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千年後の世界
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「う、うーん……」
一匹の狼が目を覚ます。
欠伸をし立ちあがろうとするも、体が随分と細く見え、鈍っており、一苦労する。
薄暗い部屋の中から出ると、そこは犬、キツネ、猫、虎、獅子、狸、熊、ウサギ、ネズミ、羊、山羊など様々な種族が集落の中で活動をしていた。
誰もが手を取り合い、農業も盛んに行われ、非常に賑わっていた。
「な、なんだぁ!?こりゃあ……夢でも見てんのか?」
「夢ではございませんよ」
不意に声をかけられ、振り向くと隻眼の犬と身体中に傷跡がある獅子が立っていた。
そして二人は頬に赤い紋様を持っていたが、その姿に見覚えがある。
「獅子頭と片眼の犬……」
「コリーです」
「レオンだよ……!」
「名前なんて覚えられねーよ。でも、アンタら無事だったのか……!」
「ええ、犬族と野狐族はヴォルフ様がお助けいただいたおかげで滅ぼされずにすみました。」
「他の種族は私が連れてきた。皆特殊な技能を持って働くことができる者たちで、国興しに協力してもらえました。ネズミ族も別の集落ですが、生き残りがいたようで保護しております」
自分たちの国がこのように発展しているのを見て、驚きの余り空いた口が塞がらなかった。
「ふくは!?」
二人はバツの悪そうな顔をして見合う。
どうしてそのような顔をしているのか不明で、首を傾げるとレオンが口を開く。
「ふく様は十年前ほどから女王をしております。綱彦という野狐族の夫を持ち、先日懐妊が確認されました」
「……そう、か。無事なら――えっ!?待って、オレ何年眠ったの?」
「千年ほど眠っております」
「ええーっ!?」
ヴォルフは驚きひっくり返った。
気を失ってから千年の時が経ったことに受け入れ難いものだったが、この国の発展を見て納得するしかなかった。
そして、もう一つの疑問をぶつける。
「お前たち、なんで生きてるの?」
「ええ……わたしたちも不思議なもので、頬に赤い紋様がついて、寿命が伸びたようです。ですが、コロンや村の人々は発展しかけの頃に魔獣の襲来で命を落としました」
「あの異形のやつが……!」
「いえ、ドラゴンです。竜人族が竜族の封印を解放し、滅びました。流れ者はいるみたいですが……」
竜族と聞いてヴォルフはやるせ無い気持ちになる。
竜はヴォルフの一つ下の格付けになるが、神に近い存在である。
それを相手にできるのは実質ヴォルフだけである。
眠って動けず、知り合いを失っていたことを知り、非常に悔しく感じる。
「ヴォルフ様、王に即位してください。……そして、ふく様を止めてください……!」
「ふくが何かしたの……?」
「ふく様は女王になられて、国民を……戦えないものたちを戦地に送り出して損害を出しつつ、国土を広げています。戦えないものたちを爆発させる呪いをかけて……。そんな、ふく様を求めてはいないのです……!」
ふくが大事にしていたはずの民を爆発する呪いにかけ、戦地へ送り出していると聞き、驚く。
ヴォルフの記憶にある今までの行動と何も当てはまらず、困惑する。
コリーが言いにくそうな顔をして話す。
「ふく様の夫、綱彦様ですが……。野狐族の首領をされていた方のようで、ヒトを操る魔法を持っている可能性があります。ふく様を止めて欲しいというのは綱彦様を失脚させたいのですが、証拠が不十分で……」
「……分かった。獅子頭、オレが王になっても構わないのだな?」
「勿論です。私はあなたの為に王の席を残し、代理という立場でずっと活動してましたから。」
ヴォルフはあっさりとレオンが王位を譲ることにため息を吐き獣人の姿になる。
その姿は着衣すらしていない為、コリーは衣服を取りに行こうとしたところ、ヴォルフの身体の周りに冷気が集まり、服を形成する。
軍服を思わせるような黒色の服で、威圧感のある服であった。
「……つ、強そうに見えるな……!」
「強いからな」
「まず、何をされるのですか?」
「ふくに話に行く。あとは、ドラゴンを倒せる人材を創る」
そう言って、ヴォルフはふくのいる方角へ走った。
一瞬で姿を消すほどの速さは健在でレオンとコリーはふくの居城の方角を見て心の中で祈るのだった。
ヴォルフが魔力の感知でふくを特定し、いると思われる建物を見る。
周囲にはボロボロの服を着て、痩せ細った様々な種族の従者の様な者が物を運んでいた。
ヴォルフは二階の窓に向かって跳び、窓から侵入する。
「よう、ふく。久しぶり……って言ったらいいか?」
ふくはレオン、コリーとは違い、紋様こそ出てはいなかったが、代わりに尻尾がニ本に増えており、どこかやつれた様な表情をしていた。
出会った時より髪が整えておらず、体毛も手入れがほとんどされていなかった。
「……誰じゃ。わしの部屋に窓から入る無作法者は」
懐かしい様なそんな声はヴォルフの心臓をドクンと跳ね上げていく。
「誰ってヴォルフだよ。ふくの名付け、肉体を与えた張本人だよ」
「……そんなもの、知らぬ。死にとうなければ去れ」
「無理だね。お前にオレは殺せない」
そう告げるとふくは牙を剥き、睨む。
非常に強い目力は昔と変わらず、爪を立てる仕草もそのままであるが、殺意が非常に高い魔力を身に纏っていた。
「わしに勝とうとでも思っておるのか?」
「逆。オレは神だから一生かけてもオレに勝つことはできないさ」
「誰だ……!」
ふと別の方向から声がかかり二人はそちらを見る。
