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2巻
2-2
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▽
私はテーブルを挟んで目の前の少女と向かい合った。
「それで、ええと、メアリーさんでしたね」
「メアリーでいいよ!」
「……わかりました。それでメアリーはなにをしにここへ?」
「取材だよ! アリシアはこの街で最近有名な調合師なんでしょ? そんなあなたが店を開くって聞いて、これはもう直撃取材するしかないなって思って!」
帽子を被った少女、メアリーは明るい声でそんなことを言う。
取材とは変わった用件だ。
というか本当に目の前の少女は冒険者なのだろうか。
彼女の外見を改めて見ると、動きやすそうな軽装に加えて、腰にはナイフを差している。冒険者パーティには偵察役を担う「斥候」という役割があると聞くけれど、そんな感じに見えなくもない。
「それでアリシア、取材を受けてくれるよね?」
きらきらした目を向けられる。
本音を言えば今すぐ調合に戻りたいけれど……せっかく来てくれたことだし、少しくらいなら構わないということにしよう。
「わかりました。それで、取材というのはなにをすればいいんですか?」
「あたしの質問に答えてくれたら大丈夫! それじゃあまずは――」
メアリーが次々と質問をし、私がそれに答えていく。
もちろん答えられないところはぼかした。
ポーションの製法だとか、【調合】スキルのレベルだとかは秘密だ。
すると、いきなりメアリーが目をきらりと輝かせた。
「では次の質問! ……Sランク冒険者のオルグと恋仲だって噂は本当?」
「はい?」
「いやだから、オルグとアリシアが恋人同士だって噂が流れてるんだけど。これって本当?」
まったく身に覚えがない。
だいたい、ポーション作りしか特技のない私に恋人ができるなんて、天地がひっくり返ってもないだろう。そんなことができるなら、領地を追い出されたりしていない。
混乱する私をよそに、メアリーはずいっと身を乗り出してくる。
「オルグってすごい強いし、『世界七大魔剣』の一本を持ってたり史上最年少でSランクになってたりでいろいろと話題性があるんだよね」
世界七大魔剣? 史上最年少でSランク?
なんだか知らない情報がどんどん出てくる。そういえばオルグについて、あまり知らない。ぼんやりとすごい人なんだろうなと思ってはいるけれど。
「けど、今まで浮いた話は全然なくて、だからこそ彼の恋愛ネタは読者のウケが抜群にいいってわけ! ねえどう? オルグとはなにかないの? っていうかなんなら今からでもネタ作ってくれたりしない?」
「え、あ、いえ私はそういうのは」
「そんなこと言わずに! 数字が取れるの! やっぱゴシップは数字がすべてなの!」
「だ、だいたい今からネタを作ったら嘘じゃないですか!」
「あたし情報って面白ければ嘘でもいいと思うんだよね!」
ものすごい至近距離に迫られてそんなことを言われた。なんてはた迷惑な熱意……!
そんなやり取りをしていると、ひょい、とメアリーの首根っこが掴まれた。
猫のようにメアリーを持ち上げたルークは、にっこりと笑みを浮かべて言う。
「――メアリーさんだっけ。俺の雇い主が怖がってるからそこまでにしてくれるかな?」
……怖い。
ルークはときどきすさまじい威圧感を放つ気がする。
「すすすすみませんでした」
すぐに大人しくなってペコペコするメアリー。
ごほん、とメアリーは咳ばらいを一つした。
「そ、それじゃあ……アリシアのお店で販売する中で、『イチオシ!』って感じのポーションはある?」
今度はまともな質問だ。
「そうですね、やはり魔物除けでしょうか。これは私以外では、現在スカーレル商会でしか扱っていないと聞いています。他にも害虫対策用のポーションも用意しています」
「ふむふむ。フォレス大森林で活動するなら虫は困るもんねえ」
「あとは……そうですね。生活に役立つポーションなんかも販売する予定です。消臭ポーションや、洗浄ポーションなどですね」
そう答えると、メアリーはぽかんとした。
「消臭ポーションに洗浄ポーション? そ、そんなのがあるの?」
「ええ。そういえば試作品が余っていましたね……よければ使うところを見学しませんか?」
「う、うん! ぜひ!」
調合をするところを見せるわけではないので、問題はない。
洗浄ポーションで手近にあった汚れた鍋を洗ってみせることにした。
ポーションをかけ、水ですすぐとあら不思議。
焦げ付いていた鍋が新品さながらに輝きを取り戻した。
「なななななな」
それを見たメアリーが目を丸くしている。
「こんな感じのポーションなんですが……売れるでしょうか?」
「いや売れるかってそんなの決まりきってると思うんだけどこんなの」
「はい?」
メアリーはがっしと私の肩を掴んで言った。
