隣の女子大生

しゅー

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旅行

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「着きました!大阪!」

新幹線で新大阪駅について外に出ると、すぐにぐぐっと伸びをするように両手を上げ叫ぶひなたからは、無邪気さと開放感が伺える。

いつもどこか行ったりすると、いつものひなたよりも少しテンションが高くなっている。きっとひなたには自覚はないけれど、楽しくなると普段の大人っぽさが消えるのだろう

そう考えながら俺もぐっと少し伸びていると、向かいから早歩きでスマホを見つめながら歩いてくるサラリーマンと、ひなたがぶつかりそうになっていた。ひなたとサラリーマンは互いに気がついていない。

「危ないよ」
「おおっ、……あ、ありがとうございます」

ひなたの腕をつかんで引き寄せたら、ひなたは一瞬身を固めたが、すぐにぱっと離れて俺に背を向け礼を言った。

「あの、またぶつかると危険なので、手を繋いでくれませんか。」
「ん?うん、いいけど」

さっきまで俺に触れるのに躊躇っていたのに、今度は手を繋ぎたいと言い出したひなた。
いつもだったらこの状態のひなたはなんの躊躇いもなく触ってくるのに。
……今日のひなたは少し変だなぁ

そんなことを考えてしばらく歩き、ひなたと俺はたこ焼きやお好み焼きを買って食べ歩きながら大阪の色々な場所を回った。

「大輔さん!あの看板のポーズ真似するので、写真撮ってください!」
「わかった!」

ひなたはそう言って俺にスマホを渡すと、看板のポーズを真似するように片足を上げ、両手をあげようとした時に、なにかに気がついたようにはっとして、ポーズをやめこっちに駆け寄ってきた。

「や、やっぱり大丈夫です。恥ずかしくなっちゃいました」
「え?うん」

ひなたはそう言うと、顔を赤くし、ありがとうございましたと俺からスマホを受け取った。

「さぁ、次に行きましょうか!」
「うん」

……もしかして、楽しめてないのかな?

いつもはこんな興奮している時にはなんでもするような人だが、今日に限っては何か行動する前には必ず何かを考えている。

俺は楽しさの中に少しの不信感を持って、その一日を過ごした。

気がついたら日が暮れかけていて、俺達が行きたかった場所は、大阪から神戸手前までは回り終えた。

「そろそろ移動するか」
「はい!ホテル楽しみです」

夜は神戸に移動して、神戸港が一望できるホテルに泊まることになっていた。
せっかく一泊だけなのだから、と台風が来ることも知らなかったので、少し他よりもいい部屋に泊まろうと決めていた。 

