【リメイク版連載開始しました】悪役聖女の教育係に転生しました。このままだと十年後に死ぬようです……

ヒツキノドカ

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両親とお話

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「よくわかった。戦争を起こそう」

「落ち着いてくださいお父様」

「仕方ありませんね。すぐに準備に取り掛かりましょう」

「お母さままで……!? 本当に落ち着いて下さい! 一度話し合いましょう!」

 ホーリッツ魔道具店に依頼をして数日後、両親が国外での仕事から戻ってきた。

 婚約破棄についての事情は、手紙ですでに伝えてある。その結果、屋敷に戻るなり静かに怒りに燃える二人が出来上がってしまっていた。お父様もお母さまも理性的な人なので、口汚くフェリックスやカリナを罵ることはしないものの、かなりの迫力である。

 ちなみにアイリスは私の部屋に残してきている。本人はそんなことを言わないだろうけど、大人の話し合いは退屈だろうし、あんまりあのパーティーの日のことを思い出させたくないからだ。

 お父様は私の言葉に、どうにか落ち着こうとするように溜め息を吐いた。

「……すまない。取り乱しているな。だが、どうしてそんなことになるんだい? フェリックス殿下は我が家を敵に回すことを何とも思っていないのか? ……それは楽観が過ぎると思うが」

 ノクトール侯爵家は辺境に広大な領土を持つ大貴族だ。尊い血が流れているわけではないものの、辺境のいち男爵から代々手柄を立て続けて出世してきた家柄である。傘下の貴族からの信頼も厚く、ノクトール家が旗を振れば数十の貴族が集まってくる。
 地元の名士のようなイメージだろうか。
 そんなノクトール家を敵に回すフェリックスの行動は、お父様からしても理解できないようだ。

 お母様は、私をおもむろにギュッと抱きしめてきた。

「え? お、お母様!?」

「ごめんなさい、ミリーリア。あなたがつらい時にそばにいてあげられなくて。つらかったでしょう」

「そ、そんなことは……アイリスが一緒でしたし、フォード様も庇ってくださいましたし」

「そのことは手紙に書かれていたので知っています。しかし、誰かが庇ってくれたから傷が癒えるわけではありません」

「お母様……」

 不覚にも、うるっと来てしまった。お母様、普段は厳しい人だけど、本当は優しい人なのよね。
 お母様に抱きしめられることで、少しだけ心が楽になっていくのを感じた。
 もともとあまり傷ついていたわけではなかったけれど、それでも大勢の前でさらし者にされて何も感じないわけではない。少しだけ残っていた心のモヤが、完全に消え去っていく。

「ありがとうございます、お母様。もう大丈夫です」

「そうですか。でも、つらくなったらいつでも言ってください。あなたは昔から抱え込む性格ですからね」

「今はそんなことはありませんよ。本当に平気です」

 私が言うとお母様は抱擁を解いた。心配をかけてしまって申し訳ないやら、ありがたいやら……

「それで、ミリーリアはこれからどうしたい?」

 お父様が真剣な表情で聞いてくる。

「どうしたい、とは?」

「フェリックス殿下の意向がどうあれ、婚約破棄は両者の合意がなければできない。ミリーリアが拒否すれば婚約は保ち続けることは不可能ではない」

「……」

「また、私としてはこのまま娘を傷つけられてただ引き下がるのは不本意だ。陛下に話をして、フェリックス殿下の行動を咎めることも考えている。……ただ、何をするにしても、まずは君の意見が最優先だ。ミリーリア、君はどうしたい?」

 私は少し考えて、こう答えた。

「婚約破棄には、同意いたしますわ」

「本当にいいのかい? 君にとっては、幼い頃からフェリックス殿下の妻になるのは心に決めていたことだと思っていたが」

「あそこまでされて、今更フェリックス殿下の元に嫁ごうなどと思いません」

 フェリックスはカリナに熱を上げているみたいだし、ぜひとも二人で幸せになってくれればいい。私の関係のないところでお好きにどうぞ、という感じだ。

 私としては、フェリックスには何の魅力も感じていない。当たり前だ、公衆の面前で婚約者に対して心無い言葉を投げかけるような人格であり、しかもそれは他人に言われた事実無根のことだとも気付かない。あんな男が夫になったら……考えただけでぞっとする。

 ミリーリアは責任感だけでフェリックスと結婚しようとしていたようだけど、私はそんな気はさらさらない。婚約破棄は望むところだ。

「フェリックス殿下は私を気遣ってくれた、と考えようと思います」

「な、何だって?」

 目を瞬かせるお父様に私は続ける。

「フェリックス殿下はお優しい方で、聖女でなくなった私に、さらなる重荷を背負わせることをよしとしませんでした。王太子妃は重大な立ち位置です。だからこそ、フェリックス殿下は私の心のために、あえてあのような形で婚約破棄を行ったのです。――ということにしましょう、お父様」

「……つまり、ノクトール家として王家と対立をするなと言いたいのかな?」

「正直に言うと、そうなります」

「私としては、大切な一人娘の人生をメチャクチャにされた事態だ。黙って引き下がるのは難しい」

「それでも、飲み込んでください。……王家と対立し、内乱が起これば、多くの民が犠牲になります。私はそのようなことは望んでいません」

 これは本音だ。婚約破棄に対しては特に思うところはない。その程度のことで、大勢の命が失われかねない内乱の種を撒くなんて冗談じゃない。
 今の私には平和にアイリスと過ごせる時間が一番重要なのだから。

「……ッ、わかった。ミリーリアがそう望むのであれば」

 何かをこらえるように目を固く閉じたお父様は、数秒後には、穏やかな口調でそう言った。私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、こればかりは私のワガママを聞いてもらいたい。

「ただ、フェリックス殿下とカリナ様をこのまま放置すれば、さらなる問題が生まれかねない。カリナ様が行ったミリーリアへの誹謗中傷については、正式な文書で抗議をさせてもらうよ」

 カリナが素直に自分の嘘を認めるなんて思わないけど、こういうのはきちんと言っておくのは案外大切なことだ。そうしないと向こうはどこまでもつけあがるから。

「わかりました。よろしくお願いします。あくまで牽制の範囲で」

「ああ。お二人への本格的な忠言は、国王夫妻にお任せしよう」

 お父様のその言葉で、パーティーの一件については締めくくられた。

 両親からは一度私は侯爵領に戻らないかと言われたけれど、フォードに聞かれた時と同じくそれは私が拒否した。王都でカリナの動向を見張るのは、重要なことである気がしたからだ。

 また、アイリスがうちに滞在することについてはあっさりOKが出た。
 両親公認となったので、これで心置きなくアイリスと一緒に過ごせるわ! 心配ごとはあるけど、これだけは私にとっていいことね。うん。




 そんな話し合いがあった翌日――

「お久しぶりです、ミリーリア・ノクトール様。数年ぶりですね。聖女の力を失ってしまったと聞いていますが、お加減はいかがですか? 心配です――かつて同じ聖女として活動していた身としては」

 うわなんか来た。

 白い髪、紫色の大きな瞳が特徴的な少女。

 “浄化”の聖女、フローラ・パールバイトが何の前触れもなくうちの屋敷を訪ねてきた。
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