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原作式訓練
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「むむむ……ぅうー……!」
アイリスがかざした手の先には、直径十センチほどの白い光の玉が浮かんでいる。
“治癒”の光だ。
「やっぱりアイリスは凄いわねえ」
「……でも、このままだと、けがをなおせません。もっとひかりをおおきくしないと」
「まだ魔術を習い始めて半年でしょう? 十分だと思うけど」
そもそも、普通は聖女候補になるのも十代前半からだ。そこから“治癒”を使いこなせるようになるまで数年かかる。もちろん、習得できずに脱落する聖女候補もたくさんいる。
最優秀聖女だったミリーリアだって“治癒”ができるようになったのは十歳の時。
というわけで、アイリスが焦る理由は全然ない。
「気長にいきましょう。慣れればそのうちできるようになるわよ」
「むう……」
どこか納得いっていなさそうなアイリス。
そんなアイリスを見て考える。慣れが必要といっても、同じ訓練をひたすら繰り返すのはちょっと面白みに欠けるわよね。多少は訓練にもバリエーションを持たせた方が楽しいだろう。
何か面白い訓練はなかったかしら? ……あ、そうだ!
「それじゃあアイリス、ちょっとやり方を変えましょう」
「やりかたをかえる、ですか? どんなことをするんですか?」
「お絵描きよ!」
「え?」
「紙と筆を借りられないか聞いてくるわね。アイリスはここで待っててちょうだい!」
「は、はい」
私はアイリスを部屋に残し、必要な道具を求めて出ていくのだった。
「というわけで、訓練を始めるわよ」
「あの、せんせい……これはいったい」
写本のために常備されていた筆と紙、インクを借りてきた私は再びアイリスのもとに戻り、お絵描きを始めようとしていた。まあ、まずは説明からだ。
「そもそも聖女の力って、普通の魔術と違うのは習った?」
「はい。かみさまのちからを、おかりしている、と」
「実はそれ、少し違っているのよ」
「え?」
「神様――ウェイン様は自分の強大な力が人間界に影響を及ぼすのをよしとしていないわ。だから直接力を貸すのではなく、自分の力を分け与えた“精霊”を介して人間に力を与えているの」
「せいれい……」
「そう、精霊。神様の分身みたいなものね」
精霊を経由することで、神様は人間界に与える影響を制限している、というわけだ。
「で、今からアイリスにはその精霊の絵を描いてもらいます」
「でも、せいれいなんてみたことないですよ?」
「私もないわ!」
「えええ」
「適当でいいのよ。“治癒”をつかさどる精霊の姿を想像して、その通りに絵に描くの。そうやってイメージを補強して、想像した精霊に力を貸してくれるようお願いするの」
「そうぞうして、おねがい、ですか」
「ええ」
アイリスは深刻な表情になった。
「……かってにそうぞうして、おこられないでしょうか」
「大丈夫なんじゃない?」
「な、なんだか、てきとうです……」
実はこの特訓、ミリーリアの記憶ではなく原作知識が由来である。原作では、とある学者が王族に伝わる歴史書を紐解いてその方法を開発していた。悪役聖女アイリスの強大な力に対抗するため、主人公は精霊の力を借りて自分の力を強めたのだ。
原作主人公は勝手に精霊の姿を想像していたけど、特におとがめはなかった。
たぶん大丈夫だろう。
「でも、わかりました。せんせいがいうなら、やってみます!」
「ええ! 頑張って、アイリス! あ、ちなみに癒しの精霊の名前はアルトミアというそうよ」
「あるとみあさま、ですね」
アイリスは真剣な表情でお絵描きを始めた。
「ええと……ええと、んしょ、こんな、かんじ……?」
ほっぺにインクがついているのにも気づかないくらいの集中具合。ものすごく頑張っているけれど……アイリスは一体何を描いているんだろう。象、かしら。象よね。いや、クラゲ……? あとでアイリスに教えてもらおう。
暇だし、私も何か描いておこうかしら。
私も精霊のイラストを描いてもいいけど、聖女じゃなくなったのに自分の力を鍛えてもねえ……一生懸命お絵描きするアイリスが可愛いし、似顔絵でも描いてようかしら。
「ふんふーん」
「むむむ……」
「「でき(まし)た!」」
しばらく筆を動かし、ほぼ同時に完成。アイリスの満足そうな顔が可愛い。
そんなアイリスの絵は……
「やっぱり象っぽい雰囲気ね。ダイナミックでいいと思うわ!」
そう言った瞬間に、アイリスがしゅんと落ち込んだ顔をした。
「…………はねのはえたようせいさんを、そうぞうしました……」
「……!? え? でもこれ明らかに鼻が――って、そうね! どう見ても可愛い妖精さんだわ!」
しまった、予想を外したせいでアイリスが悲しそうな顔に……! でもこの鼻の長さで妖精さんはミスリードなんてレベルじゃないような気がする!
