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野狐族も繋がりを持っておったのじゃ
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凍土を走っていると、歩いている団体を見つけ、進路の前に立ち塞がる。
ふくは野狐族の前に出て長い髪の毛を後頭部で紐を使い、結ぶ。
「野狐族よ、どこへ向かうのじゃ?」
「コリー様に逃げろと言われ、逃げております……。コリー様は……無事なのですか?」
「……残念じゃが、こりぃは死んだのじゃ。お前たちを助ける為、立派な仕事をこなしてくれたのじゃ。ひとつ問う。この中で年長者は誰かの?」
「ぼ、ボクです……」
一族の中から背の低い二尾の狐が現れる。
尾が増えていることから非常に魔力が高く、歳を取ったヒトとふくは感じる。
「名は何という?」
「ウルチです……!ふく様のことはおばあちゃんの【イナホ】から聞いた事があります……!」
「稲穂の孫か!……しっかりと繋がっておるのじゃの……」
ふくは懐かしい名前を聞き、思わず涙腺が緩みそうになる。
涙が溢れているのを見せないようにウルチに背を向ける。
「粳よ、今から告げる事はお主たちの一族に少々酷かもしれぬが受け入れるのじゃ」
そう言うと野狐族が少しざわめき始める。
ヴォルフが前に出てくるとその威圧感で、ざわめきが鎮まる。
「お前たちはツネマロのせいで隔離をさせてもらう事になった。ふざけるなと思うかもしれないが、他の国民に示しがつかないから受け入れてくれ」
「じゃが、お前たちには頼みがあっての。隔離というのは名目上であって、元素魔法の使い手の多い野狐族にいち早く育って欲しいのじゃ。国を襲った【それ】を斃すために……。差別を受けるかもしれぬが、国の為に頼まれてくれぬだろうか?」
「……わかりました。綱彦は国に迷惑をかけた大罪人です。そう言った扱いを受けてしまうことを受け入れます。そして、ボクたち野狐族は王の為に魔法に磨きをかけます。……えっと、誰か指導者はいるのですか?」
そう聞かれると思わず、迷っているとヴォルフの背中から二人のヒトが飛び降りる。
「ウチの出番ね!」
「そうだな。ケモノの国に助けられた身、しっかりと責務は果たさせてもらいます」
ライラとガルドはいつの間にか起きていた様でやる気満々で指導をする気になっていた。
そんな二人をふくは慌てて止める。
「ま、待つのじゃ!お前たちはわしの旅に必要な人材じゃ!勝手なことは許さぬ」
「「ええ~っ!!」」
「けど、誰が教えるんだ?きちんとした使い手が教えないと育たないだろう?」
「わたくしが引き受けます」
不意に声をかけられ、野狐族は振り返る。
鳥人族の王、セイラが立っていた。
そして、彼女の顔と同じ大きさのキラキラ輝く石を持って、何か決心した表情をしていた。
「せいら、お主は特殊な魔法の使い手ときいておるのじゃが……」
「この石……レオン様の知識の結晶です。レオン様がふく様の助けになる様に知識を全て石に込められた様なのです。わたくしはレオン様の遺志を継ぎ、野狐族の指導に当たり、使い手を増やすことを誓います……!」
「れおんの遺志……か。それならばせいら、野狐族の事は任せたのじゃ。くれぐれも、他の民にこの事が伝わらぬ様頼むのじゃ。名目上では綱彦の一件で粛清しておる事にするからの」
それを聞き、セイラは理解して頷いた。
千年に及ぶ野狐族の……主に綱彦による迫害を受けた種族が多く、この粛清は正しいものだと感じていたからだ。
「ふく様は甘いです。普通なら二度とこういう事がない様な罰……魔法の没収などさせるのが普通なのです」
「……しょうがないのじゃ。わしも綱彦に【命令】されておったとはいえ、加担した身。せいらの言う罰が正しいのじゃが、そうすると、わしの魔法を没収する事になる。……意地悪を言ってすまぬ」
現状ヴォルフとふくの二人だけドラゴンと【それ】に対抗できる為、ふくの魔法を没収すると国は確実に滅ぶ。
それがセイラにはよくわかるので反論ができずにいた。
ふくはセイラの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で見つめる。
