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2巻

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   プロローグ


「……」

 私は無言のまま、広くもない部屋の中をうろついていた。
 落ち着かない。こういうときはポーションの調合をして気を紛らわせるけれど、今日ばかりはそれもできない。普段なら絶対にしないようなミスをしそうだからだ。

「ねえランド、どうしようか。俺の雇い主様が見世物小屋の珍獣みたいになってるんだけど」
「……まあ、無理もなかろうな。予定では今日完成すると言っておったし」

 部屋の隅で金髪の美青年ルークと亀の精霊ランドがひそひそと話しているけれど、それに突っ込む余裕もない。
 ここはトリッドの街にある宿屋、「長耳兎亭ながみみうさぎてい」の一室だ。
 この街に来たばかりの頃に利用していた宿屋である。諸事情により、私は一時的に拠点をこちらに移している。
 そしてその諸事情というのが――

「あー、こちら、アリシア様のお部屋でよろしかったですかい?」

 来た!
 ノックとともに聞こえた言葉に私は素早く反応し、部屋の扉を開ける。
 そこに立っているのはいかにも大工です、という頑強な薄着の男性である。彼こそが私の待ち人だ。

「で、できましたか?」

 私が聞くと、彼はにやりと笑った。

「ええ、つい先ほど。屋敷の改装工事、ばっちり完了いたしやした。――ポーションをお売りになるっていう、店舗のほうも含めて」



「おおおおお……!」

 私は目の前の光景に思わず歓声を上げる。
 私は半月ほど前、「戦斧せんぷのガロス」と呼ばれる盗賊の一味に誘拐された。この街の薬師ギルド長でもあるアーロン工房の工房長が、彼らに依頼して私を街から排除しようとしたのだ。私は監禁された場所で出会ったルークと協力し、どうにか生還。工房長はこれまでの悪事が明るみになり、ガロスの一味もろとも投獄されることとなった。
 護衛としてルークを雇って身の安全を確保した私は、前々から温めていた計画を一段階先に進めることにした。それがぼろぼろだった屋敷の改築である。

「ついに、ついに私の店が……!」

 そこにあるのは、同じ場所とは思えないほどに変貌した屋敷の姿だった。
 荒れ放題だった庭はきちんと整備され、屋敷に絡まるツタはすべて撤去。割れた窓やら建物のヒビやらも修繕され、貴族の館といっていいくらいの立派な外観になっている。
 しかしなにより目を引くのは、庭に新たに作られた建物だろう。
 明るい色の木材で作られたそれは、可愛らしい看板とテラス席でも用意すれば、若者向けの喫茶店として通用しそうだ。しかし中に並べるのは私が作る各種ポーションである。


 そう――これは私がこれから開くポーション店なのだ。


 街の大工ギルドに依頼して屋敷を改修、増築してもらっており、その完成が今日だった。依頼内容は「屋敷の修繕」、「庭にポーション店として使える建物を作る」、という二つ。
 私がそわそわしていた理由である。

「さあさあ中を確認してくだせえ、お客様。ご要望はきちんとすべて守ってあります」
「はい!」

 棟梁とうりょうの声に従い、意気揚々と敷地に足を踏み入れる。
 まずは店となる建物の中。
 ここにはポーションを置く棚と、会計用のカウンター、裏にはポーションを置いておく倉庫がある。
 倉庫はあまり広くないけれど問題ない。もっと大きな保管場所は屋敷の中にある。

「木材のいい匂いがするね。落ち着くなあ」
「清潔感があるのもいいのう」

 ルークとランドが口々に言う。
 まだ装飾もなにもないけれど、そこまで派手にする必要はないだろう。
 ものが少ないと清潔に見える。ポーション店ならそういう印象もいいほうに働くはずだ。……観葉植物くらいは置いたほうがいいかもしれないけれど。
 ある程度確認したのち、庭を突っ切って今度は屋敷の中へ。
 まず目に飛び込んでくるのは広々とした玄関ホールだ。天井が吹き抜けになっているため、視線を上げると瀟洒しょうしゃなデザインの二階の手すりが見える。左に応接室、右に食堂へと続く扉があるのを確認しながら前に進むと、突き当たりには大きな木製の扉がある。それを通り抜けると、奥には物々しい鉄扉が更に待っている。

