キツネの女王

わんころ餅

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人間の姿に戻ったのじゃ

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 【万物殷富】の威力は凄まじく全てが緑一色となり、心なしか空が青く見えた。
 ふくは仰向けに倒れ、【太陽】を見る。
 地上の世界にいた頃と同じ明るさを放つ太陽の光の輝きに手のひらで光を遮る。
 五本の指の隙間から見るほんのり青い空はとても清々しくとても広く感じた。

(一……二……三……四……五……。五!?)

 ふくはガバッと起き上がると自身の手足を見て驚く。
 ヴォルフが寝ぼけ眼で飛び上がり、ふくのそばに行く。

「どーしたの……?」

「ぼ、ぼ、ぼ、ぼるふ……わし……」

「ん~……?」

「人間に戻っておる……」

「ええ!?」

 ふくの発言にヴォルフは完全に目を覚まし、ふくの姿を見る。
 上から下までじっくり見る。
 全身の体毛は無くなり、尻尾も消失。
 長いマズルや大きな耳。
 キツネの特徴は全て無くなっていた。
 完全な人間に戻っており、この世界に来た頃のふくであった。
 ふくは胸に手を当てて不安そうな顔をする。
 ヴォルフは尻尾を使ってふくを抱き寄せ、ペロッと顔を舐める。
 今までは毛皮のおかげで何も感じなかったが、直に舐められるとくすぐったいのだった。

「わし……もう、この世界に居られぬのか……?わしはまだこの世界に残りたい……。ぼるふ……其方と一緒におりたいのじゃ……!」

「大丈夫。ふくの魔力を作る器官は存在してるよ。だから、完全な魔力切れで、オレも魔力が殆ど無いから人間の姿に戻ったのかと思うよ」

「また……キツネの姿に戻れるのかの……」

「もちろん!」

 ふくはヴォルフの言葉に安心して、彼の首の毛に飛び込む。
 二人を囲んでいたライラたちが目を覚まし、ふくの姿に驚愕する。
 艶のある黒い長髪、妖狐の姿の時から変わらぬ切れ長の目、上品な黒い瞳、そして豊満な胸部と臀部。
 一応、巫女姿ではあったので肌が露出していないのだが、肝心なところを隠せておらず、ちょっぴり服の上からそれが確認できた。
 それを見たポチおは、目尻を下げ鼻の下を伸ばす。
 にゃんがそれを嗜めるのであった。
 ふくは不機嫌そうな顔をしながら歩き、全員が人間姿のふくを確認する。

「キレイ……!」

「美しい……」

「カッコいい……」

「ちく……ぶべっ!」

「コラっ!」

 ポチおが言いかけたことを理解し、自身の胸を確認すると、確かに目立つものであった。
 少し恥ずかしくなり、腕を組んで胸を隠す。

「……見ての通り、わしは人間の姿に戻っておる。魔力が戻ればキツネの姿に戻るみたいじゃが、それまで待っておくれ」

 ライラは魔力がなくなったふくを見てもう少しだけ待つことにしたのであった。

 §

 一方、町ではお祭り騒ぎのような感じであった。
 突然、魔力の波動を浴びたと思ったら、次々と草花が生い茂り、畑からは沢山の作物が収穫できるようになった。
 これにより草食系の獣人たちは喜び、肉食系の獣人は発情期を迎えた。
 もちろん草食系獣人も発情期を迎えているため、次々と番が増えていった。
 隔離されている野狐族にも春は訪れる。
 その中で一人【太陽】を見つめる一人の女の子が建物の縁側で座っていた。
 彼女は尾を三本持ち、頬に赤い紋様を浮かび上がらせていた。
 髪の毛は無く、キツネの顔がよくわかる姿をしており、母譲りの切れ長な目、そして、豊満な胸部と臀部が特徴的であった。
 首のふさふさな体毛にはまだ見ぬ母と同じような石飾りを付けており、紅白の巫女の姿をしていた。
 これは族長のウルチが仕立てたものであった。
 あの事件以降、ふくは野狐族のところに現れなくなり、実質放置状態であったが、未だに野狐族は他種族との交流をすることがなかった。

「わたし……野狐族の代表として頑張るからね!ウルチ様もよーく見ていてね!」

 とても明るく振る舞う彼女の名は『玉藻』であった。

 §

 【太陽】がすっかり夜を示す闇の中、ふくは目を覚ます。
 ボリボリと頭を掻きながら身体を起こすと妖狐の姿に戻っていた。
 どうやら魔力が戻ってきていたようで、とても体が軽く感じた。
 体毛は輝きがない為、白金ではない事を確認し、ヴォルフをゆすって起こす。

「ぼるふ、起きるのじゃ。そろそろ下の方へ降りるからの」

「ふぁい……」

 ふくは指をパチンと鳴らして【覚醒】の魔法を発動させる。
 すると、眠っていたライラたちは飛び起きる。
 キョロキョロと周りを見るが、残念ながら夜目が利かず困惑する。

「ライラ、落ち着いて?【篝火】の魔法を使えばいいんだ」

「そ、そっか……。ありがと♪ガルド君!『小さき炎よ、我らの道を照らせ』」

 ライラの掌に小さな火球が現れ、周囲を照らす。
 すると、妖狐の姿に戻ったふくが見え、状況を察する。

「ふく様!そろそろ降りるの?」

「うむ。待たせたの。皆よ、わしに掴まるのじゃ」

 全員がふくに掴まった事を確認すると指をパチンと鳴らし視界がグルンと回る。
 すると宙に放り出されたようで、そのまま落下していた。

「いやああぁぁ!?なんでえぇぇぇぇ!?」

 突然中に放り出されてライラがパニックになる。
 ふくを見ると意識を手放しており、魔力が完全に回復していない状態で【瞬転】を行った事で中途半端な距離しか移動できていなかったのだった。
 ヴォルフは獣人の姿になり、【絶対】で氷の足場を出現させ、ふくを抱き抱える。
 そして、ふくとヴォルフの家のある浮き島に向かうように氷のスライダーを作り出し、全員がそれを滑ることになった。
 最後はボウル状になっており、速度が落ちるまでグルグルと周回して、ようやく地に足をつけられることになった。
 ライラはレプレを抱き抱え、足をプルプルと振るわせて歩く。

「じ……じぬがど思っだ……」

「生きた心地しなかったな……」

「【瞬転】も簡単に使える魔法ではないんだね……」

「しょうがないよ。まだまだ、本調子じゃないみたいだし……」

「今日はお前たち、ウチに泊まってけ。こんな暗い中、歩くのは危険だからな」

 ライラたちはふくとヴォルフの新居に泊まることになり、一晩明かすこととなったのである。
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