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ドラゴンが来るまでに
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「起きてください!ヴォルフ様!」
「もうちょっと……」
「早く起きないとドラゴン来ますよ!」
レオンにそう言われ飛び起きたヴォルフ。
クアッと欠伸をし、身震いをして起きる。
そのまま外に出ようとするとこの姿では不味いと思い、獣人の姿となる。
魔力で服を身にまとい、コムギとチュータローの石を胸ポケットの中に入れる。
そして外に出ると昨日の集落の雰囲気はなく、どんよりとそして何かに怯える様な空気感を醸し出していた。
今日、ドラゴンが来て生贄を捧げなければならないというのはどうやら本当の様である。
そんな空気感に嫌な気分になりながらも、大通りに向かって歩く。
集落の人々はヴォルフの姿を見て不思議そうに見る。
それは、狼族という獣人はいないからである。
いないというより滅びたと噂されていたからだ。
唯一ドラゴンと渡り合える強い種族だが、ある日を境に突然絶滅したと言われており、いまだに原因は分かっておらず謎の多い種族であった。
それが大通りを歩いているとなると、非常に目立つもので、注目を集めていた。
数分ほど歩き回り、ヴォルフは腕を組んで考える。
「生贄の捧げるところってどこなんだ?」
ヴォルフは迷子になっていた。
歩いても埒が開かないので、その辺にいた羊族に声を掛ける。
「なあ、生贄の場所ってわかる?」
「ひぇ……!?」
狼に睨まれた羊は半分気絶しかける。
気絶されてはどうにもならないので、その辺に転がっていた木の板を使って顔を隠す。
自分の顔が怖いというのはネズミ族や犬族と話しした時でわかっていた事なのだが、千年経っても怖い顔であるという事に、若干傷つくのであった。
しかし、羊族の女性はそんな配慮をするヴォルフに怯えながらも、面白さを見出し、話していく。
「えっと、ですね……。この道をまっすぐ行って、突き当たりを左に行きます。そして地下に行く道がありますのでそこを通ればすぐですよ?」
「本当か!それは助かる!」
「あの、見に行くのですか?あんなもの……」
「見に行くのではないぞ?ドラゴンをチョチョイと倒してくるのだよ」
「えっ……!?」
羊族の女性は信じられないといった顔をする。
それもそのはず、ドラゴンがここに来て生贄を捧げなければならないということは、ふくですらそのドラゴンに対し有効打が無く、渋々従うほかなかったという事。
それをチョチョイと倒して来るというのが、女性には理解できていないのだ。
だが、彼女は少しヴォルフの身体を見つめて確信する。
「貴方、狼族?でなければ私……羊族がこんなに怖がる事ないもの」
「聞いて驚くでないぞ?オレは氷狼:ヴォルフだ。この世界の神だから不可能なんてないのだ!」
ヴォルフがそう言うと羊族の女性はクスクスと笑い出す。
なぜ笑われているのか理解できず、ムッとしてしまうが、板の隙間からチラッと見ると彼女は決して馬鹿にはしていなかったようだ。
「ごめんなさい……ヴォルフ様はもっと怖いものだと思っておりました。……でも、本当に退治してもらえるのですか?」
「ウソは言わないぞ?獅子頭から王位も貰ったしな!」
「えっ!?レオン様は退位されたのですか!?」
「そうだな。元々オレに渡す予定だったと言っていたしな。それに、この国をもっと良くしてほしい。そして、ふくを止めてほしいと託されたのでな」
「……わたくしからも、国民の代表としてお願いいたします。ドラゴンもふく様も止めてください……。この国は段々と疲れてしまい、悪い方向に流れています。せっかく多種族が手を取り合って出来た国なのに、野狐ばかり優遇されて――」
ヴォルフは彼女の言葉を遮るように頭を撫でる。
そして全てを聞かず一言だけ言って去った。
「オレに任せろ」
一瞬で姿が消え、生贄の場所まで走っただろう道を眺め両手を組み、祈る。
「お願いします……。これ以上、私たちの子供を傷つけ――」
「ごめん!道わかんない!」
「えっ!?えっ!?」
ヴォルフは生贄の場所がわからず帰ってきた。
羊族の女性はそんな彼を見てポカンとする。
そして、一緒に行く事にした。
(本当に……大丈夫なのかしら……?)