「ご注文通りゴツい扉をつけやしたが……本当にこれでよかったんで?」

 確認する棟梁とうりょうの言葉にうなずく。

「ええ。調合師にとってポーションの調合レシピは特に大切なものですからね。工房の扉はどれだけ頑丈にしても足りないくらいです」

 そう、屋敷一階の奥はポーション工房である。
 ポーションの作り方は調合師によって微妙に違い、その差が個性になったりする。
 ゆえに、調合レシピが外部に漏れないよう厳重に工房を管理するのが調合師の鉄則である。
 ……と、スカーレル商会のポーション工房を管理しているエリカが以前言っていた。

「お客様がそう言うなら構いやせんが。あ、開けるときはこの真ん中の石に手をかざしてくだせえ。みなさんの『魔力紋』に反応して開くようにしてありますんで」

 魔力紋。
 生物というのは大なり小なり魔力を持つものだけれど、指紋と同じく個人ごとにパターンが違う。それを識別して鍵代わりにする魔道具がこの扉には備わっている。
 魔力紋は複数登録することができ、すでに私だけでなくランドとルークもこの扉を開けられる。精霊であるランドの体にもきちんと魔力は流れているため問題ない。また、魔力紋の追加登録、抹消も簡単に行うことができる。
 鉄扉に手をかざし、ゴゴゴゴ……という地響きのような音が止むのを待ってから奥へ。

「おおーっ」

 中はまさしくポーション工房だった。
 個人の工房と考えればかなり広い。まだなにも置いていないから、余計にそう見えるんだろう。
 ああ、早く素材や器具を持ち込んで、自分好みに改造もようがえしたい!

「魔力式の粉砕機はあっち、攪拌かくはんは……」
「はいはい、嬉しいのはわかったから次に行くよアリシア、棟梁とうりょうさんが困ってるからねー」

 ルークに引きずられて今度は工房左手の扉に向かう。
 扉の先にあるのは貯蔵庫だ。ここには完成品のポーションだけでなく、素材も置く予定である。
 そしてこの貯蔵庫には、とある設備が存在する。

「こ、これが魔力式自動昇降機ですか」
「ええ。魔力を注ぐだけで、簡単に上下数メートルを移動できるってシロモノです」

 貯蔵庫は床の一部の色が違う。そこに乗って棟梁とうりょうが魔力を込めると、色の違う床が真下に動いた。落下しているのではなく、あくまでゆっくりとだ。
 そうしてやってきたのは地下の畑である。
 私はポーション店の出店許可証の発行を申請したとき、例のアーロン工房の工房長から大量の『解毒ポーションⅤ』を作るよう指示された。工房長の根回しによって、素材である「すずらん草」を買い占められた私は、成長促進ポーションを用いてここですずらん草を大量に育てて対処した。とはいえ屋敷の改装中は地下で畑の世話をすることもできないからと、それらは事前にすべて刈り取ってしまったので、今はなにも植えられていない。
 足元の昇降機を見下ろして、棟梁とうりょうが説明を続ける。

「この昇降機はかなり重いものも運べるので、素材なんかを移動させるのには重宝するでしょうね」
「うむ。いちいち大量の素材を持って階段を上がるのは大変じゃからのう……」

 棟梁とうりょうの言葉にランドがしみじみと同意する。
 昇降機によって、この地下畑は一階の貯蔵庫とつながっている。ここで収穫したポーションの材料を、昇降機で上まで運ぶわけだ。手に抱えて移動するよりはるかに効率的である。
 棟梁とうりょうがふとこんなことを言った。

「しかしお客様、よくこんなもん注文できやしたね。昇降機ってのは確かに便利ですが、つけるのには莫大ばくだいな金がかかりやすから」
「あー……その、まあ、出資してくれる方がいましたので」
「ずいぶん目をかけられてるんですなあ」
「……目をかけられているというか、迷惑をかけられた謝罪の証というか」
「?」

