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パーティー
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「可愛いぃいいいいいいいいいいい――――!!」
「あ、ありがとうございます、せんせい」
カリナの聖女就任パーティー当日、うちの屋敷でメイドたちによってドレスアップされたアイリスを前に私は興奮を抑えきれなかった。
アイリスが着ているのは、以前“フェルネ服飾店”で購入したピンクのドレス。普段の大人しそうなアイリスに明るいキュートさが加わり、見ているだけで癒されるほど可愛い。この子、どこのアイドル? 何ならこのまま日曜朝の魔法少女アニメに出演できるような、非現実的な愛らしさすらある。
さすがはファンタジーネット小説の世界と言うべきか。
……いえ、アイリスに可愛らしさにそんな考えを持ち込むのは野暮ね。
天使が私の目の前にいる。重要なのはそれだけよ!
「うーん……欲を言えばもう少しアクセサリーにもこだわりたかったけど……いいものが見つからなかったから仕方ないわね」
この世界のアクセサリーは大人向けのものが多く、小さなサイズ感のものが少なめだった。せっかくならティアラとかがあるとさらに魅力的になっただろうに。
「わたし、にあってますか?」
「ええ! ばっちりよ!」
「……えへへ、うれしいです」
照れたようにはにかむアイリスがひたすら可愛い。もうパーティーに連れて行くのやめようかしら? 何か人に見せるのがもったいなく思えてきた。
「せんせいも、とてもすてきです」
「ありがとう。ふふ、アイリスとおそろいよ」
私が着ているのも、フェルネ服飾店で買ったアイリスに近いデザインのドレスだ。色は赤。今の私の外見って、美人ではあるけど目つきが鋭いのよね……この手の派手な色しか似合わないのは、いいことなのか悪いことなのか。
「わたし、せんせいとおそろいで、おでかけできて、うれしいです」
「――私もよ!!!!」
「せんせい、くるしいです」
いじらしいアイリスの発言に思わず抱きつく私。くっ……このままずっとアイリスといちゃいちゃしてたい……!
ちなみにこの後、騒いでいるのがバレて執事長にやんわりとたしなめられた。今はお母様とお父様が仕事で不在だから、執事長がお目付け役のようになっているのよね。お母様が戻ってきたあとに伝えますよ、と言われては仕方ない……!
反省はしているけど、アイリスの可愛さを前に理性が今後保てるのかはまったく自信がないのは内緒だ。
▽
馬車に揺られて王城の巨大な門をくぐる。
前庭に馬車を止めると、そこには大量の高級馬車が並んでいた。すごい数ね……カリナは客人を大量に呼ぶと言っていたから、そのせいかしらね?
まあ、そのおかげでアイリスを連れてこられたんだから私には文句はない。
本来社交界デビューもまだな五歳の女の子を王城のパーティーに連れてくるなんて、そうそうできないし。
「……」
馬車から降り、ホールに向かう途中アイリスはガチガチだった。
緊張しているようだ。
「大丈夫よ、アイリス。緊張しなくていいわ」
「は、はいっ」
「本当に?」
「はい、きんちょう、してません」
「両手と両足が同時に出てるわよ」
強がるアイリスも可愛いからいいけど。
ちなみにアイリスの礼儀作法についてだけど、特に心配していない。教会でマナーを教わっているし、カリナに招待をされてからお母様もアイリスにいろいろ教えてくれた。
万が一何か失敗してしまったら、それはもう大人しく諦めよう。
五歳の女の子なんだから完璧には無理よ。そういう時は私がフォローすればいい。
「せっかくの機会なんだから、楽しみましょう。大丈夫、アイリスがミスをしても私が何とかしてあげるわよ」
「せんせい……! はいっ、わかりました!」
にっこりと笑顔を見せてくれるアイリス。ちょっとは緊張が解けたかしら。
そんなやり取りをしている間にパーティーホールに到着。
