませんよ」
「そうだ、お前アリシアちゃんと一緒に暮らしてんだよな。……お前アリシアちゃんに手ぇ出したらどうなるかわかってんだろうな」
「少しは俺の話を聞いてくれませんか……」
ハーッと拳に息を吹きかけるディーノにルークは溜め息を吐くのだった。
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