キツネの女王

わんころ餅

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トカゲは嫌なのじゃ

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 ふくが川に落ちたことにより、休息を余儀なくされた。
 荒野には木々は生えておらず、草も背丈の低いものしかなく、燃やすものがなかった。
 ふくはカチカチと歯を鳴らし、震える手を地面につける。

「『木よ生えよ』」

 一本の木を生やし、手際よく風の刃でカットしていく。
 バラバラに散らばる木材を獣人の姿になったヴォルフが集めて組み立てていく。
 薪の組み方はふくから教わったのでひょいひょいと組み上げる。

「ふく。もう燃やしていいよ!」

「『も、燃えよ』」

 火種となるものや、程よい大きさの燃やすものがなかったため、薪を【灼熱】で直接燃やす。
 一度に燃やし、ゴウゴウと燃え盛る火の傍にふくは陣取る。

「い、生き返ったのじゃ……」

「ゴメンね……?オレが変なこと言ったばかりに……」

「どうしようもない助平犬じゃ」

 ふくは呆れてそれ以上怒る気にもならなかった。
 二人はこのまま野宿をしようと休んでいると、二人の感知に魔獣が引っ掛かる。
 目を合わせて頷くと、ヴォルフは氷の魔法で火を消し、ふくを背負って荒野を駆ける。
 遠目からでも確認できる程の巨躯をした魔獣が何かを追いかけているようだった。

「ぼるふ!誰かが魔獣に襲われておる!急ぐのじゃ!」

「わかった!」

 ヴォルフは地面をしっかりと足の指で掴むと、一気に最高速度になるまで加速する。
 その影響で一歩目の足跡が硬い荒野の土にくっきりと残る。
 獣人の姿になったとしてもヴォルフの脚はかなり速く、しがみついているふくは振り下ろされそうになる。
 その速度のまま魔獣に向かってダイナミックエントリーをかまして、数十倍の大きさの魔獣を五メートルほど吹き飛ばす。
 ヴォルフは着地し、ふくを降ろすと狼の姿に戻る。

「じ、邪神フェンリル……!?」

「犬の者よ、わしの後ろへ下がるのじゃ!ぼるふ!手を貸す必要はあるかの?」

「無いね!そのヒトに攻撃が行かないように守ってて!」

「うむ、また蜥蜴の大きいヤツじゃの……。わしは彼奴が嫌いじゃ」

 狼になったヴォルフの十倍の大きさのある蜥蜴のような見た目をした魔獣は長い舌をムチのようにしならせてヴォルフに攻撃する。
 ヴォルフがいたと思われる場所には既に誰もおらず、荒野は凍土へ変貌する。
 急激な環境変化に魔獣は動きが鈍った瞬間、魔獣の全身が凍りついた。
 芯まで凍った魔獣は既に事切れているのだが、ふくがすかさず追撃を加える。

「『爆ぜよ』」

 爆発により大蜥蜴型魔獣は粉々に砕け散る。
 満足したような表情でふくは手をぱんぱんと叩く。
 助けた獣人の方へ向き、様子を見る。

「お主大丈夫かの?」

「あ、あ、あ、ありがとう……ございます……」

 犬獣人はふくから目を逸らしてヴォルフを見ていた。
 一方、ふくは犬獣人に怪我がないか確認するが、目立った外傷はなさそうであった。
 それでもどこか打ったりしていないか確認することにした。
 念には念を込めて……。
 
「怪我はないのかの?」

「は、はい。あの……狼はフェンリルのヴォルフですよね……?邪神の……」

「へんりる?ぼるふであることは間違いないのじゃ」

「食い殺されますよ……?」

「大丈夫じゃ。ぼるふよ!わんこが怖がっておる、姿を変えるのじゃ」

 離れていたヴォルフは狼から獣人の姿に変身する。
 ふくが邪神ヴォルフを操っているように見えた犬獣人はさらに警戒する。

「あなたたちは一体何者なのですか……!?村を滅ぼしにきたのですか?」

「そんな事はせん。わしらはこの世界を旅しながら、国を作る手筈を整えておるのじゃ」

「……信じられません。あの邪神を連れて旅なんて……。それにあなたはなんで裸なんですか!?」

「む……」

 ふくは犬獣人が服を着ていることに気が付き、改めて自分の状況を認識する。
 そして、目を合わせようとしてこない犬獣人を見てニヤ~と悪い笑みを浮かべる。

「おぬし、女子の裸を見るのが初めてなのかの?」

「そ、それは……」

「ほれ、わしはお前の初めてには相応しいかの?」

 犬獣人の顔を胸の谷間に埋めて、そのままホールドする。
 ふくは犬獣人の頭をゆっくりと撫で、引き離すと彼は気を失っていた。

「や、やりすぎたのじゃ……」

「オレもやっていい?」

「こやつを背負って集落まで運ぶのじゃ、助平犬」

「オレの扱い酷くないっ!?神だよ?」

 ふくはヴォルフの抗議を聴き、ツカツカと歩み寄り、ジト目で見る。
 非常に威圧感を感じる目で睨まれヴォルフはゴクリと固唾を飲む。
 そんな表情をしたヴォルフを見てふくは「ふふっ」と笑い、集落の方へ歩いて行った。
 怒られずに済み、呆然としていると声が掛かる。

「ぼるふよ!早く来るのじゃ!」

「わ、わかってるよ!今すぐ行く!」

 気を失っている犬獣人を抱え、ふくの元へ走って行った。

 暫く歩くと集落が見え、そのまま門へ向かう。
 やはりというべきか、門番が二人ほど立っており、ヴォルフに抱えられている犬獣人の種類とはまた別々の者であった。

「止まれ!何をしにきた!」

「わしはネズミの集落から来た旅のものじゃ。お主の集落の者を助けたので届けに来たのじゃが」

「ほれよ」

 ヴォルフは門番に向けて雑に犬獣人を渡す。

「おい!パピー!しっかりしろ!息はあるな……。そこの二人!何があったか説明するのだ!」

「そやつは大蜥蜴に襲われておったのじゃ。わしらは偶々通りがかった所に遭遇したのじゃ」

 ふくがそういうと門番の二人はヒソヒソと話をする。

「どうするよ……」

「恩人なら招かないと長にお叱りを受けるしな……」

「でもアイツら二人とも裸だぞ?」

「乳が見えてラッキーじゃないか……!しかも結構な大きさだし……!」

「まあ……パピー届けてくれたし、長に会わせるだけ会わせとこうか……?」

 作戦会議が終わったようで、門番の二人は堅牢な門を開ける。
 
 ――ピィーーーッ!!

 首にかけていた笛を鳴らし、一人の犬獣人の女の子が現れる。

「どうされましたか?」

「あの二人を長のところまで案内してくれ。パピーを助けた恩人だから」

「か、かしこまりました!そこのお二方!私どもの長に会っていただいてもよろしいでしょうか?」

 ふくとヴォルフは目を合わせて頷き、女の子に着いていく。
 そして、集落へと入るのだった。
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