 棟梁とうりょうはよくわからないというように目をまたたかせた。
 今回の改築はかなり高くついた。それを可能にしたのは、以前この屋敷で見つけた宝石類を売って得たお金と、アーロン工房からの賠償金だ。アーロン工房は現在、衛兵に捕まった元工房長に代わってその補佐役だったベン氏が長を務めている。ベン氏はかつての上司がしたことを謝罪したのち、償いとして私の開業のために多額の出資を申し出てくれた。
 私はそれを受け、結果として、この昇降機なんかの高額設備が用意できたのである。
 ……なんて事情は言いづらいので、ここは適当ににごしておきましょう。うん。
 さて、地下畑を一周し、昇降機で一階に戻る。
 そのまま一階の厨房や食堂、応接室、二階の生活空間などをチェックしていく。
 問題点は特になし。いい仕事だ。

「では、自分はこれで。またなにかあれば遠慮なく呼んでくだせえ」
「はい。ありがとうございます」

 屋敷を出たところで、棟梁とうりょう挨拶あいさつをして去っていった。

「……で、アリシア。これからどうするんじゃ?」

 ランドの問いかけに私はこう宣言した。

「もちろん開店に向けて準備です!」



   第一章


 さて、開店準備と一口に言っても、やることは山ほどある。
 商品決め、値段設定、調合道具や機材の用意、素材の調達ルートの確保などなど。
 一番初めにすることは商品決めだ。
 狙う客層は、まず冒険者。
 というわけで、手始めにオルグたち「赤の大鷲」に聞いてみることにした。腕利き冒険者である彼らは冒険者の需要をよく知っているはず。

「まあ、魔物除けやヒールポーション、それに解毒ポーションがいいんじゃないか?」

 オルグがそんなことを言う。

「ふむふむ。冒険者ギルドで売っているものと同じですね」
「あー、あとは虫除けがあればいいとはいつも思うな」
「虫除け? 虫型の魔物ではなく?」
「ああ。フォレス大森林には毒を持ってるようなタチの悪い虫が結構いるからな。野営のときなんかは特に気を遣うんだ」
「なるほど……それは盲点でした」

 虫への対策は考えていなかった。この街の冒険者はほとんどがフォレス大森林で活動しているので、同じ悩みを抱えている人も多いだろう。他にもオルグの仲間が「女冒険者は体を清めるポーションが欲しいってよくぼやいてるぞ」と情報をくれた。これも参考になる。
 オルグたちの他に「長耳兎亭ながみみうさぎてい」の女将などにも取材を行い、生活に役立つポーションにいくつか目星をつけておいた。
 せっかく店を開くのだから、冒険者だけでなく街の人に需要があるものを作るのもいいだろう。
 ポーションは薬師ギルドによって大まかな値段が決められているので、値段設定は問題なし。
 機材の調達もそこまで苦労しなかった。前の屋敷の持ち主も調合師だったようで、古い機材がいくつか残っているのだ。これらは修理すれば問題なく使うことができた。
 問題は素材の調達ルートだ。
 さすがに地下畑だけで全種類の素材を用意するのは無理がある。
 冒険者に依頼してもいいけれど、それだと安定した供給は望めない。冒険者が依頼を受けてくれるかどうか読めないことだし。
 ベン氏に尋ねたところ、素材の調達は自家栽培するか、近隣の農家に頼るのが普通らしい。トリッドの街近郊ではポーションの素材を育てる農園が多くある。それらの農園は薬師ギルドによってリスト化されていて、街の工房の主たちは、そのリストから条件に合う取引相手を選ぶのだ。
 私たちもその仕組みのお陰ですぐに取引相手を見つけることができた。
 なんでもトリッドの街のそばで大規模な農園を経営していて、安定して素材を供給できるそうだ。さすがにフヨウの実などの特殊な素材は育てていないものの、いやし草、すずらん草といったポピュラーなものはばっちりそろっていた。
 買えないものは地下畑で育てればいいので、これで素材についても解決した。
 そんなふうに開店の準備が進む中、ある日見知らぬ商人が私の屋敷を訪ねてきた。
 玄関先でにっこりと笑みを浮かべた商人は、こんなことを言った。

