【リメイク版連載開始しました】悪役聖女の教育係に転生しました。このままだと十年後に死ぬようです……

ヒツキノドカ

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招待状(※主人公以外視点)

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「それでは今日も教会に行ってまいります!」

「ああ。気を付けるんだよ、ミリーリア」

 私の名前はセオドア・ノクトール。

 王城で文官を務めるノクトール侯爵家の当主だ。辺境に広大な領地を預かる僕が文官を務めるというのは珍しいことだけど、国王の頼みでそういう立場になっている。

 そんな私の最近の悩みは娘のミリーリアのことだ。
 ミリーリア・ノクトール――“万能の聖女”と呼ばれた愛しい娘は、幼い頃からたいへんな思いをしてきた。若くして聖女に選ばれただけでなく、複数の力を使いこなせたミリーリアは、国中から引っ張りだこになっていたのだ。
 そのせいで休みもなく、聖女の仕事をするうちにだんだんやつれていった。
 本人は使命感に燃えて、やりがいを感じていたようだけど。

 それが、一か月と少し前、唐突に終わった。

 事故でミリーリアは聖女の力を失ったのだ。
 彼女は聖女の座を失い、とある聖女候補の教育係になった。
 その時から、ミリーリアは少しずつ不安定になっていた。食事はほとんど取らなくなり、聖女候補の教育のため、教会に長時間滞在することも多くなった。

 親としては不安だった。
 ミリーリアの目に、聖女の座に対する執着のようなものが見えたからだ。
 私は親として、彼女が聖女の力を失ったのはいいことに思ってしまう。今まで自由のなかったミリーリアに、自由な時間ができた。それを謳歌してほしい。けれど、ミリーリアの行動はそれとは真逆に突き進んでいるように感じられた。

 ……けれど、最近またミリーリアに変化があった。
 教え子であるアイリスを溺愛するようになったのだ。
 どんな心境の変化があったのかはわからない。
 ただ、とにかく楽しそうだ。
 妻は奔放になってしまったミリーリアに思うところがあるようだけど、私としてはしばらく存分に羽目を外せばいいと思う。そのくらいの権利はミリーリアにはあるはずだ。

 私はミリーリアに味方しよう。
 そのくらいの権利はミリーリアにはあるはずなのだから。

「旦那様、お手紙が届いております」

「ああ、ありがとう」

 そんなことを考えながら執務室にこもっていると、使用人が手紙を持ってきた。
 中を開く。

「差出人は……フェリックス殿下?」

 そこに書かれていたのはフェリックス・ウェインライト――この国の第一王子の名前。
 ただしフェリックス殿下の名にはもう一つ意味がある。
 フェリックス殿下はミリーリアの婚約者なのだ。
 ミリーリアが聖女候補となった頃からの長い付き合いである。正義感の強いあの人物は、ミリーリアのことを大切にしてくれている。
 手紙の内容は、王城で開かれる夜会への招待。

「日程は半月後か。丁度私とメルヴィナは仕事で国外に出ているタイミングだな」

 無理をすれば参加できなくはないが、やや厳しそうだ。
 そうなると参加はミリーリア一人になるが、特に心配の必要はないだろう。ミリーリアは聖女として国内外問わず様々な夜会に参加してきた実績がある。
 夜会自体は珍しくもないが、一つ気になることがある。

「カリナ・ブライン……新しい聖女の名が、なぜ殿下の名の横に書かれている……?」

 カリナはミリーリアと入れ替わるように、新たに聖女になった女性だ。

 その名前が招待者の一人として記されている。

 そのことに、私は嫌な予感を覚えるのだった。
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