キツネの女王

わんころ餅

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意外な訪問者

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「ヴォルフ様!起きてください!」
 
 レオンに叩き起こされ、寝ぼけ眼をこすりながら立ちあがる。

「なんだよ~……眠いんだけど……」

「鳥人族が国に来たのです!しかも、女王を連れて!」

 ヴォルフの目は一気に覚め、ライラとの会話を思い出す。
 今日、話をつけようと向かうはずだったが、鳥人から来るとは思わなかった。

「今日の訓練は獅子頭が指揮を取れ。片眼の犬とウサギちゃんはオレと一緒に来てくれ」

 そう指示を出すと、レオンは敬礼し、訓練場所まで走っていった。
 コリーはライラが一緒にいることを不思議に思い、ヴォルフに問う。

「なぜ、ライラ殿も一緒に?彼女も訓練を積むべきかと思うのですが……」

 ライラも同じ気持ちだったのか全力で首を縦に振る。
 ヴォルフは頭を掻いてライラを見る。

「いや、さ?オレ、女性の扱い苦手なのさ。ウサギちゃんに居てくれると話が拗れなくて良いかな……って」

 そう言うとコリーは困った顔をし、ライラは得意そうな顔をする。
 そして、三人の元に鳥人族の女王と思われる者と頭の毛を無くした禿鷹がやって来る。

「あなたが邪神ヴォルフですね?わたくしは鳥人族の王、セイラと申します。以後お見知り置きを……」

「オレがヴォルフだ。この国の王をしている。何用でここに来た?」

「実は、鳥人族の国は滅びました……」

「はあ?なんで?」

 突然の国家滅亡に驚きを隠せないヴォルフ。
 セイラをよく見ると、王族の格好として相応しいものではなく、明らかに寝起きを襲われたような感じであった。

「謎の生き物が我々の国を襲ってきました。それは何度攻撃し、傷つけてもすぐに再生され、緑色の体液をしています。そして、やっとの思いで倒したかと思うと黒い魔水晶が中から現れ、……その魔水晶から黒い……悪意の込められた靄が国を、民を殺しました」

「最近出なかったと思ったらそっちに行ったのか……。あれはオレたちも手を焼いている。実際、ドラゴンより厄介だ。で?オレたちに何をしろと?」

 セイラは鋭い眼光をするヴォルフの視線に固唾を飲み込み、口を開く。

「タダでとは言いません。庇護下に入れてもらえませんでしょうか?そちらの要求は、お金やモノでなければ提供できます」

「灰になる鳥……じゃなくてフェニックスに頼れなかったのか?お前たちの神はソイツだろ?」

「フェニックス様はここ千年間一度も顔を出されていません……。亡くなられたか、封印されたか……何か起きているのかもしれません」

 不死鳥のフェニックスが死んだかもしれないと言う笑えない冗談のような発言だったが、実際に居たら居たでこの国へ攻め込んできていたかもしれないと考え、信憑性が高いものだと思った。
 セイラを疑ってもしょうがないのでヴォルフは提案をすることにした。

「……なら、魔道具の作り方と、武具の作り方をこの国に発展させてくれ。そんで、魔獣狩りと畑仕事も手伝ってもらう。それで良いなら少しぐらいいても良いぞ」

「ならん!」

 突如、外から男性の声がかかり、一同は声のした方向に振り向く。
 怒りの形相をした綱彦と虚ろな目をしたふくが立っていた。

(ふく……!この前より酷くなってる……!?)

 ヴォルフはふくの様子を見て明らかに不調であると察して近づくが、綱彦が目の前に現れ、遮る。

「何のつもりだ……!女王に易々と近づこうなぞ、無礼にも程があるぞ!」

「……お前こそ何だ?この世界の神に楯突くのか?まずはお前から命の時を止めれば良いか?」

 そう告げると一瞬怯むが睨み返す。
 
「野蛮な神の指図は受けない……!貴様も敵対するなら、ふくが黙ってないぞ!ふくっ!!」

 とぼとぼと、ゆっくりヴォルフの元に歩いていく。
 指を向け、魔力を込める。
 その表情は非常に苦しそうで、今にも死んでしまいそうな顔であった。

「わしの……旦那……さまに……手……は出させ――」

「ふくっ!」

 ヴォルフは自前の神速で距離を詰め、抱き抱える。
 非常に弱っており、呼吸が浅くなっているのがわかる。
 ヴォルフの頭の中が一瞬真っ白になった。
 それは比喩ではなく、国全体が冬になった。

 突然の雪景色に国民たちは困り果てる。
 動物の特性上、冬眠のあるクマ族やネズミ族などは行動が鈍くなり、畑仕事や訓練に参加できず立ち尽くす。
 ライラは走って畑まで行くと、雪に覆われた畑の近くで火球を宙に掲げる。
 その熱気でじわじわと雪は解けていき、地肌が見えるようになった。

「皆さん!魔獣の皮と木材を使って畑に屋根をつけなさい!そして、火の元素魔法が扱えるものは焚き木を行い、温度を高めるのです!でないと畑は死んでしまいます!」

 セイラが畑の管理の指揮を執る。
 木の実や果実を食べる種族のために温暖な気候を生み出す方法をセイラは知っていた為、畑は無事に死ぬことがなく保たれた。

「あの、鳥の女王様……。ありがとうございます……!畑は無事に枯れずに済みました」

「いえ、わたくしはこの国に助けてもらう立場ですので、このぐらいは出来ないと……。あの、ヴォルフはいつもあのように暴走するのですか?」

 ライラは首を横に振って否定する。
 
「少なくとも、ここ千年は一度も暴走させてなかったはずです。コリー様がそう仰っていたので……」

「そう……ですか……」

 二人はヴォルフの居城に目を向けて心配そうな顔をする。

 部屋の中は完全に凍結し、綱彦は凍気に負けずに耐えていた。
 魔力を全身に纏うことで魔法に対して防御をすることができるのだ、これがいつまで耐えられるか焦っていた。

「くそ……!紋様まで付いたのに……コイツとの差はなんなんだ……!」

「ふくを返せ……」

「何を言って――」

 狼の姿となり憤怒の表情と魔力だけでヒトを殺せるような圧力をぶつけられ、綱彦は戦意を失う。

「ふくを返せ……っ!野狐を返せっ!返せ、返せカエセ、カエセェェッ!!」

 咆哮にも似たその叫びは国中に響き渡り、綱彦は気を失う。
 ふくはヴォルフの首元の毛に覆われており体温を維持されていた。
 そしてその咆哮はふくの心にも響いており、綱彦の【命令】から解放された。
 そして、ふくはヴォルフを止めるために鼻に爪を立てて突き刺す。
 突然の事でヴォルフは驚いていると、ふくは涙を流し、抱きつく。

「もう良いのじゃ……。怒るでない……」

 ヴォルフは全ての時を止める力を抑え、吹雪を止ませる。
 意識を失ったふくを自前の体毛で包み込み、二度と離すまいとそばに置き続けた。

 一度冬になった国はしばらく雪や氷が解けることはなく比較的小さい子供たちの新たな遊び場が出来るのであった。
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