キツネの女王

わんころ餅

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セイラは落ち込んだ

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 セイラは深く落ち込んでいた。
 わずかな時間とはいえ、ふくと玉藻から目を離し、侵入者の存在を許してしまい、玉藻が誘拐されてしまったためである。
 出産は地下室で行われ、外部から侵入することは基本的に不可能であり、地上へつながる階段はヴォルフのいる所しか繋がっていないため、油断していた。
 侵入口は至って簡単。
 階段の途中に横穴が開けられており、そこから侵入するものだった。
 ネズミ族に【命令】したのだろう。
 きれいに作られた穴は野狐族の集落に繋がっていた。
 野狐族は全員綱彦による【命令】を受けており、正常な判断はできず、かつヴォルフやレオン、コリーといった普段から見ている者たちですら見た目では判断できないほど隠蔽されていた。
 彼らが見破れないものをセイラが見破れるはずもなく、落ち度は目を離したこと以外皆無であった。
 くちばしをカチカチと鳴らし、ヴォルフとふくのいる地下室へ歩いていく。
 殺される覚悟を持って地下室に入ると、二人は身支度をしていた。

「ど、どちらへ行かれるのですか?」

「ん?ふくの子供を探しにな……」

「そ、その前に……わたくしの処分をお願いします……!」

 セイラの発言にヴォルフは首をかしげる。
 どれだけ考えても思い当たる節がないので直接問いただす。

「お前、何か悪いことしたのか?」

「わ、わたくしが……ふく様を一人にしたばかりに大切なお子様を……」

「綱彦が仕組んだものじゃ……。お前様は何も悪いことはしておらぬ。寧ろわしはお前に感謝しておるのじゃ。お前がおらねばわしは再び死んでおったのじゃろうから……」

「め、滅相もございませんっ!お子様を探す任務、わたくしにもさせてください!」

 セイラはぽろぽろと涙をこぼし、懇願する。
 もともと責任感の強い彼女は初めのヴォルフとの会話で「国の手伝いをする」ということに尽力していた。
 セイラが責任を重く受け取りすぎているように感じたヴォルフは腕を組んで一つ頼み事をする。

「このままふくの子供が死んだら、冥骸獣になってこの国に悪影響が出るかもしれないしな。もしそうなったら、対処できるのはオレとふくだけ。他の奴は来ても足手まといだ」

「せいら。おぬしは『れおん』と『こりぃ』と共にこの国のことを頼みたいのじゃ。なに、政治をしろというのではない。わしらが返ってくるまで三人でこの国を維持してほしいのじゃ」

 維持と聞きいたが、セイラは狼狽える。
 それは自分の国を守ることができなかった自分に不可能ではないかと思っており、拒否の姿勢になる。

「悪いな。これはどうしても避けられないもんなんだ。万が一オレが死んだらこの世界はフェニックスやクソドラゴンのものになるだろうから、あんまり気にするな。ただ、無理はするなよ?」

 ヴォルフはそういうと「う~ん」と背伸びをし、部屋を出ていく。
 ふくも巫女の衣装を着て、セイラの横を通り過ぎる。
 ふくは一瞬立ち止まり、セイラを見ずに再び歩き出す。

「れおんとこりぃに言っておいてくれの」

 本当にそれだけしか言わず、去っていった。
 胸に手を当ててその場にしゃがみ込む。

「どうしてあんなに自由なの……?」

「あの二人はそういう性格なのですよ」

「コリー様!?」

 コリーはヴォルフとふくの行った先を見つめてため息をつくが、少しも嫌な顔をしていなかった。
 続いてレオンも現れ、鬣を手櫛で梳きながら見送る。

「どうして誰も止めないのですか!?」

「どうしてって、あの二人がずっと同じ場所にいるの想像できないし、あの二人にしかできない仕事だってあるからな」

「そうだね。なんだかんだこの国が危ない時は帰ってくるだろうし、具体的な政治は今の国民に指示をしてもできないだろう。私たちにできるのはあのヒトたちが帰ってきたとき、要求に応えられるような力を身に着けるべきだということだ」

「……二人とも悟りすぎですよ……。わたくしも頑張ります……!」

 三人は気合を入れて、訓練や国の技術発展に力を入れるのであった。

 §

 凍土となった荒野を二人が歩いていると、一人の獣人が立ちふさがる。

「ウサギちゃん?何しているんだ?訓練は?」

「ウチを連れて行きなさい!」

「なんで?君じゃあ力不足だぞ?」

「いいからっ!そこの残忍でヒトの話を聞かない呪いの元女王に何かされたら遅いじゃない!肉壁に位はなれるわよ!」

 ふくをジィっと睨みながらヴォルフに告げると、ふくはフフッと笑い目線をライラに合わせる。
 身長に差があり、胸の大きさでも、魔力や魔法でも負けているライラは「ぐぬぬ……」と声にならない悔しさを表現する。

「面白い兎じゃの。名は何という?」

「…………ライラ」

 小声でぼそりと呟く。
 ふくは頭をなで、そのまま立ち上がる。

「らいらか……良い名じゃ。ぼるふのことが心配なら着いてくるとよい。じゃが、お前は自身のことは守れるのかの?」

「ば、バカにしないで!ヴォルフ様にはいい魔法を持っているって言われたんだから!」

「そうなのかの?」

「ああ、火の元素魔法なら国民の中で一番強いかもな。オレ達の足元には及ばないが……」

「それだけできるのならば、実践を積んだほうが成長は早いじゃろう。ぼるふさえ良ければわしは構わぬ」

 ふくはそう言うとライラは足を鳴らして抗議する。
 その圧に圧され渋々ついてくることを許可したのであった。
 こうして三人での探索が始まったのである。
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