【リメイク版連載開始しました】悪役聖女の教育係に転生しました。このままだと十年後に死ぬようです……

ヒツキノドカ

文字の大きさ
上 下
10 / 43

原作式訓練

しおりを挟む
「むむむ……ぅうー……!」

 アイリスがかざした手の先には、直径十センチほどの白い光の玉が浮かんでいる。

 “治癒”の光だ。

「やっぱりアイリスは凄いわねえ」

「……でも、このままだと、けがをなおせません。もっとひかりをおおきくしないと」

「まだ魔術を習い始めて半年でしょう? 十分だと思うけど」

 そもそも、普通は聖女候補になるのも十代前半からだ。そこから“治癒”を使いこなせるようになるまで数年かかる。もちろん、習得できずに脱落する聖女候補もたくさんいる。
 最優秀聖女だったミリーリアだって“治癒”ができるようになったのは十歳の時。
 というわけで、アイリスが焦る理由は全然ない。

「気長にいきましょう。慣れればそのうちできるようになるわよ」

「むう……」

 どこか納得いっていなさそうなアイリス。
 そんなアイリスを見て考える。慣れが必要といっても、同じ訓練をひたすら繰り返すのはちょっと面白みに欠けるわよね。多少は訓練にもバリエーションを持たせた方が楽しいだろう。
 何か面白い訓練はなかったかしら? ……あ、そうだ!

「それじゃあアイリス、ちょっとやり方を変えましょう」

「やりかたをかえる、ですか? どんなことをするんですか?」

「お絵描きよ!」

「え?」

「紙と筆を借りられないか聞いてくるわね。アイリスはここで待っててちょうだい!」

「は、はい」

 私はアイリスを部屋に残し、必要な道具を求めて出ていくのだった。




「というわけで、訓練を始めるわよ」

「あの、せんせい……これはいったい」

 写本のために常備されていた筆と紙、インクを借りてきた私は再びアイリスのもとに戻り、お絵描きを始めようとしていた。まあ、まずは説明からだ。

「そもそも聖女の力って、普通の魔術と違うのは習った?」

「はい。かみさまのちからを、おかりしている、と」

「実はそれ、少し違っているのよ」

「え?」

「神様――ウェイン様は自分の強大な力が人間界に影響を及ぼすのをよしとしていないわ。だから直接力を貸すのではなく、自分の力を分け与えた“精霊”を介して人間に力を与えているの」

「せいれい……」

「そう、精霊。神様の分身みたいなものね」

 精霊を経由することで、神様は人間界に与える影響を制限している、というわけだ。

「で、今からアイリスにはその精霊の絵を描いてもらいます」

「でも、せいれいなんてみたことないですよ?」

「私もないわ!」

「えええ」

「適当でいいのよ。“治癒”をつかさどる精霊の姿を想像して、その通りに絵に描くの。そうやってイメージを補強して、想像した精霊に力を貸してくれるようお願いするの」

「そうぞうして、おねがい、ですか」

「ええ」

 アイリスは深刻な表情になった。

「……かってにそうぞうして、おこられないでしょうか」

「大丈夫なんじゃない?」

「な、なんだか、てきとうです……」

 実はこの特訓、ミリーリアの記憶ではなく原作知識が由来である。原作では、とある学者が王族に伝わる歴史書を紐解いてその方法を開発していた。悪役聖女アイリスの強大な力に対抗するため、主人公は精霊の力を借りて自分の力を強めたのだ。

 原作主人公は勝手に精霊の姿を想像していたけど、特におとがめはなかった。
 たぶん大丈夫だろう。

「でも、わかりました。せんせいがいうなら、やってみます!」

「ええ! 頑張って、アイリス! あ、ちなみに癒しの精霊の名前はアルトミアというそうよ」

「あるとみあさま、ですね」

 アイリスは真剣な表情でお絵描きを始めた。

「ええと……ええと、んしょ、こんな、かんじ……?」

 ほっぺにインクがついているのにも気づかないくらいの集中具合。ものすごく頑張っているけれど……アイリスは一体何を描いているんだろう。象、かしら。象よね。いや、クラゲ……? あとでアイリスに教えてもらおう。

 暇だし、私も何か描いておこうかしら。
 私も精霊のイラストを描いてもいいけど、聖女じゃなくなったのに自分の力を鍛えてもねえ……一生懸命お絵描きするアイリスが可愛いし、似顔絵でも描いてようかしら。

「ふんふーん」

「むむむ……」

「「でき(まし)た!」」

 しばらく筆を動かし、ほぼ同時に完成。アイリスの満足そうな顔が可愛い。
 そんなアイリスの絵は……

「やっぱり象っぽい雰囲気ね。ダイナミックでいいと思うわ!」

 そう言った瞬間に、アイリスがしゅんと落ち込んだ顔をした。

「…………はねのはえたようせいさんを、そうぞうしました……」

「……!? え? でもこれ明らかに鼻が――って、そうね! どう見ても可愛い妖精さんだわ!」

 しまった、予想を外したせいでアイリスが悲しそうな顔に……! でもこの鼻の長さで妖精さんはミスリードなんてレベルじゃないような気がする!
 アイリス、あんまり絵はうまくないのね……こう言っては何だけど、子どもっぽい部分が見えてちょっとほっとするわ。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希
ファンタジー
 学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。  そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇? 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...