「わぁ、広い!広いです!」
「思ってたより広いね!」
「ですね!ほらこのベッドも、……ふかふかしてますー!」

部屋に入ると、予想より大きなふたつのベッドの片方に、ひなたは飛びかかろうとして、少し停止し、飛び込むのをやめ、静かに腰を下ろしてそう言った。

「じゃあ私、お風呂入ってきますね!」

そう言ってひなたはせかせかとお風呂の準備をし始めた

「あの、さ」
「はい?どうしました?」

大阪に来てからずっと思ってた事を聞こうと思って、やめた。

……今日の行動は確かにいつもとは違ったが、理由があるなら俺から聞くのもあんまり良くないかも。

「ううん、なんでもない」
「?そうですか」
「俺もお風呂はいってこようかな」
「じゃあ一緒に行きましょう!」

そうして風呂場の前まで一緒に行き、俺とひなたは風呂場の前で戻る時間を軽く打ち合わせて別れた。

「うわぁ……でけぇ……」

このホテルはお風呂も充実していて、露天風呂までついていた。
軽く体を流し、まずは屋内の一番入口の近くにある風呂に浸かった。

「ふーうっ」

入ると体に熱がつたわり、全身をほぐしていった。
体から疲れが抜けるのとは反対に、ぼーっとした頭では今日のひなたのことを無意識に考えていた。

……ひなたはちゃんと旅行を楽しめているのかな

考えれば考えるほど少しずつ不安は積もっていき、体をあらって露天風呂に移動しても同じことを考えていた。




「これからどうします?寝るにはまだ早いですよね」
「うーん、少し外歩いてみる?」
「いいですね!行きましょう!」

ひなたと俺は部屋に戻ったあと、少し散歩に出ることに決めた。

ホテルの周りは人通りが多かったので、俺たちは少し暗めの港周辺をふらふらと話しながら歩いていた。

遠目に見えるポートタワーの光や客船の光は海に反射し、ロマンチックに港を彩っている



「今日私、ちょっと変ですよね」

人が居ない港を歩きながらひなたは呟いた

「うん……たぶん。もしかして、楽しくなかった?」
「え……?」

隣を歩くひなたは俺の方を向いて目を見開いて、慌てて言葉を付け足した。

「いえ!そうじゃなくて、ちょっとはしゃぎすぎかなって」
「そうかな?」
「そうです、大輔さんと出会ってから今までずっとそうでした」

ひなたはそう言うと遠くで光を放つ建物の方に目をやり、ゆっくりと話し始めた

「私って興奮すると周りを振り回す癖があって。それで、今まで大輔さんの事を振り回しすぎたかもって。」
「あぁ……」

決して悪いことじゃない。むしろそれがひなたの魅力とも言えると思う。

「大輔さんはすごく立派な大人で、いつも落ち着きがあって凄いなって思うんです。だから大輔さんの隣にいると、私は子どもっぽくて彼女に見えないかもとか思っちゃって……」
「そんなことないよ……」
「そんなことあるんです!」

強く言葉を発したひなたはその後、自嘲的に笑いながら話を続ける

「ほら、こんな感じに。大輔さんは優しいから、あの日私の告白を受け入れてくれたんです。」

あの日……俺が初めて、ひなたの部屋に泊まった日だろう。

「大輔さんが私を受け入れてくれた時は本当に嬉しかったし、ずっと一緒にいたいって思ってました。でもだんだんと、私なんかでいいのかなって思って……」

ひなたの話す声は途中から震えていて、顔は反対の方を向いていて分からないが、声からは悲しそうな感情が伝わってくる。

「だから、分からなくなっちゃって。大輔さんが私と付き合ってくれる理由ってなんでしょうか……?」
 
そう聞きながら俺の方を見つめてきた。その瞳は涙で潤っていた。

俺はひなたの目を見つめ返しながら、さっきまで思っていたことをひなたに伝える

「俺も最初は、明確な理由がなかったかも。ひなたを好きな理由が……」
「はい……」
「でもさ、だんだんとひなたの事がわかってきて。落ち着いてる時は大人の女性みたいな魅力があったりとか、興奮してテンションが上がると子供みたいに無邪気なところとか、本当に一緒にいて楽しいんだ」

ひなたとすごした日々は、社員としての俺の人生にはない気持ちを与えてくれる。
……そうだ。ひなた期待している事は安心感や疲労感のない日々じゃない。

「俺自身、社会人になってから時が経って、ひなたと出会うまでは毎日を疲れないようにって、いつの間にか仕事以外何もしないようにしていたんだ」

ひなたは話を聞きながら驚いた表情を浮かべている。

「ひなたが教えてくれたんだよ。健康な食生活だけじゃない、ひなたとの日々は俺に楽しさを教えてくれたんだよ」

ひなたの手を強く握る。
ひなたはいつの間にかぽろぽろと涙を流していて、その涙を拭おうとせずに俺の手を両手で握った。

「だからありがとう、ひなた。だからこれからも、俺の傍で色々なことを教えて欲しい。」
「はい……はい……っ!」

俺がひなたと同じようにひなたが付き合ってくれる理由がわからなくなった時、あかりさんは俺に自信を持てって言われた。

だから俺はひなたに伝える。

「ひなたはひなたのままでいて欲しい。今のひなたが好きなんだよ。」

そう言うとひなたは俺の背中にきつく腕を回して、震える声で誓った

「はい……!本当にありがとうございます……っ!」

都会の光は抱き合う二人をぼんやりと照らしていた。








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