「とりあえず、情報屋のメアリーさんからアドバイス。明日の朝イチで洗濯場に行ってどろどろの服にでも使ってみるといいよ。あ、必ず人前でやるんだよ? 誰も見てないところでやっても意味ないからね!」
「は、はあ」
なんだかよくわからないけれど、そのくらいなら試してみてもいいだろう。
そんなやり取りを最後に、謎の冒険者メアリーの取材は終了した。
▽
「とうとうこの日がやってきましたね……!」
「うむ」
「いよいよだねえ」
店の中に私、ランド、ルークの声が響く。
店内の棚にはポーションがずらりと並び、購入されるのを待っている。在庫もたっぷり作った。準備は万全だ。
というわけで、私が店主を務めるポーション店、いよいよオープンである。
店名は「緑の薬師」。
冒険者の間で広まっていた、「緑髪のポーション売り」というあだ名をもとに、三人で相談して決めた。まあ、わかりやすくていいだろう。
……
「……胃が痛くなってきました」
「心配症じゃな」
「そうは言いますけどね、ランド。今日までにどれだけ手間をかけて準備してきたと思ってるんですか。緊張するなというほうが無理です……」
宣伝はきちんとした。
冒険者ギルドに張り紙をしたし、知り合いの冒険者たちにも声をかけた。試供品だって配った。
しかし商売に絶対はない。あのエリカだって、新事業は二割当たればいいほうだと言っていた。
「ポーションというのはおおまかな売値が規則で決まっているので、極端に安くしてお客を呼ぶことはできません。冒険者向けの商品の品揃えもギルドとあまり変わりませんし、立地も街の大通りからは少し離れていますし……」
ああ、考えれば考えるほど腰が引けてくる。
もうすぐ開店時間だというのに。
「はいはいシャキッとしてね雇い主さん。ここまで来たら逃げても仕方ないでしょ」
「わ、わかりました」
ルークに背中を押されて、私は閉じていた木製の扉に手をかける。
そうだ、私はルークの雇い主にしてこの店の責任者だ。
覚悟を決めよう。
今どれだけ閑古鳥が鳴いたとしても、私はこの店を盛り上げていくんだ!
「い、いらっしゃいませ。ポーション店『緑の薬師』、ただいま開店で――」
「「「――ポーションを寄越せぇええええええっ‼」」」
「⁉」
いきなり大勢の冒険者が押し寄せてきて、私は思わず店内に逃げ込んだ。
しかし扉を閉め損ねたため冒険者たちは当然のように中に入ってくる。
「魔物除けはどこだ!」
「あったぞこっちだ! 買い占めろ!」
「虫除けポーションは一つ残らず俺たちのもんだああああ!」
ポーション棚に群がり、すさまじい奪い合いを始める冒険者たち。
こ、この展開は予想外です……!
「まあ、やっぱりこうなるよねえ」
ルークは苦笑しながらその光景を眺めている。
「な、なぜルークはそんなに平然としているんですか?」
「いや、だってアリシアの魔物除けって、ギルドに納品したらいつもすぐに売り切れるじゃないか。それに虫除けポーションの試供品もかなり評判よかったし」
「……それ、さっき言ってくれたら無駄に緊張せずに済んだのですが」
「さっきまでのアリシア、俺の話なんて聞こえてなかったじゃないか」
それはまあ、そうかもしれない。
開店前の緊張はかなり大きかったから。
「おい! これは俺が先に取っただろ⁉」
「知ったことか! 悔しかったら奪い返してみろ!」
「てめえっ……」
お客が集まったのは嬉しいことだけれど、同じ商品目当ての人が多いせいで騒ぎが起こってしまっている。魔物除けを買える数を制限する貼り紙をしているけれど、どうやらそれも目に入っていないようだ。
「……仕方ありません、争いを止めてきます」
「ああ、待った。俺が行くよ」
「いいんですか? では、すみませんがお願いします。荒事は苦手で」
「うん。任せて」
争いを続けている冒険者たちの元にルークが歩いていく。
そんなルークの手には木剣が握られている。防犯用として、カウンターの内側に用意しておいたものだ。
……ちなみに。
木剣でもルークの持つ【剣術Ⅴ】のスキルは発動する。
「あの、ルーク。一応言いますが、できれば手加減してあげてもらえると」
「あはは、やだなあ。心配いらないよ」
「そ、そうですよね。いくら暴れていても、開店初日のお客にあまり酷いことは――」
「――冒険者はみんな頑丈だからね。多少どついても問題ないよ」
私の求めている答えと違うんですが……
その後数分で場を鎮静化させたルークの指示により、冒険者たちは綺麗に列を作ってポーションを買っていった。
この件から、私の店には凶悪な番犬がいる、という噂が立ってしまったけれど、私は否定することができないのだった。
なにはともあれ、結果は初日から大繁盛である。
このままの勢いが続いてほしいと思う。
▽
冒険者というのは、基本的に朝から夕方にかけて仕事を行う。よって、買い出しが行われるのは朝の出発前か夕方以降であることが多い。昼頃には余裕ができるはずなので、その時間は店番をルークに任せ、私は翌日分の調合をする。
