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パーティー5
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「……は?」
ぽかんとするカリナの横で、フェリックス殿下が叫ぶ。
「おい、フォード! 君はカリナに向かってなんてことを言うんだ!?」
「フェリックス殿下。どうかお静かに。ここはかつて貴方に剣を教えたような、誰もいない庭とは違うのですから」
「――っ」
「懐かしいことですね。殿下は私に向かって、何度も木剣を打ち込まれた。『一歩でも私を動かす』という宣言はいまだに有効なのでしょうか? 再挑戦をいつでもお待ちしていますよ」
「そ、その話は今は関係ないだろう……!」
「失礼しました。恐れながらも殿下に剣をお教えした身としては、つい当時の殿下の姿が懐かしくなってしまいまして。殿下は泣きながらも勇敢に私に挑みかかってこられました」
「も、もういい! やめろっ!」
フェリックス殿下が冷や汗を流して喚く。
……この二人、もしかして剣術の師弟関係にあったとか? このやり取りを見る限り、フェリックス殿下はフォード様に相当な苦手意識を持っているような気がする。顔を真っ赤にしたフェリックス殿下が黙り込んだ後、フォードはカリナに向き直る。
「ミリーリア様に対する糾弾についてですが、いくつか気になることがありますね」
「な、何ですか?」
「まず、貴女が受けた学院時代のミリーリア様による虐めについて。その証人となった人物について、騎士団のほうにいくつか報告が寄せられていましてね」
「……?」
「フルディール家と、ケルタ家。この二つの家はどちらも多額の借金を抱えていました。その支払いに充てるため、領地の税金を上げたところ、領民が反発して治安が悪くなっていたようです。しかし、この二つの領地は最近になって平穏が戻ったようですね。何でも、どちらの家でも借金がなくなって税を上げる必要がなくなったのが原因だと」
「……な、何が言いたいのですか?」
「報告はもう一つあります。――フルディール家とケルタ家の人間が、カリナ様の屋敷に最近よく出入りしていたと」
「……っ」
「カリナ様の家、つまりブライン家は元は商家として途轍もない富を築いた家柄。借金の肩代わりくらい容易なことでしょう。その代わりとして、両家に協力を取り付けた。そんな可能性も考えられます」
あくまでフォードは断定せず、淡々とカリナを詰めていく。
それにしても……なぜそんなことまで知っているのか。
「……」
「そ、それは……」
私が学生時代にカリナを虐めていた。そんなデタラメの証人となった二人の参加者が明らかに動揺している。
まさか、本当にカリナの家に買収されて私に難癖をつける手伝いを? だとしたら、さすがにやり過ぎだ。私はともかく、この件を知ったお父様が間違いなく潰しにかかるだろう。
「仮にお二人の家と我が家につながりがあったところで、それが今日のことと関係しているとは限りません。フォード様の発言は言いがかりですわ。撤回を」
カリナは毅然とそんなことを言い返すものの、よく見ると視線が泳いでいる。
そんなカリナを見て、フォード様は失笑した。
「証拠がない? それは貴女のほうでしょう。たかが証人二人で侯爵家の令嬢を……それも元聖女であるミリーリア様をなじっておいて、どうしてそこまで強気でいられるのか。理解しかねます」
「……っ!」
「言いたいことは他にもあります。――そこの聖女候補」
「は、はひっ」
びくりと体を震わせるニナに、フォードは続ける。
「アイリスがミリーリアに、虐待に近い扱いを受けていた。君はそう証言したそうだな?」
「そ、そうです! 間違いありません! 私はアイリス自身からそれを聞いたのです!」
「では、アイリスは君に助けを求めたのか?」
「そ、それは……そうでは、ありませんが……」
ちらりとフォードがアイリスに視線を向ける。アイリスはぶんぶんと首を縦に振った。……まあ、確かにあの時のアイリスは厳しい訓練を求めていたのはその通りだ。
フォードは周囲に言い聞かせるよう、よく響く声で言う。
「聖女候補アイリスは、私の部隊が山村で魔物に追われているところを救いました。その際、彼女は両親を魔物に殺されています。その心の傷がアイリスを教会へと導きました。彼女が魔物を倒す力を得るため、ミリーリア様に厳しい訓練を請うことは、当然の流れでしょう」
「だからって、五歳の子供に酷いことをしていいなんて、おかしいじゃないですか!」
食って掛かるニナに、フォードは肩をすくめる。
