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肉を切らせて骨を断つ
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「どうしてあなたみたいな子供がミリーリア様に面倒を見てもらっているの?」
「そうよ。あり得ないわ」
「私たちを差し置いて!」
そう言って騒いでいるのは銀色の首飾り――聖女候補の印を身に着けた修道女たち。
中心になっているのは、先日私に弟子入りを志願してきたニナという子だ。ニナと一緒にいる子たちも、ニナと同い年くらいの十代前半くらいに見える。
そんな子たちが三人がかりで、五歳のアイリスを取り囲む。
これはどう見ても虐めの現場だ。
「……っ」
アイリスは無言で三人を見上げているが、三人の隙間から足が震えているのが見えた。どうやら体がこわばって声も出ないようだ。
すぐに割って入らないと!
「何をしているのかしら?」
「み、ミリーリア様!?」
驚いたように声を上げるニナ。おそらく私がこの時間にやってくるとは想定していなかったんだろう。他の二人も動揺している。
「せんせい……?」
「もう平気よ、アイリス。怖かったわよね」
「……いえ、いつものことですから」
んん? 聞き捨てならない。これが初めて絡まれるわけじゃないってこと?
アイリスは泣き出したりはしていないけど、前に出た私の服の裾をギュッと掴んでいる。やっぱり怖かったんだろう。暴力なんかを振るわれた形跡はないけれど、年上の相手に囲まれたら平気でいられるわけがない。
「こ、これは……違うんです。ミリーリア様の思っているようなことではなく」
しどろもどろになるニナ。
「聞こえなかったかしら? 何をしていたのか、と聞いているのよ」
静かな口調で再度尋ねると、ニナは観念したように明かす。
「……アイリスがミリーリア様の弟子をやめれば、私たちが代わりにミリーリア様に聖女の力の使い方を教えてもらえると思いました。だから……」
「アイリスを脅して弟子をやめさせようとした、ってことかしら?」
「……はい」
「アイリスの様子からして、今日が初めてってわけじゃないわよね?」
「……は、はい」
最近アイリスの元気がなかったのはそのせいか。となると……一週間前くらいから? そのこと自体も許せないけど、どうして気付かなかったの、私……!
「前にも言ったけど、私はあくまでアイリスの教育係よ。あなたたちの面倒は見られないわ。こんなことをしても無意味よ。二度としないように」
「……わかりました」
「あと、アイリスにきちんと謝罪しなさい。他の二人も」
私が言うと、ニナは目を潤ませながらアイリスの手を取った。
「ごめんなさい、アイリス。私、あなたのことが羨ましかったの……! でも、もうしないわ。許してちょうだい!」
「わ、私も謝るわ」
「アイリス、これからは仲良くしましょう」
表面上は反省しているように見える。
けれど私にはわかる。これは要領のいい子特有の“謝ったフリ”だ。最後の子に関しては謝罪してすらないし。
このままだと私の見ていないところで、またアイリスに絡むようになるかも……
ここはもう少し釘を刺しておこう。
「三人とも、私の弟子になりたいのね?」
「「「はい!」」」
途端に目を輝かせるニナたち。
「それじゃあ……アイリス、教えてあげなさい。私の訓練の内容を。あ、ここ一週間より前のものね」
「え? わ、わかりました」
突然の指名に驚きながらもアイリスが言われた通りに私の訓練の内容を説明する。
私が転生してきたのが一週間前くらいだから、そこ以降の訓練はかなり甘くなっている。
けれど、それ以前はというと――
「――という、かんじです」
「「「………………!?」」」
アイリスの告げた訓練の内容を聞いたニナたちは、顔を真っ青にして私を見上げてきた。
信じられない、とでも言いたげだ。
「すべて本当のことよ」
「そんな!?」
「ミリーリア様は自他ともに厳しいと聞いていましたが、まさかそこまで恐ろしい訓練を……!」
「……あ、悪魔のようですわ。こんな幼い子に」
「……」
グサッ。
ニナたちのコメントに罪悪感が刺激される。
いくらアイリスが受け入れていたからって、転生前の私がやっていた仕打ちは悪魔と言われても仕方のないものだ。訓練はいつも外から見えない教会の一室を借り切ってやっていたから、ニナたちは訓練の内容までは知らなかったんだろう。
大方「五歳の子供でもできるんだから私たちでも余裕のはず!」なんて思っていたに違いない。けれど残念ながらアイリスが潜り抜けてきたのはそこらの大人でも震え上がるような過酷な訓練である。……どうしよう。本当に胸が痛い。
アイリスを抱きしめながら謝りたい気持ちに駆られつつも、演技は続行。
私はかつてのミリーリアのような、冷然とした表情を浮かべる。
「さて、もう一度聞くわ。――あなたたち、私の弟子になりたい? アイリスよりも年上なんだし、もう少しキツくなるけど構わないわよね?」
「「「失礼いたしました――――!」」」
顔を青くして逃げ去っていくニナたち三人。
これだけ言っておけば、あとあとアイリスが虐められるようなこともないだろう。一安心だ。
「そうよ。あり得ないわ」
「私たちを差し置いて!」
そう言って騒いでいるのは銀色の首飾り――聖女候補の印を身に着けた修道女たち。
中心になっているのは、先日私に弟子入りを志願してきたニナという子だ。ニナと一緒にいる子たちも、ニナと同い年くらいの十代前半くらいに見える。
そんな子たちが三人がかりで、五歳のアイリスを取り囲む。
これはどう見ても虐めの現場だ。
「……っ」
アイリスは無言で三人を見上げているが、三人の隙間から足が震えているのが見えた。どうやら体がこわばって声も出ないようだ。
すぐに割って入らないと!
