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3巻
3-1
しおりを挟むプロローグ
「……もう一度、言ってくれるかしら」
意味がわからない。
脳が理解を拒んでいる。
【通信】で伝えられた情報が、黒髪の少女――一級魔導士のエンジュ・ユーク・グランジェイドには信じられなかった。
そんな彼女に、通信相手である同門の青年は同じことを言った。
『お師匠様が――〔剣聖〕が病の悪化により亡くなりました』
「――ッ」
やはり聞き間違いではない。
エンジュは呼吸を落ち着かせ、青年に告げた。
「そちらに行くわ。〝竜雪山〟でいいのよね?」
エンジュの師匠である〔剣聖〕は、竜雪山という雪深い山の頂に道場を開いている。そこは〔剣聖〕一門の本拠地であると同時に、〔剣聖〕の住居でもあった。
エンジュの勤務地であるレガリア魔導学院から竜雪山までは、急いでも半月かかる。
それでも実際に自分の目で見るまでは、エンジュは〔剣聖〕の死を認めたくなかった。
レガリア魔導学院の学院長にしばらく休みが欲しいと言うと、即座に許可してくれた。馬車を乗り継ぎ、時には走って竜雪山を目指す。半月かかる道を十日で駆け抜けたエンジュを待っていたのは、道場の裏に用意された新たな墓だった。
「――――」
エンジュは目の前の光景を見て息を吞んだ。
墓標には、師匠である〔剣聖〕ガルドの名が彫られている。
「申し訳ありません、エンジュ様! どうしてもエンジュ様が来られるまで亡骸をそのまま保管することができず……この山にはスノウリザードが多く棲んでおりますので……」
「……わかっているわ」
通信で〔剣聖〕の訃報を知らせてくれた門弟がそう言うのを、エンジュはどこか遠くのことのように聞いた。
魔獣は人の匂いにつられて寄ってくる。特に亡骸から発せられる匂いに敏感だ。だからこの国では、誰かが亡くなれば数日のうちに焼いて灰にし、埋葬する。
年中雪に覆われているこの竜雪山ではもう少しもったかもしれないが、それでもエンジュが火葬に間に合うことはなかっただろう。
「ごめん……少しだけ、一人にしてもらえるかしら」
エンジュが言うと、門弟は静かに頷きその場を後にした。
凍てつくような風を浴びながら、エンジュは〔剣聖〕のことを思い返す。
言葉少なで、不愛想な老人だった。けれど〔剣聖〕が振るう剣の軌道は合理的で、美しかった。ただの公爵令嬢であったエンジュはそれに魅せられて〔剣聖〕の弟子となった。
子どもの頃、エンジュは〔剣聖〕に尋ねた。
どうすればあなたのように剣を振るえますか、と。
対して〔剣聖〕は言った。
――迷いをなくすことだ。自分がなんのために剣を振るうか理解する。そうすれば自然と剣は最短を走る。
(師匠……私はまだ、あなたのようにはできません)
教わりたいことはいくらでもあった。しかしエンジュが憧れた〔剣聖〕はもういない。
目の前の墓標には〔剣聖〕の愛剣が立てかけられており、それが握られることはもうないのだと考えてエンジュは息が苦しくなった。
その時、誰かがざくざくと雪を踏んでこちらに近づいてくるのに気付いた。
先ほどの門弟が戻ってきたのだろうか、とエンジュは視線を上げる。
そこに赤い長髪の青年が立っているのを見て、彼女は絶句した。
「あー、エンジュか。お前とタイミングが被るとはなあ」
「……兄、様?」
「他の誰に見えるんだよ、馬鹿妹が。愚図だ愚図だとは思っていたが、とうとう兄貴のツラも忘れたか? 救いようがねえな」
レナード・ユーク・グランジェイド。
エンジュの兄であり、同じく〔剣聖〕一門に所属する一級魔導士だ。