……という算段だったのに。
「調合師! 調合師はいるの⁉」
「わ、私がそうですが」
「この洗浄ポーションって本当にお皿や服の汚れが綺麗に落ちるのかしら? それでモノが傷んだりとかはしない? 絹や麻や毛皮で違ってくるのかしら?」
「ええと、まず絹については――」
女性客にポーションの詳細について聞かれたので、私が対応する。
さすがにルークも効果の詳細までは理解していないので、私が出ていくしかない。
冒険者たちがはけたあと、次に来店したのは洗浄ポーションや消臭ポーション目当てのお客たちだった。
トリッドの街の主婦や料理人ばかりでなく、なんと隣街に住む貴族に仕えるメイドまで買い付けに来たのだから驚きである。
お客の対応に追われて、昼を過ぎても調合どころじゃない。
数日はもつだろうと思っていたポーションが底を突きそうな勢いだった。
なんとかお客をさばききって、私は思わずテーブルに突っ伏した。
「な、なぜ初日からこんなにお客が……」
繁盛するのはありがたい。けれどここまで忙しいと喜ぶ暇もない。
「例の洗濯場での一件で噂が広まったのかな?」
ルークが言っているのは、メアリーの助言を実行したときのことだろう。街の女性たちが集まって洗濯を行う場所で、泥だらけの服が洗浄ポーションによって綺麗になる光景を見せたのだ。日々洗濯物に苦労する彼女たちにとって、洗浄ポーションは革命的だったらしく、あのときは質問攻めにされて大変だった。
「たしかにあれも影響しているとは思いますが……それだけで説明がつくでしょうか」
「うむ。街の外からも客が来ておったからのう。まったく、どこで聞きつけたのやら」
どうも他にも理由がある気がする。
三人で頭を悩ませていると、からんころんと扉のベルが鳴った。私は急いで身体を起こす。
「いらっしゃいませ――って、オルグじゃないですか」
「おう。そろそろ客も落ち着くかと思って様子を見に来たぜ」
そこにいたのは「赤の大鷲」リーダーのオルグだ。今日は冒険者活動が休みなのか、いつも通り大剣を背負っているが鎧は着ていない。そして手には色とりどりの花が咲く鉢植えを持っていた。
「あー、これ、開店祝いだ」
「ありがとうございます! 飾らせてもらいますね」
「……う、嬉しいか?」
「? はい。嬉しいですよ」
私が言うと、オルグは小声で「……よし、あいつらのアドバイスに従ってよかった……!」と呟いた。なんの話だろうか。
「にしても、景気よく売れてるみたいだな」
「はい。でも、なぜこんなことになったのかわかりません」
「ん? ああ、そりゃコレのせいだろ」
そう言ってオルグが取り出したのは、数枚の紙の束。
上のほうには、でかでかと「メアリー特報」なるタイトルが躍っている。
「……これは一体」
「お前んとこに、メアリーって変な女が来ただろ。あいつが発行してる……まあ、新聞みてーなもんだ」
メアリーといえば、以前取材に来たあの冒険者の少女だ。
オルグに差し出された「メアリー特報」を読んでみると、私の店についていろいろと書かれていた。なるほど、あの取材はこうして使われたと。
「あいつは文章を紙に複製できるヘンなスキルを持っててな。あちこち飛び回って面白そうなネタを探しては、こうして記事にしてるってわけだ。一応、ファンも結構いるらしい」
「つまり、私の店が初日から多くのお客に恵まれたのはそのお陰だと?」
「まあ、全部じゃないだろうけどな」
個人で発行している新聞で私の店に大勢のお客を呼び込むとは、あのメアリーという少女は思ったよりも影響力のある人物のようだ。
「ちなみに『メアリー特報』の半分はあいつが適当に書いたガセネタだから気をつけろよ」
「ええ……」
影響力があるのなら面白半分で嘘を書かないでほしい。
「あいつの記事はいろんな街にばらまかれるからな。これからしばらく、客が尽きないと思うぜ」
ありがたい話だ。
しかしこの忙しさが明日以降も続くとなるとハードすぎないだろうか。……いや、店を開くと決めたのは私だ。乗るしかない、この追い風に。
さて、とオルグは言った。
「俺はこれから予定入れてないんだよな」
「そうなんですか? なぜです?」
「そりゃこの店になんかあったら心配で――じゃなくて。た、たまたまな。それで、なにか俺に手伝ってほしいことはないか?」
オルグに手伝ってほしいこと……
「……なんでもいいんですか?」
「ああ! 入手が難しい素材でもいくらでも採ってきてやるよ」
ありがたい申し出だ。なんて優しいんだろうこの人は。
私は素直に一番手伝ってほしいことを告げた。
「では、私と店番を代わってください! 調合をしないと商品の在庫が尽きそうなんです!」
「……」
オルグは頷いてくれたけれど、微妙に釈然としないような表情をしていた気がする。
第二章
「緑の薬師」をオープンしてから数日が経過した。
「きょ、今日も完売……!」
最後のお客を見送った私は、閉めた扉にもたれかかった。