「……そのことについては、ミリーリアが私情を持ち込んだと私に懺悔をしていた。彼女は非を認め、アイリスに謝罪をした。そしてアイリスはそれを受け入れた。すでに終わった話だ」
「謝ったら許されるんですか!?」
「ミリーリアはアイリスに対する行動によって、謝罪が本心からのものだと証明した。俺の知る限り、ミリーリアとアイリスの現在の関係はきわめて良好だ。外野が口を出すことではない」
「う……」
「最後にもう一つ伝えておく。聖女候補ニナ、お前が他の聖女候補二人とともにアイリスを虐めていたことは知っている。そのせいで、更生のために僻地の教会に派遣されていたこともな。この場でお前の発言に信頼を置くつもりはない」
「う、ううっ」
言葉をなくし、困ったようにカリナを振り向くニナ。そのカリナも、何を言うべきか迷っているように見える。いつの間にか、場の空気はフォードに支配されていた。
……ところで、本当にフォードはどうしてここまで色々な情報を知っているんだろう。騎士たちの使命はあくまで魔物の討伐なので、こういった街の中の話に詳しい理由はないような気がするんだけど。
「ふぉ、フォード! 凄むのをやめたまえ。カリナが怖がっている」
「どうかお静かに、殿下。今はカリナ様や、そこの聖女候補と話しているのです」
「……」
「フェリックス様……!?」
あっさり黙り込むフェリックス殿下にカリナが唖然としている。何という明確な上下関係だろう。
「――最後に、カリナ様」
「っ」
「先ほどミリーリア様を国外追放処分にする、などと仰っていましたね」
「と……当然です。フォード様は疑っているようですが、ミリーリア様は危険で執念深いお方です。ミリーリア様の婚約者であったフェリックス様と新たに婚約を結び、聖女の座まで手に入れた私に、何らかの復讐を企ててもおかしくありません」
……よくもまあ、本人がいる場でそんな暴言を吐けるものね。しかも根拠が全部嘘だというのに。
ああ、嘘だからこそ私を国から追い出したい、ということか。
「それがもっとも愚かな言葉だ、カリナ様。……貴女が聖女としての力の証明をするため王城を空けた期間に、周辺の森で凶悪な魔物が発生しました。森蜘蛛の突然変異種です。その魔物の毒に侵された私の部下は、数日で命を落とすと宣告されました。それを救ったのが、偶然居合わせたミリーリア様だったのです」
「……!? どういうこと? ミリーリア様にはもう聖女の力はないはずでは!?」
「ミリーリア様はわずかに残った力を使い、見事な“浄化”の力で騎士を治しました」
「そんな……おかしいわ。だって、ミリーリアの力はあの時完全に……」
ぶつぶつと何事かを呟くカリナ。おかしい、というのは一体何についての言葉だろうか。まさか、私の力の大半が失われたことにカリナが関係している……なんてことはない、わよね。さすがに。
……ないわよね?
「また、森蜘蛛の突然変異種は森で大量に繁殖していました。下手をすれば周辺の村がいくつか壊滅してもおかしくない状況だったのです。あの状況で騎士がさらに減らされていた場合のことは、考えたくありませんね」
あれ、その話は初耳だ。
「……そんなことになっていたんですか、フォード様」
「終わった話だ。報告するまでもないだろう。討伐時点では医者によって解毒薬も完成していたからな」
「なるほど」
「それに、お前を呼べば無理をしてでも“浄化”を使いかねないと判断した」
それはしない……とは、言い切れないけども。
どうやらフォードなりに気を遣ってくれた結果のようだ。
フォードは視線を前に戻す。
「カリナ様は、ミリーリア様を他国に渡すことがどれほどおそろしいことか理解していないようですね。何より、貴女が不在の間、聖女の代理として王都を守ったのは彼女です。それに対して礼を言うならともかく、くだらない疑いをかけるとは信じがたい」
「ぐっ……」
「聖女の貴女に告げるのも心苦しいですが、あえて言いましょう。――恥を知れ、カリナ・ブライン。危険で執念深いのは貴女のほうではないのか」
はっきりとそう告げられ、口をパクパク開閉させることしかできなくなったカリナ。
彼女は顔を真っ赤にしながら、フォード、私、アイリスを順番に睨みつけた。
「ど、どうやらフォード様もすでにミリーリア様に絆されているようですね。今日までフェリックス様の婚約者であったにもかかわらず、いつの間にそのような関係になったのでしょうか! ……この場は引いて差し上げます。今日の報いはいずれ必ず受けてもらいますよ!」
そう言い捨て、カリナは「体調が優れないので部屋に戻ります!」と足早に出て行った慌てたようにニナもその後を追う。
ええええええええ!? 自分が主役のパーティーで出ていくの!?
