キツネの女王

わんころ餅

文字の大きさ
上 下
70 / 108

魔物が言葉を使ったのじゃ

しおりを挟む
 ふくたち四人は突如現れた二つの魔物に戦闘態勢になる。
 ライラとガルドは魔物から発せられる強大な魔力に気圧され、ジリジリと後ろに下がる。
 今までに会ってきた魔物は確かに強いものだったが、この二つの魔物の実力はそれらを遥かに凌駕していた。

「……っ!?」

「……ら、ライラさん……!私の後ろに……!」

 何一つ表情を変えなかったのはヴォルフとふくだった。
 二人の魔力は魔物の魔力と比べるまでもない差があるあった。
 衝撃波の魔法、【絶対】の魔法はドラゴンですら防ぐ事ができず、魔物もこの力には何もできないためである。
 ゆっくりと歩みを進めていく魔物は驚く事をして一同は凍りつく。

「……えっと~。ここはどこ?」

「し……し……」

「「「「しゃべったーっ!?!!!?!」」」」

 なんと魔物は言葉を発したのだ。
 驚かれている魔物は頭をポリポリと掻き、もう一人の魔物と首を傾げていた。

「ねぇ、キミたちここの住人?凄いっ!モフモフだ!獣人だよ!」

 走ってモフモフしようと接近するとふくたちは同じ速さで逃げる。

「な、なんじゃ……!?この者たち……」

「オイラはオクト!こっちはセブ。人類強化実験で失敗作で捨てられた元ニンゲンさ!」

 オクトに紹介されたセブはお辞儀をする。
 オクトとセブは敵意こそないものの魔力を隠蔽していないことから魔法を使った事がないのだと理解する。

「それにしてもじゃ、お前の魔法の力は異常に強いの……わしの足元にもお――」

「凄いよ、セブ!日本語喋れるっ!キツネさん!日本人?何県出身?いつの実験者?それとそれとね――」

「やかましいのじゃ!」

 ――パチンッ!

 衝撃波の魔法がオクトとセブを襲い、暴風が吹き荒れる。
 砂埃が立ち込め視界を塞ぐ。
 いきなり殺意の高い魔法を使い、ヴォルフは恐る恐るふくに訊く。

「お、おいおい……やりすぎじゃないか?」

「たわけ!相手は魔物じゃ!言葉巧みに騙して命を取るやもしれんのじゃ!それに見てみるのじゃ、あやつらわしの魔法、手加減したが耐えておる」

 砂埃が晴れていき、魔力をドーム状にして盾を作ったオクトとセブが立っていた。
 盾に亀裂が入り、粉々になって砕ける。
 オクトは膝をついて俯くと、セブがふくを睨みつけた瞬間、一瞬でふくの目の前に姿を現す。
 セブの爪がふくを切り裂く瞬間、その時は来る事なかった。
 【絶対】の魔法で首から下を完全に停止され、宙に固定されたままふくに威嚇をする。

「オクトさんを……よくも……!」

「まあまあ、落ち着きなって。ふくも、頭を冷やして?」

 オクトと名乗る魔物はばたりと倒れる。
 その倒れ方は魔力切れであり、気絶したようだ。
 それを見たセブと名乗る魔物は魔力を昂らせていく。
 顔に紋様が浮かび上がり、瞳の色が金色になっていく。

「王族変異……!?」

「早く殺すのじゃ!らいら!がるど!魔法の準備をするのじゃ!」

 ライラとガルドは急いで魔法の準備をしていくが、急にセブの頭がガクッと落ちた。

「魔力切れだ……」

「……なんと間抜けな魔物じゃ……。早うとどめを刺さぬと寝首を掻かれてしまうのじゃ」

「いや、少しだけ様子を見ないか?コイツら獣人だよ?」

 魔力が無くなり、直視できなかった身体は段々と姿が見えるようになる。
 オクトは全身が茶色や金色のような毛並みをし、お腹の部分だけ白い毛に覆われ、大きな垂れ耳が特徴の犬族の男性であった。
 そして、セブは全身白色や銀が入った毛並みをし、その華奢な体付きは猫族であった。
 魔物と勘違いしている者は獣人であり、ふくの頭が混乱する。

「なぜ穴から這い出て、魔物と同じような感じがしたのじゃ……?」

「それも含めてコイツらに聴いてみよう?」

「私もそれがいいと思います。危ないかもしれませんが、なんと言うか……」

「敵意が感じられなかったの!最後の猫のヒトはふく様に敵対したけど、多分……犬のヒトが倒れたから報復したのかな……?」

「うむむ……お前たちまで……。しょうがないのじゃ……。今日はこの辺りで野宿でもするのじゃ。準備するぞ、らいら」

 ふくは木を一本生やし、風魔法で切り刻む。
 ガルドはそれを綺麗に組み上げていき、ライラが点火する。
 炎はゴウゴウ燃えるが、凍土は解けることがない。
 ライラがすぐ側に座り、ガルドを温める。
 一方ヴォルフはオクトとセブを見張っていた。


 オクトが目を覚ますと目の前に火が広がっていた。

「うわわわわわっ!?」

「うわっ、びっくりした」

 慌てて飛び起きたオクトにヴォルフは一瞬ビックリし、立ち上がる。
 体格差が激しく、オクトはしょんぼりする。
 すると、眠っているセブが目に入り、髪を撫でる。

「なあ、犬っころ」

「犬っころ?」

「お前だ、お前」

「え、オイラは犬になったの……!?」

「知らなかったのかよ」

 オクトは嬉しそうに犬獣人の体を眺めながら尻尾をふる。
 言葉が通じていき、どんどん魔物でないと思い始めていく。

「目的はなんだ?」

「目的?オイラたち、失敗作は捨てられたんだ。目的なんてないよ?」

「それじゃあ、辻褄が合わないんだ。オレたちが魔物と呼んでいるヤツはオレたちの世界を壊しているんだ。ふくが気を張っているのはそう言う事」

 オクトはどう説明したら良いのか分からずシュンとなってしまう。
 すると、穴から再び這い出てくるものが現れた。

「魔物じゃ!戦闘の準備をするのじゃ!ぼるふはそ奴らを見ておれ!」

「え……!?大丈夫なの!?」

「あれは……不適合者……!?オイラも協力するよ!」

 オクトが魔力を込めた瞬間、恐ろしく速い手刀でドスリと首を打ち付けられ、気を失った。
 その光景を見た三人はジトーとした目でヴォルフを見つめるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...