「わしはこの国を栄えさせ、若い子達を守り育てる事が、わしにできる贖罪なのじゃ。野狐族にはその贖罪に加担させ、この国を影から守る存在になり、決して賞賛を受ける立場に上げさせない。野狐族の……野狐であったわしのやるべき事なのじゃ」
セイラはそれを聴き、諦めた様に首を横に振る。
「……分かりました。野狐族の長、貴方は何と名乗る?」
「う、ウルチです……!」
「ウルチ……ですね。今日から国の指定する場所で訓練を受け、自分の魔法に磨きをかけなさい。食料なども元素魔法を利用して調達し、野狐族のみでの生活をするのです。他種族へ干渉は許しませんが、戦災孤児となった子供はふく様が新たに作られる学舎に入る事を許可します。わたくしはふく様のように甘くはないので従いなさい」
ウルチは両膝をつき、両手を差し出し、手のひらを向けた状態で頭を下げる。
その行動に他の野狐族も同じ行動をしていく。
「野狐族の長、ウルチはヴォルフ様、ふく様、セイラ様のご寛大な処置に感謝致します。先代長の綱彦が他種族へ行った非道な行動の数々を我々一同、身を粉にしてこの国の為に尽力させていただきます。どうか、よろしくお願いいたします」
「「「「お願いしますっ!」」」」
セイラが予想していないほどの丁寧な対応に、タジタジになり、ヴォルフとふくを見ると焦ったセイラをニヤニヤと笑みを浮かべていた。
(なんてヒトなのっ!)
心の中で叫び、気丈な振る舞いに戻るのであった。
こうして野狐族は表面上では粛清として、多種族との交流を禁止させ、自給自足の生活をさせる様にした。
そして、それをセイラは公表し他種族へ伝えた。
もう一つ、ふくを暴虐の女王ということも流す。
これはふくがそうして欲しいと頼んだからである。
それは本人の言葉では、
『わしはまだ、正式な女王として認められる様な事は何一つしておらん。それまでは恐怖の存在であることにして欲しいのじゃ』
と言い、そのまま姿を消した。
セイラはヴォルフの指示の下、行動しているように見せていた。
ヴォルフ、ふく、ライラ、ガルドは再び旅に出て行ったのである。
セイラは国を放ったらかしにする神二人に悪態を吐きながらも、彼らが戻ってくることを待っていたのだった。
ふくは野狐族の前に出て長い髪の毛を後頭部で紐を使い、結ぶ。
「野狐族よ、どこへ向かうのじゃ?」
「コリー様に逃げろと言われ、逃げております……。コリー様は……無事なのですか?」
「……残念じゃが、こりぃは死んだのじゃ。お前たちを助ける為、立派な仕事をこなしてくれたのじゃ。ひとつ問う。この中で年長者は誰かの?」
「ぼ、ボクです……」
一族の中から背の低い二尾の狐が現れる。
尾が増えていることから非常に魔力が高く、歳を取ったヒトとふくは感じる。
「名は何という?」
「ウルチです……!ふく様のことはおばあちゃんの【イナホ】から聞いた事があります……!」
「稲穂の孫か!……しっかりと繋がっておるのじゃの……」
ふくは懐かしい名前を聞き、思わず涙腺が緩みそうになる。
涙が溢れているのを見せないようにウルチに背を向ける。
「粳よ、今から告げる事はお主たちの一族に少々酷かもしれぬが受け入れるのじゃ」
そう言うと野狐族が少しざわめき始める。
ヴォルフが前に出てくるとその威圧感で、ざわめきが鎮まる。
「お前たちはツネマロのせいで隔離をさせてもらう事になった。ふざけるなと思うかもしれないが、他の国民に示しがつかないから受け入れてくれ」
「じゃが、お前たちには頼みがあっての。隔離というのは名目上であって、元素魔法の使い手の多い野狐族にいち早く育って欲しいのじゃ。国を襲った【それ】を斃すために……。差別を受けるかもしれぬが、国の為に頼まれてくれぬだろうか?」
「……わかりました。綱彦は国に迷惑をかけた大罪人です。そう言った扱いを受けてしまうことを受け入れます。そして、ボクたち野狐族は王の為に魔法に磨きをかけます。……えっと、誰か指導者はいるのですか?」
そう聞かれると思わず、迷っているとヴォルフの背中から二人のヒトが飛び降りる。
「ウチの出番ね!」
「そうだな。ケモノの国に助けられた身、しっかりと責務は果たさせてもらいます」
