キツネの女王

わんころ餅

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焚き火の前で語らうのじゃ

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 夜になり焚き火は絶えず行い、交代制で眠ることにした。
 洞穴なら一同眠ることが出来るのだが、ドラゴンによって真っ新な大地にされたここではそうはいかない。
 ただただ、ぼーっとしているのは勿体無いのでガルドは槍を素振りし、剣舞のように自身の槍を振るい、技に磨きをかけていた。
 すると火の玉が目の前にユラユラと現れ、挑発するように動く。
 槍で払い除けようと振り回すと、先ほどの動きとは嘘のように俊敏な動きへと変わる。
 突いたり、振り払ったりし、火の玉に攻撃するが、全て避けられる。
 構えを変えようとした瞬間、火の玉が眉間にぶつかり破裂した。
 羽毛が焦げたようなニオイをさせて眉間を擦っていると、欠伸をしながらライラが起きてきた。

「ウチの勝ちだね」

「ライラさん……。あぁ、あの火の玉はライラさんの……!」

 ニシシと笑いながらガルドの隣に座る。
 ガルドも座り、槍の手入れをする。
 
 手入れに夢中になっているガルドを見て、頭をガルドの腕に預ける。
 突然のことで槍を落としてしまい、そのまま硬直する。
 固まっているガルドの腕を小さな両腕でギュッと掴み、頬擦りする。

「ガルド君、今日は助けてくれてありがとう」

「……仲間だし、当然……だろう……?」

「そうじゃないの。ウチのために走って、跳んで、助けてくれて嬉しかったの」

 そういわれ、照れたように頬をポリポリと掻いた。
 そんな仕草を見てはいなかったのだが、照れているというのは、ライラの耳に心音という形で伝わっていた。

「ウチ……ガルド君に会った時、とても怖かったの。竜人族で強い力とか鋭い牙とかがとても怖かったの」

 生まれ持ってしまったもので、今更どうしようもない事に少しだけ悄気ると、今度は正面に回り、ガルドの膝の上に座る。
 お互い向き合った形で、ライラは照れ隠しでニコッと笑うとそのまま抱きしめる。
 そしてガルドはそれに応えるように抱きしめ返す。

「でもそれは先入観だったの。ガルド君はとても強くて、草食獣のウチを助けにきてくれるほど優しいヒトだった。ちっとも怖くなかったよ」

「種族なんて関係ない。私はライラさんを助けたい一心で――」

 それ以上の言葉は出なかった。
 ガルドの口はライラの口によって塞がれ、そのまま舌が捩じ込まれる。
 絡み合い、二人の境界線がだんだんと失われていく。
 竜とウサギでは体温が違うのだが、口の中だけ二人は同じ温度になっていく。

「ガルド君……ひんやりさんなんだね」

「ライラさんはとても温かい……」

 お互いの手がスルスルと衣服の中に入っていった瞬間、

「っへぶしっ!!」

 ふくのくしゃみのがムードを取り払い、二人は慌てて背中合わせになり、何事も無かったかのように振る舞う。

「むにゃ……寒いのじゃぁ……」

「……こっちおいで~……」

 寒くなって丸まっているふくを抱き寄せると、寝ぼけながらも獣人から狼の姿に戻るという器用なことをする光景を見て二人は顔を合わせてニコリとする。
 
(あぶなかったね……)

(そ、そうだね……)

 ふくとヴォルフが寝息を立てたことを確認すると、ライラはガルドの頬に軽くキスをした。
 突然のことで、茫然としているとニシシと笑い、ガルドに抱き付く。

「これからもよろしくね」

 そう言って、ガルドの膝の上で眠り始めた。
 本来はライラが交代で見張りをするのだが、ガルドは嬉しそうに見張りを引き受けるのであった。



 朝になり、ふくは目を覚ますとヴォルフのおなかの上であり、体が凍えずにすんでいた。
 火の番はガルドが引き受けており、ライラが眠っているところを見て、ニヤ~と笑い、ガルドのそばに座る。

「な、なんでしょうか……?」

「昨日はやることをやったのかのぅ?」

「や、やってませんよ!?ライラさんが眠たいから寝かせているだけで……」

「なんじゃ、つまらぬ男じゃの。少しは積極的になってみるべきじゃと思うのじゃがのぅ」

「時と場所は考えますよ……。あの……話は変わるのですが、龍王に会いに行くのはどのようにするのですか?」

 ガルドが指を指した先は海であり、大きな波を立たせ、大変荒れていた。
 ふくの魔法では凍らすことはできても、他より押し寄せる波によってその氷は剥がれたり、砕けたりして渡るのは難しいだろう。
 船や泳いで渡ることはそもそも無理な話だった。
 未だに目を覚まさないヴォルフのそばに座り、鼻を鋭い爪でぶすりと刺す。

「わわわわわ!?」

 痛みのあまりヴォルフは飛び起きて周囲を確認する。
 目の前にはふくが座っており、満足そうな笑顔で見ていた。

「痛いじゃないかぁ……」

「いつまでも寝ておるからじゃ。ぼるふよ、海を凍らせて龍王の住処に行くのじゃ」

「……わかった。でも、クソドラゴンは気性が荒いから、気を付けて話をするんだよ?」

 ヴォルフはそれだけ伝えると、魔力を開放し、大荒れな海をそのまま凍らせた。
 波の形もそのままに凍らせ、その中を歩いていくという想像を絶することが出来るようになった。
 急激な気温の低下にライラは飛び起きて、反射的にガルドに向けて【熱】の魔法を掛ける。

「ガルド君大丈夫!?」

「あ、ああ。まだ火も消えていないから大丈夫だったよ。でも、アリガト」
 
「えへへ……。って海がすごい形で凍ってる!?」

「らいらも起きるのが遅いのじゃ。海を渡るためにぼるふが凍らせたのじゃ」

 あまりに規格外な魔力量と魔法の力にライラは呆然とするが、すぐに表情が険しくなる。

「みんな!海の向こうから何かが飛んでくる!!」

 ヴォルフやふくの魔力探知の範囲よりも遠くの音を拾い、戦闘態勢に入る。
 昨日とは違い、周囲に注意を配るとさらに音を拾う。

「他の方角からも……!?これはドラゴンの音!」

「ライラ、ガルドのことしっかりと暖めてやれ。環境をもっと苛酷にするぞ!」

 ヴォルフがさらに魔力を開放すると冷気だけでなく、吹雪……というよりもブリザードのような、風にさらされているものすべてを凍てつかせる暴風雪が吹き荒れたのだった。
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