55 / 108
セイラは落ち込んだ
しおりを挟む
セイラは深く落ち込んでいた。
わずかな時間とはいえ、ふくと玉藻から目を離し、侵入者の存在を許してしまい、玉藻が誘拐されてしまったためである。
出産は地下室で行われ、外部から侵入することは基本的に不可能であり、地上へつながる階段はヴォルフのいる所しか繋がっていないため、油断していた。
侵入口は至って簡単。
階段の途中に横穴が開けられており、そこから侵入するものだった。
ネズミ族に【命令】したのだろう。
きれいに作られた穴は野狐族の集落に繋がっていた。
野狐族は全員綱彦による【命令】を受けており、正常な判断はできず、かつヴォルフやレオン、コリーといった普段から見ている者たちですら見た目では判断できないほど隠蔽されていた。
彼らが見破れないものをセイラが見破れるはずもなく、落ち度は目を離したこと以外皆無であった。
くちばしをカチカチと鳴らし、ヴォルフとふくのいる地下室へ歩いていく。
殺される覚悟を持って地下室に入ると、二人は身支度をしていた。
「ど、どちらへ行かれるのですか?」
「ん?ふくの子供を探しにな……」
「そ、その前に……わたくしの処分をお願いします……!」
セイラの発言にヴォルフは首をかしげる。
どれだけ考えても思い当たる節がないので直接問いただす。
「お前、何か悪いことしたのか?」
「わ、わたくしが……ふく様を一人にしたばかりに大切なお子様を……」
「綱彦が仕組んだものじゃ……。お前様は何も悪いことはしておらぬ。寧ろわしはお前に感謝しておるのじゃ。お前がおらねばわしは再び死んでおったのじゃろうから……」
「め、滅相もございませんっ!お子様を探す任務、わたくしにもさせてください!」
セイラはぽろぽろと涙をこぼし、懇願する。
もともと責任感の強い彼女は初めのヴォルフとの会話で「国の手伝いをする」ということに尽力していた。
セイラが責任を重く受け取りすぎているように感じたヴォルフは腕を組んで一つ頼み事をする。
「このままふくの子供が死んだら、冥骸獣になってこの国に悪影響が出るかもしれないしな。もしそうなったら、対処できるのはオレとふくだけ。他の奴は来ても足手まといだ」
「せいら。おぬしは『れおん』と『こりぃ』と共にこの国のことを頼みたいのじゃ。なに、政治をしろというのではない。わしらが返ってくるまで三人でこの国を維持してほしいのじゃ」
維持と聞きいたが、セイラは狼狽える。
それは自分の国を守ることができなかった自分に不可能ではないかと思っており、拒否の姿勢になる。
「悪いな。これはどうしても避けられないもんなんだ。万が一オレが死んだらこの世界はフェニックスやクソドラゴンのものになるだろうから、あんまり気にするな。ただ、無理はするなよ?」
ヴォルフはそういうと「う~ん」と背伸びをし、部屋を出ていく。
ふくも巫女の衣装を着て、セイラの横を通り過ぎる。
ふくは一瞬立ち止まり、セイラを見ずに再び歩き出す。
「れおんとこりぃに言っておいてくれの」
本当にそれだけしか言わず、去っていった。
胸に手を当ててその場にしゃがみ込む。
「どうしてあんなに自由なの……?」
「あの二人はそういう性格なのですよ」
「コリー様!?」
コリーはヴォルフとふくの行った先を見つめてため息をつくが、少しも嫌な顔をしていなかった。
続いてレオンも現れ、鬣を手櫛で梳きながら見送る。
「どうして誰も止めないのですか!?」
「どうしてって、あの二人がずっと同じ場所にいるの想像できないし、あの二人にしかできない仕事だってあるからな」
「そうだね。なんだかんだこの国が危ない時は帰ってくるだろうし、具体的な政治は今の国民に指示をしてもできないだろう。私たちにできるのはあのヒトたちが帰ってきたとき、要求に応えられるような力を身に着けるべきだということだ」
「……二人とも悟りすぎですよ……。わたくしも頑張ります……!」
三人は気合を入れて、訓練や国の技術発展に力を入れるのであった。
§
凍土となった荒野を二人が歩いていると、一人の獣人が立ちふさがる。
「ウサギちゃん?何しているんだ?訓練は?」
「ウチを連れて行きなさい!」
