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騎士団の詰所
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というわけで、王都にある騎士団の詰所へとやってきた。
騎士団の詰所は王城の近くにあり、王都内の見回りや門番を務める衛兵たちの詰所とは別物として扱われている。
「わたし、こんなところにきてしまっていいんでしょうか」
気後れしたように言うアイリス。無理もない。大きな門やら完全武装の見張りやら、ものものしい雰囲気だし。
「問題ない。俺が許可した以上は誰にも文句は言わせん」
「は、はい。わかりました」
フォードが言うとアイリスが頷いた。
「フォード様は副団長なのですよね? ならフォード様が許可をなさっても、団長様が却下なさったら問題があるのでは……」
「団長は現在王都を離れている。その間、騎士団の指揮は俺に一任されている」
「あ、そうなんですか」
「……事情は知らないのか?」
「何のことです?」
私が聞くと、フォード様は「いや、何でもない」とはぐらかした。そんな反応をされると余計に気になるんですが。
それにしても、騎士団長が王都を離れているとは。何か強力な魔物の目撃情報でもあったのかしらね。
ちなみに同じく必要だった教皇様からの許可はというと、あっさり出た。お布施云々については、相手が騎士であること、アイリスが見習いであることという二つの理由によって、気にしなくていいことになっている。
ちらりとフォードが私に視線を向けてきた。
「ミリーリア・ノクトール。訓練には私も立ち会うつもりだが、構わないか?」
「もちろんです。ぜひぜひ見て行ってください」
そして私が危険人物ではないと覚えて帰ってほしい。
「ここが修練場だ」
フォードに案内された先には広いグラウンドが待っていた。そこでは数十人の騎士たちが激しい訓練を行っている。
「……!」
その光景に目を見開くアイリス。
グラウンドの中では五人の騎士が一人の騎士を取り囲んでいる。狙われている騎士は走ったり剣を盾にして、五対一の状況を何とかしのいでいる状況だ。
……訓練?
「……あの、フォード様。あれは一体」
私の目には訓練ではなく虐めの現場に見える。
「ただの訓練だ」
「五対一のうえ、使っているのが真剣に見えるのですが」
「あれは鋼の剣だが研いでいないため、当たっても骨折程度で済む。何の問題もない」
「何の問題もないって……」
鉄の塊で殴りつけられて骨を折られることは世間一般では大問題だと思う。
「王立騎士団は五十人に満たない精鋭だ。あのくらい簡単にかいくぐれないようでは困る」
何てことないように言うフォード。どうやら本当にこれが騎士団の日常のようだ。
そりゃ王国最強なんて言われるわけよね。日頃からこんなハードなトレーニングを積んでいるなんて想像もしなかった。
「……やっぱり、わたしももっとがんばったほうがいいんでしょうか」
はっ、いけない! アイリスが騎士たちの訓練を見てまたストイックになりかけている!
「そんなことないわアイリス! 騎士たちは大人、あなたは子どもよ。あの人たちの真似をしてもいいことなんてないわ!」
「ミリーリア・ノクトールの言う通りだ。子どものうちから道を限定することはいいことではない。もっと広い視野を持つべきだ」
「わ、わかりました」
私が慌てて説得にかかると、フォードも同意してくれた。教会にわざわざ様子を見に来たこともそうだけど、やっぱりこの人はアイリスの味方のようだ。私はともかく、原作でアイリスを捕縛したのは、仕事だから仕方なくって感じなのかしら。
「“治癒”の訓練を行うのだろう。こっちだ」
私とアイリスは修練場の端で休憩している騎士たちのもとに案内される。
「あれ、副団長。その方々は?」
「聖女候補とその教育係だ。“治癒”の力を扱うための訓練として、お前たちの傷を治してくれる」
休憩中の騎士の一人とフォードがそんなやり取りをする。
「ははあ、そりゃありがたいっすなあ。副団長の考えた訓練はどれもキツいですから、俺たちも傷が堪えなくて困ってたんです」
ちょっ、騎士さん!? いくら何でもフォードにそんな口の利き方をして大丈夫なの!?
「このくらいせねば、お前たちは使い物にならんからな。仕方ない」
「ひでえ!」
そう言って笑う騎士たち。よく見るとフォードの口元もちょっと緩んでいる。
……あれえ? 何か私の中のフォードのイメージと違うんですけど?
