流転の二人の新世界

リョウ

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第一部・巻き戻りのやり直し

武道館への第一歩。

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 俺は数々の試合に出たが土壇場で実力を発揮する事が多かったと思う。そして今でもそれは俺の糧となってるわ。


○◇○◇○◇


 俺は最近になって続けている訓練の為に夜明け前に目を覚ました。
 十一歳の身体にはこの時間毎日のように睡魔が襲うが、なんとかそれを振り切って起きている。
 俺はまだ暗い部屋でジャージに着替え、素振り用の竹刀を持って外に出た。

 いつものようにゆったりと息をして、中段の構えをとり、ゆっくり素振りをする。それから次第にそのスピードを上げ、エンジンを入れた。俺の頭の中に昔聴いた音楽が流れ始める。そのリズムに合わせるように竹刀を振るった。

 素振りを終え、体を伸ばし足の筋肉をほぐした後ランニングをはじめる。
 朝日が登ってくる。陳腐な感想だが綺麗だわ。音楽は俺の頭の中でまだ流れている。
 時折スピードを上げ、緩急をつけ走る。
 ランニングの間に朝日によって町が彩られていった。

(いよいよ試合日だ。まだ準備は不十分だけど、今あるもので勝負する)

 朝食を食べ、忘れ物がないかチェックする。そしてイメージトレーニング……時間は流れた。

「おい、行くぞ」と父親に促されて母親と車に乗り込む。武道場に向かった。

 今日はめずらしくレギュラー全員と両親が揃っている。全員応援に来てくれたらしい。「お前たちががんばっているからだ」と先生に言われたよ。

 車に分乗して試合会場に向かう。いつものような会話は続かず、静寂に包まれる。俺は特に話し合う事もないし、それぞれきっちり練習してきたからお互い信頼してるし、しゃべったらなんか勿体無いから静かに過ごした。

 会場につくと準備をし、アップする。俺達は三人で向かいあい竹刀を振るう。それぞれが良い緊張感を漂わせていた。

「がんばろうぜ」
「おう。がんばろうや」
「がんばろうねー」

三人で声をかけあう。


 そして試合を待つ。


(今日は先鋒だから勝利を稼がなきゃな)


 やがて試合ははじまる。

 一連の礼法を行い、開始線のところで蹲踞そんきょ

 「はじめ!」の声とともに俺は気声とともに立ち上がる。

 まず打ち合いを征して、得意の面で一本をとる。

(相手は五年生、腕前は俺の方が上か。でも油断禁物!)

 また打ち合いになった後、落ち着いて間合いをとる。フェイントをかけ、相手の出方を待つ。

 焦れて不用意なコテが飛んでくる。落ち着いて打ち払って一本を決めた。

2ー0で俺の勝利!

(よし!勝利!アキ続けよー)

 続く中堅戦はアキの一本が決まり勝ち。大将戦もなかにぃが2本決めて2回戦進出となった。


 2回戦も圧勝した。俺は2-0、アキは2-0、なかにぃは1-0で危なげない試合運びだった。


 続く3回戦、問題の試合である。

「次で東京行き決まるね」

 円陣を組み、三人で話し合う。アキが最初に言葉を発した。 

「ああ、しかもよりによって優勝候補か」

 俺は少し緊張しながら応える。 

「まあ、遅かれ早かれ当たるものだしがんばろ」

 なかにぃがいつもの飄々とした態度を崩さず言い放つ。 

「とりあえず勝ってくるわ」

 俺はそれに応えた。

 そして俺は試合に向かう。
 蹲踞をし、開始のあいさつを待つ。
 「はじめ!」の合図で気声をあげて飛び出した。
 まずは面を打つ!相手が反応し腕を上げる。

(ひっかかったな)

 そのまま二連!胴を打った。

(よし!奇襲成功!)


 俺は落ち着いて距離をとる。
 相手が面を打ってきたが当たりが浅くて一本にならず、そのまま打ち合いをし、鍔迫り合いに持ち込まれる。

(六年生とは思えないほど腕力あるな。押し合いで負けそうだ)

 俺は距離をとった。打ち合いが続く。

(あと1分くらいか?気を引き締めないと)

 ここで力を抜いてはいけない。審判から注意がくるし、相手に飲まれる。時間が流れる。やがて時間切れとなり、俺は勝利した。


 アキの試合はどちらも一本が出ず引き分け。
 そしてなかにぃは先に面をとられたが、その後すぐ取り返し引き分けとなり、勝利となった。


「やった!東京!」

 と俺が喜ぶと、

「おつかれー」

 アキが応え、

「お互いがんばったね!」

 なかにぃが喜んだ。

 騒いでいたら先生に「まだ試合おわってないぞ」と注意された。


 気が楽になったのか次の準決勝は全勝であった。次の決勝は惜しくも敗れたが、自分たちの今もっている力を出し切ったと思う。


 打ち上げの焼肉美味しかった。


………………………………………

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