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最後は!
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「最後はここよ!」
時間も遅くなってきたので、最後の目的地だ。
場所は“ユーグリー・パティスリー”。
王都で有名なスイーツショップである。
この国では砂糖がそこまで高価じゃない。おかげでお菓子を作る文化が庶民にも浸透しており、中でもこの王都はスイーツショップの激戦区だ。
そんな中、この“ユーグリー・パティスリー”は貴族たちがこぞって贔屓にするほどの人気店である。
店主は超凄腕のパティシエで、噂によれば、さる公爵家からお抱えの菓子職人にならないかとの誘いを受けたこともあるとか。もっともとても気難しい性格のようで、その誘いは断ったらしいけど。
というわけで、“ユーグリー・パティスリー”には素敵なお菓子がたくさんある。
きっとアイリスも喜んでくれるものもあるだろう。
「お嬢様。お申し付けいただければ、私が購入してまいりますが」
御者を務めてくれている使用人がそう言ってくれる。
こういう時は普通、使用人に任せるものだけど……
「いえ、せっかくだから自分たちで選ぶわ。それも楽しみの一つだもの。ここで待っていてくれる?」
「かしこまりました、お嬢様」
というわけで、使用人には表で待ってもらってアイリスとともに店内へ。
壁には棚が並び、木製のトレイにはケーキ、タルト、マフィンといった色とりどりのお菓子が並んでいる。ケーキ用のトレイには特殊な加工が施してあるようで、手を近づけるとひんやりした感触が伝わってくる。
「ほうせきみたい……!」
アイリスが目を輝かせて呟く。
確かにコンポートされた果物が照明の光を反射する様子は、まさに宝石だ。これは好感触では?
好きなものを買っていいわよ、と言うとアイリスはよほど嬉しかったのか、その場でちょっと跳ねた。テンションが高いアイリスは珍しいし可愛い。やはり天使……
さて、私もケーキを選びましょう。せっかくだから人気のものがいいわよね。お母様と、今日もお仕事のお父様へのお土産もあったほうがいいだろう。
「あら」
店内を見ていると、いくつか空になっている場所が目立つ。その中には私が買おうと思っていたものもあった。店員に尋ねてみる。
「少しいい? この商品、今日はもう補充されないかしら」
「も、申し訳ありません! 補充の予定はないのです! 貴族様に足をお運びいただいたのに、本当に申し訳ありません……!」
あ、しまった。私思いっきり貴族全開のドレス姿だから、クレームと思われたようだ。
……決してお母様譲りのキツめの顔立ちのせいではないと思いたい。
「文句をつけたいわけじゃないわ。人気のものが品切れなのは残念だけど、それならまた来ればいいだけだもの」
できるだけ笑顔で伝える。お気に入りの店の従業員に怯えられるのは困る!
すると従業員は多少安心したような顔になって、こんなことを教えてくれた。
「実は店主が不在でして、いくつか作れない商品があるんです」
「あら、そうなの。まさか病気とか?」
「いえ、そんなことは! ……実はお城に招かれまして、さるお方にお菓子を作るよう求められたんです」
「へえ、凄いじゃない!」
さすがは超人気店のオーナーパティシエ。お城に呼ばれるなんて職人からしたら最高の名誉だろう。
「さるお方、っていうのは?」
「――新しい聖女様です。何でも、少しの間王都を離れていたところ、最近戻ってきたとかで」
「……新しい聖女?」
私は眉根を寄せた。新しい聖女、って誰のことかしら。ミリーリアの記憶では、ごく最近聖女になった人なんていないはずなんだけど……私が転生してからもそんな話は聞いていない気がする。
「あの、お客様。どうかなさいましたか?」
「あ、いや、何でもないわ」
少し気になるけど、今はアイリスの趣味探しが優先だ。新しい聖女とやらのことは一旦忘れておこう。
「せんせい、みてください! このけーき、くまがのってます」
「え? 熊? ……あ、本当に熊ね」
「すごいですね。こんなことができるんですね」
そう言ってケーキを見つめるアイリスは楽しそうだ。