きらびやかなシャンデリアがいくつも連なる天井。足が沈み込みそうになるほどふかふかの赤い絨毯。神話の一ページを模した彫刻が刻まれるいくつもの柱。
そんな豪奢なホールでは、すでに大量の客人が歓談を楽しんでいた。
「こんばんは、ミリーリア様。いい夜ですな」
「ごきげんよう、ラモンド卿。お会いするのは――確か、私が聖女のお勤めで領地を訪れた時以来でしょうか」
「ええ、そうなります。あの時は大変お世話になりました……」
参加している貴族たちからの挨拶タイム。ラモンド卿はひととおりの挨拶を終えた後、私の体の陰に隠れるようにしているアイリスに視線を移した。
「ミリーリア様、こちらの少女は……?」
「この子はアイリス。小さいですが、れっきとした聖女候補なんですよ。私は今、この子の教育係をしているんです」
「ほう! こんなに幼いのに立派な……! 初めまして、アイリス殿。私の名はレイス・ラモンド。どうかよろしくお願いいたします」
挨拶を受けたアイリスは驚いた顔をした後、慌てて私の陰から出てくる。それからドレスの裾をつまんで片足を引き、ゆっくりと頭を下げた。
「――おはつにおめにかかります。わたしはあいりす、せいじょこうほをつとめております」
するとラモンド卿は驚いたような顔をする。
「その年でずいぶん立派な……さすがはミリーリア様に教えられているだけはある」
「ふふ、本当に自慢の教え子ですのよ。可愛くて可愛くて、甘やかしすぎないようにするのが大変です」
まあ実際のところはあんまり可愛がりを抑えられてないんだけど。
っていうかアイリス、挨拶完璧じゃない! 絶対この子隙間時間とかにこっそり練習してたわね。
「ははあ……ミリーリア様は聖女の力の大半を失われたと聞きましたが、随分変わられたご様子ですな。いや、いい意味です」
「そ、そうですか?」
「ご両親もお喜びでしょう。では、私はこれで」
そう言ってラモンド卿は去っていった。
中身が変わっているんだから言われたことはその通りだけど……なぜこんなに短時間で見抜かれるのか。一応私、ミリーリアの記憶にのっとって喋ってるんだけどなあ。
「あ、ありがとうございます、せんせい」
カリナの聖女就任パーティー当日、うちの屋敷でメイドたちによってドレスアップされたアイリスを前に私は興奮を抑えきれなかった。
アイリスが着ているのは、以前“フェルネ服飾店”で購入したピンクのドレス。普段の大人しそうなアイリスに明るいキュートさが加わり、見ているだけで癒されるほど可愛い。この子、どこのアイドル? 何ならこのまま日曜朝の魔法少女アニメに出演できるような、非現実的な愛らしさすらある。
さすがはファンタジーネット小説の世界と言うべきか。
……いえ、アイリスに可愛らしさにそんな考えを持ち込むのは野暮ね。
天使が私の目の前にいる。重要なのはそれだけよ!
「うーん……欲を言えばもう少しアクセサリーにもこだわりたかったけど……いいものが見つからなかったから仕方ないわね」
この世界のアクセサリーは大人向けのものが多く、小さなサイズ感のものが少なめだった。せっかくならティアラとかがあるとさらに魅力的になっただろうに。
「わたし、にあってますか?」
「ええ! ばっちりよ!」
「……えへへ、うれしいです」
照れたようにはにかむアイリスがひたすら可愛い。もうパーティーに連れて行くのやめようかしら? 何か人に見せるのがもったいなく思えてきた。
「せんせいも、とてもすてきです」
「ありがとう。ふふ、アイリスとおそろいよ」
私が着ているのも、フェルネ服飾店で買ったアイリスに近いデザインのドレスだ。色は赤。今の私の外見って、美人ではあるけど目つきが鋭いのよね……この手の派手な色しか似合わないのは、いいことなのか悪いことなのか。
「わたし、せんせいとおそろいで、おでかけできて、うれしいです」
「――私もよ!!!!」
「せんせい、くるしいです」
いじらしいアイリスの発言に思わず抱きつく私。くっ……このままずっとアイリスといちゃいちゃしてたい……!
