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詰め所
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「あー、あー……」
「しぶちょう、くすり、くすりりりりり」
拘束された数人の男たちが、アルムの街のギルド支部長――ネイル・アクロンの前に連れてこられる。
彼らを連れてきた衛兵はネイルを睨みつけた。
「……街の空き家にいた彼らを保護した。ギルド支部長、貴様の仕業だな?」
「さあ? 身に覚えがありませんねえ~」
「貴様、とぼけるつもりか!」
絶叫する衛兵の男に対し、ネイルは内心で嘲笑った。
馬鹿め、自白なんてするわけないだろうが。
現在、ネイルは衛兵の詰め所内にある部屋で取り調べを受けている。
昼間のロイとのいざこざで薬物中毒者を使ったのがまずかった。
あれがなければとっくに解放されていただろうに。
(それにしても、例の空き家が見つかりましたか……まったく、せっかく用意したのに)
ネイルは薬物中毒者を街の空き家で『飼って』いた。
そして笛を鳴らせばすぐに駆け付けるよう、薬で調教していた。
せっかく便利な手駒を作ったのに、衛兵たちに見つかって台無しになった。不愉快だ。
「彼らは冒険者だろう! 貴様は何とも思わないのか!?」
「特に何も?」
騎士の言葉にネイルは当然とばかりに答えた。
確かに薬物中毒者たちは冒険者だが、全員、ネイルに反抗してきたゴミどもだ。
支部長の自分に逆らう冒険者なんてクソだ。
薬漬けにされても仕方ない。
「ところできみたち、いつまで私を拘束しているんですか?」
ネイルは自分を拘束する手かせをジャラジャラと鳴らした。
「なんだと?」
「私は世界的組織、冒険者ギルドの支部長ですよ? 衛兵ごときが私を取り調べるなんて、無礼だと思いませんか?」
「ふざけるな!」
「はあ、まあいいですけどね。どうせもうすぐ出られるでしょうし」
ネイルは溜め息を吐いて椅子にもたれかかり、足を組んで机に投げ出した。
「貴様――!」
ネイルの態度の悪さに騎士が叫びかけたところで部屋の扉が開いた。
「兵士長! なぜここに!?」
やってきたのは衛兵たちの長である兵士長だった。
兵士長は衛兵たちを押しのけると、ネイルのもとに歩み寄り、手かせの鍵を外してしまう。
「兵士長、遅いですよ」
「すみません、支部長殿! うちの若い者どもが失礼を!」
「いいでしょう、今回だけは許してあげますよ。次はありませんよ?」
外れた手かせを放り捨て、ネイルは唖然としている尋問役の兵士にニヤニヤと笑って告げた。
「わかりましたか? あなたの上司は私に頭が上がらないんですよ~。イロイロと便宜を図ってあげてますからねえ」
要は賄賂である。
普段から金や奴隷、違法なものを流すことで、ネイルはこの街の衛兵やら領主やらと癒着しているのだった。
これがギルド支部長の権力。
若い衛兵ごときが自分に逆らうなんてギャグでしかない。
「いつもありがとうございます、支部長殿」
「ふふ、いいんですよ。あ、そこの衛兵たちはクビにしといてくださいね」
「わかりました。おい、そこのお前ら。明日からもう来なくていいぞ」
「そんな!?」
あまりのことに涙目になる若い騎士たちに、ネイルは思わず爆笑しそうになった。
そうだ、自分に逆らうからそうなるのだ馬鹿め。
「――笑えんでござるな、ネイル・アクロン」
その声に、ネイルはぎくりと動きを止めた。
「先ほどの言葉、撤回されよ。そこの若い騎士たちは仕事を忠実に果たしたに過ぎぬ。お主がクビにする権利などないでござる」
「カナタ・フォーブス……!? 馬鹿な、なぜここにいる!」
世界に数人しかいないSランク冒険者の一人。