グランジェイド家は貴族の中でも最高位である公爵の家柄だが、レナードの言葉遣いはおよそそれにふさわしいものではない。とはいえ妹のエンジュはそれを指摘するだけ無駄だとわかっているので、諦めて尋ねる。
「……兄様もお師匠様に祈りを捧げるためにここへ来たのですか?」
「あ? アホ言えよ。なんで俺がそんなことしなきゃなんねえんだよ」
「え?」
「おらどけ」
レナードはエンジュを押しのけ、〔剣聖〕の墓の前に立つ。その顔に浮かぶのは愉しげな笑み。
そして長い足を大きく振り上げると――
ドガッッ! と、勢いよく墓標を蹴りつけた。
「なっ……」
「はっはははははははははははは! ようやくくたばりやがったかくそジジイ! ろくに動けもしねえくせに〔剣聖〕の肩書に延々としがみつきやがって、老害がよぉ!」
何度も蹴りつけられ、墓標が傾いでいく。あまりのことに愕然としていたエンジュは我に返ると、眉を吊り上げて剣を抜いた。
「やめてください! 死者を冒涜するつもりですか⁉」
レナードは軽薄な笑みを浮かべてエンジュを見る。
「このくらい当然の報いだろ? なあ、お前に俺の気持ちがわかるかよ。この一門で一番優れた剣の腕を持つのは誰だ? 俺だろ? その俺があんな耄碌したジジイの下だなんて、恥ずかしくて身の上を語れねえよ。何度ジジイをぶち殺してその座を乗っ取ってやろうと思ったことか」
今度こそ。
エンジュは剣を振るった。レナードを両断しても構わないというくらいの殺気を込めて、本気で。
しかし、それはレナードがいつの間にか抜いていた剣によって、難なく防がれる。
「怖えなあ、いきなり襲いかかってくるなよ」
「ふざけるのも大概にしてください! あなたがこの一門の長にふさわしいわけがない!」
〔剣聖〕一門の長が年老いれば、門下生の中から新たな〔剣聖〕が選ばれる。
門下生であるレナードがその座を継ぐことは規則の上では可能だが、エンジュからすれば有り得ないことだった。
この男には〔剣聖〕を名乗れるだけの品性も、節度もない。
〔剣聖〕の名を汚すだけだ。
「お前はその名にふさわしいってのかよ。この俺よりも?」
「それは……」
エンジュは咄嗟に言い返すことができない。自分には致命的な欠点があると自覚しているから。
レナードが腕を無造作に振るい、エンジュは勢いに押されて数歩後退する。
「このクソ一門で次の〔剣聖〕になり得るのは、実力からして俺とギリギリお前くらい。で、俺とお前は〝立場〟が違う。お前のほうが〔剣聖〕に近いかもしれねえ」
本人も言った通り、レナードには普通なら〔剣聖〕一門の長に納まりにくい事情があった。
「……」
「けど、近いうちにいい舞台があるよなあ?」
エンジュは、はっとして口を開いた。
「――魔導演武、ですか?」
「ああ、そうだ。国中の魔導士が集う祭典。そこで俺が力を見せつければ、嫌でも支持が集まる。病気を理由に長年魔導会議にすら参加しなかったジジイに、不満を抱く魔導士も多かったしなぁ」
もしレナードの目論見がうまくいけば、この一門はレナードのものとなるだろう。
それを想像して、エンジュは静かに眉をひそめた。
「……させると思いますか?」
「あぁん?」
「兄様が〔剣聖〕になると言うなら、絶対に私が止めます。この場であなたを斬ってでも」
その言葉が本気だと証明するように、エンジュの髪の色が変わっていく。美しい漆黒から、燃え盛るような緋色へと。一定以上の魔素干渉力を持つ人間は、特異体質を獲得することがある。彼女は本気で戦う時のみ髪の色が変わるのだ。
エンジュは実力者だ。この国で彼女に勝る人間など――まして彼女の剣が届く範囲で戦って勝てる人間など、ほとんどいない。
けれど、エンジュの目の前にいるのは、その数少ない例外だった。
