ハズレ職〈召喚士〉がS級万能職に化けました〜無能と蔑まれた俺、伝説の召喚獣達に懐かれ力が覚醒したので世界最強です~

ヒツキノドカ

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黒い怪物

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「なんだよ、これ……」

 アルムの街に足を踏み入れ、俺は愕然とした。

 街並みは破壊され、あちこちには人が転がっている。

 おかしいだろ、こんなの?
 ほんの数時間前まで、普通にみんな生活していたのに……!

「ロイ、上を見て!」

 シルが鋭く声を上げる。

 頭上を見ると、まず目につくのは巨大な黒い怪物。人型だが肉体は黒い皮膚に覆われ、背からはコウモリのような翼を生やしている。

 あれが街を破壊した原因だろうか?
 魔物に見えるが、あんな種族は見たことがない。

 そして、そんな黒い怪物の周囲を、小柄な人影がありえないスピードで動き回っている。

「せぇええええええええッ!」
『ふはははは、無駄だ! 何度やったところで、そんな棒切れでは俺様の体に傷一つつけられまい――はあっ!』
「ぐうっ……」

 バキッ!

 黒い怪物が腕を振るうと、小柄な人影はそれを受けて地面に吹っ飛ばされてきた。

 ん?
 ってあれ、カナタじゃないか!

「む、ロイ殿! 来てくれたでござるか」

 こっちに気付いたカナタが駆け寄ってくる。
 さっき黒い怪物に殴られていたはずだが、特にダメージはないらしい。

「カナタ、これはどういう状況なんだ?」
「見ての通りでござるよ。あの黒い怪物がいきなり上空にやってきて、街を攻撃し始めたでござる。拙者もすぐに迎撃に出たものの、あの者の雷撃までは撃ち落とせなんだ……!」

 拳を握りしめ、悔しそうに告げる。

「街の衛兵や冒険者は?」
「衛兵たちは、黒い怪物が侵入したときに交戦してすでに多くの者がやられてしまった。冒険者たちは、戦うか決めかねているようでござる」

 衛兵たちはリタイアか。冒険者たちは街を守る義務なんてないので、逃げるか戦うか迷っているんだろう。

 つまり、今はカナタだけがあの黒い怪物と戦っていたことになる。

『どうした女剣士! お前の実力はそんなものか!?』

 黒い怪物がカナタに向かって叫ぶ。

 あいつ、喋れるのか……
 それから黒い怪物は俺を見て、目を丸くした。

『お前……神獣使いか。そうか、お前が『ショウカンシのロイ』か』
「俺を知っているのか?」
『知っているとも。俺様はお前を殺すことを条件に、復活させられたのだからな』

 俺を殺すことを条件に復活させられた?

「一体何のことだ?」
『俺様は森に封じられていた。それを解放した者に頼まれたのだ。人間の頼みなど聞く義理はないが、俺様は優しいからな。死にゆくものの頼みくらい叶えてやろうというわけだ』