「なんで?君じゃあ力不足だぞ?」
「いいからっ!そこの残忍でヒトの話を聞かない呪いの元女王に何かされたら遅いじゃない!肉壁に位はなれるわよ!」
ふくをジィっと睨みながらヴォルフに告げると、ふくはフフッと笑い目線をライラに合わせる。
身長に差があり、胸の大きさでも、魔力や魔法でも負けているライラは「ぐぬぬ……」と声にならない悔しさを表現する。
「面白い兎じゃの。名は何という?」
「…………ライラ」
小声でぼそりと呟く。
ふくは頭をなで、そのまま立ち上がる。
「らいらか……良い名じゃ。ぼるふのことが心配なら着いてくるとよい。じゃが、お前は自身のことは守れるのかの?」
「ば、バカにしないで!ヴォルフ様にはいい魔法を持っているって言われたんだから!」
「そうなのかの?」
「ああ、火の元素魔法なら国民の中で一番強いかもな。オレ達の足元には及ばないが……」
「それだけできるのならば、実践を積んだほうが成長は早いじゃろう。ぼるふさえ良ければわしは構わぬ」
ふくはそう言うとライラは足を鳴らして抗議する。
その圧に圧され渋々ついてくることを許可したのであった。
こうして三人での探索が始まったのである。
わずかな時間とはいえ、ふくと玉藻から目を離し、侵入者の存在を許してしまい、玉藻が誘拐されてしまったためである。
出産は地下室で行われ、外部から侵入することは基本的に不可能であり、地上へつながる階段はヴォルフのいる所しか繋がっていないため、油断していた。
侵入口は至って簡単。
階段の途中に横穴が開けられており、そこから侵入するものだった。
ネズミ族に【命令】したのだろう。
きれいに作られた穴は野狐族の集落に繋がっていた。
野狐族は全員綱彦による【命令】を受けており、正常な判断はできず、かつヴォルフやレオン、コリーといった普段から見ている者たちですら見た目では判断できないほど隠蔽されていた。
彼らが見破れないものをセイラが見破れるはずもなく、落ち度は目を離したこと以外皆無であった。
くちばしをカチカチと鳴らし、ヴォルフとふくのいる地下室へ歩いていく。
殺される覚悟を持って地下室に入ると、二人は身支度をしていた。
「ど、どちらへ行かれるのですか?」
「ん?ふくの子供を探しにな……」
「そ、その前に……わたくしの処分をお願いします……!」
セイラの発言にヴォルフは首をかしげる。
どれだけ考えても思い当たる節がないので直接問いただす。
「お前、何か悪いことしたのか?」
「わ、わたくしが……ふく様を一人にしたばかりに大切なお子様を……」
「綱彦が仕組んだものじゃ……。お前様は何も悪いことはしておらぬ。寧ろわしはお前に感謝しておるのじゃ。お前がおらねばわしは再び死んでおったのじゃろうから……」
「め、滅相もございませんっ!お子様を探す任務、わたくしにもさせてください!」
セイラはぽろぽろと涙をこぼし、懇願する。
もともと責任感の強い彼女は初めのヴォルフとの会話で「国の手伝いをする」ということに尽力していた。
セイラが責任を重く受け取りすぎているように感じたヴォルフは腕を組んで一つ頼み事をする。
「このままふくの子供が死んだら、冥骸獣になってこの国に悪影響が出るかもしれないしな。もしそうなったら、対処できるのはオレとふくだけ。他の奴は来ても足手まといだ」
「せいら。おぬしは『れおん』と『こりぃ』と共にこの国のことを頼みたいのじゃ。なに、政治をしろというのではない。わしらが返ってくるまで三人でこの国を維持してほしいのじゃ」
維持と聞きいたが、セイラは狼狽える。
それは自分の国を守ることができなかった自分に不可能ではないかと思っており、拒否の姿勢になる。
「悪いな。これはどうしても避けられないもんなんだ。万が一オレが死んだらこの世界はフェニックスやクソドラゴンのものになるだろうから、あんまり気にするな。ただ、無理はするなよ?」
ヴォルフはそういうと「う~ん」と背伸びをし、部屋を出ていく。
ふくも巫女の衣装を着て、セイラの横を通り過ぎる。
ふくは一瞬立ち止まり、セイラを見ずに再び歩き出す。
「れおんとこりぃに言っておいてくれの」
本当にそれだけしか言わず、去っていった。
胸に手を当ててその場にしゃがみ込む。