「遅っせえ」
呆れたような声が響く。
「……え?」
気付けば、レナードが間近に立っていた。
気付けば、レナードの剣には黒い光が纏わりついていた。
気付けば、構えたはずのエンジュの剣は――真ん中から切断され、吹き飛んだ切っ先が背後で落下音を響かせていた。
「なっ――」
「何動き止めてんだよ、ボケ」
真っ二つになった自らの剣を見て呆然とするエンジュに、レナードは適当な仕草で前蹴りを叩き込んだ。蹴られた瞬間に、ばきり、と乾いた音が鳴る。
あばらが折れた。
「がはっ、げほっ‼」
「ほら、もう一発だ」
「うあっ⁉」
うずくまったエンジュをレナードがさらに蹴飛ばした。側頭部に蹴りを受けたエンジュは十М以上も転がり、平衡感覚を失って立てなくなる。
倒れ伏すエンジュに向かってレナードは爆笑した。
「弱っええええええええええええええ! おいおい笑わせんなよ、エンジュちゃんよぉ! お前が一級魔導士⁉ 二つ名持ちだぁ⁉ はっはははははは! やっぱり魔導士協会ってのはぬるま湯だ! 騎士団にはお前より弱いやつのほうが少ないくらいだぜ!」
下卑た笑い声が響く。
エンジュは倒れながら、はらわたが煮えくり返る思いだった。
最悪だ。不愉快すぎる。この男はいつもこうだ。
傲慢。品性のかけらもない。喋る内容も口調もそこらのチンピラと変わらないほどに軽薄。
なのに――どうしようもなく強い。
複合属性の魔素を剣に乗せるのはすさまじい高等技術で、〔剣聖〕が亡くなった今、使えるのはレナードだけだ。エンジュはまだその域に至っていない。
「門下生の中で二番目に強いって言われてるお前がこれじゃあ、話にならねえ! やっぱり俺が〔剣聖〕になって、一門を立て直すしかねえよなあ!」
「――ッ、そんなことは」
「まあ、止められるもんなら止めてみろ。昔のトラウマ引きずってるお前ごときに、何ができるかは知らねえけどな。はははははははははははっ!」
嘲笑とともにレナードは去っていった。
その場に残されたエンジュは、ゆっくりと体を起こす。
体が痛むが、道場の中には傷を癒すポーションがある。それを使えばすぐに動けるようになるだろう。
問題はそちらより、折られた剣だ。剣がなくてはレナードを止められない。
エンジュは少し迷ってから、レナードの蹴りのせいで傾いた墓標へと向かった。
それをなんとかまっすぐに立て直し、それから地面に倒れてしまっていた一本の剣を拾う。
墓標に立てかけられていた、〔剣聖〕の愛剣。
〔剣聖〕流の剣術を使うには普通の剣では駄目だ。しかし魔導演武の開催日はすぐそこまで迫っている。今から新たな剣を作ったり、自分の剣を修復したりしている余裕はない。
「……お師匠様。兄様を止めるために、どうか力を貸してください……」
〔剣聖〕の愛剣を抱き、エンジュは決意を込めてそう呟いた。
第一章 道中、馬車にて
「では、〔剣聖〕が亡くなったのは本当なんですか?」
「うむ、ウィズよ。まだ公には伏せられとるがの」
俺の質問に、エルフ族の大魔導士である〔聖女〕、ユグドラ師匠は頷く。
帝都ファルシオンでは、もうすぐ魔導演武――魔導士の祭典が行われる。
封印を解かれた魔人族ラビリスは、その最中に事件を起こすと宣戦布告してきた。ラビリスを討伐する防衛部隊として招集された俺と師匠は、現在帝都行きの馬車に乗っている。
道中で俺が師匠に尋ねていたのは、俺が勤めるレガリア魔導学院の学院長であるイリスから聞いた話についてだ。
師匠と同じ大魔導士の一人、〔剣聖〕の死。
まだ正式には発表されていないが、やはり事実のようだ。
「魔導会議などで公表されていないのは……ラビリスの件があるから、ですか」