開店以来ずっと繁盛しているのは嬉しいけれど、私の体力がもたない。
ランドがのそのそとこちらに寄ってくる。
「大変じゃのう、店を営むというのは」
「はい、こんなに大変だとは思いませんでした……」
私はしみじみとそう言う。
この忙しさにもいずれ慣れると思いたいところだ。
「お疲れ様、アリシア。あとのことは俺たちに任せて、少し休憩したら?」
金勘定に誤りがないか確認してくれているルークが、私のほうを見て言った。
「いえ、明日の分のポーションを調合しないといけません」
「あまり無理はしないほうがいいと思うけど」
「仕方ありません。商品を切らすわけにはいかないですからね。ふふ、まさかこの私が少しでも調合を負担に思う日が来るとは……」
私が自嘲すると、ルークが難しい顔で唸る。
「調合は俺も手伝えないしなあ。この際、新しい調合師を雇ったほうがいいんじゃないの?」
「む」
ルークの言葉には一理ある。
現状、この「緑の薬師」では商品の補充が間に合っていない。もともと接客をルークに任せ、私は忙しいときだけ店に出て、残りの時間は調合作業に使うつもりでいた。しかし蓋を開けてみると、私が店に出なくてはいけない時間が想定よりずっと長かった。ポーションについて説明を求める客のなんと多いことか。
とはいえ、その理由もなんとなくわかる。
私が売っているポーションはオリジナルの調合が多いから、買う人間にとっても不安なんだろう。
ルークにポーションについて最低限説明はしてあるとはいえ、深く突っ込んだ質問まではさすがに対応しきれない。そうすると説明のために私が出ていくことになり、結果として私が調合に充てる時間が足りなくなる。
仮にポーションについて細かい質問をされても答えられるような店員がいれば、私も調合に専念でき、店はうまく回ることだろう。
「そうですね。明日にでも薬師ギルドに相談して、うちで働いてくれる調合師を募集してみようと思います」
「うん、それがいいと思うよ」
私はこの店で働いてくれる調合師を探すことにした。
さらに数日後。
「……予想以上に人が集まっているんですが」
私は店の外にいる人たちを見てそう呟いた。
「大量じゃなあ」
「そうだね。二十人くらい来てるんじゃない?」
すぐ近くでは、ランドとルークが呑気にそんなことを言っている。
ルークと相談した翌日、私は薬師ギルドに頼んで調合師を募集してもらった。するとあっという間に応募が殺到したらしく、応募者に店に来てもらって面接をすることにした。店を臨時休業しての大仕事である。
「それにしても、この人数は……」
集まった応募者たちを窓から見ながら、ルークが難しい顔をしている。
「ルーク? どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ。それよりそろそろ面接の時間だ」
「そうですね。では、始めましょう」
外に並んでいる応募者があまりに多いので、何回かに分けて面接をすることにして、三人を店の中に通す。さあ面接開始だ。
調合用の器具や素材を載せた長机を挟み、応募者たちと向かい合う。
「私がこの『緑の薬師』を経営するアリシアです。今日は来てくださってありがとうございます」
「「「よろしくお願いします!」」」
挨拶をかわしつつ、ちらりとランドに視線を向ける。
どんな人間を雇うかはまだ決めていないけれど、悪人はアウトだ。ランドの能力でまずはそこをはっきりさせておきたい。
『大丈夫じゃな。悪人と言えるほどの者はおらん』
どうやら問題はなさそうだ。
それでは調合師としての実力を見せてもらおう。
「さっそくですが、調合の腕を見せてもらいます。ここに材料を用意したので、この場でヒールポーションを作ってみてください」
調合師としての実力を測るには、実際にポーションを作ってもらうのが一番だ。下処理の速さや丁寧さだけでなく、【調合】スキルの発動に必要となる魔力の量もおおよそわかる。
応募者たちは予想していたのか、特に戸惑うことなくヒールポーションを作っていく。
十分後、そこには完成した三つのヒールポーションがあった。
見たところどれもランクⅡ程度だけれど、調合の手際自体はかなりよかった。慣れない道具であることを考えれば、十分及第点だ。
彼らならどこの工房でも即戦力になれるだろう。あまりに人数が多かったのでどんな調合師が来たのかと思っていたけれど、これならすぐにでも雇ってしまいたいほどだ。
「どれもいい出来ですね。結果は数日以内に薬師ギルド経由でお伝えします。なにかご質問はありますか?」
質問を募るが、特に手は挙がらない。
それでは解散、と言いかけたところで、今まで黙っていたルークがこんなことを言い出した。
「ごめんアリシア、一ついいかな? 彼らに聞いておきたいことがあるんだ」
「別に構いませんが……なにか気になることでもあるんですか?」
「ちょっとね。さて君たち、質問なんだけど――」
ルークは応募者の三人に尋ねた。