とんでもない空気になるわよこの後……
「か、カリナ!? う、うう、僕は……ああ」
取り残されたフェリックス様は、招待客がいることもあって、追うこともできない。なまじカリナが大量の客を集めたせいで、フェリックス様が受けるプレッシャーは凄まじいことになっているだろう。場の空気は最悪の一言だ。
「殿下。ミリーリア様も気分が優れないようです。私が馬車までお送りしますので、これで」
「……っ、フォード、君はミリーリアの味方をするというのか!?」
「ええ」
「なっ」
「私はミリーリア様の心の美しさをすでに知っています。――よって、今後ミリーリア様に手出しをする際は、レオニス公爵家当主たる私が立ちはだかることをご理解ください。賢明な殿下なら、この言葉の意味もわかるでしょう」
「――」
絶句するフェリックス殿下。
フォードが言ったのはこういうことだ。
――次にミリーリア・ノクトールに手を出したら、公爵家と王家の間で内乱が起こるぞ。
……とんでもない脅しだ。それが実現すれば、間違いなく国が崩壊するほどの。
「失礼します。――行くぞ、ミリーリア。アイリス」
「は、はい」
「ふぉーどさま、ありがとうございます」
フォードに手を引かれ、そのまま会場を後にする私たち。取り残されるフェリックス様が、私が言うのもなんだけど、どうしようもなく哀れだった。
ぽかんとするカリナの横で、フェリックス殿下が叫ぶ。
「おい、フォード! 君はカリナに向かってなんてことを言うんだ!?」
「フェリックス殿下。どうかお静かに。ここはかつて貴方に剣を教えたような、誰もいない庭とは違うのですから」
「――っ」
「懐かしいことですね。殿下は私に向かって、何度も木剣を打ち込まれた。『一歩でも私を動かす』という宣言はいまだに有効なのでしょうか? 再挑戦をいつでもお待ちしていますよ」
「そ、その話は今は関係ないだろう……!」
「失礼しました。恐れながらも殿下に剣をお教えした身としては、つい当時の殿下の姿が懐かしくなってしまいまして。殿下は泣きながらも勇敢に私に挑みかかってこられました」
「も、もういい! やめろっ!」
フェリックス殿下が冷や汗を流して喚く。
……この二人、もしかして剣術の師弟関係にあったとか? このやり取りを見る限り、フェリックス殿下はフォード様に相当な苦手意識を持っているような気がする。顔を真っ赤にしたフェリックス殿下が黙り込んだ後、フォードはカリナに向き直る。
「ミリーリア様に対する糾弾についてですが、いくつか気になることがありますね」
「な、何ですか?」
「まず、貴女が受けた学院時代のミリーリア様による虐めについて。その証人となった人物について、騎士団のほうにいくつか報告が寄せられていましてね」
「……?」
「フルディール家と、ケルタ家。この二つの家はどちらも多額の借金を抱えていました。その支払いに充てるため、領地の税金を上げたところ、領民が反発して治安が悪くなっていたようです。しかし、この二つの領地は最近になって平穏が戻ったようですね。何でも、どちらの家でも借金がなくなって税を上げる必要がなくなったのが原因だと」
「……な、何が言いたいのですか?」
「報告はもう一つあります。――フルディール家とケルタ家の人間が、カリナ様の屋敷に最近よく出入りしていたと」
「……っ」
「カリナ様の家、つまりブライン家は元は商家として途轍もない富を築いた家柄。借金の肩代わりくらい容易なことでしょう。その代わりとして、両家に協力を取り付けた。そんな可能性も考えられます」
あくまでフォードは断定せず、淡々とカリナを詰めていく。
それにしても……なぜそんなことまで知っているのか。
「……」
「そ、それは……」
私が学生時代にカリナを虐めていた。そんなデタラメの証人となった二人の参加者が明らかに動揺している。
まさか、本当にカリナの家に買収されて私に難癖をつける手伝いを? だとしたら、さすがにやり過ぎだ。私はともかく、この件を知ったお父様が間違いなく潰しにかかるだろう。
「仮にお二人の家と我が家につながりがあったところで、それが今日のことと関係しているとは限りません。フォード様の発言は言いがかりですわ。撤回を」
カリナは毅然とそんなことを言い返すものの、よく見ると視線が泳いでいる。
