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フォード・レオニス(主人公以外視点)
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ウェインライト王立騎士団副団長、フォード・レオニス。
それが俺の名前だ。
代々有力な騎士を輩出する家柄で、特に俺は高い魔力を持って生まれたため、周囲から将来に期待されて生きてきた。だが、俺自身は才能や環境に甘えて生きてきたつもりはない。
毎日血反吐を吐くような努力を重ね、武功を上げ続けた。
人を五十人食った魔物を討伐し。
山に巣くう大盗賊団を壊滅させ。
戦争では窮地に陥っていた味方を遊撃隊として助け、敵の将軍を討ち取った。
いつしかどす黒い返り血にまみれた姿に由来し、“黒獅子”などという二つ名がついた。それらの功績のおかげで俺は二十代という異例の若さで、騎士団の副団長に抜擢された。
「“黒獅子”が現れる戦場では戦うな」
「信じられない。お前は本当に人間か?」
「副団長、すごいです! あなたがいれば王国は安泰です!」
「助かった。貴殿はまさに選ばれた英雄だ」
敵は俺を恐れ、味方は俺をほめたたえた。
そういった評価を受けるたびに思う。
……馬鹿馬鹿しい、と。
確かに俺は戦うことが得意だ。剣と魔術を駆使すれば、そうそう誰かに後れを取ることはない。
だが、俺一人が強い力を持っているからなんだ?
騎士団の活動の中でも、魔物の討伐は最優先事項だ。現地の兵士の手に負えないような魔物が現れれば、騎士が派遣される。基本的にはそれが解決するが、すべてではない。取りこぼしが出る。
魔物を倒すには、特別な武具が必要、というのが定説だ。
聖具――つまり聖女が力を込めた武器である。
それらは数が限られているため、基本的に所持しているのは騎士団の人間のみ。俺たちが駆けつけるのが遅れれば、人々の命は簡単に魔物に奪われてしまう。
俺はできる限り犠牲が出ないように努めた。
騎士の育成に力を入れ、最適な人員の振り分けも徹底した。それでもすべての魔物に対処することはできない。
アイリスの両親のように、救えない人が出てしまう。
そんなことを繰り返しているうちに……疲れてしまった。
俺一人がどれだけ足掻いたところで、魔物の被害は止まらない。
だんだん俺は諦める癖がついていった。
魔物に寄って人が死ぬのは仕方ない。
自分のできる範囲で助けられればいい。
そうするしかない。
諦めるしかない。
そう思っていたから――
『やってみなくちゃわからないでしょうが! 何をあっさり諦めているんですか!?』
金髪と赤い瞳が特徴的な、元聖女に言われてハッとした。
それが俺の名前だ。
代々有力な騎士を輩出する家柄で、特に俺は高い魔力を持って生まれたため、周囲から将来に期待されて生きてきた。だが、俺自身は才能や環境に甘えて生きてきたつもりはない。
毎日血反吐を吐くような努力を重ね、武功を上げ続けた。
人を五十人食った魔物を討伐し。
山に巣くう大盗賊団を壊滅させ。
戦争では窮地に陥っていた味方を遊撃隊として助け、敵の将軍を討ち取った。
いつしかどす黒い返り血にまみれた姿に由来し、“黒獅子”などという二つ名がついた。それらの功績のおかげで俺は二十代という異例の若さで、騎士団の副団長に抜擢された。
「“黒獅子”が現れる戦場では戦うな」
「信じられない。お前は本当に人間か?」
「副団長、すごいです! あなたがいれば王国は安泰です!」
「助かった。貴殿はまさに選ばれた英雄だ」
敵は俺を恐れ、味方は俺をほめたたえた。
そういった評価を受けるたびに思う。
……馬鹿馬鹿しい、と。
確かに俺は戦うことが得意だ。剣と魔術を駆使すれば、そうそう誰かに後れを取ることはない。
だが、俺一人が強い力を持っているからなんだ?
騎士団の活動の中でも、魔物の討伐は最優先事項だ。現地の兵士の手に負えないような魔物が現れれば、騎士が派遣される。基本的にはそれが解決するが、すべてではない。取りこぼしが出る。
魔物を倒すには、特別な武具が必要、というのが定説だ。
聖具――つまり聖女が力を込めた武器である。
それらは数が限られているため、基本的に所持しているのは騎士団の人間のみ。俺たちが駆けつけるのが遅れれば、人々の命は簡単に魔物に奪われてしまう。
俺はできる限り犠牲が出ないように努めた。
騎士の育成に力を入れ、最適な人員の振り分けも徹底した。それでもすべての魔物に対処することはできない。
アイリスの両親のように、救えない人が出てしまう。
そんなことを繰り返しているうちに……疲れてしまった。
俺一人がどれだけ足掻いたところで、魔物の被害は止まらない。
だんだん俺は諦める癖がついていった。
魔物に寄って人が死ぬのは仕方ない。
自分のできる範囲で助けられればいい。
そうするしかない。
諦めるしかない。
そう思っていたから――
『やってみなくちゃわからないでしょうが! 何をあっさり諦めているんですか!?』
金髪と赤い瞳が特徴的な、元聖女に言われてハッとした。
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