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冷却ポーションを納品します!2
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「私はあまり気にならないんですが、このあたりの気候でも最近は暑いと感じる人が多いらしくて。需要があるんじゃないかという意見が出たので、実験しているんです」
ちなみにそう言ったのはルーク。昨日みんなで氷菓を食べている時、ルークがふと「これってランクを落とせば暑い部屋を涼しくすることができるんじゃない?」と呟いたのだ。
私はこの魔術を単に素材の保存用としか考えていなかったので、虚を突かれた気分だった。
「そうか! 言われてみればその使い方もある! なんで気付かなかったんだ……!」
口元を押さえるディーノさん。さらに勢いよく私の肩を掴んで揺さぶってくる。
「アリシアちゃん、これはすごいことだぞ。この辺りじゃ暑さはたいしたことないが、南大陸との間にある島々なんかじゃ年中蒸し暑さに苦しめられる場所も少なくない。日差しがキツい南大陸まで運べば、飛ぶように売れるだろう。どんな強気な値段にしても王族貴族はこぞって欲しがるはずだ!」
「わ、私は南大陸に行ったことはありませんが、確かに暑さが厳しいそうですね」
「ああ。水竜の餌を保存するのに使えればいいと思っていたが……」
ディーノさんは真剣そうな表情になって言った。
「アリシアちゃん、このポーションのレシピをスカーレル商会に公開する気はないか? レシピを教えてくれれば毎年使用料を支払う。誓ってアリシアちゃんの足元を見るような金額にはしない」
ディーノさんは商売のことで嘘は吐かない。冷却ポーションに価値を感じているなら、必ず私が納得できるような額を用意してくれるだろう。
もちろん、スカーレル商会にレシピを公開することはルークたち店のメンバーには伝えてある。
「わかりました」
「よっし、そうこなくちゃな! こりゃ忙しくなりそうだ!」
ディーノさんはそう言いながら、やはり楽しそうに笑みを浮かべた。
本当に商売が好きな人である。
▽
ディーノさんとの商談を終え、見送りを済ませたあと、店の様子を見に行くことにした。
時間帯のせいか客入りはまばらだ。私は商品補充をしているルークに声をかける。
ちなみにランドは定位置のカウンターの上だ。
「ルーク、何か問題はありませんか?」
「特にないよ。アリシアのほうは、ディーノさんとの話し合いは終わったのかい?」
「無事終わりました。水竜の餌としてだけではなく、室温調整用としても商品価値を認めてもらえましたよ。しばらくうちとスカーレル商会とで独占的に販売していくことになります」
「またとんでもない利益になりそうだね……」
「ルークのアイデアのお陰です。私は冷却ポーションを室温の調整に使うなんて発想はありませんでしたから」
「俺は大したことはしてないよ。アリシアのとんでもないポーションの知識がすごいんだ」
さらっと流すルーク。本人がこう言っている時に無理にお礼を続けるのもよくないだろうから、仕方なく謙遜を受け入れておく。
「……」
「ルーク、どうかしましたか? 何か言いたそうですが」
「あー、いや、その……」
「?」
「……ディーノさんから何か聞いてない? 冷却ポーション以外のことで。忠告みたいな感じの」
「忠告……? いえ、特に何もありませんでしたよ。ディーノさんは海運事業や南大陸との交易について考えるのに夢中なようでした」
「あの人……」
半ば呆れるようなルークの溜め息。どうしたんだろう。私が首を傾げていると、ルークは珍しく言いにくそうに告げた。
「実は昨日、夜にディーノさんと出くわして少し話したんだ」
ルークはたまに夜、一人で散歩に出かけることがある。どうやらそこでディーノさんと遭遇したようだ。
「で、その時にアリシアに言わなくちゃいけないことがある、というようなことを言っていた。俺も詳しくは聞いてないけど、忠告のたぐいだったみたいだ。今日伝えると言っていたのに、忘れていたみたいだね」
「はあ……ルークは一体どんな内容だったか聞いていませんか?」
ディーノさんのことだから、構想している商いが進みそうになってそっちに意識を持っていかれることはじゅうぶんに有り得る。あの人、根っからの商売好きなことだし。
「――第一王子に気を付けろ、だってさ」
「第一王子……?」
「ああ。どうしてディーノさんがそんなことを言おうとしていたのかは俺にはわからないけどね」
第一王子というのはこの国の第一王子のことでいいんだろうか。私は以前王都に住んでいた時期はあれど、一度も面識はない。
「なぜそんな人物に気を付ける必要があるのでしょうか」
「……」
「ルーク?」