黒髪に袴装束が特徴の、異国の少女剣士がそこにいた。
「しぶちょう、くすり、くすりりりりり」
拘束された数人の男たちが、アルムの街のギルド支部長――ネイル・アクロンの前に連れてこられる。
彼らを連れてきた衛兵はネイルを睨みつけた。
「……街の空き家にいた彼らを保護した。ギルド支部長、貴様の仕業だな?」
「さあ? 身に覚えがありませんねえ~」
「貴様、とぼけるつもりか!」
絶叫する衛兵の男に対し、ネイルは内心で嘲笑った。
馬鹿め、自白なんてするわけないだろうが。
現在、ネイルは衛兵の詰め所内にある部屋で取り調べを受けている。
昼間のロイとのいざこざで薬物中毒者を使ったのがまずかった。
あれがなければとっくに解放されていただろうに。
(それにしても、例の空き家が見つかりましたか……まったく、せっかく用意したのに)
ネイルは薬物中毒者を街の空き家で『飼って』いた。
そして笛を鳴らせばすぐに駆け付けるよう、薬で調教していた。
せっかく便利な手駒を作ったのに、衛兵たちに見つかって台無しになった。不愉快だ。
「彼らは冒険者だろう! 貴様は何とも思わないのか!?」
「特に何も?」
騎士の言葉にネイルは当然とばかりに答えた。
確かに薬物中毒者たちは冒険者だが、全員、ネイルに反抗してきたゴミどもだ。
支部長の自分に逆らう冒険者なんてクソだ。
薬漬けにされても仕方ない。
「ところできみたち、いつまで私を拘束しているんですか?」
ネイルは自分を拘束する手かせをジャラジャラと鳴らした。
「なんだと?」
「私は世界的組織、冒険者ギルドの支部長ですよ? 衛兵ごときが私を取り調べるなんて、無礼だと思いませんか?」
「ふざけるな!」
「はあ、まあいいですけどね。どうせもうすぐ出られるでしょうし」
ネイルは溜め息を吐いて椅子にもたれかかり、足を組んで机に投げ出した。
「貴様――!」
ネイルの態度の悪さに騎士が叫びかけたところで部屋の扉が開いた。
「兵士長! なぜここに!?」
やってきたのは衛兵たちの長である兵士長だった。
兵士長は衛兵たちを押しのけると、ネイルのもとに歩み寄り、手かせの鍵を外してしまう。
「兵士長、遅いですよ」
「すみません、支部長殿! うちの若い者どもが失礼を!」
「いいでしょう、今回だけは許してあげますよ。次はありませんよ?」
外れた手かせを放り捨て、ネイルは唖然としている尋問役の兵士にニヤニヤと笑って告げた。
「わかりましたか? あなたの上司は私に頭が上がらないんですよ~。イロイロと便宜を図ってあげてますからねえ」
要は賄賂である。
普段から金や奴隷、違法なものを流すことで、ネイルはこの街の衛兵やら領主やらと癒着しているのだった。
これがギルド支部長の権力。
若い衛兵ごときが自分に逆らうなんてギャグでしかない。
「いつもありがとうございます、支部長殿」
「ふふ、いいんですよ。あ、そこの衛兵たちはクビにしといてくださいね」
「わかりました。おい、そこのお前ら。明日からもう来なくていいぞ」
「そんな!?」
あまりのことに涙目になる若い騎士たちに、ネイルは思わず爆笑しそうになった。
そうだ、自分に逆らうからそうなるのだ馬鹿め。
「――笑えんでござるな、ネイル・アクロン」
その声に、ネイルはぎくりと動きを止めた。
「先ほどの言葉、撤回されよ。そこの若い騎士たちは仕事を忠実に果たしたに過ぎぬ。お主がクビにする権利などないでござる」
「カナタ・フォーブス……!? 馬鹿な、なぜここにいる!」
世界に数人しかいないSランク冒険者の一人。
黒髪に袴装束が特徴の、異国の少女剣士がそこにいた。
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