キツネの女王

わんころ餅

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異様なものを感じるのじゃ

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 静まり返った集落に一つの明かりが灯されており、そこには二人の獣人が座って話をしていた。
 一人は狐の女性で、もう一人は狼の男性であった。

「ぼるふよ、お前はわしが来るまで何をしておったのじゃ?」

「んー……オレは適当に歩いたり、魔獣の肉を食ったり、時々村に行って追い出されたりしてたよ」

「それは楽しいのかの?」

「ちっとも」

 ふくの指摘通り、ヴォルフは少しも楽しくなかったようで、首を横に振る。
 ふくは少しだけ不思議な気分であった。
 隣に座っているヴォルフは闘いの神というもので、つい先ほどまで大型の狼の姿をした生き物であった。
 それがふくの血を摂取することでヒトの姿を手に入れ、隣に座っている。
 獣の姿であれば彼を敷布団代わりに眠ることができたのだが、ヒトの姿となり小さくなってしまったのでそういう訳にいかず、ヴォルフをヒトとして意識してしまう。
 人間として生きていたころは既に四十の年齢を回っていたことで色事は興味がなくなっていたのだが、この狐の姿になってからはどうやら体が若返っているようで、ヴォルフを男性……オスとして見てしまう自分が嫌になってくる。
 なによりこの世界に来てから早々魔獣に犯され死にかけたことから、そう言ったことは避けたい気持であった。
 そんなことを考えていると、ヴォルフが心配そうに顔を覗き込んでくる。
 神というだけあり、非常に整った顔をしているヴォルフ。
 狼の一族があれば間違いなくハーレムを形成できるほどの強さと美貌を持っている。

「大丈夫?顔色が悪いようにも感じるけど……」

「……べ、別に何もないのじゃ。……お前は以前、わしのことを好いておると言ったな。他の女子に気をやったことはあるのかの?」

「あってもすぐに逃げられるから、こんなに一緒にいられたのは初めてなんだ!」

「それではわしが来るまではずっと一人で居ったのか?」

 少し、落ち込んだ様子で頷くが、ふくの顔を見て二かーと笑う。
 非常に犬の仕草に似ており、ふくは恋愛感情ではなく飼い犬を持った時の感情であると思うことにした。
 残念ながら犬扱いどまりのヴォルフではあるが、彼は彼でふくの傍にいられるだけで満足なので、この場ではよかったのだといえる。

「ぼるふよ」

「なんだい?」

「わしの傍に居ってくれて礼を言う。お前がおらねば、わしは野垂れ死んで居ったからの」

「えへへ……これからも一緒にいるよ」

 ——ズウゥゥン……

 地響きと揺れと共にふくたちのいる集落が崩れ始める。
 横穴は完全に潰れ、住処は無くなる。
 幸い宴でネズミ族は焚火の周りに集合していたので、人的被害は一つもなかった。

「ぼるふ!この地鳴りは何じゃ!?」

「わからない……。でも、凶悪な意思とでたらめな魔力がする……」

「ふ、ふく様……」

 不安になっているコムギの頭をくしゃくしゃと撫で、全身骨折してい動けないチュータローの傍により、手を翳す。
 体の中にある細胞というものふくにはよく分からないものだったが、傷やケガの治癒の為にカサブタができたりグジュグジュした感じを想像をする。
 
「『治癒の力よ、彼の者の命を削り、体を治せ』」

 チュータローの体が白い光に包まれると呻き声とともに骨がバキバキと鳴り響く。
 光と音と声が収まるとチュータローは立ち上がり、走ることが出来るほど回復した。
 ふくはチュータローを睨みつけ一言だけ告げる。

「小麦と民を連れて逃げるのじゃ」

「あ、アンタはどうすんだよ!?」

 それ以上答えは返ってくることがなく、二人は闇の中に消えていった。
 残されたネズミ族は地鳴りの影響で腰を抜かしているようであった。
 一人の女の子がチュータローに話しかける。

「わたくしはコムギといいます。ふく様より長を命じられここにいます。チュータロー、あなたもふく様から名を受けたのであれば、それを達成しましょう」

「……っ!お前たち!あの狐女が足止めしてくれてんだ!早く逃げるぞ!」

 チュータローの掛け声でネズミ族は力の入らなかった脚を奮い立たせ、立ち上がり、避難を開始する。
 なるべく音の反対方向へと歩みを進めるのだった。

 二人は走っていたが、段々とふくの体力が尽き、その場でしゃがみ込む。
 ヴォルフはヒトの姿から狼の姿へ戻り、ふくを背に乗せて走る。
 彼の中では歩いているに等しい速度ではあるのだが、それでも馬より速度は出ているので残りの体力を振り絞り、ふくはヴォルフにしがみついて地鳴りのするところの邪悪な魔力の場所へと向かう。

 地鳴りと魔力が感じられる場所へ到着すると、ヴォルフが小さく見えるほどの大穴がぽっかりと空いていた。

「随分と深い穴じゃのう……。降りてみるか?」

「いや……やめた方がいいと思う。すごく嫌な感じがするよ……!」

「お前がそういうのであれば、その通りなのじゃろう。迎え撃つ方が良いじゃろうな」
 
 ふくが穴に背を向けた瞬間、【それ】は現れた、一瞬反応の遅れたふくは【守護】を展開しようとするが間に合わないことを察する。
 鎌のようなものを持った【それ】はふくにめがけて振り下ろす。
 しかし、ふくを斬ることができず、ガシャンという音とともに地面に何かが落ちる。
 ふくは恐る恐る落ちたものを見ると、先ほどまで【それ】の腕に付いていた鎌だった。
 完全に凍結しており、白煙とともに崩れていく。
 この魔法はヴォルフの魔法であった。

「ふくを傷つけようもんなら、タダじゃおかないぞ……!」

 ヴォルフは完全に戦闘態勢に入っており、その魔力の昂りと表情で絶対に敵対してはならないと理解する。
 一方【それ】には何も感情がないのか、虚ろな声とともに戦いの火ぶたが切って落とされた。
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