キツネの女王

わんころ餅

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ヘンテコな髪をした大きな猫なのじゃ

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 男の看病の元、ふくは目を覚まし、周りを見ることができるようになった。

「起きたか?」

「……」

「喋られないよな。お前は餓死寸前だったんだ。なんとか生き残れてよかったな。」

(そんなことはない……。わしは死にたかったのじゃ……。何も出来ぬ役立たずなのじゃから)

「今、要らないことしやがってと思ったろ?」

 ふくは声が出なかったが、心を見透かされたような気がして驚く。

「なんとなくだ。お前の目、めっちゃ喋るからな。」

(目は口ほどに物をいう……か……)

「わたしは見ての通り、獅子族、ライオンだ。たてがみがかっこいいだろう?」

(シシ……?らいおん……?変な髪形じゃのう……)

「今失礼なことを想像しただろう?……まあいい。お前の正体は知らないが、野狐族の者だろうな。よし、できた。わたしは草のことはよく知らないが、精霊がこれを作れと言うんでな、飲めるか?」

「……」

 ふくはそっぽ向いて拒否する。
 獅子の男はやれやれとため息をつきながらふくの上半身を無理やり起こし、マズルを掴み、無理やり草の汁を飲ませる。
 なかなか酷い味だったのか、ふくの胃袋が拒否を示すが、一滴も吐かせず飲み込ませる。
 非常に手際が良く、腕が良い獅子男だった。
 ふくの呼吸が安定したのを確認すると再び横にする。
 ふくは得体のしれないものを飲まされ、恐怖するが、死にたいと思っていたことを思い出し、どうでもよくなってきた。
 そしてふくは眠気を覚え、眠りに就いた。
 
「やっと寝たよ……。美人なのにこんなに痩せこけてしまって……」

 ふくが呼吸をしていることを確認すると、ヴォルフの方に視線を向ける。
 ふくが気を失っている間にヴォルフの身体を触診し、状態を確かめたが、獅子男の知識ではわからないものであった。

「邪神はこの娘と一体どんな関係なんだ……?」

 獅子男は疑問が増えるだけだと思い、ヴォルフのことは放っておくことにした。
 食器を片付け、精霊を纏わりつかせ、精神統一を始めたのだった。



 一週間かけてふくは不味い草の汁を飲ませられ続け、話すことができるまで体力が回復した。
 獅子男がいない間にいうことを聞かない体を引きずり、冷たく眠るヴォルフの傍によりかかる。
 体力のほとんどが失われ、三メートル移動するだけで呼吸が乱れる。
 呼吸を整え、眠っているヴォルフに話しかける。

「ぼるふよ……わしはまだ死ぬことを許されてはおらんようじゃ……。小麦、忠太郎、ネズミの民を死なせた……。わしなんぞ生きる価値なんてないじゃろうて……」

「おいおい、まだ安静にしてないと苦しいぞ?」

「わしは生かせと言ってはおらぬ。ネズミ族を根絶やしにした大罪人じゃ」

「……違うんだろ?この前の地鳴りの時に現れた汚い魔力をしたやつがやったんじゃないのか?少なくとも、お前はこの土地を【浄化】で清浄させたと精霊が言っているんだが?」

 獅子男は自身の右肩に指をさしているがふくの目には何も見えていなかった。
 いつもならなんとかして見ようと思うのだが、今のふくにはどうでも良いと感じていた。
 しかし、【浄化】を使ったと知っていることが引っ掛かった。

「お前はわしに何をしろというんじゃ……?」

「別に?精霊が邪神ヴォルフがここで眠っていると教えてくれて始末を使用かなと思っただけだし」

「ぼるふに手出しはさせぬ。あやつはわしの命の恩人じゃ……。手出しはさせぬ……」

「尚更お前は生きていなければならないじゃないか?」

 一瞬獅子男が何を言っているのか分からなかったが、よく考えるとその通りであった。
 動けないヴォルフを守れるのはふくしかおらず、他のヒトはヴォルフのことを邪神と称し、殺しに来る。
 唯一理解してくれたのはネズミ族だけであった。
 それも今はおらず、守り手はふく一人である。

「お前はネズミ族、邪神の為に動かないといけないんじゃないのか?あの大穴にはまだ、汚い魔力は沢山うごめいているし、ヴォルフが動けなくなったことで他の国がここに向けて進軍するだろう。」

「……わしはこの国の女王になるとぼるふに言ったのじゃ。うじうじはできないの……。そこのヘンテコな髪のお前よ、名は何と名乗る?」

「うわ、急に態度悪くなったよ……。まあいいか、わたしの名前は『レオン』だ。」

「ぼるふと同じヘンテコな名前じゃの。わしはふく。ボルフの意思を継ぐものじゃ。」

 どうにかふくは生きる意味を見出し、もう少しだけ生きることに決めた。


 さらに一週間経ち、ふくは何とか動けるところまで回復した。

「わたしに出来るのはここまでのようだな」

「うむ、わしのことを励まして生かしてくれたことに感謝をしよう」

「ふくさんよ。お前はこれからどうするのだ?」

「どうするもこうするもない。わしはぼるふの奴が起きるまでここを動く気はないのじゃ」

「鳥と竜が来ると思うが、それでもか?」

「それでもじゃ。ぼるふが死ぬときはわしが死ぬときじゃ。あとはどうでも良い」

 ふくの意思は固く、意見を曲げることができず、ため息をつきながらたてがみを掻きむしる。
 どうやらレオンはふくを安全な場所に連れて行こうと考えていたようだが、ふくには伝わらなかったようだ。

「わかったよ。わたしがこのワガママキツネ女王の下についてやるとしよう。国民第一号だぞ」

「違うの。おまえは国民二十三人目じゃ。一番はぼるふ、二番は小麦、三番は忠太郎……」

 と亡くなったネズミ族の民の名前を次々と挙げ、レオンは一番でないことを突き付けた。
 マイペースなふくに負け、レオンはふくの前に跪く。

「このレオン、ふく様の牙になることを誓う」

「うむ。では手始めに腐った土地と木を何とかするのじゃ。」

 元ネズミ族の土地はふくの土地となり、整地を始める。
 こうしてふくの女王として第一歩が踏み出されることとなった。
 
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