しばらく悩み、いくつかお菓子を買ってから私たちは馬車に戻った。
時間も遅くなってきたので、最後の目的地だ。
場所は“ユーグリー・パティスリー”。
王都で有名なスイーツショップである。
この国では砂糖がそこまで高価じゃない。おかげでお菓子を作る文化が庶民にも浸透しており、中でもこの王都はスイーツショップの激戦区だ。
そんな中、この“ユーグリー・パティスリー”は貴族たちがこぞって贔屓にするほどの人気店である。
店主は超凄腕のパティシエで、噂によれば、さる公爵家からお抱えの菓子職人にならないかとの誘いを受けたこともあるとか。もっともとても気難しい性格のようで、その誘いは断ったらしいけど。
というわけで、“ユーグリー・パティスリー”には素敵なお菓子がたくさんある。
きっとアイリスも喜んでくれるものもあるだろう。
「お嬢様。お申し付けいただければ、私が購入してまいりますが」
御者を務めてくれている使用人がそう言ってくれる。
こういう時は普通、使用人に任せるものだけど……
「いえ、せっかくだから自分たちで選ぶわ。それも楽しみの一つだもの。ここで待っていてくれる?」
「かしこまりました、お嬢様」
というわけで、使用人には表で待ってもらってアイリスとともに店内へ。
壁には棚が並び、木製のトレイにはケーキ、タルト、マフィンといった色とりどりのお菓子が並んでいる。ケーキ用のトレイには特殊な加工が施してあるようで、手を近づけるとひんやりした感触が伝わってくる。
「ほうせきみたい……!」
アイリスが目を輝かせて呟く。
確かにコンポートされた果物が照明の光を反射する様子は、まさに宝石だ。これは好感触では?
好きなものを買っていいわよ、と言うとアイリスはよほど嬉しかったのか、その場でちょっと跳ねた。テンションが高いアイリスは珍しいし可愛い。やはり天使……
さて、私もケーキを選びましょう。せっかくだから人気のものがいいわよね。お母様と、今日もお仕事のお父様へのお土産もあったほうがいいだろう。
「あら」
店内を見ていると、いくつか空になっている場所が目立つ。その中には私が買おうと思っていたものもあった。店員に尋ねてみる。
「少しいい? この商品、今日はもう補充されないかしら」
「も、申し訳ありません! 補充の予定はないのです! 貴族様に足をお運びいただいたのに、本当に申し訳ありません……!」
あ、しまった。私思いっきり貴族全開のドレス姿だから、クレームと思われたようだ。
……決してお母様譲りのキツめの顔立ちのせいではないと思いたい。
「文句をつけたいわけじゃないわ。人気のものが品切れなのは残念だけど、それならまた来ればいいだけだもの」
できるだけ笑顔で伝える。お気に入りの店の従業員に怯えられるのは困る!
すると従業員は多少安心したような顔になって、こんなことを教えてくれた。
「実は店主が不在でして、いくつか作れない商品があるんです」
「あら、そうなの。まさか病気とか?」
「いえ、そんなことは! ……実はお城に招かれまして、さるお方にお菓子を作るよう求められたんです」
「へえ、凄いじゃない!」
さすがは超人気店のオーナーパティシエ。お城に呼ばれるなんて職人からしたら最高の名誉だろう。
「さるお方、っていうのは?」
「――新しい聖女様です。何でも、少しの間王都を離れていたところ、最近戻ってきたとかで」
「……新しい聖女?」
私は眉根を寄せた。新しい聖女、って誰のことかしら。ミリーリアの記憶では、ごく最近聖女になった人なんていないはずなんだけど……私が転生してからもそんな話は聞いていない気がする。
「あの、お客様。どうかなさいましたか?」
「あ、いや、何でもないわ」
少し気になるけど、今はアイリスの趣味探しが優先だ。新しい聖女とやらのことは一旦忘れておこう。
「せんせい、みてください! このけーき、くまがのってます」
「え? 熊? ……あ、本当に熊ね」
「すごいですね。こんなことができるんですね」
そう言ってケーキを見つめるアイリスは楽しそうだ。
しばらく悩み、いくつかお菓子を買ってから私たちは馬車に戻った。
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