26 / 43
招待状(※主人公以外視点)
しおりを挟む
「それでは今日も教会に行ってまいります!」
「ああ。気を付けるんだよ、ミリーリア」
私の名前はセオドア・ノクトール。
王城で文官を務めるノクトール侯爵家の当主だ。辺境に広大な領地を預かる僕が文官を務めるというのは珍しいことだけど、国王の頼みでそういう立場になっている。
そんな私の最近の悩みは娘のミリーリアのことだ。
ミリーリア・ノクトール――“万能の聖女”と呼ばれた愛しい娘は、幼い頃からたいへんな思いをしてきた。若くして聖女に選ばれただけでなく、複数の力を使いこなせたミリーリアは、国中から引っ張りだこになっていたのだ。
そのせいで休みもなく、聖女の仕事をするうちにだんだんやつれていった。
本人は使命感に燃えて、やりがいを感じていたようだけど。
それが、一か月と少し前、唐突に終わった。
事故でミリーリアは聖女の力を失ったのだ。
彼女は聖女の座を失い、とある聖女候補の教育係になった。
その時から、ミリーリアは少しずつ不安定になっていた。食事はほとんど取らなくなり、聖女候補の教育のため、教会に長時間滞在することも多くなった。
親としては不安だった。
ミリーリアの目に、聖女の座に対する執着のようなものが見えたからだ。
私は親として、彼女が聖女の力を失ったのはいいことに思ってしまう。今まで自由のなかったミリーリアに、自由な時間ができた。それを謳歌してほしい。けれど、ミリーリアの行動はそれとは真逆に突き進んでいるように感じられた。
……けれど、最近またミリーリアに変化があった。
教え子であるアイリスを溺愛するようになったのだ。
どんな心境の変化があったのかはわからない。
ただ、とにかく楽しそうだ。
妻は奔放になってしまったミリーリアに思うところがあるようだけど、私としてはしばらく存分に羽目を外せばいいと思う。そのくらいの権利はミリーリアにはあるはずだ。
私はミリーリアに味方しよう。
そのくらいの権利はミリーリアにはあるはずなのだから。
「旦那様、お手紙が届いております」
「ああ、ありがとう」
そんなことを考えながら執務室にこもっていると、使用人が手紙を持ってきた。
中を開く。
「差出人は……フェリックス殿下?」
そこに書かれていたのはフェリックス・ウェインライト――この国の第一王子の名前。
ただしフェリックス殿下の名にはもう一つ意味がある。
フェリックス殿下はミリーリアの婚約者なのだ。
ミリーリアが聖女候補となった頃からの長い付き合いである。正義感の強いあの人物は、ミリーリアのことを大切にしてくれている。
手紙の内容は、王城で開かれる夜会への招待。
「日程は半月後か。丁度私と妻は仕事で国外に出ているタイミングだな」
無理をすれば参加できなくはないが、やや厳しそうだ。
そうなると参加はミリーリア一人になるが、特に心配の必要はないだろう。ミリーリアは聖女として国内外問わず様々な夜会に参加してきた実績がある。
夜会自体は珍しくもないが、一つ気になることがある。
「カリナ・ブライン……新しい聖女の名が、なぜ殿下の名の横に書かれている……?」
カリナはミリーリアと入れ替わるように、新たに聖女になった女性だ。
その名前が招待者の一人として記されている。
そのことに、私は嫌な予感を覚えるのだった。
「ああ。気を付けるんだよ、ミリーリア」
私の名前はセオドア・ノクトール。
王城で文官を務めるノクトール侯爵家の当主だ。辺境に広大な領地を預かる僕が文官を務めるというのは珍しいことだけど、国王の頼みでそういう立場になっている。
そんな私の最近の悩みは娘のミリーリアのことだ。
ミリーリア・ノクトール――“万能の聖女”と呼ばれた愛しい娘は、幼い頃からたいへんな思いをしてきた。若くして聖女に選ばれただけでなく、複数の力を使いこなせたミリーリアは、国中から引っ張りだこになっていたのだ。
そのせいで休みもなく、聖女の仕事をするうちにだんだんやつれていった。
本人は使命感に燃えて、やりがいを感じていたようだけど。
それが、一か月と少し前、唐突に終わった。
事故でミリーリアは聖女の力を失ったのだ。
彼女は聖女の座を失い、とある聖女候補の教育係になった。
その時から、ミリーリアは少しずつ不安定になっていた。食事はほとんど取らなくなり、聖女候補の教育のため、教会に長時間滞在することも多くなった。
親としては不安だった。
ミリーリアの目に、聖女の座に対する執着のようなものが見えたからだ。
私は親として、彼女が聖女の力を失ったのはいいことに思ってしまう。今まで自由のなかったミリーリアに、自由な時間ができた。それを謳歌してほしい。けれど、ミリーリアの行動はそれとは真逆に突き進んでいるように感じられた。
……けれど、最近またミリーリアに変化があった。
教え子であるアイリスを溺愛するようになったのだ。
どんな心境の変化があったのかはわからない。
ただ、とにかく楽しそうだ。
妻は奔放になってしまったミリーリアに思うところがあるようだけど、私としてはしばらく存分に羽目を外せばいいと思う。そのくらいの権利はミリーリアにはあるはずだ。
私はミリーリアに味方しよう。
そのくらいの権利はミリーリアにはあるはずなのだから。
「旦那様、お手紙が届いております」
「ああ、ありがとう」
そんなことを考えながら執務室にこもっていると、使用人が手紙を持ってきた。
中を開く。
「差出人は……フェリックス殿下?」
そこに書かれていたのはフェリックス・ウェインライト――この国の第一王子の名前。
ただしフェリックス殿下の名にはもう一つ意味がある。
フェリックス殿下はミリーリアの婚約者なのだ。
ミリーリアが聖女候補となった頃からの長い付き合いである。正義感の強いあの人物は、ミリーリアのことを大切にしてくれている。
手紙の内容は、王城で開かれる夜会への招待。
「日程は半月後か。丁度私と妻は仕事で国外に出ているタイミングだな」
無理をすれば参加できなくはないが、やや厳しそうだ。
そうなると参加はミリーリア一人になるが、特に心配の必要はないだろう。ミリーリアは聖女として国内外問わず様々な夜会に参加してきた実績がある。
夜会自体は珍しくもないが、一つ気になることがある。
「カリナ・ブライン……新しい聖女の名が、なぜ殿下の名の横に書かれている……?」
カリナはミリーリアと入れ替わるように、新たに聖女になった女性だ。
その名前が招待者の一人として記されている。
そのことに、私は嫌な予感を覚えるのだった。
16
お気に入りに追加
1,670
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。


【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる