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冷却ポーションを納品します!
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翌日、客足の落ち着く時間帯にディーノさんがやってきた。
私は店の横で待ち、ディーノさんがやってくるのに気付いて手を振る。
「ディーノさん、こんにちは」
「おう、アリシアちゃん。わざわざ店の前で出迎えなんてしなくてよかったんだぜ?」
「少し事情がありまして」
「ん? 事情?」
「とりあえず、こちらに来てください」
ディーノさんを先導し、店の入り口を通り過ぎて敷地内の庭までやってくる。まだ屋敷の中には入らない。そのことにディーノさんは違和感を覚えたようだけれど、そのまま話を進めてくれる。
「で、言われた通り来たが……本当にブツは一日でできたのか?」
「はい、できましたよ。これがランクⅤの冷却ポーションです」
私が手渡したポーション瓶を受け取り、ディーノさんは瓶をしげしげと眺める。
「効き目はどのくらいなんだ?」
「ランクⅤのまま使った場合、瓶の蓋を開けて地面に置くだけで、この屋敷の庭程度の面積が雪の降る気温まで下がります。その状態を維持できるのは二、三日くらいでしょうか」
下がる温度や維持期間はもとの気温によって変わるので断定はできないけれど、だいたいそんなところだろう。
「と、とんでもない代物だな……だが、それじゃ効きすぎだ。水竜の餌を冷凍させ、保管するのには小部屋一つがじゅうぶん冷えればいい」
「それならランクⅣで問題ないと思います。それはお試し用として差し上げますから、一度試してみてください」
私が言うと、ディーノさんは首を横に振って苦笑した。
「いや、いいよ。アリシアちゃんの作ったポーションなら疑う理由はないしな」
「いいんですか?」
「ああ。魔物除けに成長促進ポーション……アリシアちゃんのポーションの凄さはよく知ってる。他の調合師ならともかく、アリシアちゃんなら問題ないと思ってる」
「あ、ありがとうございます」
「報酬のビーストフラワーは後でうちのもんに届けさせる。少し待っていてくれ」
「わかりました」
「いよいよ西大陸との交易にも現実味が出てきた……! ありがとな、アリシアちゃん!」
明るい笑みを見せるディーノさん。新しい商売ができることへの喜びが強く感じられる。
「本当ならすぐに戻って海運事業を進めたいが……レシピを教えてもらうか、アリシアちゃんが作って納品してもらうか、そのあたりについて話を詰めておかないとな。一応契約書の草案は作ってきたが、確認してくれるか?」
いくらランク後の冷却ポーションが強力とはいえ、一本でいつまでも冷凍室が保てるわけではない。海運事業を成り立たせるには安定した供給が必要だ。
レシピを私が握っている以上、今後のことを取り決めておく必要はあるだろう。
私は頷いた。
「それなら丁度いいですね」
「丁度いい?」
契約関連の話をするなら応接室がいいだろう。少なくとも庭でする話じゃない。
「実はディーノさんにご相談したいことがありまして。そのために屋敷の手前でお話をさせていただいたんです。話がごちゃごちゃしてしまいますから」
「……?」
「ついてきてください」
私は屋敷の中に入り、ディーノさんを扉の内側から手招き。ディーノさんは疑問顔でついてきて、すぐに目を見開いた。
「うおっ、涼しいな。明らかに庭とは温度が違う」
「実はランクⅡまで薄めた冷却ポーションを使っているんです」
「冷却ポーションを?」
「廊下の隅にふたを開けた冷却ポーションの瓶を置いてあるんですよ。ほら、あそこ」
私の指さす先にはふたを開けて中身を少しずつ気化させている冷却ポーションの瓶がある。
ランクⅡまで薄めた冷却ポーションは水を凍らせるほどの冷気を出すことはできないけれど、こうして室内をひんやりさせることができるのだ。
私は店の横で待ち、ディーノさんがやってくるのに気付いて手を振る。
「ディーノさん、こんにちは」
「おう、アリシアちゃん。わざわざ店の前で出迎えなんてしなくてよかったんだぜ?」
「少し事情がありまして」
「ん? 事情?」
「とりあえず、こちらに来てください」
ディーノさんを先導し、店の入り口を通り過ぎて敷地内の庭までやってくる。まだ屋敷の中には入らない。そのことにディーノさんは違和感を覚えたようだけれど、そのまま話を進めてくれる。
「で、言われた通り来たが……本当にブツは一日でできたのか?」
「はい、できましたよ。これがランクⅤの冷却ポーションです」
私が手渡したポーション瓶を受け取り、ディーノさんは瓶をしげしげと眺める。
「効き目はどのくらいなんだ?」
「ランクⅤのまま使った場合、瓶の蓋を開けて地面に置くだけで、この屋敷の庭程度の面積が雪の降る気温まで下がります。その状態を維持できるのは二、三日くらいでしょうか」
下がる温度や維持期間はもとの気温によって変わるので断定はできないけれど、だいたいそんなところだろう。
「と、とんでもない代物だな……だが、それじゃ効きすぎだ。水竜の餌を冷凍させ、保管するのには小部屋一つがじゅうぶん冷えればいい」
「それならランクⅣで問題ないと思います。それはお試し用として差し上げますから、一度試してみてください」
私が言うと、ディーノさんは首を横に振って苦笑した。
「いや、いいよ。アリシアちゃんの作ったポーションなら疑う理由はないしな」
「いいんですか?」
「ああ。魔物除けに成長促進ポーション……アリシアちゃんのポーションの凄さはよく知ってる。他の調合師ならともかく、アリシアちゃんなら問題ないと思ってる」
「あ、ありがとうございます」
「報酬のビーストフラワーは後でうちのもんに届けさせる。少し待っていてくれ」
「わかりました」
「いよいよ西大陸との交易にも現実味が出てきた……! ありがとな、アリシアちゃん!」
明るい笑みを見せるディーノさん。新しい商売ができることへの喜びが強く感じられる。
「本当ならすぐに戻って海運事業を進めたいが……レシピを教えてもらうか、アリシアちゃんが作って納品してもらうか、そのあたりについて話を詰めておかないとな。一応契約書の草案は作ってきたが、確認してくれるか?」
いくらランク後の冷却ポーションが強力とはいえ、一本でいつまでも冷凍室が保てるわけではない。海運事業を成り立たせるには安定した供給が必要だ。
レシピを私が握っている以上、今後のことを取り決めておく必要はあるだろう。
私は頷いた。
「それなら丁度いいですね」
「丁度いい?」
契約関連の話をするなら応接室がいいだろう。少なくとも庭でする話じゃない。
「実はディーノさんにご相談したいことがありまして。そのために屋敷の手前でお話をさせていただいたんです。話がごちゃごちゃしてしまいますから」
「……?」
「ついてきてください」
私は屋敷の中に入り、ディーノさんを扉の内側から手招き。ディーノさんは疑問顔でついてきて、すぐに目を見開いた。
「うおっ、涼しいな。明らかに庭とは温度が違う」
「実はランクⅡまで薄めた冷却ポーションを使っているんです」
「冷却ポーションを?」
「廊下の隅にふたを開けた冷却ポーションの瓶を置いてあるんですよ。ほら、あそこ」
私の指さす先にはふたを開けて中身を少しずつ気化させている冷却ポーションの瓶がある。
ランクⅡまで薄めた冷却ポーションは水を凍らせるほどの冷気を出すことはできないけれど、こうして室内をひんやりさせることができるのだ。
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