「何をしているのかしら?」
「み、ミリーリア様!?」
驚いたように声を上げるニナ。おそらく私がこの時間にやってくるとは想定していなかったんだろう。他の二人も動揺している。
「せんせい……?」
「もう平気よ、アイリス。怖かったわよね」
「……いえ、いつものことですから」
んん? 聞き捨てならない。これが初めて絡まれるわけじゃないってこと?
アイリスは泣き出したりはしていないけど、前に出た私の服の裾をギュッと掴んでいる。やっぱり怖かったんだろう。暴力なんかを振るわれた形跡はないけれど、年上の相手に囲まれたら平気でいられるわけがない。
「こ、これは……違うんです。ミリーリア様の思っているようなことではなく」
しどろもどろになるニナ。
「聞こえなかったかしら? 何をしていたのか、と聞いているのよ」
静かな口調で再度尋ねると、ニナは観念したように明かす。
「……アイリスがミリーリア様の弟子をやめれば、私たちが代わりにミリーリア様に聖女の力の使い方を教えてもらえると思いました。だから……」
「アイリスを脅して弟子をやめさせようとした、ってことかしら?」
「……はい」
「アイリスの様子からして、今日が初めてってわけじゃないわよね?」
「……は、はい」
最近アイリスの元気がなかったのはそのせいか。となると……一週間前くらいから? そのこと自体も許せないけど、どうして気付かなかったの、私……!
「前にも言ったけど、私はあくまでアイリスの教育係よ。あなたたちの面倒は見られないわ。こんなことをしても無意味よ。二度としないように」
「……わかりました」
「あと、アイリスにきちんと謝罪しなさい。他の二人も」
私が言うと、ニナは目を潤ませながらアイリスの手を取った。
「ごめんなさい、アイリス。私、あなたのことが羨ましかったの……! でも、もうしないわ。許してちょうだい!」
「わ、私も謝るわ」
「アイリス、これからは仲良くしましょう」
表面上は反省しているように見える。
けれど私にはわかる。これは要領のいい子特有の“謝ったフリ”だ。最後の子に関しては謝罪してすらないし。
このままだと私の見ていないところで、またアイリスに絡むようになるかも……
ここはもう少し釘を刺しておこう。
「三人とも、私の弟子になりたいのね?」
「「「はい!」」」
途端に目を輝かせるニナたち。
「それじゃあ……アイリス、教えてあげなさい。私の訓練の内容を。あ、ここ一週間より前のものね」
「え? わ、わかりました」
突然の指名に驚きながらもアイリスが言われた通りに私の訓練の内容を説明する。
私が転生してきたのが一週間前くらいだから、そこ以降の訓練はかなり甘くなっている。
けれど、それ以前はというと――
「――という、かんじです」
「「「………………!?」」」
アイリスの告げた訓練の内容を聞いたニナたちは、顔を真っ青にして私を見上げてきた。
信じられない、とでも言いたげだ。
「すべて本当のことよ」
「そんな!?」
「ミリーリア様は自他ともに厳しいと聞いていましたが、まさかそこまで恐ろしい訓練を……!」
「……あ、悪魔のようですわ。こんな幼い子に」
「……」
グサッ。
ニナたちのコメントに罪悪感が刺激される。
いくらアイリスが受け入れていたからって、転生前の私がやっていた仕打ちは悪魔と言われても仕方のないものだ。訓練はいつも外から見えない教会の一室を借り切ってやっていたから、ニナたちは訓練の内容までは知らなかったんだろう。
大方「五歳の子供でもできるんだから私たちでも余裕のはず!」なんて思っていたに違いない。けれど残念ながらアイリスが潜り抜けてきたのはそこらの大人でも震え上がるような過酷な訓練である。……どうしよう。本当に胸が痛い。
アイリスを抱きしめながら謝りたい気持ちに駆られつつも、演技は続行。
私はかつてのミリーリアのような、冷然とした表情を浮かべる。
「さて、もう一度聞くわ。――あなたたち、私の弟子になりたい? アイリスよりも年上なんだし、もう少しキツくなるけど構わないわよね?」
「「「失礼いたしました――――!」」」
顔を青くして逃げ去っていくニナたち三人。
これだけ言っておけば、あとあとアイリスが虐められるようなこともないだろう。一安心だ。
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