私はテーブルを挟んで目の前の少女と向かい合った。
「それで、ええと、メアリーさんでしたね」
「メアリーでいいよ!」
「……わかりました。それでメアリーはなにをしにここへ?」
「取材だよ! アリシアはこの街で最近有名な調合師なんでしょ? そんなあなたが店を開くって聞いて、これはもう直撃取材するしかないなって思って!」
帽子を被った少女、メアリーは明るい声でそんなことを言う。
取材とは変わった用件だ。
というか本当に目の前の少女は冒険者なのだろうか。
彼女の外見を改めて見ると、動きやすそうな軽装に加えて、腰にはナイフを差している。冒険者パーティには偵察役を担う「斥候」という役割があると聞くけれど、そんな感じに見えなくもない。
「それでアリシア、取材を受けてくれるよね?」
きらきらした目を向けられる。
本音を言えば今すぐ調合に戻りたいけれど……せっかく来てくれたことだし、少しくらいなら構わないということにしよう。
「わかりました。それで、取材というのはなにをすればいいんですか?」
「あたしの質問に答えてくれたら大丈夫! それじゃあまずは――」
メアリーが次々と質問をし、私がそれに答えていく。
もちろん答えられないところはぼかした。
ポーションの製法だとか、【調合】スキルのレベルだとかは秘密だ。
すると、いきなりメアリーが目をきらりと輝かせた。
「では次の質問! ……Sランク冒険者のオルグと恋仲だって噂は本当?」
「はい?」
「いやだから、オルグとアリシアが恋人同士だって噂が流れてるんだけど。これって本当?」
まったく身に覚えがない。
だいたい、ポーション作りしか特技のない私に恋人ができるなんて、天地がひっくり返ってもないだろう。そんなことができるなら、領地を追い出されたりしていない。
混乱する私をよそに、メアリーはずいっと身を乗り出してくる。
「オルグってすごい強いし、『世界七大魔剣』の一本を持ってたり史上最年少でSランクになってたりでいろいろと話題性があるんだよね」
世界七大魔剣? 史上最年少でSランク?
なんだか知らない情報がどんどん出てくる。そういえばオルグについて、あまり知らない。ぼんやりとすごい人なんだろうなと思ってはいるけれど。
「けど、今まで浮いた話は全然なくて、だからこそ彼の恋愛ネタは読者のウケが抜群にいいってわけ! ねえどう? オルグとはなにかないの? っていうかなんなら今からでもネタ作ってくれたりしない?」
「え、あ、いえ私はそういうのは」
「そんなこと言わずに! 数字が取れるの! やっぱゴシップは数字がすべてなの!」
「だ、だいたい今からネタを作ったら嘘じゃないですか!」
「あたし情報って面白ければ嘘でもいいと思うんだよね!」
ものすごい至近距離に迫られてそんなことを言われた。なんてはた迷惑な熱意……!
そんなやり取りをしていると、ひょい、とメアリーの首根っこが掴まれた。
猫のようにメアリーを持ち上げたルークは、にっこりと笑みを浮かべて言う。
「――メアリーさんだっけ。俺の雇い主が怖がってるからそこまでにしてくれるかな?」
……怖い。
ルークはときどきすさまじい威圧感を放つ気がする。
「すすすすみませんでした」
すぐに大人しくなってペコペコするメアリー。
ごほん、とメアリーは咳ばらいを一つした。
「そ、それじゃあ……アリシアのお店で販売する中で、『イチオシ!』って感じのポーションはある?」
今度はまともな質問だ。
「そうですね、やはり魔物除けでしょうか。これは私以外では、現在スカーレル商会でしか扱っていないと聞いています。他にも害虫対策用のポーションも用意しています」
「ふむふむ。フォレス大森林で活動するなら虫は困るもんねえ」
「あとは……そうですね。生活に役立つポーションなんかも販売する予定です。消臭ポーションや、洗浄ポーションなどですね」
そう答えると、メアリーはぽかんとした。
「消臭ポーションに洗浄ポーション? そ、そんなのがあるの?」
「ええ。そういえば試作品が余っていましたね……よければ使うところを見学しませんか?」
「う、うん! ぜひ!」
調合をするところを見せるわけではないので、問題はない。
洗浄ポーションで手近にあった汚れた鍋を洗ってみせることにした。
ポーションをかけ、水ですすぐとあら不思議。
焦げ付いていた鍋が新品さながらに輝きを取り戻した。
「なななななな」
それを見たメアリーが目を丸くしている。
「こんな感じのポーションなんですが……売れるでしょうか?」
「いや売れるかってそんなの決まりきってると思うんだけどこんなの」
「はい?」
メアリーはがっしと私の肩を掴んで言った。
「とりあえず、情報屋のメアリーさんからアドバイス。明日の朝イチで洗濯場に行ってどろどろの服にでも使ってみるといいよ。あ、必ず人前でやるんだよ? 誰も見てないところでやっても意味ないからね!」
「は、はあ」
なんだかよくわからないけれど、そのくらいなら試してみてもいいだろう。
