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原作式訓練2

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 ふとアイリスが私の手元を覗き込む。

「せんせいがかいたのは……わたし、ですか?」

「せ、正解よ! 我ながらうまく描けたと思うの。よかったらもらってくれない?」

「いいんですか?」

「ええ。はい、どうぞ」

「わあ……! ありがとうございます!」

 これでもオタクのたしなみとしてイラストの心得は多少なりともあるのだ。アイリスの表情も明るくなったし、描いておいてよかった。

「……」

 ふとアイリスが私の描いたイラストをじっと見る。どうしたんだろう?

「……いらすとをうまくなるにはどうすれば……やっぱり、まいにちじゅうまいは、もしゃを……」

 いけない、また変な燃え方をしている。

「あ、アイリス! 特訓の続きをしましょう」

 私は慌てて話を戻した。アイリスの無茶は聖女の力を扱うことだけかと思っていたけど、もしかしてストイックなのは素なのかしら? とにかく、今は聖女教育のほうが優先だ。

「あ、はい。そうですね。おねがいします」

「精霊の力を借りる時は、この姿をイメージするの。そして名前を呼んで、力を貸してくださいと頼むのよ」

「……わかりました」

 アイリスは両手を組んで、目を閉じた。

「――せいれい、あるとみあさま。どうかちからをおかしください」

 ぱあぁああっ。
 アイリスが祈りを捧げてすぐに、彼女の周りに白い光が浮かび上がり始めた。蛍のようなそれらはアイリスの手元に集まり、一つの塊になっていく。

「……」

 ってあれ? 何かこれ、予想より光が大きくない?

「アイリス! いったん力を手放して!」

「で、でも、どうすれば……」

 戸惑ったように言うアイリス。すでに力の制御を失っているのかもしれない。
 ……私が何とかしないと!
 私はとっさにアイリスの手を取り、“治癒”の光に触れた。アイリスが生み出したそれの制御を、私が代わりに行う。過剰に集まってきた癒しの光を散らし、元の状態に戻す。

「はー……! で、できた……!」

 思いつきでやったことだけど、うまくいってよかった。
 “治癒”の光は生命エネルギーの塊なんて言うけれど、同時に巨大な魔力の集合体でもある。うっかりあれがアイリスの体内にでも流れ込んだりしたら、体が爆発――とまでは言わないけど、“魔力酔い”になってしまっていたかもしれない。

 ちなみに魔力酔いとは、過剰な魔力が体内に発生したことで起こるめまいや頭痛なんかの症状のことを指す。ミリーリアの記憶にそんな感じのものがあった。

「アイリス、大丈夫!? 体に変なところはない?」

「はい、だいじょうぶ、です。ありがとうございます」

「よかったわ……! それと、ごめんなさい! まさかこんなことになるなんて思わなかったの!」

「せんせい!?」

 転生初日以来の土下座を行う。
 まさか精霊の名前を呼んだだけでここまでのことになるとは思わなかった……!

「あやまらないでください。せんせいは、わたしのためにやってくれたんですから」

「アイリス……!」

「せいれいさんの、なまえをよぶと、すごいちからがあつまってきました。なんとか、つかいこなせるように、したいです」

 拳を握ってやる気を見せるアイリス。

 けど……

「保留よ」

「ええっ」

「当たり前じゃない! あんなの危なくて、そう何度もさせられないわよ!」

 まあ、やらせた私がこんなことを言うのもなんだけどね!

 よくよく思い返してみると、原作におけるあの訓練は確か物語の終盤に出てきたものだったはず。悪役聖女アイリスに対抗するための、とっておきの特訓である。そんなものを実践すれば過剰な力が発揮されてしまうのも当然だ。

 アイリスがもう少し“治癒”の力に慣れるまで、今回の訓練は封印しよう。
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