「初めまして、アリシア様。聞くところによりますと、近々ポーション店を開くご予定だとか……」
「その通りですが……それがなにか?」
「私、そんなアリシア様にいいものをお持ちしました。ポーションを入れる瓶なのですが、ただのガラス瓶ではありません。ぜひ見ていただければと」
「ポーション瓶、ですか」

 確かにそれも必要なものだ。せっかく来てもらったことだし、ランドと護衛のルークを伴って、商人を応接室に案内する。ソファに腰かけた商人は、さっそくテーブルに美しい小瓶を置いた。

「これは……確かに普通のポーション瓶とは違いますね。とても綺麗です」

 瓶の表面は花弁のような模様にいろどられていて、精緻せいちな細工が施された工芸品のようだ。
 商人は揉み手をしながら満面の笑みを浮かべた。

「これはシェード領で産出される『花水晶』で作られた瓶です。美しいでしょう? これにポーションを入れて売れば、飛ぶように売れること間違いなしでございます!」
「しかし普通の瓶よりも高価ではないのですか? ポーションは消耗しょうもうひんです。値段を上げすぎるようなことはしたくありません」

 私が言うと、商人はにやりと口の端を吊り上げる。

「アリシア様はランクⅤのポーションをお作りになれるとか。高ランクのポーションともなれば、やはり見栄えのよさも必要というもの。低ランクのものと明らかに違う見た目にすることで、効能に説得力が生まれます」
「ふむ」
「それに実力のある冒険者は、使うアイテムにもこだわるものです。だまされたと思って、一度試してみませんか? まとめて買っていただけるのでしたら、半額でお譲りいたしますよ」

 流れるように商品をすすめてくる商人。
 言っていることが正しいのかはわからないけれど、一理あるようにも感じる。半額で売ってもらえるというなら、試しに買ってみるのも悪くないだろうか?

『『――なし(じゃろ)』』

 なんて考えていたら、念話でランドとルークの二人から同時に却下が入った。私は商人に聞こえないよう、念話で尋ね返す。

『なし、ですか? なぜです?』
『この商人、微妙に心が汚れておる。腹黒といえるほどでもないがの。信用ならん』

 これはランドの台詞。
 精霊であるランドの相手が善人か見抜く能力は、本当に便利だ。

『ランドはそういう理由ね。なら、なおさらやめとこう。……というか俺、この瓶について知ってるんだよね。ちょっと任せてもらっていい?』
『は、はい』

 という念話でのやり取りののち、ルークが商人に向かって口を開いた。

「商人さん、これは花水晶の瓶って言ってましたよね?」
「ええ、その通りです。最近は貴族のみな様が香水なんかを入れる際によく注文を――」
「それ、本当に安全ですか?」

 ルークが斬り込むと、一瞬だけ商人が体を揺らした。

「な、なんのことでしょうか?」
「いえね、噂になってるんですよ。近頃王都に暮らす貴族の間で、香水の入れ物として珍しい色の瓶がはやっていて――それを用いた人間が体調を崩してるって」
「それは瓶の中身の問題でしょう」
「貴族の中には、そう思わない人物もいたんですよ。瓶を調べた結果、花水晶には微量ですが人体に害のある物質が含まれているとわかりました」

 ルークの言葉に商人の顔色がだんだん悪くなっていく。

「で、その瓶はおろしていた業者にすべて返品。この国のどこかには、不良品の花水晶の瓶を大量に抱えたかわいそうな商人がいるそうですね」
「……」
「そんなかわいそうな商人は、きっとどうにかして瓶を処分したいと考えているでしょう。処分するといっても、捨ててしまっては大損です。では、誰に売りつけるか? 貴族が少ない土地の、噂にうとい職人相手なら丁度いいですね。シアン領の調合師なんてまさにぴったりです」