「……いや、なんでもない。アリシアは呪詛ヒュドラ討伐に貢献したこともあって、名前が広まりつつあるからね。誰に目を付けられてもおかしくないかもしれないね」
そう言うルークは口調こそいつも通りなのに、表情は険しく見えた。
ちなみにそう言ったのはルーク。昨日みんなで氷菓を食べている時、ルークがふと「これってランクを落とせば暑い部屋を涼しくすることができるんじゃない?」と呟いたのだ。
私はこの魔術を単に素材の保存用としか考えていなかったので、虚を突かれた気分だった。
「そうか! 言われてみればその使い方もある! なんで気付かなかったんだ……!」
口元を押さえるディーノさん。さらに勢いよく私の肩を掴んで揺さぶってくる。
「アリシアちゃん、これはすごいことだぞ。この辺りじゃ暑さはたいしたことないが、南大陸との間にある島々なんかじゃ年中蒸し暑さに苦しめられる場所も少なくない。日差しがキツい南大陸まで運べば、飛ぶように売れるだろう。どんな強気な値段にしても王族貴族はこぞって欲しがるはずだ!」
「わ、私は南大陸に行ったことはありませんが、確かに暑さが厳しいそうですね」
「ああ。水竜の餌を保存するのに使えればいいと思っていたが……」
ディーノさんは真剣そうな表情になって言った。
「アリシアちゃん、このポーションのレシピをスカーレル商会に公開する気はないか? レシピを教えてくれれば毎年使用料を支払う。誓ってアリシアちゃんの足元を見るような金額にはしない」
ディーノさんは商売のことで嘘は吐かない。冷却ポーションに価値を感じているなら、必ず私が納得できるような額を用意してくれるだろう。
もちろん、スカーレル商会にレシピを公開することはルークたち店のメンバーには伝えてある。
「わかりました」
「よっし、そうこなくちゃな! こりゃ忙しくなりそうだ!」
ディーノさんはそう言いながら、やはり楽しそうに笑みを浮かべた。
本当に商売が好きな人である。
▽
ディーノさんとの商談を終え、見送りを済ませたあと、店の様子を見に行くことにした。
時間帯のせいか客入りはまばらだ。私は商品補充をしているルークに声をかける。
ちなみにランドは定位置のカウンターの上だ。
「ルーク、何か問題はありませんか?」
「特にないよ。アリシアのほうは、ディーノさんとの話し合いは終わったのかい?」
「無事終わりました。水竜の餌としてだけではなく、室温調整用としても商品価値を認めてもらえましたよ。しばらくうちとスカーレル商会とで独占的に販売していくことになります」
「またとんでもない利益になりそうだね……」
「ルークのアイデアのお陰です。私は冷却ポーションを室温の調整に使うなんて発想はありませんでしたから」
「俺は大したことはしてないよ。アリシアのとんでもないポーションの知識がすごいんだ」
さらっと流すルーク。本人がこう言っている時に無理にお礼を続けるのもよくないだろうから、仕方なく謙遜を受け入れておく。
「……」
「ルーク、どうかしましたか? 何か言いたそうですが」
「あー、いや、その……」
「?」
「……ディーノさんから何か聞いてない? 冷却ポーション以外のことで。忠告みたいな感じの」
「忠告……? いえ、特に何もありませんでしたよ。ディーノさんは海運事業や南大陸との交易について考えるのに夢中なようでした」
「あの人……」
半ば呆れるようなルークの溜め息。どうしたんだろう。私が首を傾げていると、ルークは珍しく言いにくそうに告げた。
「実は昨日、夜にディーノさんと出くわして少し話したんだ」
ルークはたまに夜、一人で散歩に出かけることがある。どうやらそこでディーノさんと遭遇したようだ。
「で、その時にアリシアに言わなくちゃいけないことがある、というようなことを言っていた。俺も詳しくは聞いてないけど、忠告のたぐいだったみたいだ。今日伝えると言っていたのに、忘れていたみたいだね」
「はあ……ルークは一体どんな内容だったか聞いていませんか?」
ディーノさんのことだから、構想している商いが進みそうになってそっちに意識を持っていかれることはじゅうぶんに有り得る。あの人、根っからの商売好きなことだし。
「――第一王子に気を付けろ、だってさ」
「第一王子……?」
「ああ。どうしてディーノさんがそんなことを言おうとしていたのかは俺にはわからないけどね」
第一王子というのはこの国の第一王子のことでいいんだろうか。私は以前王都に住んでいた時期はあれど、一度も面識はない。
「なぜそんな人物に気を付ける必要があるのでしょうか」
「……」
「ルーク?」
「……いや、なんでもない。アリシアは呪詛ヒュドラ討伐に貢献したこともあって、名前が広まりつつあるからね。誰に目を付けられてもおかしくないかもしれないね」
そう言うルークは口調こそいつも通りなのに、表情は険しく見えた。
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