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第一章

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「ダメーーーー!!!!」

 バッ、といきおいよく叫びながら身を起こす。

 夢見の悪さに、暫く絨毯の上に転がるぬいぐるみやクッション眺めてしまう。
 一際ひときわ目を引くリアルに作られた黒豹ドールの青い硝子玉な両目に、魅入られたかのように見つめる。

 (何の夢かは覚えてないけど、何かものすごくイケナイ事をしてしまった気分⋯⋯)

 背筋からじわじわと。
 何処からか漂ってくる背徳感に鳥肌が立つ。
 細白い両腕をネグリジェの上から強く何度もさする。
 この寝室は部屋の壁際隅々まで魔道具で飾られている。
 唯一高い天井についた大きな円を描く窓は眩しく照らす朝日を七色にいろどるステンドグラス。縁を固められた窓際は開けれる訳もないのに。

 不思議と微風そよかぜが頬を撫でる。

 天蓋キャノピーの薄く透ける布地はふわりと踊り出し、壁に吊るした装飾達が触れ合い。軽やかな音色を奏でると。前奏を終えずに、終奏もまた突然訪れた。
 ウェーブのかかったハチミツ色の金髪は未だ余韻に浸る飾りとなびき。そこへ低い落ち着いた男声も混ざり入って来た。

 「先生、起きていたんですね」

 風魔法と空間魔法を組み合わせて室内に現れた青年。

 端正な横顔に一房だけ長く伸ばした黒髪を、紅玉の魔石が施された筒状の髪留めで、編み込んだ髪を左に垂れ下げている。

 長身な彼は何着ても似合うけど。
 濡羽色のローブには、金の刺繍が複雑な文様に施され。内側に着る詰襟の上着は逆に体のラインを沿う、ピッタリとした作りで。
 男性の引き締まったしなやかなボディーラインを素晴らしく強調された。

 服を着ているのに色気がダダ漏れだ。

 下は足の長さが目立つハイウエストパンツと、膝まである革と金具のブーツ。
 装身具は魔力を書き出し、術式を組む為の媒介として、シンプルな古文が彫られた銀の指輪を右手人差指に身につけている。

 ローブは魔法騎士団の規定制服として良しとするが。
 見事に洗練された、黒一色。

 暗闇に時々見失って驚かされる事もあるけど。
 雪白せつはくなお肌が際立ち、似合っているから。好きな色を変えろとは言わないさ。

 「うむ、我が弟子は早朝からでも相変わらず格好良いねぇ」
 思わずまじまじと目の前に立つまだ年端もない青年を眺めてしまう。
 今朝の夢の事は、彼の美貌を前にして綺麗さっぱり忘れてしまっていた。

「⋯ぁりが、とうございます⋯⋯」
 
 長時間見つめられたせいか、若干耳先が色付いている。
 顔を背け。歯切れ悪く小さな礼を返す彼はなんだか親に褒められて恥ずかしがる幼な子に見えた。
 心の考えは行動に遷る。
 よしよしと、手触りの良さそうな黒髪を撫で付けようとすると。

彼は目の前に伸ばされた彼女の手をやんわりと掴むと、「先生、講義の時間です」まだ日が昇りきってもいない早朝に寝起きが酷い私を起こしに来てくれた目的を話した。

「そうだった、そうだった! 毎度毎度ありがとうね、べルちゃん」
 クッションまみれの寝台から起き上がり。私は添えられた青年の手をギュッギュッと、掴んでは放しを繰り返し、微笑み返した。
 
「先生を起こすのは俺の役目ですから」
「真面目だね~ベルちゃんは」

 魔法学院での講義がある日は、毎度呼び起こしに来てくれる。
 飾りに音を鳴らすのは一応結界を張っているから。順を追って正しい音色に当て嵌めないと、無断で空間魔法で入室しようとする者は吹き飛ばされる仕組みになっている。
 昔、知らずに転移テレポートしようとしたある教師は、遥か遠くの南国へと飛ばされた事もある。そう、飛ばされるは物理的にではなく、さらに強力な転移魔法でランダムに何処かへ飛ばされるという事だ。

「あれ? 確か今日はザックも一緒だっけ?」

 まだ眠そうな私の代わりに身支度の準備を手伝ってくれるベルクはその名前を聞いた途端、髪を梳かしてくれていた手元はブラシを持ったピタリと停止した。

「⋯⋯はい、あの人・・・も一緒、です」

 余程その人物が嫌いなのか。鏡に映る彼をちらっと見上げたら。すごい形相で眉間に皺を寄せ、ドス黒い闇のオーラを集めている。

 (一体何をしたら、この温厚で利口な優しい優しいベルちゃんをここまで露骨に嫌悪感丸出しにさせるんだ⋯⋯とても気になるじゃないか、ザックよ)

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