キツネの女王

わんころ餅

文字の大きさ
上 下
67 / 108

野狐族も繋がりを持っておったのじゃ

しおりを挟む
 凍土を走っていると、歩いている団体を見つけ、進路の前に立ち塞がる。
 ふくは野狐族の前に出て長い髪の毛を後頭部で紐を使い、結ぶ。

「野狐族よ、どこへ向かうのじゃ?」

「コリー様に逃げろと言われ、逃げております……。コリー様は……無事なのですか?」

「……残念じゃが、こりぃは死んだのじゃ。お前たちを助ける為、立派な仕事をこなしてくれたのじゃ。ひとつ問う。この中で年長者は誰かの?」

「ぼ、ボクです……」

 一族の中から背の低い二尾の狐が現れる。
 尾が増えていることから非常に魔力が高く、歳を取ったヒトとふくは感じる。

「名は何という?」

「ウルチです……!ふく様のことはおばあちゃんの【イナホ】から聞いた事があります……!」

「稲穂の孫か!……しっかりと繋がっておるのじゃの……」

 ふくは懐かしい名前を聞き、思わず涙腺が緩みそうになる。
 涙が溢れているのを見せないようにウルチに背を向ける。

「粳よ、今から告げる事はお主たちの一族に少々酷かもしれぬが受け入れるのじゃ」

 そう言うと野狐族が少しざわめき始める。
 ヴォルフが前に出てくるとその威圧感で、ざわめきが鎮まる。

「お前たちはツネマロのせいで隔離をさせてもらう事になった。ふざけるなと思うかもしれないが、他の国民に示しがつかないから受け入れてくれ」

「じゃが、お前たちには頼みがあっての。隔離というのは名目上であって、元素魔法の使い手の多い野狐族にいち早く育って欲しいのじゃ。国を襲った【それ】を斃すために……。差別を受けるかもしれぬが、国の為に頼まれてくれぬだろうか?」

「……わかりました。綱彦は国に迷惑をかけた大罪人です。そう言った扱いを受けてしまうことを受け入れます。そして、ボクたち野狐族は王の為に魔法に磨きをかけます。……えっと、誰か指導者はいるのですか?」

 そう聞かれると思わず、迷っているとヴォルフの背中から二人のヒトが飛び降りる。

「ウチの出番ね!」

「そうだな。ケモノの国に助けられた身、しっかりと責務は果たさせてもらいます」

 ライラとガルドはいつの間にか起きていた様でやる気満々で指導をする気になっていた。
 そんな二人をふくは慌てて止める。
 
「ま、待つのじゃ!お前たちはわしの旅に必要な人材じゃ!勝手なことは許さぬ」

「「ええ~っ!!」」

「けど、誰が教えるんだ?きちんとした使い手が教えないと育たないだろう?」

「わたくしが引き受けます」

 不意に声をかけられ、野狐族は振り返る。
 鳥人族の王、セイラが立っていた。
 そして、彼女の顔と同じ大きさのキラキラ輝く石を持って、何か決心した表情をしていた。

「せいら、お主は特殊な魔法の使い手ときいておるのじゃが……」

「この石……レオン様の知識の結晶です。レオン様がふく様の助けになる様に知識を全て石に込められた様なのです。わたくしはレオン様の遺志を継ぎ、野狐族の指導に当たり、使い手を増やすことを誓います……!」

「れおんの遺志……か。それならばせいら、野狐族の事は任せたのじゃ。くれぐれも、他の民にこの事が伝わらぬ様頼むのじゃ。名目上では綱彦の一件で粛清しておる事にするからの」

 それを聞き、セイラは理解して頷いた。
 千年に及ぶ野狐族の……主に綱彦による迫害を受けた種族が多く、この粛清は正しいものだと感じていたからだ。

「ふく様は甘いです。普通なら二度とこういう事がない様な罰……魔法の没収などさせるのが普通なのです」

「……しょうがないのじゃ。わしも綱彦に【命令】されておったとはいえ、加担した身。せいらの言う罰が正しいのじゃが、そうすると、わしの魔法を没収する事になる。……意地悪を言ってすまぬ」

 現状ヴォルフとふくの二人だけドラゴンと【それ】に対抗できる為、ふくの魔法を没収すると国は確実に滅ぶ。
 それがセイラにはよくわかるので反論ができずにいた。
 ふくはセイラの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で見つめる。

「わしはこの国を栄えさせ、若い子達を守り育てる事が、わしにできる贖罪なのじゃ。野狐族にはその贖罪に加担させ、この国を影から守る存在になり、決して賞賛を受ける立場に上げさせない。野狐族の……野狐であったわしのやるべき事なのじゃ」

 セイラはそれを聴き、諦めた様に首を横に振る。

「……分かりました。野狐族の長、貴方は何と名乗る?」

「う、ウルチです……!」

「ウルチ……ですね。今日から国の指定する場所で訓練を受け、自分の魔法に磨きをかけなさい。食料なども元素魔法を利用して調達し、野狐族のみでの生活をするのです。他種族へ干渉は許しませんが、戦災孤児となった子供はふく様が新たに作られる学舎に入る事を許可します。わたくしはふく様のように甘くはないので従いなさい」

 ウルチは両膝をつき、両手を差し出し、手のひらを向けた状態で頭を下げる。
 その行動に他の野狐族も同じ行動をしていく。

「野狐族の長、ウルチはヴォルフ様、ふく様、セイラ様のご寛大な処置に感謝致します。先代長の綱彦が他種族へ行った非道な行動の数々を我々一同、身を粉にしてこの国の為に尽力させていただきます。どうか、よろしくお願いいたします」

「「「「お願いしますっ!」」」」

 セイラが予想していないほどの丁寧な対応に、タジタジになり、ヴォルフとふくを見ると焦ったセイラをニヤニヤと笑みを浮かべていた。

(なんてヒトなのっ!)

 心の中で叫び、気丈な振る舞いに戻るのであった。
 こうして野狐族は表面上では粛清として、多種族との交流を禁止させ、自給自足の生活をさせる様にした。
 そして、それをセイラは公表し他種族へ伝えた。
 もう一つ、ふくを暴虐の女王ということも流す。
 これはふくがそうして欲しいと頼んだからである。
 それは本人の言葉では、

『わしはまだ、正式な女王として認められる様な事は何一つしておらん。それまでは恐怖の存在であることにして欲しいのじゃ』

 と言い、そのまま姿を消した。
 セイラはヴォルフの指示の下、行動しているように見せていた。
 ヴォルフ、ふく、ライラ、ガルドは再び旅に出て行ったのである。
 セイラは国を放ったらかしにする神二人に悪態を吐きながらも、彼らが戻ってくることを待っていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

荒野のオオカミと砂漠のキツネ

Haruki
恋愛
とあるキツネ族に恋してしまったオオカミ しかしその二つの種族はとある問題で対立中であった… そんな国同士のいざこざに巻き込まれるオオカミの葛藤を描いた、 二匹…いや二人の恋物語。

処理中です...