一人の野狐族の男性が立っていた。
綱彦と思われる人物でヴォルフは彼を睨みつけるのであった。
一匹の狼が目を覚ます。
欠伸をし立ちあがろうとするも、体が随分と細く見え、鈍っており、一苦労する。
薄暗い部屋の中から出ると、そこは犬、キツネ、猫、虎、獅子、狸、熊、ウサギ、ネズミ、羊、山羊など様々な種族が集落の中で活動をしていた。
誰もが手を取り合い、農業も盛んに行われ、非常に賑わっていた。
「な、なんだぁ!?こりゃあ……夢でも見てんのか?」
「夢ではございませんよ」
不意に声をかけられ、振り向くと隻眼の犬と身体中に傷跡がある獅子が立っていた。
そして二人は頬に赤い紋様を持っていたが、その姿に見覚えがある。
「獅子頭と片眼の犬……」
「コリーです」
「レオンだよ……!」
「名前なんて覚えられねーよ。でも、アンタら無事だったのか……!」
「ええ、犬族と野狐族はヴォルフ様がお助けいただいたおかげで滅ぼされずにすみました。」
「他の種族は私が連れてきた。皆特殊な技能を持って働くことができる者たちで、国興しに協力してもらえました。ネズミ族も別の集落ですが、生き残りがいたようで保護しております」
自分たちの国がこのように発展しているのを見て、驚きの余り空いた口が塞がらなかった。
「ふくは!?」
二人はバツの悪そうな顔をして見合う。
どうしてそのような顔をしているのか不明で、首を傾げるとレオンが口を開く。
「ふく様は十年前ほどから女王をしております。綱彦という野狐族の夫を持ち、先日懐妊が確認されました」
「……そう、か。無事なら――えっ!?待って、オレ何年眠ったの?」
「千年ほど眠っております」
「ええーっ!?」
ヴォルフは驚きひっくり返った。
気を失ってから千年の時が経ったことに受け入れ難いものだったが、この国の発展を見て納得するしかなかった。
そして、もう一つの疑問をぶつける。
「お前たち、なんで生きてるの?」
「ええ……わたしたちも不思議なもので、頬に赤い紋様がついて、寿命が伸びたようです。ですが、コロンや村の人々は発展しかけの頃に魔獣の襲来で命を落としました」
「あの異形のやつが……!」
「いえ、ドラゴンです。竜人族が竜族の封印を解放し、滅びました。流れ者はいるみたいですが……」
竜族と聞いてヴォルフはやるせ無い気持ちになる。
竜はヴォルフの一つ下の格付けになるが、神に近い存在である。
それを相手にできるのは実質ヴォルフだけである。
眠って動けず、知り合いを失っていたことを知り、非常に悔しく感じる。
「ヴォルフ様、王に即位してください。……そして、ふく様を止めてください……!」
「ふくが何かしたの……?」
「ふく様は女王になられて、国民を……戦えないものたちを戦地に送り出して損害を出しつつ、国土を広げています。戦えないものたちを爆発させる呪いをかけて……。そんな、ふく様を求めてはいないのです……!」
ふくが大事にしていたはずの民を爆発する呪いにかけ、戦地へ送り出していると聞き、驚く。
ヴォルフの記憶にある今までの行動と何も当てはまらず、困惑する。
コリーが言いにくそうな顔をして話す。
「ふく様の夫、綱彦様ですが……。野狐族の首領をされていた方のようで、ヒトを操る魔法を持っている可能性があります。ふく様を止めて欲しいというのは綱彦様を失脚させたいのですが、証拠が不十分で……」
「……分かった。獅子頭、オレが王になっても構わないのだな?」
「勿論です。私はあなたの為に王の席を残し、代理という立場でずっと活動してましたから。」
ヴォルフはあっさりとレオンが王位を譲ることにため息を吐き獣人の姿になる。
その姿は着衣すらしていない為、コリーは衣服を取りに行こうとしたところ、ヴォルフの身体の周りに冷気が集まり、服を形成する。
軍服を思わせるような黒色の服で、威圧感のある服であった。
「……つ、強そうに見えるな……!」
「強いからな」
「まず、何をされるのですか?」
「ふくに話に行く。あとは、ドラゴンを倒せる人材を創る」
そう言って、ヴォルフはふくのいる方角へ走った。
一瞬で姿を消すほどの速さは健在でレオンとコリーはふくの居城の方角を見て心の中で祈るのだった。
ヴォルフが魔力の感知でふくを特定し、いると思われる建物を見る。
周囲にはボロボロの服を着て、痩せ細った様々な種族の従者の様な者が物を運んでいた。
ヴォルフは二階の窓に向かって跳び、窓から侵入する。
「よう、ふく。久しぶり……って言ったらいいか?」
ふくはレオン、コリーとは違い、紋様こそ出てはいなかったが、代わりに尻尾がニ本に増えており、どこかやつれた様な表情をしていた。
出会った時より髪が整えておらず、体毛も手入れがほとんどされていなかった。
「……誰じゃ。わしの部屋に窓から入る無作法者は」
懐かしい様なそんな声はヴォルフの心臓をドクンと跳ね上げていく。
「誰ってヴォルフだよ。ふくの名付け、肉体を与えた張本人だよ」
「……そんなもの、知らぬ。死にとうなければ去れ」
「無理だね。お前にオレは殺せない」
そう告げるとふくは牙を剥き、睨む。
非常に強い目力は昔と変わらず、爪を立てる仕草もそのままであるが、殺意が非常に高い魔力を身に纏っていた。
「わしに勝とうとでも思っておるのか?」
「逆。オレは神だから一生かけてもオレに勝つことはできないさ」
「誰だ……!」
ふと別の方向から声がかかり二人はそちらを見る。
一人の野狐族の男性が立っていた。
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