彼女はヴォルフの実力に疑問を持つのであった。
地下道を通り、再び地上へ出ると広場があった。
特段何か装飾や生贄用の檻が構えられてはおらずただの広場なのだが、ヒトの気配がほとんどしない。
そして、ヴォルフは大量の血の匂いを感じ顔を顰める。
羊族の女性は隣に立っており、顔は青ざめ、足を振るわせる。
「無理して来なくていいぞ。今から起こるのは一方的な蹂躙だぞ」
「い、いえ……大丈夫です。この目でドラゴンを倒してくれる姿を見なければ、安心できません」
やれやれとため息をつくとヴォルフから来た反対方向からゾロゾロとヒトが入ってくる。
抵抗できないように殴られ、骨を折られた上に拘束された無惨な姿の羊族であった。
殴られすぎて性別もわからず、半分飢餓に陥っており、ここで助けても生き残る確率はかなり低いと見た。
手際よく生贄を広場の中央に手脚を拘束し、投げ捨てる。
「あぁ……。あの子、わたしが産んだ子……」
「なんだって!?なんで生贄に出されるんだよ?」
「なんでって、わたしは歳をとった成熟体。見ず知らずの男の子を孕み、産んで、取り上げられる。そして子どもは十年経たず呪いを刻まれ、ドラゴンに贄として出されるか、前線に出されて自爆させられる運命なのです。そして羊族を産んでいるのは私だけ……」
ヴォルフは彼女の話を途中から聞かず、生贄のところに向かって歩く。
歩いて近づくヴォルフに野狐族の男たちは立ちはだかる。
「何の用だ?」
「その子はオレが引き取る」
「何をふざけ――」
ヴォルフは何も言わずに野狐族の男を凍らせる。
突然のことで周りの野狐族が焦り始める。
異変を察知した一人の野狐族が応援を呼んでいたようで、地下道の方から二人の野狐族が現れる。
「ふく……とツネヒロ……」
「綱彦だ。頭の悪い狼め」
「どう言うことか、説明はできるのじゃろうな……?」
ヴォルフはふくをじっと見つめ、ふくから睨み返されるのであった。
「もうちょっと……」
「早く起きないとドラゴン来ますよ!」
レオンにそう言われ飛び起きたヴォルフ。
クアッと欠伸をし、身震いをして起きる。
そのまま外に出ようとするとこの姿では不味いと思い、獣人の姿となる。
魔力で服を身にまとい、コムギとチュータローの石を胸ポケットの中に入れる。
そして外に出ると昨日の集落の雰囲気はなく、どんよりとそして何かに怯える様な空気感を醸し出していた。
今日、ドラゴンが来て生贄を捧げなければならないというのはどうやら本当の様である。
そんな空気感に嫌な気分になりながらも、大通りに向かって歩く。
集落の人々はヴォルフの姿を見て不思議そうに見る。
それは、狼族という獣人はいないからである。
いないというより滅びたと噂されていたからだ。
唯一ドラゴンと渡り合える強い種族だが、ある日を境に突然絶滅したと言われており、いまだに原因は分かっておらず謎の多い種族であった。
それが大通りを歩いているとなると、非常に目立つもので、注目を集めていた。
数分ほど歩き回り、ヴォルフは腕を組んで考える。
「生贄の捧げるところってどこなんだ?」
ヴォルフは迷子になっていた。
歩いても埒が開かないので、その辺にいた羊族に声を掛ける。
「なあ、生贄の場所ってわかる?」
「ひぇ……!?」
狼に睨まれた羊は半分気絶しかける。
気絶されてはどうにもならないので、その辺に転がっていた木の板を使って顔を隠す。
自分の顔が怖いというのはネズミ族や犬族と話しした時でわかっていた事なのだが、千年経っても怖い顔であるという事に、若干傷つくのであった。
しかし、羊族の女性はそんな配慮をするヴォルフに怯えながらも、面白さを見出し、話していく。
「えっと、ですね……。この道をまっすぐ行って、突き当たりを左に行きます。そして地下に行く道がありますのでそこを通ればすぐですよ?」
「本当か!それは助かる!」
「あの、見に行くのですか?あんなもの……」
「見に行くのではないぞ?ドラゴンをチョチョイと倒してくるのだよ」