そんなやり取りを最後に、謎の冒険者メアリーの取材は終了した。
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「とうとうこの日がやってきましたね……!」
「うむ」
「いよいよだねえ」
店の中に私、ランド、ルークの声が響く。
店内の棚にはポーションがずらりと並び、購入されるのを待っている。在庫もたっぷり作った。準備は万全だ。
というわけで、私が店主を務めるポーション店、いよいよオープンである。
店名は「緑の薬師」。
冒険者の間で広まっていた、「緑髪のポーション売り」というあだ名をもとに、三人で相談して決めた。まあ、わかりやすくていいだろう。
……
「……胃が痛くなってきました」
「心配症じゃな」
「そうは言いますけどね、ランド。今日までにどれだけ手間をかけて準備してきたと思ってるんですか。緊張するなというほうが無理です……」
宣伝はきちんとした。
冒険者ギルドに張り紙をしたし、知り合いの冒険者たちにも声をかけた。試供品だって配った。
しかし商売に絶対はない。あのエリカだって、新事業は二割当たればいいほうだと言っていた。
「ポーションというのはおおまかな売値が規則で決まっているので、極端に安くしてお客を呼ぶことはできません。冒険者向けの商品の品揃えもギルドとあまり変わりませんし、立地も街の大通りからは少し離れていますし……」
ああ、考えれば考えるほど腰が引けてくる。
もうすぐ開店時間だというのに。
「はいはいシャキッとしてね雇い主さん。ここまで来たら逃げても仕方ないでしょ」
「わ、わかりました」
ルークに背中を押されて、私は閉じていた木製の扉に手をかける。
そうだ、私はルークの雇い主にしてこの店の責任者だ。
覚悟を決めよう。
今どれだけ閑古鳥が鳴いたとしても、私はこの店を盛り上げていくんだ!
「い、いらっしゃいませ。ポーション店『緑の薬師』、ただいま開店で――」
「「「――ポーションを寄越せぇええええええっ‼」」」
「⁉」
いきなり大勢の冒険者が押し寄せてきて、私は思わず店内に逃げ込んだ。
しかし扉を閉め損ねたため冒険者たちは当然のように中に入ってくる。
「魔物除けはどこだ!」
「あったぞこっちだ! 買い占めろ!」
「虫除けポーションは一つ残らず俺たちのもんだああああ!」
ポーション棚に群がり、すさまじい奪い合いを始める冒険者たち。
こ、この展開は予想外です……!
「まあ、やっぱりこうなるよねえ」
ルークは苦笑しながらその光景を眺めている。
「な、なぜルークはそんなに平然としているんですか?」
「いや、だってアリシアの魔物除けって、ギルドに納品したらいつもすぐに売り切れるじゃないか。それに虫除けポーションの試供品もかなり評判よかったし」
「……それ、さっき言ってくれたら無駄に緊張せずに済んだのですが」
「さっきまでのアリシア、俺の話なんて聞こえてなかったじゃないか」
それはまあ、そうかもしれない。
開店前の緊張はかなり大きかったから。
「おい! これは俺が先に取っただろ⁉」
「知ったことか! 悔しかったら奪い返してみろ!」
「てめえっ……」
お客が集まったのは嬉しいことだけれど、同じ商品目当ての人が多いせいで騒ぎが起こってしまっている。魔物除けを買える数を制限する貼り紙をしているけれど、どうやらそれも目に入っていないようだ。
「……仕方ありません、争いを止めてきます」
「ああ、待った。俺が行くよ」
「いいんですか? では、すみませんがお願いします。荒事は苦手で」
「うん。任せて」
争いを続けている冒険者たちの元にルークが歩いていく。
そんなルークの手には木剣が握られている。防犯用として、カウンターの内側に用意しておいたものだ。
……ちなみに。
木剣でもルークの持つ【剣術Ⅴ】のスキルは発動する。
「あの、ルーク。一応言いますが、できれば手加減してあげてもらえると」
「あはは、やだなあ。心配いらないよ」
「そ、そうですよね。いくら暴れていても、開店初日のお客にあまり酷いことは――」
「――冒険者はみんな頑丈だからね。多少どついても問題ないよ」
私の求めている答えと違うんですが……
その後数分で場を鎮静化させたルークの指示により、冒険者たちは綺麗に列を作ってポーションを買っていった。
この件から、私の店には凶悪な番犬がいる、という噂が立ってしまったけれど、私は否定することができないのだった。
なにはともあれ、結果は初日から大繁盛である。
このままの勢いが続いてほしいと思う。
▽
冒険者というのは、基本的に朝から夕方にかけて仕事を行う。よって、買い出しが行われるのは朝の出発前か夕方以降であることが多い。昼頃には余裕ができるはずなので、その時間は店番をルークに任せ、私は翌日分の調合をする。
……という算段だったのに。
「調合師! 調合師はいるの⁉」
「わ、私がそうですが」