アイリス、あんまり絵はうまくないのね……こう言っては何だけど、子どもっぽい部分が見えてちょっとほっとするわ。
アイリスがかざした手の先には、直径十センチほどの白い光の玉が浮かんでいる。
“治癒”の光だ。
「やっぱりアイリスは凄いわねえ」
「……でも、このままだと、けがをなおせません。もっとひかりをおおきくしないと」
「まだ魔術を習い始めて半年でしょう? 十分だと思うけど」
そもそも、普通は聖女候補になるのも十代前半からだ。そこから“治癒”を使いこなせるようになるまで数年かかる。もちろん、習得できずに脱落する聖女候補もたくさんいる。
最優秀聖女だったミリーリアだって“治癒”ができるようになったのは十歳の時。
というわけで、アイリスが焦る理由は全然ない。
「気長にいきましょう。慣れればそのうちできるようになるわよ」
「むう……」
どこか納得いっていなさそうなアイリス。
そんなアイリスを見て考える。慣れが必要といっても、同じ訓練をひたすら繰り返すのはちょっと面白みに欠けるわよね。多少は訓練にもバリエーションを持たせた方が楽しいだろう。
何か面白い訓練はなかったかしら? ……あ、そうだ!
「それじゃあアイリス、ちょっとやり方を変えましょう」
「やりかたをかえる、ですか? どんなことをするんですか?」
「お絵描きよ!」
「え?」
「紙と筆を借りられないか聞いてくるわね。アイリスはここで待っててちょうだい!」
「は、はい」
私はアイリスを部屋に残し、必要な道具を求めて出ていくのだった。
「というわけで、訓練を始めるわよ」
「あの、せんせい……これはいったい」
写本のために常備されていた筆と紙、インクを借りてきた私は再びアイリスのもとに戻り、お絵描きを始めようとしていた。まあ、まずは説明からだ。
「そもそも聖女の力って、普通の魔術と違うのは習った?」
「はい。かみさまのちからを、おかりしている、と」
「実はそれ、少し違っているのよ」
「え?」
「神様――ウェイン様は自分の強大な力が人間界に影響を及ぼすのをよしとしていないわ。だから直接力を貸すのではなく、自分の力を分け与えた“精霊”を介して人間に力を与えているの」
「せいれい……」
「そう、精霊。神様の分身みたいなものね」
精霊を経由することで、神様は人間界に与える影響を制限している、というわけだ。
「で、今からアイリスにはその精霊の絵を描いてもらいます」
「でも、せいれいなんてみたことないですよ?」
「私もないわ!」
「えええ」
「適当でいいのよ。“治癒”をつかさどる精霊の姿を想像して、その通りに絵に描くの。そうやってイメージを補強して、想像した精霊に力を貸してくれるようお願いするの」
「そうぞうして、おねがい、ですか」
「ええ」
アイリスは深刻な表情になった。
「……かってにそうぞうして、おこられないでしょうか」
「大丈夫なんじゃない?」
「な、なんだか、てきとうです……」
実はこの特訓、ミリーリアの記憶ではなく原作知識が由来である。原作では、とある学者が王族に伝わる歴史書を紐解いてその方法を開発していた。悪役聖女アイリスの強大な力に対抗するため、主人公は精霊の力を借りて自分の力を強めたのだ。
原作主人公は勝手に精霊の姿を想像していたけど、特におとがめはなかった。
たぶん大丈夫だろう。
「でも、わかりました。せんせいがいうなら、やってみます!」
「ええ! 頑張って、アイリス! あ、ちなみに癒しの精霊の名前はアルトミアというそうよ」
「あるとみあさま、ですね」
アイリスは真剣な表情でお絵描きを始めた。
「ええと……ええと、んしょ、こんな、かんじ……?」
ほっぺにインクがついているのにも気づかないくらいの集中具合。ものすごく頑張っているけれど……アイリスは一体何を描いているんだろう。象、かしら。象よね。いや、クラゲ……? あとでアイリスに教えてもらおう。
暇だし、私も何か描いておこうかしら。
私も精霊のイラストを描いてもいいけど、聖女じゃなくなったのに自分の力を鍛えてもねえ……一生懸命お絵描きするアイリスが可愛いし、似顔絵でも描いてようかしら。
「ふんふーん」
「むむむ……」
「「でき(まし)た!」」
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そんなアイリスの絵は……
「やっぱり象っぽい雰囲気ね。ダイナミックでいいと思うわ!」
そう言った瞬間に、アイリスがしゅんと落ち込んだ顔をした。
「…………はねのはえたようせいさんを、そうぞうしました……」
「……!? え? でもこれ明らかに鼻が――って、そうね! どう見ても可愛い妖精さんだわ!」
しまった、予想を外したせいでアイリスが悲しそうな顔に……! でもこの鼻の長さで妖精さんはミスリードなんてレベルじゃないような気がする!
アイリス、あんまり絵はうまくないのね……こう言っては何だけど、子どもっぽい部分が見えてちょっとほっとするわ。
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