 商人の顔色は青を通り越して真っ白になっている。
 額からは脂汗あぶらあせがだらだら落ち、視線は落ち着きなくさまようばかり。

「さて商人さん、ここで問題です。だまして瓶を売りつけようとしたことをあなたの名前付きでここら一帯に広めたら、どうなると思いますか?」
「そ、それは……!」

 考えるまでもない。商人は信頼が命だ。
 健康に害のある商品を売りつけようとしたなんて噂が立ったら、この商人は誰とも取引をしてもらえず破滅するだろう。

「な、なにがお望みですか……」

 商人のか細い問いかけにルークはにっこり笑った。

「花水晶の瓶は結構です。しかし普通のポーション瓶は売ってもらいましょう。割引額によってはさっきの話は黙っておいてもいいですよ」
「…………わかりました……」

 商人は涙目でうなずく。……なんだか商人のほうがかわいそうになってきた。
 なにが気の毒かって、いつの間にか普通のポーション瓶を安く売ることになっているあたりが特に。
 そんなわけで、私たちは通常よりもはるかに安くポーション瓶を仕入れる目途が立ったのだった。
 ……それにしても、ルークはどこで王都の事情なんて知ったんでしょう?
 相変わらず謎の多い人物である。


   ▽


「やっと調合できます……!」
「嬉しそうじゃのう、アリシア」

 工房で笑みを抑えきれずにいる私に、ランドが半ばあきれたように言った。
 今までは屋敷の改築だの、素材の確保だのとややこしいことにずっと対応していた。しかしそれらが終わった今、次の作業は商品作り。
 つまり、ポーションの調合だ。
 ようやく本業に専念できるのだから、嬉しくないわけがない。
 私は工房の機材を使ってどんどん調合を進めていく。
 ヒールポーションや魔物除けは多めに作っておくべきだろう。数はたくさん必要だけれど、高ランクのものを作って薄めれば問題ない。

「屋敷に残っていた機材が再利用できて助かりました」

 魔力式の粉砕機にいやし草を詰め込みながらしみじみつぶやく。
 これを使えば、魔石をセットするだけで、素材となる植物を細切れにすることができる。手作業でざくざく切っていた今までとは、作業効率が段違いだ。

「はー……便利じゃのう、これ」

 どががががが、とプロペラ状の刃を回転させる粉砕機を眺めてランドがつぶやいた。
 ちなみにルークはこの場にいない。
 市場へ食料品、日用品などを買いに出かけているからだ。
 もともと護衛として雇ったのだけれど、それだけでは申し訳ないとこうして雑用を引き受けてくれている。
 今は開店準備で忙しいので、正直ありがたい。
 ペースト状になったいやし草をガラス製の器に入れ、ランドが出してくれた魔力水を注ぐ。あとはスキルを使えば完成だ。

「【調合】!」

 魔力を込めて手をかざすと、ガラス越しの魔力水が光を放つ。光が収まると、そこにはきらきらと宝石のようにかがやく液体が詰まっていた。私は思わずにんまりと口元を緩める。なんの変哲もなかった魔力水がポーションに変化する瞬間は、何度見ても心がおどってしまう。
 さて、次は出来上がったポーションの鑑定だ。


『ヒールポーションⅤ』:回復効果のあるポーション。とても高い効能。


 よしよし、きちんとできている。
 あとは売るぶんを取り分け、残りは薄めてランクⅢにするとしよう。
 薄めたポーションを瓶に詰め、店に並べるヒールポーションを量産していく。

「ただいまー。アリシア、ちょっといい?」
「はい?」

 工房の扉を開けて、ルークが顔をのぞかせた。
 どうやら買い出しから戻ってきたようだ。
 ルークが手招きしているので、調合を中断して工房の外に向かう。

「おかえりなさい、ルーク。なにかあったんですか?」
「アリシアにお客さんだよ。買い出しから戻ってきたら、屋敷の前でうろちょろしてた」
「はあ。お客さんですか」

 ルークに連れられて応接室に行く。
 するとそこには、画家のような帽子を被った一人の少女が待っていた。
 その手にはペンと手帳が握られている。
 私を見るなり、少女はぱっと顔をかがやかせて――


「おーっ、あんたが噂の『緑髪のポーション売り』? はじめまして私はメアリー! 冒険者にして凄腕の情報屋やってます! ……というわけで開店直前の取材をしてもいいですか? いいですね? やったーありがとうございます!」


「……」

 私はまだなにも言ってない。
 なんですかこの人、と私は素で思った。


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