「うむ。あれが襲撃してくるかもしれん状況で、大魔導士の一人が死んだとなれば無用な混乱を招くという〈賢者〉の判断じゃ。妾を含め、一部の魔導士しか知らされておらん」
よそで話すでないぞ、と口元に人差し指を当てる師匠に頷き返す。
「師匠は特に落ち込んだりはしていないんですね」
「妾からすれば、あやつは楽になれてよかったと思っておる。病のせいで、もう長いこと満足に剣を振るえておらんかったからな……それよりお主のところには〔剣聖〕の弟子がおったじゃろう。そやつは大丈夫か?」
「あいにく、俺はその話を知って以降会っていないので」
師匠が言っているのはエンジュのことだろう。
やつは二十日ほど前、唐突に長い休暇を取って学院から姿を消した。そのことについてイリスに尋ねたところ、話の中で〔剣聖〕の死を伝えられたというわけだ。その時以来エンジュとは顔を合わせていない。
「ですが……その心中を想像することはできます」
エンジュにとっての〔剣聖〕は、俺にとってのユグドラ師匠のような存在だろう。仮に師匠が亡くなった時、俺ならどんな気分になるだろうか。
「……」
俺が無言になると――がばっ! と師匠がいきなり俺を抱き寄せてきた。
「ちょっ、師匠! いきなりなんですか!」
「よーしよしよしウィズよ! お主、さては今、妾が死んだところを想像して悲しくなっておったじゃろー! 本当に可愛いなお主は! 大丈夫じゃからなーそんなことは向こう五百年はないからなー」
俺の言葉を無視して、何やらテンション高く俺をぎゅうぎゅうと抱きしめてくる師匠。師匠の胸元は露出が多いため、この体勢は色々とまずい!
しばらく俺を抱きしめて満足したらしい師匠は、ぱっと体を放して言った。
「まあ、辛気臭い顔をしていても始まらん。お主はいつも通りいてやるほうがいいじゃろ。それに、今のお主には他に気にすることがあるように思うが?」
「……そうですね」
魔人族に与する魔導士コーエンによる事件は記憶に新しい。
イリスに頼まれてレガリア魔導学院で教師をすることになった俺は、学院の人間を納得させるため、副学院長であるグレゴリーと一年生の半数ずつを受け持っての教育勝負を行った。
勝負そのものは、受け持ちの生徒の中の二人――熱狂的な俺の支持者であるソフィと、そのルームメイトで平凡なアガサの活躍によって勝利できたが、問題はその後だ。俺の教え子に交じって模擬戦に参加していた使い魔のシアは、審判役だったコーエンによって暴走状態にさせられた。
俺の聖属性魔術によってシアは正気に戻ったが、暴走した彼女を見た者たちから危険視され、使役者である俺もろとも始末される寸前までいった。しかし、シアがその場の生徒を助けたことと、逃げようとしたコーエンから俺が情報を引き出したという二つの功績のおかげで、俺とシアは条件付きの無罪を言い渡されたのだ。
その条件が、今回招集のかかったラビリスの討伐チームに参加することだった。
ラビリスは、百年前に史上最悪の魔獣災害を帝都で引き起こした魔人族の一体だ。他のことを気にしながら対峙できるような相手ではないだろう。
「すみません、師匠。お手を煩わせてしまいました」
「もう少し手を焼かせてくれてもいいんじゃぞ? お主は優秀すぎて、日頃構う機会がないからのう……」
「それは師匠の立場なら喜ぶべきところなのでは」
残念そうに言う師匠。本音か冗談か迷うところだ。
馬車は進み、景色は平原から山道へと変わっていく。
気になることがあったので、そこで周囲の魔力反応を探る。
「【探知】」
俺は自分の予想が正しかったことを確信した。
「ウィズ、どうかしたのか?」
「この馬車には護衛の冒険者がついているでしょう?」
「うむ。馬車の後ろから馬で追いかけてきておるな」
