キツネの女王

わんころ餅

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次の集落を目指すのじゃ

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 翌日、ふくは一人で湯あみをしていた。
 コロンに許可は取っているので一人で湯を沸かし、のんびりしていた。
 また次の集落に向かうため、しばらく風呂とはお別れになってしまうためである。
 のんびりとしていると、ヴォルフがやってくる。
 獣人の姿になっており、湯を浴びる。
 ふくはヴォルフの背中に回り、背中を擦っていく。
 魔力を込めると硬くなる不思議な毛の感触は非常に柔らかく、ずっと触れていたいと思う。

「ぼるふ」

「ん?」

「わしが他の男のところに行ったら、おまえはどうするのじゃ?」

「それは……しょうがない……のかな。けど、オレの付き人であることに違いないから、自由にしてもいいよ?できたらオレを選んでほしいけど」

「そうなのじゃな。まあ、お前はこんな形でも神ではあるからの、引く手数多じゃろう?」
 
「オレ、ふく以外好きになったことないよ?」

 意外な回答が返ってきて、ふくの背中を擦る動きが止まる。
 そして何も言わず背中をバシンと叩く。
 なぜ叩かれたのか困惑していると、ふくは立ち上がり、お湯をかける。

「お前はまず、女子の気持ちを勉強するのじゃな!」

 そういって浴場から出ていった。

「女の子の気持ちって難しいな……」

 そう呟いて、湯を浴びて浴場を後にした。


 旅の支度が終わり、二人は門へと向かう。
 するとコリーとコロンが待っていた。

「もう行かれますか?」

 コロンは寂しそうな表情でふくを見る。
 そんな表情をしているコロンの頭を撫で、そっと抱きしめる。
 
「そんな顔をするでない。旅が終われば国に戻るのじゃから、また会えるのじゃ」

「私、ふく様に認められるような魔法使いになって見せます!」

「うむ!その気を持って臨むのじゃ。こりいよ、ネズミの集落には獅子のレオンがおる。そやつにわしの話を聞いてきたと言えば、住処を用意してくれるじゃろう」

「わかりました。先遣隊にはそのように伝えましょう。これからどちらの方角へ向かわれるのですか?」

 ふくは顎に手を当てて、適当に指を指す。
 その方角を見たコリーはコロンに目で合図を送り、服を手渡す。
 それは白と赤の服であり、袖を通すと、理解する。

「これは巫女の袴じゃの。どうしてこれを?」

「ふく様の行かれる方角には野狐族の集落があります。あそこの者は格好に厳しいものが多いので持って行ってください」

「野狐族ということはわしと似たような姿を持っておるのじゃな。話だけを聞くと気位の高そうなものばかりじゃの。……本当に助かるの」

 ふくは頭を下げると、二人も頭を下げる。
 ふくはヴォルフの方へ振り向き、新しい服を披露する。

「どうじゃ?似合っておるかの?」

「なんだか、神の使いみたいだね!ふくによく似合っているよ!」

「神の使いであることには間違いのないんじゃがの。喜んでもらえて何よりじゃ」

 挨拶も程々にし、犬族の集落を後にした。
 振り返ると犬族全員でふくとヴォルフの出発を見送っていた。
 ふくは嬉しそうな表情で野狐族の集落を目指し、歩みを進めていった。

 §

 しばらく歩いていると、ふくは立ち止まり、岩場に座る。
 突然座り、何事かと思ったが、ふくの手には二つの石が握られていた。
 それを胸に当てて、苦しそうな、悲しそうな表情を浮かべる。

「ふく……大丈夫?」

「……うむ。ぼるふよ、今回は犬族を守ることができた。これは善きことじゃ」

「そうだね、今回の【ヤツ】はオレの相性が悪い奴だった。次は瞬殺してやる」

「わしはまだネズミ族を助けられなかったことを悔いておるのじゃ」

 ふくが握っている石がヴォルフでも何なのか分かった。

「それ、コマリとトータローだっけ?」

「馬鹿もの!!小麦と忠太郎じゃ!間違えるでない!」

「ご、ごめん……。」

「お前にとっては有象無象かもしれんがわしの大切な者なのじゃ……。もっとわしに知識や力があればと何度も思うのじゃ……。」

 ヴォルフはふくの想いを何も付け加えず、全てを聞く。
 実際、ヴォルフ自身もネズミ族が全滅したことは忘れていない。
 今まで見たことがない異形の魔獣。
 魔獣は斃せば肉になるが、【それ】 は本体から離れた肉体はボロボロになり、霧散していく。
 何より、緑色の体液は完全に腐ったにおいがしていた。
 昆虫型の【それ】も昨日の【それ】も。
 死体に近い生き物で、肉体を斃すと中からどす黒い石が現れる。
 中身は死を運ぶ靄。
 その石を直接破壊できればいいのだが、ヴォルフの氷でも、ふくの青い焔でもそれはかなわず、異常に硬く、密実であることが分かる。
 靄自体は【浄化】で対処ができるようになったが、発生して、触れてしまったものは死んでしまう。
 今回は最小限の土地を腐らすだけで済んだが、もし複数体が同時に現れるとなると非常に厄介だと感じる。

「ころんが言っておったのじゃ。野狐族は魔法に精通しておる者が多いとな」

「そこでわしは、魔法を学び、お前と肩を並べて闘えるようになり、いずれ民にも教え、自分の身を守れるようなことにしたい」

 ヴォルフは尻尾を振って頷く。
 懐に石を仕舞い、立ち上がりまっすぐヴォルフを見る。
 
「そんな女王をわしは目指す。お前はそのわしを支えるもう一人の王となるのじゃ」

 その言葉を聞き、ヴォルフは嬉しそうな、楽しそうな顔をし、応える。
 
「二人の王……。中々いい響きじゃないの?ふくがそう目指すならオレはそれを支えよう!」

「頼むぞ、ぼるふ」

「えへへ……」
 
「なんじゃ気持ち悪い」

「ひどいっ!?」

 二人はまた歩き、野狐族の集落を目指すのだった。
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