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連載
ルークとディーノ
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ディーノとアリシアの商談から半日時を戻した夜。
「――それで、ここ数日うちの店を見張っていたのは何の目的かな?」
「ぐ、ぐうっ……!」
トリッドの街の路地裏にて、ルークは黒い服を着た男を引き倒して尋問を行っていた。
男は何日もの間、「緑の薬師」を見張っていた。ルークはそれを察知し、逆に相手をとらえたのだ。
近づくまでは問題なかったものの、捕まえる寸前で男はルークに気付き逃げ出そうとしたため、こうして力づくで押さえ込んでいる。
「『緑の薬師』で販売されるポーションの多くはアリシアのオリジナルか、うちやスカーレル商会以外では売られていない珍しいものばかり。レシピを盗み出そうとする輩は今まで何人も捕まえてきたけど……」
「……」
「どうも君はそういう連中とは違うようだ。気配の消し方、俺に見つかった時の迷いのない逃げ足。どちらも素人離れしている」
「な、何のことかわからない。何か誤解をしていないか? 俺はただいきなり声をかけられて驚いただけだ」
男は動揺したように言うが、それが一般人を装う芝居であることがルークにはわかる。【交渉】スキルを用いて相手から情報を引き出そうとしているのに、効いている様子がないからだ。尋問に対抗する特別な訓練を積んでいなければできることじゃない。
「つまらない言い訳だ。衛兵のところまで連れて行こうか」
「好きにすればいい」
「随分余裕があるね。……この王家の家臣であることを示す指輪があるからかな」
「……ッ!?」
ルークが男の懐から指輪を取り出す。精緻な意匠が刻まれた指輪だ。それによって初めて男の表情に本物の焦りが見えた。
「確かにこれがあれば衛兵に捕まっても言い訳がきくだろうね。牢屋に入る必要もない」
「貴様、何者だ。なぜ指輪のことを知っている」
「ただのポーション店の従業員だよ。そういう君は王家直属の密偵だね。アリシアを探りに来たのかい?」
「それは……」
「誤解しないでほしいけど、俺が指輪について知っているのはただの偶然だよ。昔一度見たことがある。それに、君の仕事を邪魔するつもりもない。王族に盾突くつもりなんてないからね。明日以降も好きなだけアリシアを観察すればいい」
「……何が目的だ?」
「俺は一つ聞きたいだけだよ。君にアリシアを探らせているのは国王と第一王子、どちらだい?」
「……」
「答えてくれれば君のことは他言しないよ」
男はしばらく黙考したのち、口を開く。
「……国王陛下だ」
「そうか。ありがとう」
ルークが男を解放すると、男は夜の闇に紛れるように去っていった。
それと入れ替わるように足音が聞こえてくる。
「見事な手際じゃねえか。国王陛下から勅命を受けた密偵をあっさり捕まえるとは」
「あなたは……スカーレル商会の商会長?」
「ディーノだ。そっちは確かルークだったか? よろしくな」
現れたのは金髪と洒脱ないで立ちが特徴の男性、ディーノ・スカーレルだった。
ルークは視線を鋭くする。
「ここにいるのは偶然ではなさそうですね」
「どうしてそう思う?」
「ここ数日、スカーレル商会の人間が数人『緑の薬師』周辺に張り込んでいるのを見かけました。アリシアと面識のあるあなたが、わざわざ遠巻きに監視する必要はないはず。それなら張り込みの理由は、アリシアを探っている何者かを見つけ出そうとすること以外にありません。違いますか?」
ディーノは、ふむ、と顎に手を当てた。
「…………なんかお前、鋭すぎて可愛げないなぁ……ちょっと引く……」
「あなたが聞いたんじゃないですか」
呆れ声で言いつつ、ルークは同時に肩の力を抜く。目の前の人間は明らかに敵対の意志はなさそうだ。
「――それで、ここ数日うちの店を見張っていたのは何の目的かな?」
「ぐ、ぐうっ……!」
トリッドの街の路地裏にて、ルークは黒い服を着た男を引き倒して尋問を行っていた。
男は何日もの間、「緑の薬師」を見張っていた。ルークはそれを察知し、逆に相手をとらえたのだ。
近づくまでは問題なかったものの、捕まえる寸前で男はルークに気付き逃げ出そうとしたため、こうして力づくで押さえ込んでいる。
「『緑の薬師』で販売されるポーションの多くはアリシアのオリジナルか、うちやスカーレル商会以外では売られていない珍しいものばかり。レシピを盗み出そうとする輩は今まで何人も捕まえてきたけど……」
「……」
「どうも君はそういう連中とは違うようだ。気配の消し方、俺に見つかった時の迷いのない逃げ足。どちらも素人離れしている」
「な、何のことかわからない。何か誤解をしていないか? 俺はただいきなり声をかけられて驚いただけだ」
男は動揺したように言うが、それが一般人を装う芝居であることがルークにはわかる。【交渉】スキルを用いて相手から情報を引き出そうとしているのに、効いている様子がないからだ。尋問に対抗する特別な訓練を積んでいなければできることじゃない。
「つまらない言い訳だ。衛兵のところまで連れて行こうか」
「好きにすればいい」
「随分余裕があるね。……この王家の家臣であることを示す指輪があるからかな」
「……ッ!?」
ルークが男の懐から指輪を取り出す。精緻な意匠が刻まれた指輪だ。それによって初めて男の表情に本物の焦りが見えた。
「確かにこれがあれば衛兵に捕まっても言い訳がきくだろうね。牢屋に入る必要もない」
「貴様、何者だ。なぜ指輪のことを知っている」
「ただのポーション店の従業員だよ。そういう君は王家直属の密偵だね。アリシアを探りに来たのかい?」
「それは……」
「誤解しないでほしいけど、俺が指輪について知っているのはただの偶然だよ。昔一度見たことがある。それに、君の仕事を邪魔するつもりもない。王族に盾突くつもりなんてないからね。明日以降も好きなだけアリシアを観察すればいい」
「……何が目的だ?」
「俺は一つ聞きたいだけだよ。君にアリシアを探らせているのは国王と第一王子、どちらだい?」
「……」
「答えてくれれば君のことは他言しないよ」
男はしばらく黙考したのち、口を開く。
「……国王陛下だ」
「そうか。ありがとう」
ルークが男を解放すると、男は夜の闇に紛れるように去っていった。
それと入れ替わるように足音が聞こえてくる。
「見事な手際じゃねえか。国王陛下から勅命を受けた密偵をあっさり捕まえるとは」
「あなたは……スカーレル商会の商会長?」
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現れたのは金髪と洒脱ないで立ちが特徴の男性、ディーノ・スカーレルだった。
ルークは視線を鋭くする。
「ここにいるのは偶然ではなさそうですね」
「どうしてそう思う?」
「ここ数日、スカーレル商会の人間が数人『緑の薬師』周辺に張り込んでいるのを見かけました。アリシアと面識のあるあなたが、わざわざ遠巻きに監視する必要はないはず。それなら張り込みの理由は、アリシアを探っている何者かを見つけ出そうとすること以外にありません。違いますか?」
ディーノは、ふむ、と顎に手を当てた。
「…………なんかお前、鋭すぎて可愛げないなぁ……ちょっと引く……」
「あなたが聞いたんじゃないですか」
呆れ声で言いつつ、ルークは同時に肩の力を抜く。目の前の人間は明らかに敵対の意志はなさそうだ。
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