ライラとガルドはいつの間にか起きていた様でやる気満々で指導をする気になっていた。
そんな二人をふくは慌てて止める。
「ま、待つのじゃ!お前たちはわしの旅に必要な人材じゃ!勝手なことは許さぬ」
「「ええ~っ!!」」
「けど、誰が教えるんだ?きちんとした使い手が教えないと育たないだろう?」
「わたくしが引き受けます」
不意に声をかけられ、野狐族は振り返る。
鳥人族の王、セイラが立っていた。
そして、彼女の顔と同じ大きさのキラキラ輝く石を持って、何か決心した表情をしていた。
「せいら、お主は特殊な魔法の使い手ときいておるのじゃが……」
「この石……レオン様の知識の結晶です。レオン様がふく様の助けになる様に知識を全て石に込められた様なのです。わたくしはレオン様の遺志を継ぎ、野狐族の指導に当たり、使い手を増やすことを誓います……!」
「れおんの遺志……か。それならばせいら、野狐族の事は任せたのじゃ。くれぐれも、他の民にこの事が伝わらぬ様頼むのじゃ。名目上では綱彦の一件で粛清しておる事にするからの」
それを聞き、セイラは理解して頷いた。
千年に及ぶ野狐族の……主に綱彦による迫害を受けた種族が多く、この粛清は正しいものだと感じていたからだ。
「ふく様は甘いです。普通なら二度とこういう事がない様な罰……魔法の没収などさせるのが普通なのです」
「……しょうがないのじゃ。わしも綱彦に【命令】されておったとはいえ、加担した身。せいらの言う罰が正しいのじゃが、そうすると、わしの魔法を没収する事になる。……意地悪を言ってすまぬ」
現状ヴォルフとふくの二人だけドラゴンと【それ】に対抗できる為、ふくの魔法を没収すると国は確実に滅ぶ。
それがセイラにはよくわかるので反論ができずにいた。
ふくはセイラの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で見つめる。
「わしはこの国を栄えさせ、若い子達を守り育てる事が、わしにできる贖罪なのじゃ。野狐族にはその贖罪に加担させ、この国を影から守る存在になり、決して賞賛を受ける立場に上げさせない。野狐族の……野狐であったわしのやるべき事なのじゃ」
セイラはそれを聴き、諦めた様に首を横に振る。
「……分かりました。野狐族の長、貴方は何と名乗る?」
「う、ウルチです……!」
「ウルチ……ですね。今日から国の指定する場所で訓練を受け、自分の魔法に磨きをかけなさい。食料なども元素魔法を利用して調達し、野狐族のみでの生活をするのです。他種族へ干渉は許しませんが、戦災孤児となった子供はふく様が新たに作られる学舎に入る事を許可します。わたくしはふく様のように甘くはないので従いなさい」
ウルチは両膝をつき、両手を差し出し、手のひらを向けた状態で頭を下げる。
その行動に他の野狐族も同じ行動をしていく。
「野狐族の長、ウルチはヴォルフ様、ふく様、セイラ様のご寛大な処置に感謝致します。先代長の綱彦が他種族へ行った非道な行動の数々を我々一同、身を粉にしてこの国の為に尽力させていただきます。どうか、よろしくお願いいたします」
「「「「お願いしますっ!」」」」
セイラが予想していないほどの丁寧な対応に、タジタジになり、ヴォルフとふくを見ると焦ったセイラをニヤニヤと笑みを浮かべていた。
(なんてヒトなのっ!)
心の中で叫び、気丈な振る舞いに戻るのであった。
こうして野狐族は表面上では粛清として、多種族との交流を禁止させ、自給自足の生活をさせる様にした。
そして、それをセイラは公表し他種族へ伝えた。
もう一つ、ふくを暴虐の女王ということも流す。
これはふくがそうして欲しいと頼んだからである。
それは本人の言葉では、
『わしはまだ、正式な女王として認められる様な事は何一つしておらん。それまでは恐怖の存在であることにして欲しいのじゃ』
と言い、そのまま姿を消した。
セイラはヴォルフの指示の下、行動しているように見せていた。
ヴォルフ、ふく、ライラ、ガルドは再び旅に出て行ったのである。
セイラは国を放ったらかしにする神二人に悪態を吐きながらも、彼らが戻ってくることを待っていたのだった。
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