【リメイク版連載開始しました】悪役聖女の教育係に転生しました。このままだと十年後に死ぬようです……

ヒツキノドカ

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まずは……

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「さて、アイリス。どこか行きたいところはあるかしら?」

 使用人が馬車の用意をしてくれている間、アイリスに尋ねてみる。
 今日の目的はアイリスの趣味を探すことだ。まずはアイリスの興味があることから試していくのがいいだろう。

「うーん……行きたいところ……」

「そんなに真剣に考えなくていいわよ。ぱっと思いついたところでいいの」

「じゃあ、としょかんにいきたいです」

 ぱっ、と手を挙げて言うアイリス。
 図書館か……王都には王立のとても大きな図書館がある。蔵書数は国内のみならず、大陸有数という話だ。読書が趣味になれば、きっと退屈しないだろう。

 というわけで、最初の目的地は図書館ということになった。
 御者もこなせるハイスペック使用人に馬を操ってもらい、王立図書館にやってくる。
 広大な図書館は三階建てで、吹き抜けを囲むように高い書架が並んでいる。奥には写本を行うための場所があり、十人以上の職員たちがもくもくと羽ペンを動かしている。

「アイリスはどんな本が読みたいの?」

「えっと、そうですね……」

 やっぱり絵本だろうか。いやいや、アイリスのことだから勉強がしたいのかもしれない。そうなると図鑑なんかが目当てかしら?

「よみかきの、れんしゅうのほんが、よみたいです」

 アイリスはやる気の炎を目に灯しながら言った。
 どこまでも……ストイック……!

「って、アイリスは教会で読み書きを習ってないの?」

「ならってますけど、まだ、うまくできなくて……」

 しゅんとしながら言うアイリス。
 やり取りをしていて思い出したけど、この世界では平民はほとんど読み書きできない。できるのは貴族か商人くらいのもので、農民や職人なんかは、大人でも読み書きができない人は多いのだ。
 ましてアイリスは五歳で、教会に連れてこられてまだ半年と少し。

 聖女教育を受けて、礼儀作法も練習しているのだから、読み書きまで手が回らなくて当然だ。アイリスに聞いてみると、読み書きを覚えるための時間が取れないので、毎晩自室で勉強を頑張っているんだとか。教材は教会にあるものを借りているらしい。努力家すぎる!

「それじゃあ、明日から私が読み書きを教えましょうか。聖女教育も順調だし」

「いいんですか!?」

「ええ。一緒に教材になりそうな本を探しに行きましょう」

「はいっ」

 その後司書に頼んで教材になりそうな本を探してもらったところ、貴族の子どもが読み書きを学ぶための絵本シリーズを紹介してくれた。物語形式で読み書きが覚えられるそのシリーズは、普段は歯抜けでしか借りられないほどの人気だけど、今日はたまたま揃っていたらしい。

「あしたがたのしみです!」

 うきうきした雰囲気のアイリスが可愛い。
 けれどまだまだ時間はある。

「アイリス、次はどこに行く?」

「ええと……うーん……」

 すぐには思いつかないアイリス。

「もし思いつかないなら、私が行ってみたいところがあるんだけどいい?」

「? どこですか?」

「それはね――」

 というわけで私のリクエストにより、やってきました服飾店。

「これはミリーリア様! ようこそおいでくださいました!」

 店に入ると、女性店主が満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

 この“フェルネ服飾店”はミリーリア行きつけの店だ。子どもから大人まで、あらゆる年齢の女性服を取りそろえている。しかもデザインがどれもおしゃれなのだ。

 転生前のミリーリアは金遣いが荒く、聖女の仕事で疲れた心を癒すため、この店でドレスを爆買いしてストレス発散をしていた。店主が満面の笑みなのはそのせいである。ミリーリアは王都有数のお得意様だったのだ。
 ……買い方はともかく、侯爵令嬢のミリーリアが好むくらいに素敵な服が並んでいることは間違いない。

「……!」

 展示された色とりどりの華やかな服に、アイリスが圧倒されている。けれどただ引いているというよりは、あちこちの服に目が吸い寄せられているような感じだ。

「ミリーリア様。こちらの女の子は……?」

「私の教え子の聖女候補よ。今は私、この子の教育係をしているの。今日はこの子の服を買いに来たのよ」

「え?」

「そうですか! それは腕が鳴りますね! こんなに可愛らしい女の子はそうそうお目にかかれません!」

 驚いた声を上げるミリーリアと、燃えてきたとばかりに目を輝かせる店主。

「あの、せんせいのふくをかうんじゃないんですか?」

「違うわよ? アイリスの服を買いに来たの」

「でも、せんせいがいきたいところって」

「アイリスにたくさん服を着てもらって、それを見るのが私の幸せなのよ」

「ええ……?」

 困惑したような顔のアイリスだけど、これは私の前世からの悲願なのだ。男兄弟に囲まれて育った私にとって、可愛い身内の女の子と一緒にショッピングというのは憧れである。
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