「この洗浄ポーションって本当にお皿や服の汚れが綺麗に落ちるのかしら? それでモノが傷んだりとかはしない? 絹や麻や毛皮で違ってくるのかしら?」
「ええと、まず絹については――」
女性客にポーションの詳細について聞かれたので、私が対応する。
さすがにルークも効果の詳細までは理解していないので、私が出ていくしかない。
冒険者たちがはけたあと、次に来店したのは洗浄ポーションや消臭ポーション目当てのお客たちだった。
トリッドの街の主婦や料理人ばかりでなく、なんと隣街に住む貴族に仕えるメイドまで買い付けに来たのだから驚きである。
お客の対応に追われて、昼を過ぎても調合どころじゃない。
数日はもつだろうと思っていたポーションが底を突きそうな勢いだった。
なんとかお客をさばききって、私は思わずテーブルに突っ伏した。
「な、なぜ初日からこんなにお客が……」
繁盛するのはありがたい。けれどここまで忙しいと喜ぶ暇もない。
「例の洗濯場での一件で噂が広まったのかな?」
ルークが言っているのは、メアリーの助言を実行したときのことだろう。街の女性たちが集まって洗濯を行う場所で、泥だらけの服が洗浄ポーションによって綺麗になる光景を見せたのだ。日々洗濯物に苦労する彼女たちにとって、洗浄ポーションは革命的だったらしく、あのときは質問攻めにされて大変だった。
「たしかにあれも影響しているとは思いますが……それだけで説明がつくでしょうか」
「うむ。街の外からも客が来ておったからのう。まったく、どこで聞きつけたのやら」
どうも他にも理由がある気がする。
三人で頭を悩ませていると、からんころんと扉のベルが鳴った。私は急いで身体を起こす。
「いらっしゃいませ――って、オルグじゃないですか」
「おう。そろそろ客も落ち着くかと思って様子を見に来たぜ」
そこにいたのは「赤の大鷲」リーダーのオルグだ。今日は冒険者活動が休みなのか、いつも通り大剣を背負っているが鎧は着ていない。そして手には色とりどりの花が咲く鉢植えを持っていた。
「あー、これ、開店祝いだ」
「ありがとうございます! 飾らせてもらいますね」
「……う、嬉しいか?」
「? はい。嬉しいですよ」
私が言うと、オルグは小声で「……よし、あいつらのアドバイスに従ってよかった……!」と呟いた。なんの話だろうか。
「にしても、景気よく売れてるみたいだな」
「はい。でも、なぜこんなことになったのかわかりません」
「ん? ああ、そりゃコレのせいだろ」
そう言ってオルグが取り出したのは、数枚の紙の束。
上のほうには、でかでかと「メアリー特報」なるタイトルが躍っている。
「……これは一体」
「お前んとこに、メアリーって変な女が来ただろ。あいつが発行してる……まあ、新聞みてーなもんだ」
メアリーといえば、以前取材に来たあの冒険者の少女だ。
オルグに差し出された「メアリー特報」を読んでみると、私の店についていろいろと書かれていた。なるほど、あの取材はこうして使われたと。
「あいつは文章を紙に複製できるヘンなスキルを持っててな。あちこち飛び回って面白そうなネタを探しては、こうして記事にしてるってわけだ。一応、ファンも結構いるらしい」
「つまり、私の店が初日から多くのお客に恵まれたのはそのお陰だと?」
「まあ、全部じゃないだろうけどな」
個人で発行している新聞で私の店に大勢のお客を呼び込むとは、あのメアリーという少女は思ったよりも影響力のある人物のようだ。
「ちなみに『メアリー特報』の半分はあいつが適当に書いたガセネタだから気をつけろよ」
「ええ……」
影響力があるのなら面白半分で嘘を書かないでほしい。
「あいつの記事はいろんな街にばらまかれるからな。これからしばらく、客が尽きないと思うぜ」
ありがたい話だ。
しかしこの忙しさが明日以降も続くとなるとハードすぎないだろうか。……いや、店を開くと決めたのは私だ。乗るしかない、この追い風に。
さて、とオルグは言った。
「俺はこれから予定入れてないんだよな」
「そうなんですか? なぜです?」
「そりゃこの店になんかあったら心配で――じゃなくて。た、たまたまな。それで、なにか俺に手伝ってほしいことはないか?」
オルグに手伝ってほしいこと……
「……なんでもいいんですか?」
「ああ! 入手が難しい素材でもいくらでも採ってきてやるよ」
ありがたい申し出だ。なんて優しいんだろうこの人は。
私は素直に一番手伝ってほしいことを告げた。
「では、私と店番を代わってください! 調合をしないと商品の在庫が尽きそうなんです!」
「……」
オルグは頷いてくれたけれど、微妙に釈然としないような表情をしていた気がする。
第二章
「緑の薬師」をオープンしてから数日が経過した。
「きょ、今日も完売……!」
最後のお客を見送った私は、閉めた扉にもたれかかった。
開店以来ずっと繁盛しているのは嬉しいけれど、私の体力がもたない。
ランドがのそのそとこちらに寄ってくる。