 この近くで森っていうと、『魔喰いの森』のことだろうか。
 それにしても、俺を殺すことをこいつに願った人間がいる、か。
 そんなやつには一人しか心当たりがない。

「……お前を復活させた人間は?」
『ネイル、と名乗っていた』

 やっぱりあいつか!
 隣ではカナタが目を見開いている。

「あの者……やはり切り捨てておくべきでござったか」

 何やら恐ろしいことを呟いている。

 それにしても、冒険者ギルドの支部長――ネイルは衛兵に捕まっていたんじゃなかったのか? まさか脱獄でもしたんだろうか。なんて無駄な行動力だ。

『標的が自らやってくるとは都合がいい。殺してやる、この街もろともな』

 黒い怪物が宙に浮かんだまま手を天にかざす。
 その手から膨大な魔力が放出され、バチッ、バチッ、と火花を散らす。

「させないでござる!」

 ドンッ! という轟音とともにカナタがその場から消える。

 いや、黒い怪物に向かって駆け出したのだ。空を地面のように踏みしめて。

「すごーい! カナタ、空を走ってるよ!」
「変わった芸当ね。しかもとんでもなく素早いわ」

 シルとイオナは呑気に言ってるが、カナタのあれはそんな軽く流していいものではない気がする。

 セフィラなんて目を丸くして固まってるぞ。

 頭上ではカナタが黒い怪物に向かって剣を振るっている。
 しかし、カナタの剣はなぜか黒い怪物の皮膚に弾かれてしまっている。

 皮膚というより……俺の目が正しければ、皮膚の寸前で薄い膜のようなものに阻まれているように見える。

 なんだ、あれ。

『無駄だ! 神気を纏わんお前の攻撃など効きはしない!』

 黒い怪物はカナタを振り払い、膨大な魔力を秘めた手を街に向けた。

『【邪神ノ轟雷】! 消し炭となれェええええええええええええええ!』

 黒い雷が放たれる。
 あれはまずい、と直感した。
 威力がどうとかじゃなく、本能的に恐怖を感じる。

「イオナ、ブレス頼む!」
「任せなさい!」

 イオナがブレスを吐き、黒い雷を空中で相殺する。
 次の瞬間、爆風が吹き荒れた。
 それが収まったときには。

 ――ブレスと黒い雷がぶつかった周辺は、建物が丸ごと消失していた。


『誰か、誰か助けてくれ……』
『痛てぇ、腕が痛てぇよおおおおお!』
『眼を開けなさい! しっかりして!』


 街中を吹き荒れた破壊の風は建物も人も容赦なく傷つけた。瓦礫に埋もれた人や、飛んできた何かの破片が当たって血を流している人が悲鳴を上げている。

 これはまずい。
 こんな場所で戦っていては街が滅ぶ。

『ははははは! ああ、やはりいい! 人間の悲鳴! 最高だ! ふはははははははははははは!』
「シル、剣になってくれ」
「わかった!」
「よし――【飛行】!」

 俺は剣となったシルを手に取り、馬鹿笑いする黒い悪魔のもとまで行く。

「おい、お前は俺が狙いなんだろう! 戦ってやるからついてこい!」

 人のいない場所に誘導し、俺が倒す。
 これ以上被害を広げない手段は他にない。

「助太刀いたす!」

 カナタもついてきてくれるつもりのようだ。
 さっきまでの動きを見る限り相当強いようだし、ありがたい。

 一方黒い怪物は、フム、と顎に手を当てた。

『神獣使いはいいとして……小娘はいい加減鬱陶しいな。お前にはこの場に残ってもらおう』

 黒い怪物は手に魔力を集めると、ぽい、とそれを下に投げた。

 その魔力の塊は地面に落ちると、どんどん膨らんでいき――やがて中からおぞましい芋虫のような怪物を大量に生み出した。

『『『ギシャアアアアアアアアアアア!』』』
「なっ……なんだよあれ!?」
『俺様の可愛いペットたちだ。あのヒルは肉食でな。しかも俺様の雷の力をわずかだが使える。放っておけば、街の人間どもは全員食われて死ぬぞ?』

 眼下では巨大ヒルたちが歓喜の叫びを上げながら街の人間に襲い掛かっている。

「イオナ、セフィラ、頼む!」
「仕方ないわねー!」
「かしこまりました。【スタブルート】」

 イオナとセフィラの二人にヒルの駆除を任せる。

 だが、手が足りていない。
 ヒルは続々と生まれ落ち、いまや数十体にもなろうとしている。

「カナタ、悪いけど街を頼む。こいつは俺が倒す」
「し、しかし」
「任せてくれ」
「……わかったでござる。どうか武運を」

 俺がまっすぐに目を見て言うと、カナタは頷いた。

「ついてこい」
『構わん。死に場所くらい、好きに選ぶがいい』

 俺は黒い怪物を伴って街の外に移動した。
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