ちなみにこの後、騒いでいるのがバレて執事長にやんわりとたしなめられた。今はお母様とお父様が仕事で不在だから、執事長がお目付け役のようになっているのよね。お母様が戻ってきたあとに伝えますよ、と言われては仕方ない……!
反省はしているけど、アイリスの可愛さを前に理性が今後保てるのかはまったく自信がないのは内緒だ。
▽
馬車に揺られて王城の巨大な門をくぐる。
前庭に馬車を止めると、そこには大量の高級馬車が並んでいた。すごい数ね……カリナは客人を大量に呼ぶと言っていたから、そのせいかしらね?
まあ、そのおかげでアイリスを連れてこられたんだから私には文句はない。
本来社交界デビューもまだな五歳の女の子を王城のパーティーに連れてくるなんて、そうそうできないし。
「……」
馬車から降り、ホールに向かう途中アイリスはガチガチだった。
緊張しているようだ。
「大丈夫よ、アイリス。緊張しなくていいわ」
「は、はいっ」
「本当に?」
「はい、きんちょう、してません」
「両手と両足が同時に出てるわよ」
強がるアイリスも可愛いからいいけど。
ちなみにアイリスの礼儀作法についてだけど、特に心配していない。教会でマナーを教わっているし、カリナに招待をされてからお母様もアイリスにいろいろ教えてくれた。
万が一何か失敗してしまったら、それはもう大人しく諦めよう。
五歳の女の子なんだから完璧には無理よ。そういう時は私がフォローすればいい。
「せっかくの機会なんだから、楽しみましょう。大丈夫、アイリスがミスをしても私が何とかしてあげるわよ」
「せんせい……! はいっ、わかりました!」
にっこりと笑顔を見せてくれるアイリス。ちょっとは緊張が解けたかしら。
そんなやり取りをしている間にパーティーホールに到着。
きらびやかなシャンデリアがいくつも連なる天井。足が沈み込みそうになるほどふかふかの赤い絨毯。神話の一ページを模した彫刻が刻まれるいくつもの柱。
そんな豪奢なホールでは、すでに大量の客人が歓談を楽しんでいた。
「こんばんは、ミリーリア様。いい夜ですな」
「ごきげんよう、ラモンド卿。お会いするのは――確か、私が聖女のお勤めで領地を訪れた時以来でしょうか」
「ええ、そうなります。あの時は大変お世話になりました……」
参加している貴族たちからの挨拶タイム。ラモンド卿はひととおりの挨拶を終えた後、私の体の陰に隠れるようにしているアイリスに視線を移した。
「ミリーリア様、こちらの少女は……?」
「この子はアイリス。小さいですが、れっきとした聖女候補なんですよ。私は今、この子の教育係をしているんです」
「ほう! こんなに幼いのに立派な……! 初めまして、アイリス殿。私の名はレイス・ラモンド。どうかよろしくお願いいたします」
挨拶を受けたアイリスは驚いた顔をした後、慌てて私の陰から出てくる。それからドレスの裾をつまんで片足を引き、ゆっくりと頭を下げた。
「――おはつにおめにかかります。わたしはあいりす、せいじょこうほをつとめております」
するとラモンド卿は驚いたような顔をする。
「その年でずいぶん立派な……さすがはミリーリア様に教えられているだけはある」
「ふふ、本当に自慢の教え子ですのよ。可愛くて可愛くて、甘やかしすぎないようにするのが大変です」
まあ実際のところはあんまり可愛がりを抑えられてないんだけど。
っていうかアイリス、挨拶完璧じゃない! 絶対この子隙間時間とかにこっそり練習してたわね。
「ははあ……ミリーリア様は聖女の力の大半を失われたと聞きましたが、随分変わられたご様子ですな。いや、いい意味です」
「そ、そうですか?」
「ご両親もお喜びでしょう。では、私はこれで」
そう言ってラモンド卿は去っていった。
中身が変わっているんだから言われたことはその通りだけど……なぜこんなに短時間で見抜かれるのか。一応私、ミリーリアの記憶にのっとって喋ってるんだけどなあ。
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