「どうしてあんなに自由なの……?」
「あの二人はそういう性格なのですよ」
「コリー様!?」
コリーはヴォルフとふくの行った先を見つめてため息をつくが、少しも嫌な顔をしていなかった。
続いてレオンも現れ、鬣を手櫛で梳きながら見送る。
「どうして誰も止めないのですか!?」
「どうしてって、あの二人がずっと同じ場所にいるの想像できないし、あの二人にしかできない仕事だってあるからな」
「そうだね。なんだかんだこの国が危ない時は帰ってくるだろうし、具体的な政治は今の国民に指示をしてもできないだろう。私たちにできるのはあのヒトたちが帰ってきたとき、要求に応えられるような力を身に着けるべきだということだ」
「……二人とも悟りすぎですよ……。わたくしも頑張ります……!」
三人は気合を入れて、訓練や国の技術発展に力を入れるのであった。
§
凍土となった荒野を二人が歩いていると、一人の獣人が立ちふさがる。
「ウサギちゃん?何しているんだ?訓練は?」
「ウチを連れて行きなさい!」
「なんで?君じゃあ力不足だぞ?」
「いいからっ!そこの残忍でヒトの話を聞かない呪いの元女王に何かされたら遅いじゃない!肉壁に位はなれるわよ!」
ふくをジィっと睨みながらヴォルフに告げると、ふくはフフッと笑い目線をライラに合わせる。
身長に差があり、胸の大きさでも、魔力や魔法でも負けているライラは「ぐぬぬ……」と声にならない悔しさを表現する。
「面白い兎じゃの。名は何という?」
「…………ライラ」
小声でぼそりと呟く。
ふくは頭をなで、そのまま立ち上がる。
「らいらか……良い名じゃ。ぼるふのことが心配なら着いてくるとよい。じゃが、お前は自身のことは守れるのかの?」
「ば、バカにしないで!ヴォルフ様にはいい魔法を持っているって言われたんだから!」
「そうなのかの?」
「ああ、火の元素魔法なら国民の中で一番強いかもな。オレ達の足元には及ばないが……」
「それだけできるのならば、実践を積んだほうが成長は早いじゃろう。ぼるふさえ良ければわしは構わぬ」
ふくはそう言うとライラは足を鳴らして抗議する。
その圧に圧され渋々ついてくることを許可したのであった。
こうして三人での探索が始まったのである。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する
大福金
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ【ユニークキャラクター賞】受賞作
《あらすじ》
この世界では12歳になると、自分に合ったジョブが決まる。これは神からのギフトとされこの時に人生が決まる。
皆、華やかなジョブを希望するが何に成るかは神次第なのだ。
そんな中俺はジョブを決める12歳の洗礼式で【魔物使い】テイマーになった。
花形のジョブではないが動物は好きだし俺は魔物使いと言うジョブを気にいっていた。
ジョブが決まれば12歳から修行にでる。15歳になるとこのジョブでお金を稼ぐ事もできるし。冒険者登録をして世界を旅しながらお金を稼ぐ事もできる。
この時俺はまだ見ぬ未来に期待していた。
だが俺は……一年たっても二年たっても一匹もテイム出来なかった。
犬や猫、底辺魔物のスライムやゴブリンでさえテイム出来ない。
俺のジョブは本当に魔物使いなのか疑うほどに。
こんな俺でも同郷のデュークが冒険者パーティー【深緑の牙】に仲間に入れてくれた。
俺はメンバーの為に必死に頑張った。
なのに……あんな形で俺を追放なんて‼︎
そんな無能な俺が後に……
SSSランクのフェンリルをテイム(使役)し無双する
主人公ティーゴの活躍とは裏腹に
深緑の牙はどんどん転落して行く……
基本ほのぼのです。可愛いもふもふフェンリルを愛でます。
たまに人の為にもふもふ無双します。
ざまぁ後は可愛いもふもふ達とのんびり旅をして行きます。
もふもふ仲間はどんどん増えて行きます。可愛いもふもふ仲間達をティーゴはドンドン無自覚にタラシこんでいきます。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる