キツネの女王

わんころ餅

文字の大きさ
上 下
65 / 108

優秀な者を失ったのじゃ……

しおりを挟む
 コリーの石斧が【それ】の顎に当たり、脳みそを揺らす。
 ふらついた一瞬を見逃さず、脳天に目掛けて石斧を振り下ろす。
 直撃した瞬間――
 
 バゴォッ!!

 石斧は砕け散ったが、表皮を裂き、骨を砕いたようで緑色の体液を撒き散らしていく。

『ガアァァァァァァッ!?』

 叫びが国中をこだまし、その声量にコリーは思わず耳を塞ぐ。
 その瞬間、背中から胸にかけて触手が貫通し、コリーにトドメを刺す。
 両手をだらんと下げ、口から、切断された所から大量の血を流す。
 目を閉じて身体の力を抜いていく。

(ここまで……か。コロン……俺は役に立てた……だろうか……?ヴォルフ様……申し訳ございません……。ふく様……お子様は無事でしたよ……。レオン……直ぐに行くよ……)

「こりぃ!しっかりするのじゃ!」

 突然呼ばれゆっくりと目を開けるとふくの姿が目に入る。
 体が痺れ、力が入らず、もう動くことは叶わないだろう。
 最後の力を振り絞って口を開く。

「あと……は……たの……み…………ます……。野狐……のヒト……に…………」

「こりぃ……?」

「……」

 コリーは最後まで告げることができず、息絶えた。
 ふくはポロポロと涙を流し、コリーを抱き抱える。
 
「ばかもの……死んでどうするのじゃ……!お前にはまだまだやってもらう事沢山あったのじゃ!死ぬことは許さぬ!」

「……ふく。片眼の犬のためにも……獅子頭のためにも、コイツは絶対に倒すぞ……!」

 コリーの遺体をゆっくりと寝かせ、髪を撫でる。
 魔力を最大まで昂らせ、【それ】を睨みつける。

「わしの大事なものを奪った代償は高く付くのじゃ……!簡単に殺させぬぞ……!」

 植物と人間、そして爬虫類のような鱗をもつ【それ】は腕を鞭のように振り回し、ふくに攻撃する。
 しかし、その腕はヴォルフの氷によって動きを止められ、ふくは指をパチンと鳴らし、頭を吹き飛ばす。
 衝撃波の魔法はレオンとコリーが苦戦した硬い表皮と骨を軽く吹き飛ばし、仰向けに倒れる。

――本当に手を抜いておったとはの……。恐ろしい女狐よ。貴様の下僕を連れてきてやったぞ。

 龍王の背中から一つの影が飛び降りてくる。
 ふくの目の前に着地したのはガルドで、肩にはライラが載っていた。

「酷い……」

「らいらよ。れおんとこりぃは……死んだのじゃ……。これ以上彼奴を好き勝手にさせる訳にはいかぬ。手を貸すのじゃ……!」

 レオンとコリーが死亡した事を知らされ、絶望するが、ふくのメラメラと燃える闘志に気が付き、ライラは詠唱を始める。

「ふく様、魔法を待機させておきます……!やってください!『火の力よ我の魔力を全て使い、悍ましき力を吹き飛ばせっ!』」

「らいら……頼んだのじゃ……!」

 吹き飛ばされた頭部がズルンと生えた瞬間、【それ】の身体は衝撃波で吹き飛ばされる。
 あまりにも速く肉片が飛び散り、それだけで国民や国に被害が及ぶため、【絶対】の力で速度を停止させた上分子ごと再生不能まで破壊する。
 体内から現れたどす黒い石が現れ、脈動する。

「ライラやれ!」

「らいら頼むのじゃ!」

 地獄の業火と言わんばかりの火がどす黒い石を包み込む。
 その火力で少しずつヒビが入っていき、確実に壊していくが、脈動がだんだんと速くなっていく。
 ライラは突然気を失い倒れると、火は鎮火する。
 魔力が無くなり、気を失ったようだった。

「らいら!?どうしたのじゃ!?」

「不味いな、ウサギちゃんの魔力がないぞ……!多少の被害は覚悟で【浄化】するしかない!」

「ううむ……ぼるふ、頼むのじゃ……!」

 気を失ったライラとふくを背に乗せて跳び上がる。
 手を祈るように合わせ、詠唱を始める。
 同時にどす黒い石の脈動も更に加速する。

「でぇぇぇぇえ、りゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 気合の入った声がヴォルフの真上から聞こえ、二人は見上げる。
 水が竜の形を形どり、どす黒い石に向かって真っ直ぐ飛んでいく。

「がるどじゃ!あんな高う跳んでおったのか!?」

「間に合わないかもしれない……!あの石も限界だ……!どうする!?」

「うう……。どうすれば……!ん……!?」

 ふくはヴォルフの首元が光った事に気が付き、それを手に取る。
 二つの小さな石であり、ふくは見覚えがあった。

「小麦、忠太郎……!?お前たちは……わしに力を……!?……やるしかないの……」

 ふくは小さな石を手で包み込み額に当てる。
 すると、石からわずかな意思が伝わり、石に向かって困ったような笑顔を見せる。
 
「忠太郎お前の魔法は……【掘削】ではなかったの……。ガルドよ!魔法を受け取るのじゃ!『重力よ、更に強く!』」

 強い重力波が生じ、全てを押しつぶすかの如く地面に向けて力を加えていく。
 強大な魔力を帯びているヴォルフには全くと言っていいほど効果はなかったのだが、ガルドの落下速度が急上昇する。
 どす黒い石がドクンッと大きな鼓動をあげた瞬間、水の竜が石を砕いた。
 砕かれた石がどす黒い靄を出す前にガルドの魔法の水を吸収し、靄が出ないまま溶けて無くなっていった。
 ふくは【重力】の魔法を解き、ヴォルフはガルドのいるところに向かって氷の足場を作り、跳んでいく。

「ゼェ……ゼェ……!」

「がるど!よくやったのじゃ!成功したのじゃ!」

 仰向けに倒れているガルドを無理やり起こして、抱きしめる。
 豊満な胸にマズルを埋められ、そのまま気を失ったのはその後に知るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

おてんば末っ子令嬢、実は前世若頭だった!? 〜皆で領地を守ります!〜

撫羽
ファンタジー
組長の息子で若頭だった俺が、なんてこったい! 目が覚めたら可愛い幼女になっていた! なんて無理ゲーだ!? 歴史だけ古いヤクザの組。既に組は看板を出しているだけの状況になっていて、組員達も家族のアシスタントやマネージメントをして極道なのに平和に暮らしていた。組長が欠かさないのは朝晩の愛犬の散歩だ。家族で話し合って、違う意味の事務所が必要じゃね? と、そろそろ組の看板を下ろそうかと相談していた矢先だった。そんな組を狙われたんだ。真っ正面から車が突っ込んできた。そこで俺の意識は途絶え、次に目覚めたらキラキラした髪の超可愛い幼女だった。 狙われて誘拐されたり、迫害されていた王子を保護したり、ドラゴンに押しかけられたり? 領地の特産品も開発し、家族に可愛がられている。 前世極道の若頭が転生すると、「いっけー!!」と魔法をぶっ放す様な勝気な令嬢の出来上がりだ! 辺境伯の末娘に転生した極道の若頭と、前世でも若頭付きだった姉弟の侍従や皆で辺境の領地を守るぜ! ムカつく奴等にはカチコミかけるぜ!

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな
ファンタジー
 ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。  そして、王太子殿下の婚約者でもあった。  だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。 「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」  父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。  

処理中です...