師匠が車窓からちらりと外に視線をやる。馬車の後方から馬に乗った冒険者二人がついてきている。
「ですが普通の乗合馬車に護衛をつけることはほとんどありません。となると、何か特別な事情があると予想されます」
「特別な事情か。となると」
師匠がそこまで言いかけたのと同時に――
ズンッ……という重い足音が響いた。
「あ、ああ……出た! 出たぁあああああ!」
御者台のほうから悲鳴が聞こえてくる。
黄土色の肌が特徴的なそれは山道の陰から現れた。
単眼の巨人、サイクロプス。体高十Мを超えようかという二足歩行の大型魔獣だ。
「……まあ、こういう感じですね」
「なるほどのう。護衛の冒険者たちはこれの対策か」
どうやらこのサイクロプスは、この街道沿いの山に棲みついて、通りかかる旅人や行商なんかを襲っているようだ。
「うおおおおお!」
「出やがったな! 覚悟しやがれ!」
護衛の冒険者たちが勇ましく飛び出していく。なかなかの胆力だ。
「では師匠、のんびり待ちましょうか」
「む? ウィズは行かんでいいのか?」
「これは彼らの仕事です。確かに俺という圧倒的才能を持つ天才魔導士が出て行けば、一瞬でカタがつくでしょうが……それでは彼らの仕事を奪うことになりますからね」
たった一人の強者だけが戦う世界はいびつだ。
誰もが勇者であれる世界。そんな光景を俺は見たい。
「ふむふむ。なるほどのう」
「わかっていただけましたか」
「ウィズがいいなら構わん。ただ、あのサイクロプスとかいうのはそれなりの大物に見える。あれを倒して冒険者ギルドに持ち込めば、今後お主が昇級するための功績の一つになるのではないかと思っただけじゃ」
「……」
俺は静かに立ち上がった。
「師匠。恐ろしい魔獣に立ち向かうのは、力ある人間の責務だと思いませんか?」
「お主、言っとることがさっきと全然違うぞ」
魔導士階級を上げるという崇高なる目的のためには、手段を選んでいる暇はない。
俺は馬車を出てサイクロプスのもとへと向かう。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「くそっ、強えぇ……!」
「危険度Aランクの中でも最上位って言われてるだけのことはある。だが――俺はこんなところでやられるわけにはいかねえんだっ!」
冒険者二人は果敢にサイクロプスへと挑みかかるが、よほど皮膚が頑丈らしく、手こずっている様子だ。
『ウォオオオオオオオオオオオオオオオ!』
「【障壁】」
ガギンッ!
俺の張った障壁が、サイクロプスの拳を受け止める。
「な、なんだ⁉ 魔術……⁉」
驚く冒険者に俺は告げた。
「どいていろ。どうやらこの敵、お前たちには荷が重いようだ」
「あ、あんた……魔導士か? 俺たちの代わりにこいつをやってくれるってのか」
「ああ」
冒険者二人が左右に避けて道を空ける。俺は悠然と、障壁を破壊できずに困惑しているサイクロプスの前に進み出た。
「単眼の巨人よ。お前は確かに強いのだろう」
『ウウッ……?』
「だが、お前が居座るこの道が何かわかるか? 俺の進むべき道、つまりは〝覇道〟だ。それを塞ぐとはあまりに身のほどを理解できていない」
俺が手に土属性の魔素を集めながら告げると、サイクロプスは怯んだように後退する。
「おい……あの白髪の魔導士、何かトチ狂ったことを口にしてるぞ」
「ああ。きっと貴族としての暮らしに疲れてどうかしちまったんだろうな……」
後ろのほうから何やら聞こえてくる気がするが、今は忙しいので無視する。
俺は手に集めた土属性の魔素を大地へと叩きつけた。
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