「えっ……!?」
羊族の女性は信じられないといった顔をする。
それもそのはず、ドラゴンがここに来て生贄を捧げなければならないということは、ふくですらそのドラゴンに対し有効打が無く、渋々従うほかなかったという事。
それをチョチョイと倒して来るというのが、女性には理解できていないのだ。
だが、彼女は少しヴォルフの身体を見つめて確信する。
「貴方、狼族?でなければ私……羊族がこんなに怖がる事ないもの」
「聞いて驚くでないぞ?オレは氷狼:ヴォルフだ。この世界の神だから不可能なんてないのだ!」
ヴォルフがそう言うと羊族の女性はクスクスと笑い出す。
なぜ笑われているのか理解できず、ムッとしてしまうが、板の隙間からチラッと見ると彼女は決して馬鹿にはしていなかったようだ。
「ごめんなさい……ヴォルフ様はもっと怖いものだと思っておりました。……でも、本当に退治してもらえるのですか?」
「ウソは言わないぞ?獅子頭から王位も貰ったしな!」
「えっ!?レオン様は退位されたのですか!?」
「そうだな。元々オレに渡す予定だったと言っていたしな。それに、この国をもっと良くしてほしい。そして、ふくを止めてほしいと託されたのでな」
「……わたくしからも、国民の代表としてお願いいたします。ドラゴンもふく様も止めてください……。この国は段々と疲れてしまい、悪い方向に流れています。せっかく多種族が手を取り合って出来た国なのに、野狐ばかり優遇されて――」
ヴォルフは彼女の言葉を遮るように頭を撫でる。
そして全てを聞かず一言だけ言って去った。
「オレに任せろ」
一瞬で姿が消え、生贄の場所まで走っただろう道を眺め両手を組み、祈る。
「お願いします……。これ以上、私たちの子供を傷つけ――」
「ごめん!道わかんない!」
「えっ!?えっ!?」
ヴォルフは生贄の場所がわからず帰ってきた。
羊族の女性はそんな彼を見てポカンとする。
そして、一緒に行く事にした。
(本当に……大丈夫なのかしら……?)
彼女はヴォルフの実力に疑問を持つのであった。
地下道を通り、再び地上へ出ると広場があった。
特段何か装飾や生贄用の檻が構えられてはおらずただの広場なのだが、ヒトの気配がほとんどしない。
そして、ヴォルフは大量の血の匂いを感じ顔を顰める。
羊族の女性は隣に立っており、顔は青ざめ、足を振るわせる。
「無理して来なくていいぞ。今から起こるのは一方的な蹂躙だぞ」
「い、いえ……大丈夫です。この目でドラゴンを倒してくれる姿を見なければ、安心できません」
やれやれとため息をつくとヴォルフから来た反対方向からゾロゾロとヒトが入ってくる。
抵抗できないように殴られ、骨を折られた上に拘束された無惨な姿の羊族であった。
殴られすぎて性別もわからず、半分飢餓に陥っており、ここで助けても生き残る確率はかなり低いと見た。
手際よく生贄を広場の中央に手脚を拘束し、投げ捨てる。
「あぁ……。あの子、わたしが産んだ子……」
「なんだって!?なんで生贄に出されるんだよ?」
「なんでって、わたしは歳をとった成熟体。見ず知らずの男の子を孕み、産んで、取り上げられる。そして子どもは十年経たず呪いを刻まれ、ドラゴンに贄として出されるか、前線に出されて自爆させられる運命なのです。そして羊族を産んでいるのは私だけ……」
ヴォルフは彼女の話を途中から聞かず、生贄のところに向かって歩く。
歩いて近づくヴォルフに野狐族の男たちは立ちはだかる。
「何の用だ?」
「その子はオレが引き取る」
「何をふざけ――」
ヴォルフは何も言わずに野狐族の男を凍らせる。
突然のことで周りの野狐族が焦り始める。
異変を察知した一人の野狐族が応援を呼んでいたようで、地下道の方から二人の野狐族が現れる。
「ふく……とツネヒロ……」
「綱彦だ。頭の悪い狼め」
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