「大変じゃのう、店を営むというのは」
「はい、こんなに大変だとは思いませんでした……」
私はしみじみとそう言う。
この忙しさにもいずれ慣れると思いたいところだ。
「お疲れ様、アリシア。あとのことは俺たちに任せて、少し休憩したら?」
金勘定に誤りがないか確認してくれているルークが、私のほうを見て言った。
「いえ、明日の分のポーションを調合しないといけません」
「あまり無理はしないほうがいいと思うけど」
「仕方ありません。商品を切らすわけにはいかないですからね。ふふ、まさかこの私が少しでも調合を負担に思う日が来るとは……」
私が自嘲すると、ルークが難しい顔で唸る。
「調合は俺も手伝えないしなあ。この際、新しい調合師を雇ったほうがいいんじゃないの?」
「む」
ルークの言葉には一理ある。
現状、この「緑の薬師」では商品の補充が間に合っていない。もともと接客をルークに任せ、私は忙しいときだけ店に出て、残りの時間は調合作業に使うつもりでいた。しかし蓋を開けてみると、私が店に出なくてはいけない時間が想定よりずっと長かった。ポーションについて説明を求める客のなんと多いことか。
とはいえ、その理由もなんとなくわかる。
私が売っているポーションはオリジナルの調合が多いから、買う人間にとっても不安なんだろう。
ルークにポーションについて最低限説明はしてあるとはいえ、深く突っ込んだ質問まではさすがに対応しきれない。そうすると説明のために私が出ていくことになり、結果として私が調合に充てる時間が足りなくなる。
仮にポーションについて細かい質問をされても答えられるような店員がいれば、私も調合に専念でき、店はうまく回ることだろう。
「そうですね。明日にでも薬師ギルドに相談して、うちで働いてくれる調合師を募集してみようと思います」
「うん、それがいいと思うよ」
私はこの店で働いてくれる調合師を探すことにした。
さらに数日後。
「……予想以上に人が集まっているんですが」
私は店の外にいる人たちを見てそう呟いた。
「大量じゃなあ」
「そうだね。二十人くらい来てるんじゃない?」
すぐ近くでは、ランドとルークが呑気にそんなことを言っている。
ルークと相談した翌日、私は薬師ギルドに頼んで調合師を募集してもらった。するとあっという間に応募が殺到したらしく、応募者に店に来てもらって面接をすることにした。店を臨時休業しての大仕事である。
「それにしても、この人数は……」
集まった応募者たちを窓から見ながら、ルークが難しい顔をしている。
「ルーク? どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ。それよりそろそろ面接の時間だ」
「そうですね。では、始めましょう」
外に並んでいる応募者があまりに多いので、何回かに分けて面接をすることにして、三人を店の中に通す。さあ面接開始だ。
調合用の器具や素材を載せた長机を挟み、応募者たちと向かい合う。
「私がこの『緑の薬師』を経営するアリシアです。今日は来てくださってありがとうございます」
「「「よろしくお願いします!」」」
挨拶をかわしつつ、ちらりとランドに視線を向ける。
どんな人間を雇うかはまだ決めていないけれど、悪人はアウトだ。ランドの能力でまずはそこをはっきりさせておきたい。
『大丈夫じゃな。悪人と言えるほどの者はおらん』
どうやら問題はなさそうだ。
それでは調合師としての実力を見せてもらおう。
「さっそくですが、調合の腕を見せてもらいます。ここに材料を用意したので、この場でヒールポーションを作ってみてください」
調合師としての実力を測るには、実際にポーションを作ってもらうのが一番だ。下処理の速さや丁寧さだけでなく、【調合】スキルの発動に必要となる魔力の量もおおよそわかる。
応募者たちは予想していたのか、特に戸惑うことなくヒールポーションを作っていく。
十分後、そこには完成した三つのヒールポーションがあった。
見たところどれもランクⅡ程度だけれど、調合の手際自体はかなりよかった。慣れない道具であることを考えれば、十分及第点だ。
彼らならどこの工房でも即戦力になれるだろう。あまりに人数が多かったのでどんな調合師が来たのかと思っていたけれど、これならすぐにでも雇ってしまいたいほどだ。
「どれもいい出来ですね。結果は数日以内に薬師ギルド経由でお伝えします。なにかご質問はありますか?」
質問を募るが、特に手は挙がらない。
それでは解散、と言いかけたところで、今まで黙っていたルークがこんなことを言い出した。
「ごめんアリシア、一ついいかな? 彼らに聞いておきたいことがあるんだ」
「別に構いませんが……なにか気になることでもあるんですか?」
「ちょっとね。さて君たち、質問なんだけど――」
ルークは応募者の三人に尋ねた。
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