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「証拠がない? それは貴女のほうでしょう。たかが証人二人で侯爵家の令嬢を……それも元聖女であるミリーリア様をなじっておいて、どうしてそこまで強気でいられるのか。理解しかねます」
「……っ!」
「言いたいことは他にもあります。――そこの聖女候補」
「は、はひっ」
びくりと体を震わせるニナに、フォードは続ける。
「アイリスがミリーリアに、虐待に近い扱いを受けていた。君はそう証言したそうだな?」
「そ、そうです! 間違いありません! 私はアイリス自身からそれを聞いたのです!」
「では、アイリスは君に助けを求めたのか?」
「そ、それは……そうでは、ありませんが……」
ちらりとフォードがアイリスに視線を向ける。アイリスはぶんぶんと首を縦に振った。……まあ、確かにあの時のアイリスは厳しい訓練を求めていたのはその通りだ。
フォードは周囲に言い聞かせるよう、よく響く声で言う。
「聖女候補アイリスは、私の部隊が山村で魔物に追われているところを救いました。その際、彼女は両親を魔物に殺されています。その心の傷がアイリスを教会へと導きました。彼女が魔物を倒す力を得るため、ミリーリア様に厳しい訓練を請うことは、当然の流れでしょう」
「だからって、五歳の子供に酷いことをしていいなんて、おかしいじゃないですか!」
食って掛かるニナに、フォードは肩をすくめる。
「……そのことについては、ミリーリアが私情を持ち込んだと私に懺悔をしていた。彼女は非を認め、アイリスに謝罪をした。そしてアイリスはそれを受け入れた。すでに終わった話だ」
「謝ったら許されるんですか!?」
「ミリーリアはアイリスに対する行動によって、謝罪が本心からのものだと証明した。俺の知る限り、ミリーリアとアイリスの現在の関係はきわめて良好だ。外野が口を出すことではない」
「う……」
「最後にもう一つ伝えておく。聖女候補ニナ、お前が他の聖女候補二人とともにアイリスを虐めていたことは知っている。そのせいで、更生のために僻地の教会に派遣されていたこともな。この場でお前の発言に信頼を置くつもりはない」
「う、ううっ」
言葉をなくし、困ったようにカリナを振り向くニナ。そのカリナも、何を言うべきか迷っているように見える。いつの間にか、場の空気はフォードに支配されていた。
……ところで、本当にフォードはどうしてここまで色々な情報を知っているんだろう。騎士たちの使命はあくまで魔物の討伐なので、こういった街の中の話に詳しい理由はないような気がするんだけど。
「ふぉ、フォード! 凄むのをやめたまえ。カリナが怖がっている」
「どうかお静かに、殿下。今はカリナ様や、そこの聖女候補と話しているのです」
「……」
「フェリックス様……!?」
あっさり黙り込むフェリックス殿下にカリナが唖然としている。何という明確な上下関係だろう。
「――最後に、カリナ様」
「っ」
「先ほどミリーリア様を国外追放処分にする、などと仰っていましたね」
「と……当然です。フォード様は疑っているようですが、ミリーリア様は危険で執念深いお方です。ミリーリア様の婚約者であったフェリックス様と新たに婚約を結び、聖女の座まで手に入れた私に、何らかの復讐を企ててもおかしくありません」
……よくもまあ、本人がいる場でそんな暴言を吐けるものね。しかも根拠が全部嘘だというのに。
ああ、嘘だからこそ私を国から追い出したい、ということか。
「それがもっとも愚かな言葉だ、カリナ様。……貴女が聖女としての力の証明をするため王城を空けた期間に、周辺の森で凶悪な魔物が発生しました。森蜘蛛の突然変異種です。その魔物の毒に侵された私の部下は、数日で命を落とすと宣告されました。それを救ったのが、偶然居合わせたミリーリア様だったのです」
「……!? どういうこと? ミリーリア様にはもう聖女の力はないはずでは!?」
「ミリーリア様はわずかに残った力を使い、見事な“浄化”の力で騎士を治しました」
「そんな……おかしいわ。だって、ミリーリアの力はあの時完全に……」
ぶつぶつと何事かを呟くカリナ。おかしい、というのは一体何についての言葉だろうか。まさか、私の力の大半が失われたことにカリナが関係している……なんてことはない、わよね。さすがに。
……ないわよね?