原作のフォードはかなりドライだった印象がある。原作主人公が助けを求めても、「それは騎士団の管轄ではない」といつも断られてしまうのだ。重い腰を上げたのは最後にミリーリアたちを追い詰める時くらい。
作中最強キャラのフォードがさっさと助けてくれれば……と思わされる場面はいくつもあった。
なので、こんなふうに部下の騎士と冗談を交わしたりするなんて予想外だ。
「何だ、ミリーリア・ノクトール。俺に何か言いたいことでもあるのか」
「い、いえ特に」
ぎろりと睨まれる。騎士やアイリスには優しくても、私に対する疑いはまだ継続中だ。
それを晴らすためにも早く訓練の風景を見てもらうとしよう。
騎士団の詰所は王城の近くにあり、王都内の見回りや門番を務める衛兵たちの詰所とは別物として扱われている。
「わたし、こんなところにきてしまっていいんでしょうか」
気後れしたように言うアイリス。無理もない。大きな門やら完全武装の見張りやら、ものものしい雰囲気だし。
「問題ない。俺が許可した以上は誰にも文句は言わせん」
「は、はい。わかりました」
フォードが言うとアイリスが頷いた。
「フォード様は副団長なのですよね? ならフォード様が許可をなさっても、団長様が却下なさったら問題があるのでは……」
「団長は現在王都を離れている。その間、騎士団の指揮は俺に一任されている」
「あ、そうなんですか」
「……事情は知らないのか?」
「何のことです?」
私が聞くと、フォード様は「いや、何でもない」とはぐらかした。そんな反応をされると余計に気になるんですが。
それにしても、騎士団長が王都を離れているとは。何か強力な魔物の目撃情報でもあったのかしらね。
ちなみに同じく必要だった教皇様からの許可はというと、あっさり出た。お布施云々については、相手が騎士であること、アイリスが見習いであることという二つの理由によって、気にしなくていいことになっている。
ちらりとフォードが私に視線を向けてきた。
「ミリーリア・ノクトール。訓練には私も立ち会うつもりだが、構わないか?」
「もちろんです。ぜひぜひ見て行ってください」
そして私が危険人物ではないと覚えて帰ってほしい。
「ここが修練場だ」
フォードに案内された先には広いグラウンドが待っていた。そこでは数十人の騎士たちが激しい訓練を行っている。
「……!」
その光景に目を見開くアイリス。
グラウンドの中では五人の騎士が一人の騎士を取り囲んでいる。狙われている騎士は走ったり剣を盾にして、五対一の状況を何とかしのいでいる状況だ。
……訓練?
「……あの、フォード様。あれは一体」
私の目には訓練ではなく虐めの現場に見える。
「ただの訓練だ」
「五対一のうえ、使っているのが真剣に見えるのですが」
「あれは鋼の剣だが研いでいないため、当たっても骨折程度で済む。何の問題もない」
「何の問題もないって……」
鉄の塊で殴りつけられて骨を折られることは世間一般では大問題だと思う。
「王立騎士団は五十人に満たない精鋭だ。あのくらい簡単にかいくぐれないようでは困る」
何てことないように言うフォード。どうやら本当にこれが騎士団の日常のようだ。
そりゃ王国最強なんて言われるわけよね。日頃からこんなハードなトレーニングを積んでいるなんて想像もしなかった。
「……やっぱり、わたしももっとがんばったほうがいいんでしょうか」
はっ、いけない! アイリスが騎士たちの訓練を見てまたストイックになりかけている!
「そんなことないわアイリス! 騎士たちは大人、あなたは子どもよ。あの人たちの真似をしてもいいことなんてないわ!」
「ミリーリア・ノクトールの言う通りだ。子どものうちから道を限定することはいいことではない。もっと広い視野を持つべきだ」
「わ、わかりました」
私が慌てて説得にかかると、フォードも同意してくれた。教会にわざわざ様子を見に来たこともそうだけど、やっぱりこの人はアイリスの味方のようだ。私はともかく、原作でアイリスを捕縛したのは、仕事だから仕方なくって感じなのかしら。
「“治癒”の訓練を行うのだろう。こっちだ」
私とアイリスは修練場の端で休憩している騎士たちのもとに案内される。
「あれ、副団長。その方々は?」
「聖女候補とその教育係だ。“治癒”の力を扱うための訓練として、お前たちの傷を治してくれる」
休憩中の騎士の一人とフォードがそんなやり取りをする。
「ははあ、そりゃありがたいっすなあ。副団長の考えた訓練はどれもキツいですから、俺たちも傷が堪えなくて困ってたんです」
ちょっ、騎士さん!? いくら何でもフォードにそんな口の利き方をして大丈夫なの!?
「このくらいせねば、お前たちは使い物にならんからな。仕方ない」
「ひでえ!」
そう言って笑う騎士たち。よく見るとフォードの口元もちょっと緩んでいる。
……あれえ? 何か私の中のフォードのイメージと違うんですけど?
原作のフォードはかなりドライだった印象がある。原作主人公が助けを求めても、「それは騎士団の管轄ではない」といつも断られてしまうのだ。重い腰を上げたのは最後にミリーリアたちを追い詰める時くらい。
作中最強キャラのフォードがさっさと助けてくれれば……と思わされる場面はいくつもあった。
なので、こんなふうに部下の騎士と冗談を交わしたりするなんて予想外だ。
「何だ、ミリーリア・ノクトール。俺に何か言いたいことでもあるのか」
「い、いえ特に」
ぎろりと睨まれる。騎士やアイリスには優しくても、私に対する疑いはまだ継続中だ。
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