「また、森蜘蛛の突然変異種は森で大量に繁殖していました。下手をすれば周辺の村がいくつか壊滅してもおかしくない状況だったのです。あの状況で騎士がさらに減らされていた場合のことは、考えたくありませんね」
あれ、その話は初耳だ。
「……そんなことになっていたんですか、フォード様」
「終わった話だ。報告するまでもないだろう。討伐時点では医者によって解毒薬も完成していたからな」
「なるほど」
「それに、お前を呼べば無理をしてでも“浄化”を使いかねないと判断した」
それはしない……とは、言い切れないけども。
どうやらフォードなりに気を遣ってくれた結果のようだ。
フォードは視線を前に戻す。
「カリナ様は、ミリーリア様を他国に渡すことがどれほどおそろしいことか理解していないようですね。何より、貴女が不在の間、聖女の代理として王都を守ったのは彼女です。それに対して礼を言うならともかく、くだらない疑いをかけるとは信じがたい」
「ぐっ……」
「聖女の貴女に告げるのも心苦しいですが、あえて言いましょう。――恥を知れ、カリナ・ブライン。危険で執念深いのは貴女のほうではないのか」
はっきりとそう告げられ、口をパクパク開閉させることしかできなくなったカリナ。
彼女は顔を真っ赤にしながら、フォード、私、アイリスを順番に睨みつけた。
「ど、どうやらフォード様もすでにミリーリア様に絆されているようですね。今日までフェリックス様の婚約者であったにもかかわらず、いつの間にそのような関係になったのでしょうか! ……この場は引いて差し上げます。今日の報いはいずれ必ず受けてもらいますよ!」
そう言い捨て、カリナは「体調が優れないので部屋に戻ります!」と足早に出て行った慌てたようにニナもその後を追う。
ええええええええ!? 自分が主役のパーティーで出ていくの!?
とんでもない空気になるわよこの後……
「か、カリナ!? う、うう、僕は……ああ」
取り残されたフェリックス様は、招待客がいることもあって、追うこともできない。なまじカリナが大量の客を集めたせいで、フェリックス様が受けるプレッシャーは凄まじいことになっているだろう。場の空気は最悪の一言だ。
「殿下。ミリーリア様も気分が優れないようです。私が馬車までお送りしますので、これで」
「……っ、フォード、君はミリーリアの味方をするというのか!?」
「ええ」
「なっ」
「私はミリーリア様の心の美しさをすでに知っています。――よって、今後ミリーリア様に手出しをする際は、レオニス公爵家当主たる私が立ちはだかることをご理解ください。賢明な殿下なら、この言葉の意味もわかるでしょう」
「――」
絶句するフェリックス殿下。
フォードが言ったのはこういうことだ。
――次にミリーリア・ノクトールに手を出したら、公爵家と王家の間で内乱が起こるぞ。
……とんでもない脅しだ。それが実現すれば、間違いなく国が崩壊するほどの。
「失礼します。――行くぞ、ミリーリア。アイリス」
「は、はい」
「ふぉーどさま、ありがとうございます」
フォードに手を引かれ、そのまま会場を後にする私たち。取り残されるフェリックス様が、私が言うのもなんだけど、どうしようもなく哀れだった。
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